仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#23 生きて、楽しめ

 打ちつける強い雨が自らの体に纏わりつく炎を消さんとする様に吹いていく。

 だが、雨程度では体の炎は消えず、まだ、ずっと、熱かった。

 

 雨で消火され灰になった人間は、彼が焼き殺した男であった。

 無惨な男の死体へと視線を向け続けながら彼は怪物の姿から人の形に戻る。

 途端、雨が彼を濡らし、気持ちの悪い冷たさに晒される。

 

「勇……太郎」

 

 焼け死んだはずの男が告げる。それは男を焼き殺した彼の名前であった。

 

「まだ、生きてたのかよ」

 

 勇太郎が男の首に手をかける。

 だが、力を込められない。

 

「なんで俺は──」

 

 とどめを刺せないまま勇太郎は地面に拳を叩きつけた。

 

「俺は、こんな奴を殺しきれない!」

 

 雨が一層強くなる。

 

──────────────────

 

 目が覚めた勇太郎は、先程までの光景が夢、それも悪夢であった事を直感する。

 ただの夢であると思いたかったが、ずっと頭の中にこびり付いて離れない。

 人を、エアレーマを殺す。そう考えている自分がまだいるのかと嫌な気分になるが、顔を洗ってねばついた感情を流していく。

 

 今日は休講という事で勇太郎はさだめに話を聞いてみようと出かける。これもネルガルレーマと接触した影響かもしれないと考えたからである。

 ユニットD本部に到着して早速研究室へ訪れる。ここなら必ず金剛がいて、さだめの場所も知っているだろうと考えたのだ。

 

「おはようございます、藤村さん」

「あ、火島君……」

 

 金剛が勇太郎に詰め寄る。

 

「昨日の戦闘、俺も許可したし大淀指揮官も許可したけど、やはり危険な粉末を散布する敵のいる中で変身せずに出撃するっていうのはやはりいただけなかった。次からはやらない様にしてくれると嬉しいな」

「す、スンマセン……初廻纏って事で、敵に見せつける必要があるって思ったんですよ」

「敵に見せつける必要ね……まぁ元より仮面ライダーの変身プロセスは天渡会への威圧を目的として設計したから、用途通りの使い方なんであまり文句も言えないが……君の身にもしもの事があったら耐えられない」

 

 金剛の説教に辟易(へきえき)した勇太郎がそうそう、と無理矢理話を変える。

 

「今日来たのは信濃さんに相談したい事があってなんですけど」

「あ、ああ。熱くなりすぎた、君の本題を聞かせてほしい」

「今朝悪夢を見たんですけど……どうもネルガルレーマの力に関係あるかも知れないから彼女にも話しときたくって」

 

 勇太郎の話を脳内で反芻(はんすう)し、そうか、と納得した金剛は内線でさだめを呼んでみる。と、彼女は訓練室にいるらしく、今からここに来てくれるらしい。

 

 

「お待たせしました、藤村さん」

 

 恐らく提供品であろう桃色のジャージを着たさだめが研究室に訪れ、勇太郎に頭を下げる。その格好に勇太郎は閉口するが、さだめは自分の服装を一瞥(いちべつ)して少し頭を下げた後、話を続ける。

 

「相談がある、という事でしたね」

「ああ、俺が見た夢の話なんだが……」

 

 金剛がさだめを椅子に座らせて茶を入れに席を立つ。

 

「エアレーマを殺す夢を見たんだ、あんなに辛い気持ちになったのに関わらずな」

「夢、ですか」

 

 さだめはかつて花恋からも夢の相談を受けた事を思い出す。

 

「ネルガルってその、人を殺した感覚をフラッシュバックさせる力とかあるのかなって……なんかあの夢で覚えた感覚は、ネルガルの力で感じたものにだいぶ近かったから」

「そこはまったく意図していませんでしたが……」

 

 勇太郎の相談を受けてさだめは右手の平を自身に向けて目をつむる。

 そうする事で自分の能力の深奥(しんおう)に触れられると感じたからだ。

 

「ああ……分かりました。確かにその夢は、ネルガルによる弊害です」

「そうか」

 

 視線を落とす勇太郎を見てさだめは彼に辛い思いをさせていると心を痛める。

 

「ごめんなさい……私の力が、あなたを苦しめているなんて──」

「気にしないでくれ信濃さん、これは一度でも誰かを殺そうと決めた俺への罰だと思うんだ」

「……罰、と言っても、毎日見る訳では無いので、安心してください。私はあなたを罰したつもりは無いですし、まだ罪を犯していないあなたは罰される必要は無いと思いますから。それにその夢も徐々に見なくなっていきますよ」

 

 勇太郎を安堵させようとするさだめの言葉に彼は気を遣わせてしまったな、と自省しながらありがとう、とさだめに返す。

 

「ネルガルの力で再現されたに過ぎない死のイメージだけでこんなに胸が張り裂けそうになるなら、信濃さんは……」

 

 勇太郎がさだめを見て顔を歪めた。

 彼の推察は確かにさだめの心情に対して的を射た発言であった。皆を心配させまいとして言わずにいた辛さを見透かされたさだめはああ、と目を泳がせながら答えた。

 

「さだめちゃん、火島くん、お茶入ったよ~」

「あざっす、あーあと俺勇太郎でいいッスよ、金剛さん」

「おっノリいいね~勇太郎くん! 改めてよろしくね!」

 

 暗い雰囲気を察してかはしゃぐ2人を見てさだめが申し訳なさそうにあの、と呟くと、彼らが視線を声の方向へと移す。

 

「私は、人を殺した事に苦しさ、不快感を覚えました。でも、一番強い感情は──罪悪感でした」

 

 こういう事を言うなら花恋さんも呼んでいればよかったか、そう内省するさだめだったが、自分の話を真摯に聴いてくれる2人がいるなら、ここで話すべきなのだろうと気持ちを落ち着かせる。

 

「私が殺した人に対する申し訳なさは、きっと生涯残り続けると思います。何度眠ったって、何度謝ったって……自分の中に刻まれたままでしょう」

「さだめちゃん……」

「だから、だけど、私は、償っていかないといけないんです。人生を賭けて、私が奪ってしまった命の報いを受けなければならないんです」

 

 さだめの中に渦巻く罪悪感。それはあの日デスレーマとして人を殺めてしまった、家族のいる人を殺してしまったその瞬間からもう消える事は無い、背負っていくしかない傷なのであった。

 

「私にかけられた死刑は不当なものであったかもしれませんが、犯した罪は消えません」

 

 死んだ目でうつむくさだめに金剛と勇太郎は気圧される。

 と、誰かが研究室に飛び込んでくると、さだめの手を握った。

 さだめが顔を上げると、そこには花恋が立っていた。

 

「さだめちゃん、来ちゃった!」

「き、来ちゃったって……」

「さっき金剛さんから連絡があったの、さだめちゃんが何かを打ち明けるなら私がいるべきだって、ナイス采配、ナイスハイサイ!」

 

 花恋が明るい笑みを振りまいていると、手を握ったままの彼女がさだめの手を振って説教を始める。

 

「自分の事を話せるのは大事なコトだけど、やりすぎだよ」

「……すみませんでした、火島さん──」

「じゃなくて、自分にごめんなさいでしょっ」

 

 自分に? さだめが目を丸くしていると花恋が頬を膨らませる。

 

「自分の罪に向き合おうとして、さだめちゃん自身を追い詰めてるんだよ、それは。そんなのいい償い方なんて言わせないから」

「でも私は、私のやってしまった事を絶対に忘れてはいけないから……」

 

 戸惑うさだめを花恋が抱きしめる。

 

「さだめちゃんは自分を下に見過ぎなんだよ……悲しいよそんなの、さだめちゃんには生きてていいって価値があるんだから」

 

 また、自分の価値を見誤ってしまったらしい。

 そう独白してさだめは花恋に握られた手の温もりを確かに感じる。

 

「私はまだ、自分の価値を見つけられてない。だから、自分のやってしまった罪ばかり見てしまう……それが自分だと、思っているから」

「何度も言うけど、さだめちゃんはヒーローなんだよ、私を助けてくれた、恩人なんだよ……そんな人をみすみす死なせるなんて事、私はしたくない!」

「ありがとう、花恋さん……ごめんなさい」

 

 花恋の言葉に自分の愚かさを再認識したさだめを見て、金剛、勇太郎が笑う。

 

 罪悪感は残る。自分の過ちには報いがなければいけないだろう。しかし、さだめは、それら全てを背負って生きると、生きて償うと決意する。

 

「花恋さん、私は私のやり方で罪を償う、それまで待っていてほしい」

「待つよ、さだめちゃんの事、ずっとね」

 

 見つめ合う2人のだったが、そこに金剛と勇太郎が同席している事に今更気付き慌てる。

 しかも彼らに加えてなぜか大淀と正義まで研究室に現れた。

 

「藤村くん、例の件で来たが──信濃くんに那珂くんは……仲のいい事だな」

 

 大淀から慈愛に満ちた視線を向けられ、花恋が手を明後日の方向に曲げながら顔を赤く染める。

 

「いやこれは、さだめちゃんのメンタルケアの一環、そうメンタルケアに大事で重要でしんけんインポータントといいますかァ!!」

「お見苦しい所を、お見せしました……」

 

 花恋と同じく頬を紅潮させるさだめ、そして彼女を庇わんと意味不明の弁明を続ける花恋に正義が吹き出す。

 

「ふっ、はは……あぁいや、すまんな、君らの様子がおかしくてな」

「三隈さんが、んな事で笑うなんて」

「笑うさ」

 

 少し含みのある言い方をする正義に花恋が首を傾げるが、彼によって話を変えられてしまう。

 

「それはそうと藤村先生。GRSの件なんだが」

「あ、そうだったね」

 

 そう呟くと金剛が席を立ってパソコンを操作しつつ、大量のケーブルに繋がれたベルトを持ち出す。

 

「現段階の調整は完了しています、試しに使ってみてください」

 

 金剛に促された大淀がうなずくと、実験室に入ってケーブルに繋がれたままのベルトを操作する。

 が、今までのライドシステムの様に装甲が転送されない。

 

「……失敗か」

「申し訳ないです、まだ因子の呼び出しがうまく行えてないみたいです」

 

 久しぶりの実験失敗に金剛が顔をしかめる。

 

「これ何の実験やってるんです? 見たところ新しいライダー、みたいですケド」

 

 花恋の質問にそう、と金剛が答える。

 

「これはGRS(ガーディアンライドシステム)と言って、レーマではない人間が“仮面ライダー”に変身するシステムを作ってるんだ」

「レーマじゃない人が、仮面ライダーに?」

 

 花恋が言葉を返すと、金剛が笑みをたたえながらゆっくりとうなずいた。

 その様子に彼がGRSへと注ぐ熱意が伺い知れた。

 

「人が、人として天渡会に敢然と立ち向かえる。それが一番大事だと思ったんだ……レーマになってしまった人達に頼るだけではない、俺らの力でレーマを倒す、それができる仮面ライダーを作るんだ」

「まぁ激キショ怪人パワーにばかり頼ってられませんもんね」

 

 花恋が腕を組みながらそうごちると、それもそうか、と言いたげな雰囲気が辺りに充満した。

 

「でも……」

 

 実験の失敗を見たさだめが弱々しい声を上げる。

 だが、金剛は屈託のない笑顔で返す。

 

「今失敗したとしても、明日成功すればいい。また試行錯誤するだけさ!」

「その度に私の時間が削られる事に目をつむればな」

 

 突っ込む大淀に金剛が苦笑いする。その様子に花恋と勇太郎が笑みをこぼす。

 

 

 新しい装備の制作に挑む人々の気合い。

 それを認めて希望に満ちる笑い声。

 さだめは、ここで生きたいと強く願った。

 この人たちがいるから生きようと思えるのだと強く実感した。

 

──────────────────

 

 某所、天渡会支部。

 そこに集まった幹部ら、そして、穣司、導師が長い机を囲む。

 

「以前プロフェットに示された予言……6月6日、日本の中枢を成す場所にて天渡会の歩みは更なる段階を迎える、と」

「ええ、その様に」

 

 導師の言葉にプロフェットが妖艶な声色で返すと、導師が笑みを浮かべてうなずく。

 

「日本の中枢、大方霞ヶ関だと思われるのでそこに幹部らを配置する事は話したけれど、そこに私とベルゼノも向かう」

「導師自らが……」

 

 ウィズドローが目を見開いて導師を見る。

 

「天渡会の技術を発展させる為にレーマ狩りの持っている装備を頂戴したい、その為に彼らとの同調を行う。ベルゼノには洗脳を免れた者がいた場合の露払いを任せる。同じレーマでありながら我々の力を凌駕しうる彼らの力、とても興味深い……なのでプロングホーン、マイクロブ、ナイトメアには彼らの操作している端末──ベルトを破壊せずに制圧を完了してほしい」

 

 導師の言葉に異論が挟まる事はなく、はっ、と各々が返事をした。

 

「ところで導師、なぜこの場にシャドーを招集しなかったのですか?」

 

 マイクロブが問うと、導師が顎に手を置く。

 

「そうだね、彼はスパイとして真面目に仕事をしているから、呼んでないんだ。できるだけ熱心にそっちの仕事に集中してほしいんだ、その方が自然だし……何より彼が楽しそうだから」

「楽しそう……ですか」

「ああ、楽しみながら事に挑むのは大切だ。我々も今こなすべき務めを楽しもう」

 

 そういって笑う導師に、面々が頭を下げる。

 

 全員の視線が外れたところで、導師の隣にいたベルゼノは口角をつり上げて笑う。

 

「楽しみですね、導師」

 

 思わず彼女の感情が言葉に乗る。ただしそれは任務を楽しもうとする気持ちではなく、自分の目的が果たされる事への期待から来るものであった。

 

 

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