東城大学駒場キャンパス。
ハンマーレーマによる襲撃があったもののそこは開講しており、何人かの生徒が往来している。その中には講義を控えた花恋と勇太郎の姿もあった。
「まさかあれだけの事があって大学が休みにならないなんてな……日本最高峰のプライドってヤツなのかね」
「さぁ、でも警察による警備体制が強化されたし、ユニットDとのコネクションもあるから何かあっても大丈夫っていう判断なのかもね」
今日の講義がある教室に到着した2人は、扉に掲示してある張り紙を見て呆気に取られてしまった。
「……休講だ」
「高嶋教授が休みだって、一旦メール確認しておこうか」
花恋が大学のメールを見てみると、今日の講義を担当していた高嶋教授からの受講学生宛てメールを受信していた。
“先日発生したレーマ事件を鑑みて、本日は休講といたします。キャンパスに直接来ていた学生は他に受講する講義がある場合屋内で待機しておくこと。万が一の場合は落ち着いて避難してください。”
「あー……教授がビビっちまったパターンかな、しょうがないというか当然だけど」
「私の思う所だとここに天渡会がまたやってくる事はほとんど無いとは思うけど……警戒しちゃうよね」
「万が一の事、か。楓みたいな事が起きちゃならねぇもんな」
「あ、私今日の講義全部休みだ」
メールを確認した花恋が呟くと、勇太郎も自分宛てのメールを見てみる。
「俺も全部休みだ」
少しの間視線を交わした花恋と勇太郎が、肩を落とすとユニットDに向かう事で意見が一致する。
「那珂さん、俺んバイク乗ってくか?」
「ごめ~ん私さだめちゃん以外の人のバイクには乗らない主義なので~」
「……分かった」
別に他意はなかったが花恋に断られた勇太郎は複雑な心境を抱えながらもバイクは発進させる。
「じゃあまた後でなー!」
「うん、ありがとう火島君!」
手を振って勇太郎を見送った花恋はさて、と呟いて駅へと歩き出した。
(さだめちゃん暇してるかな……早く帰って一緒に訓練しないとだし──)
去っていく勇太郎のバイク音がかすかに聞こえ、花恋はため息をついた。
「免許欲しいな~~~」
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「さだめちゃん、もしかしていい大学狙ってた?」
ユニットD本部、談話室。
勉強を教えている金剛がさだめに問うと、彼女は何の事だか、と言いたげな表情を見せた。
「いえ、高校卒業後の進路は何も考えていませんでしたが」
「マジかよ……将来のビジョンが無い系JKだったのね……まぁそれはともかく、さだめちゃんの学力はかなり高い様に思える、今やってるトコけっこうレベル高めに設定してるんだけどね」
「当然難しいですが、藤村さんが上手に教えてくれるので、入ってくるんです」
それにしてもだ、と金剛が笑うと満点を付けたテスト用紙をさだめに渡す。
「君は覚えがいい。公式をしっかり把握して定着させてるから応用も利かせられる。つまりさだめちゃん、君かなり頭いいよ? なんでこの学力があって大学進学とか目指さなかったんだい?」
「当時の感覚なのでお恥ずかしいのですが……面倒くさくて」
わずかに赤面し目を逸らしながら言うさだめに金剛はマジか、と心の中で唱える。確かに金剛自身も面倒くさがりな部分があるので気持ちは分からなくも無いが、彼には未知に挑戦したいという好奇心があったので進学をはじめとした学力の発揮には躊躇がなかった。
それがさだめは、自分の持ち得る学力の高さに対して挑戦も努力も無かったというのだ。
「その、ご実家の事情とかではなくて、ただ単純にメンドかっただけ?」
「……はい」
「怠惰で君の知能を持て余してたの?」
「ですからはい……」
「折角の賢さをドブに捨ててたって事!?」
「はいそうですよ!」
まくし立てる金剛にさだめは珍しく怒気を表す。流石にやりすぎたと思った金剛は苦笑しつつ謝罪する。
「ごめんさだめちゃん、君の才能を埋もれさせていたのがあまりにも損失だと思ってさ」
「そこまで言う必要ありますか?」
と、さだめらが勉強している談話室に黒木が入室してきた。
「藤村主任に信濃さん、こんな所で何を?」
「こんな所で何を? はこちらのセリフですが」
金剛の切り返しに黒木が眼鏡をかけ直すと、口をへの字に曲げながら事情を説明する。
「私の役目はユニットDの持つ情報を獲得する事。その中には各施設の設備や様相を知る事も含まれているのですよ。内調も割ける人員が限られていますから不本意ながら私が色々回って情報収集をしているのですよ」
「暇そうに見えますね」
さらに金剛が返すと黒木があからさまに舌打ちをして彼を睨む。
「売ってもない言葉を買わないでください、藤村主任。そういう物言いは人に嫌われますよ」
「嫌われるというかもう嫌いですよね俺の事」
「ええまあ」
売り言葉に買い言葉。そんな表現があったな、とさだめが思っていると黒木が軽く咳払いをして話を強制終了し、別の話題に切り替える。
「それで信濃さんは勉強、ですか? なぜそんな事を?」
「……それは」
「さだめちゃんはこれからの人生をより楽しく生きる為に、そして友人と肩を並べる為に新しい知識を吸収しているんですよ」
さだめを遮る様に金剛が言うと、黒木が不思議そうに首を傾げる。
「これから死刑になる人間が、勉強ですか?」
「黒木調査官、例えあなたでも──」
何か言いたげな彼女の瞳を見て金剛が肩の力みを抜く。
「私は死ぬ気はありません、かけられた刑が誤りであったと証明してみせます」
「面白い事を言いますね、君の死刑は決定事項ですよ?」
「まだ分かりません、情報調査室の方なら何か知っているのではないでしょうか、それとも何も知らないのでしょうか」
さだめの反論に黒木が押し黙ると拳を握る。が、何か思い至ったのかはっとして拳を開き、深呼吸する。
「こちらの苦労も知らないで、よく言える……」
「理解が無いのはお互い様です、私はあなたの事がもっと知りたいですが」
「本当に、簡単に言ってみせますね」
黒木が眼鏡をかけ直すと、
何だったんだ、と金剛がごちる。
と、施設内に警報が鳴り響いた。
「レーマか!」
金剛が言い放った通り、その警報はレーマ出現を知らせるものだった。
コードネーム“シダーレーマ”、スギの木の性質を持つそのレーマが散布する花粉は人々に重度のアレルギー反応を起こしている。そしてその状態から絞殺し死傷者を増やし続けている。
「さだめちゃんはすぐに出撃して!」
「了解しました」
さだめが頷き、準備を進める。その間に金剛はユニットD職員に連絡を繋げて施設にいない人員の状況を把握していく。
「火島君は!?」
「本部到着を確認、転送の用意をしています」
「那珂さんは!?」
「青山一丁目駅にて降車を確認しました」
「赤坂プレスセンターに向かわせて、あらかじめ用意しておいた米軍用連絡網で俺の名前使ってヘリを出させて!」
金剛の指示を受け職員らがそれぞれの作業を進める。
一方花恋は職員からの連絡を受けタクシーを拾いつつ目的地へ向かう。
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東京都新宿区西早稲田。
シダーレーマはその地で暴挙を働いていた。
しかしそうしていられるのも時間の問題であった。変身した状態で防塵の体制を整えたカルヴァリア、AD2が到着したのだ。
「仮面ライダーカルヴァリア、戦闘を開始します」
「仮面ライダーAD2、戦闘開始するッ!」
カルヴァリアがシダーレーマに接近、花粉の散布部位を調べつつモータルザッパーで牽制する。ネルガルが使えれば容易な戦闘であったが、あれ以来ネルガルイートリッジは反応を示さず、起動も一切できない状態になってしまったのだ。仕方なくカルヴァリアは依然としてデススチームを駆使する事となっていた。
一方のAD2はライドボレアスを可変させシダーレーマに照準を定めようとする。が、花粉が敵の姿をくらまし、照射に至れない。
2人が
防塵マスクを装着した勇太郎の乗るライドゼファーであった。
「お待たせしましたァ!」
「火島!」
「火島さん」
新たな戦力の登場にシダーレーマが怯むと、その隙に勇太郎が変身ベルト、コンフルエンサー・アラインを装着、バーンイートリッジを起動させる。
「Burn」
ベルトのスロットに起動したバーンイートリッジを装填すると音声認証用コードを叫ぶ。
「お見せしてやるぜ……俺の──廻纏!!」
勇太郎の熱い想いと共に力のこもった指先がベルトのダイヤルを強く回転させる。
そうした時、新たな戦士への廻纏を告げる音声が鳴り響き、金剛が制作していた鎧が彼の身を包む。
《Alone Punisher……Burn──Examride》
瞬間、勇太郎に纏った灰色の装甲に赤と橙のラインが入り、無機質だった仮面にカブトムシを思わせる勇壮な一本角が取り付けられる。角から派生した装飾が瞳のパーツを囲み、睨みを聞かせた表情にも見える姿を形づくった。
「テルティウスバーン……戦闘開始!」
廻纏を完了したテルティウスバーンが走り出し、シダーレーマに迫る。
新たな敵の誕生を把握したシダーレーマは花粉を大量に噴出しテルティウスバーンの視界を阻む。
「信濃さん! 三隈さん! おもいっきしここから離れてください!!」
何か策を思い付いたテルティウスバーンに、カルヴァリアとAD2が分からないなりに従い、その場から距離を置く。
「これからやる事、一応藤村さんから許可は取ってますんで!」
不穏な言葉を残してテルティウスバーンがダイヤルを回す。
《Tertium Decisive……Burn》
一気に必殺技を繰り出したテルティウスバーンは全身に炎を纏い、花粉の中に一瞬見えたシダーレーマを掴み、一気に火力を上げる。
その時、熱と舞い散る花粉が反応を起こし、粉塵爆発が発生する。
周囲を巻き込む大きな爆発が花粉を吹き飛ばしながらシダーレーマにダメージを与える。
ただ現状舞っていた花粉の量の関係上爆発はシダーレーマを戦闘不能に追いやるほどでは無く、体をふらつかせながらもまだ立っていた。
だが同時にテルティウスバーンも戦闘を継続できる為、続いて猛攻をしかける。彼の作戦が完了した事を察知したカルヴァリア、AD2も支援に入る。
「テルティウスは能力の解放をして出力が落ちてるはずです、後は私達で制圧します」
カルヴァリアがモータルザッパーを振るいシダーレーマを圧倒する。不利になったシダーレーマは花粉を放出しようとする。が、先程の爆発で放出する
「……対象は花粉を出せないみたいです!」
カルヴァリアが叫ぶと、AD2がライドボレアスをシダーレーマに向ける。
「ならば楽勝だ」
カルヴァリア、テルティウスバーンの退避を確認しAD2がライドボレアスを照射、シダーレーマを熱線によって大爆発させる。
かつてメタルレーマを撃破した際には3発の照射が必要だったライドボレアスだったが、一般的なレーマであれば一撃で充分であるのだと、そう知らしめる様な光であった。
爆散した粒子がブランクイートリッジに回収される。
「イートリッジ回収完了、戦闘を終了します」
AD2が金剛に連絡すると、上空からヘリの飛行音が聞こえる。
「ぅおおおおおおおおお!」
変身解除した正義、さだめ、勇太郎が見上げると、ヘリから飛び出した花恋が地上へ落下してきていた。
「だあああああああああ変っ身ッ!!」
空中で変身したヴィヴレがパラシュートなしで飛来し、地面に亀裂を作りながら勢いよく、鈍い破壊音を立てながら着地した。
「仮面ライダーヴィヴレ、戦闘を──」
「もう終わりました」
ヴィヴレが辺りを見回して変身を解除すると、その場に体育座りする。
「わざわざヘリ借りてくれたンスよ……多分たけーんすよ……んで遅刻なんすよ……意味ないんすよ……」
「……帰ろう花恋さん、ライドゼファーにサイドカー、付けてあるから」
落ち込む花恋の手を取ってさだめがバイクへと連れていく。
彼女らが歩いていくそばで、正義はあるはずの死体が無い事に考えを巡らせる。
(犠牲者が行方不明になっている……あの転移する能力を持ったレーマの仕業か)
「三隈さん、亡くなった方がいない事っすよね」
「ああ、おそらく君をさらったあのレーマだろう」
「俺が連れ去られた屋敷、結局誰もいなかったみたいですからね、あの厄介なレーマの居場所も突き止められないなんて……」
──────────────────
居場所を変えた天渡会の集会所にて、ウィズドローレーマが大量の死体を持ち帰る。
と、その中にいた1人の女性が目を覚まし、その姿を日本神話の
「ーーーー!」
完全に暴走状態にあるレーマにウィズドローが襲われそうになるが、回収された死体の状況を見に来た導師がエアレーマに変貌し、受け止める。
「これは王の言葉、
エアレーマの“同調”を受けるが、そのレーマは全く意に介さず、暴走を続けるままだった。
「僕の同調が効力を持たない……そしてこの姿──ウィズドロー、すぐにベルゼノとマイクロブを呼ぶんだ!」
「マイクロブと、穣司をですか?」
「ああ、すぐにだ!」
いつになく切迫するエアレーマに言われ、ウィズドローが2人を呼びに行く。
「……この力、僕の神格の性質によって賜った身体能力を打ち消している……“王”が求めていたものに違いない!」
何度か押し負けそうになりながらもエアレーマが刀のレーマを食い止める。
そうしている内にウィズドローとマイクロブ、ベルゼノがやって来た。
「ここは私達と導師で治めます、ウィズドローは他の
「承知しました」
ウィズドローが何度も転移しながら死体を運んでいく。用が済むとベルゼノは戻ってきたウィズドローを別の部屋に行く様に頼む。
「マイクロブ、このレーマを食い止めてほしい!」
「導師のお言葉に従います」
左胸に手を当て頭を深く下げたマイクロブがレーマの姿へと変貌する。黒い粒子が彼の体を包んだ瞬間霧散し、細かい粒となって刀のレーマの体内へ侵入していった。
次の瞬間には刀のレーマが吐血し、倒れてしまった。
「これで良かったのですね」
「ありがとう、マイクロブ。後は私とベルゼノに任せてほしい」
エアレーマからの指示を承諾した黒い粒子の塊、マイクロブレーマが人の姿に戻ると、ベルゼノに疑念を含ませた視線を浴びせると、エアレーマへ礼をし前へ向き直して部屋を後にする。
そうして部屋から刀のレーマ、エアレーマ以外いなくなった事を入念に確認したベルゼノは深く長いため息をついた。
「──で、やっぱりこのレーマ、アレだよね? “秀太君”」
「ええ……私の同調が効かず、力でも拮抗もしくはこちらが負けていました。これは神への特効、であると言えるでしょう」
手の平から鎖を作り出し刀のレーマを拘束するエアレーマに、じゃあ、とベルゼノが笑う。
「“フツノミタマ”──と見てよいかと」
「これで一つ……ようやく、ようやくだね」
強い手応えを感じながらベルゼノは両手を握り締め、うつむきながら笑みをこぼす。
「あなたの悲願が達成されるならば我々はそれに従うのみです」
エアレーマがベルゼノへと
彼女は穣司、すなわち導師の補佐を担う立場であるが、今2人の立場は逆転していた。
穣司であるベルゼノに敬意を表すエアレーマの姿は、他の構成員には見せられない異様な光景であった。
「フツノミタマが手に入ったのなら……あとはこれを扱える器を手に入れるのみ……だね」
不敵に微笑むベルゼノは、仮面ライダーらが巻いていたコンフルエンサーの事を想起する。