最後にレーマが出現してから1ヶ月ほど経過した、6月6日。
その日に与えられた予言を、ユニットDに関わる人間は知る由もなかった。
──ただ一人を除いて。
「GRSの進捗……ですか」
「そうです、あれは以前失敗したと伺っていましたが、開発は断念したのですか?」
「うーん、どうでしょ」
ユニットD本部、研究室。
今日は検察によるさだめの面談が行われており、同時に彼女に深く関わっていた研究室の主──藤村金剛にも聴取が行われる事になっていたのだ。
慣れない検察からの聴取に気が立っていた金剛はGRSの事について問われ、肩をすくめながらとぼけてみせる。
対して、怒りの表情を向ける黒木陽炎はおどけた金剛の様子を見て奥歯を噛みしめる。
「こういう言い方はなんですが、おちょくっているのですか?」
「いえ、あなたの管轄ではない事柄について話す権利は無いと判断したまでです」
仏頂面を崩さない陽炎に金剛は余裕に満ちた笑みともつかない表情を返す。
「あなたの調査する情報はさだめちゃんの死刑に対する事実確認だったと記憶していますが、それがなぜGRSの事を調査する事になっているのでしょうか? それって単なるあなたの興味でこちらの機密事項を探っている事になってしまいませんか?」
「……もしあなたが言う“興味”とやらに政府から調査指示が出ているとしたら?」
作業を再開する金剛の手元に、机を叩きつける黒木の手が伸びて大きい打音を鳴らす。
「あなたの言っている事は見当違いという事になりますね。お笑いです」
「政府から指示というのもあなたの発言でしかない。その証拠が認められるまで機密を話す訳ないですよ」
何拍かの静寂が続く。険悪な雰囲気を持ったまましばらくの時間が流れると、2人の携帯に通知が届く。
同時に携帯を見て、お互いの顔を突き合わせると、はぁ、とタイミングを同じくしてため息をついた。
「過ぎた言い方でした、黒木さん。あなたも今やユニットDの一員。GRSの現状について報告しておいても問題はないでしょう」
「そうですね、今回は私の興味という事にしてください。それでも答えられる範囲の事を教えてくださればそれで納得します」
先程までの空気から一変、お互い譲歩しながら話を進めていく。
「結果だけ言ってしまうと、GRSは失敗しました。ので開発は中止、計画は破棄されました」
「そうですか……残念ですね」
口元を隠してそうつぶやく黒木に、金剛は目を細める。
と、そこに見慣れない人物が訪れた。
「こちらが、藤村金剛さんのいらっしゃる研究室ですね」
辺りを見回しながらそう問うのは、かつてさだめとも対面した検事総長秘書官、
「……あなたが検察の」
「はい、聴取に伺いました」
一礼した曙に金剛が会釈すると、視線を動かして黒木を見る。
「黒木調査官、そろそろ聴取が始まるのでこの辺で」
「面白いですね、私も同行してよろしいでしょうか」
「ヤですよ恥ずかしい」
金剛が冗談めかして言うと、曙が苦笑する。
それを聞いて肩をすくめながら黒木が研究室を後にしようとした時だった。
警報。レーマの出現を知らせるそのサイレンで金剛は眼前のコンピューターを起動させつつ指揮官室と各戦闘員との連絡を繋げる。
「久しぶりのレーマです、俺は指揮に入るので聴取は中断です!」
「あの、よければ、ここで信濃さんを指揮する藤村さんの様子を見させてください」
まっすぐに金剛を見つめる曙の眼差しに金剛は快諾する。
「机を占有するもので、立ち見でよければ」
「分かりました」
と、黒木が
「折角だ、私もここで見学させてくださいよ」
「窮屈になるなぁ、まぁいいすけど」
「ありがとうございます、あなたの──いえ、あなた達の戦いを見せていただきます」
──────────────────
「出現したレーマは4体、コードネームはそれぞれ未確定です」
オペレーターの報告に正義が眉をひそめる。
「未確定? なんだそれは」
「性質が見た目や今の暴れようでは把握できないという事でしょうか。素性の分からない相手と戦うのは気後れしますが、負けていられません」
ヘルメットを被るさだめの言葉に、正義もうなずく。
「さだめちゃん、今日もよろしくね!」
サイドゼファーに乗り込んだ花恋にさだめが微笑むと、ライドゼファーにまたがって転送ゲートへ向かう。
「俺も続きます!」
さだめらの発進を確認して、ライドボレアスにまたがった勇太郎、正義が続いて発進する。
転送機能は使ったが、レーマの出現した地点はユニットD本部より程近い霞ヶ関のビル群であり、見覚えのある景観の中で全員が集合する。
「あれが今回のレーマか」
正義が呟くと、レーマらもこちらに気付き、近付いてくる。
その様子を見て警戒を怠らない様にしながら各員がベルトを装着する。
《Confluencer Ready》
《Confluencer allein》
《DEATH》
《STEAM》
《PANGOLIN》
《ANCHOR》
《UNDEAD》
《HOPPER》
《Burn》
「変身」
「廻纏!」
《Property Compile……DEATH・STEAM》
《Property Compile……PANGOLIN・ANCHOR》
《Property Compile……UNDEAD・HOPPER》
《Alone Punisher……Burn──Examride》
4人が変身完了し、戦闘態勢を取る。するとレーマら、その中の甲冑をまとった者が拍手していた。
「それが仮面ライダー、ですか」
「俺はテルティスだが!」
「まぁ例外もいますが」
テルティウスバーンの叫びに甲冑のレーマがうなずくと、他の仲間に目配せして、配置につく。
そして甲冑のレーマが胸に手を当てて、名乗りはじめた。
「私は天渡会幹部、ナイトレーマ」
黒い
「天渡会幹部、マイクロブ」
獣の姿をしたレーマが口を開く。
「同じく幹部、プロングホーン」
継ぎ接ぎの人形の様な姿のレーマが最後に名乗りを上げる。
「……ナイトメア」
「あなた方の装着が長かったので、こちらも名乗らせてもらいました、ふふ」
ナイトレーマが笑い声をこぼすと、呆気に取られていたライダー達が構える。
「みんな準備はいいな」
「いつでもやれます」
拳を握りしめるテルティウスバーンと共にカルヴァリア、ヴィヴレもうなずく。
それを確認したAD2が金剛に通信を送る。
「各員、戦闘開始します」
レーマへと走り出したライダー達を、レーマらが迎え撃つ。
天渡会の内部で共有されていた予言通りの相手と対峙する様にレーマらが動き、ライダーらに攻撃を加える。
途端、ナイトメアと名乗ったレーマの放つ泥の様な液体を浴びたカルヴァリアが気絶する様にその場に倒れる。
「さだめちゃん!?」
「よそ見してんじゃねぇぞ!!」
カルヴァリアの方を向くヴィヴレだったが、プロングホーンレーマの
「こちらも始めるか」
AD2の攻撃を霧散しながら回避するマイクロブレーマが彼の装甲の隙間から体内に侵入する。
「なんだ……ッ!?」
急に体全体から痛みを感じ始めたAD2が唸りながらその場に伏せる。
体が内部から刺されている様な強い痛みにAD2は悶え続ける。
それぞれ苦戦を強いられている状況にテルティウスバーンが戸惑うが、自らも対峙する敵がいる事で身動きが取れず焦燥していた。
「西洋甲冑に刀とかふざけやがって……ソッコー倒してみんなを助ける!」
「そう簡単にはいきませんよ」
余裕を見せるナイトレーマが瞬時にテルティウスバーンへと接近、掌底を食らわせる。その打撃は重く、今まで戦ってきた相手とは全く比較にならない。ふざけていると称した敵にここまで手痛い攻撃を受けるとは思っていなかったテルティウスバーンが怯んでいると、第二撃が迫る。
「ぐぁっ!」
「防御? 無駄です」
腕を交差させて二度目の掌底を防いだと思ったテルティウスバーンだったが、威力を相殺できず、体勢を崩してその場に転がる。
テルティウスバーンを完全に翻弄しているナイトレーマはライダー達が完全に後手に回って窮地に立っている現状を見て息をつく。
「これがあのレーマ狩り……? 思っていたほどでも無いですね」
動かなくなったカルヴァリア。
豪速の敵に反撃できないヴィヴレ。
苦しみ続けるAD2。
そして意味不明のレーマに太刀打ちできないテルティウスバーン。
彼らの姿を見ていた金剛は何もできない自分に苛立ちながらどうすればいいか考えを巡らせていた。
「藤村さん、これは……」
「こちらが押されています、このままじゃ仮面ライダーが負ける!」
曙に説明しつつも顔を歪める金剛が机の上の残骸を見つめる。
「……」
「そんな残骸がどうしたというのです」
黒木に問われ、金剛はゆっくりと説明する。
「それは……計画が破棄されたGRSのテストモデルです。変身可能な段階まで来ましたが安定した戦闘能力を持てず、これを使ったって今戦ってるみんなを助けられるなんてモノでは無いのですが……」
「これが完成すればライダー達の応援に行けると言うんですね?」
「そう、ですが」
汗を垂らす金剛に黒木が問う。
「逆に言えばこれが無ければ勝ち目は無いと?」
「……かもしれないです」
「……これが、無ければ」
──────────────────
その頃現場ではテルティウスバーンがナイトレーマの攻撃をかわしながら状況の打開策を練っていた。
カルヴァリア、AD2は戦闘の継続が困難、ヴィヴレは反撃の余裕が無い。
この窮地から脱する為には──。
「──
《Tertium Decisive……Burn》
全身から炎を噴き出したテルティウスバーンがナイトレーマへ突撃し、火炎を放つ。
その鎧でも防御しきれないと踏んだのか回避したナイトレーマは、大きな隙を作ってしまった。
瞬間、テルティウスバーンはヴィヴレと戦闘を繰り広げるプロングホーンラフムの方向へと走り、高速で攻撃を続けるその敵へと、ヴィヴレごと炎を浴びせる。
「ぐおおおッ!?」
「スマン那珂さん!!」
「ハァ……回復するから平気!!」
火炎を受けても全く意に介さないヴィヴレが、イートリッジを交換し形態を変える。
「むしろありがと、反撃する時間ができた!」
《Property Replace……UNDEAD・JET》
「行けるな、那珂さん!」
「おうよっ!」
テルティウスバーン、ヴィヴレが走り出す。
ジェットイートリッジを装填して機動力が増したヴィヴレだったが、さらにリミッターを解除、プロングホーンを追い越すほどの速度を獲得し、そのまま殴打を食らわせる。
「ぐわああぁッ!?」
「JDパンチ炸裂! 見たかビロンビヨーン!!」
「ッ……プロングホーンだ!」
炎を纏いながら駆けるテルティウスバーンにナイトレーマが襲撃するが、瞬間、テルティウスバーンの全身から放射された爆炎がナイトレーマを包み込み、焼き焦がす。
「あっつァァァァ!!」
「見たか、これが俺の、怒りの炎だ!」
高温にさらされたナイトレーマが地面に横たわる。
「……早く2人を助けないと」
能力の解放を行って機能の限界を感じつつもAD2、カルヴァリアの救援に行かねばと歩むテルティウスバーンが背後の違和感に気付き、振り返る。
「あの2人の相手はナイトメアとマイクロブだって決まってるんだから、ここで君は止めさせてもらうよ」
あれだけの炎を受けてなお、煙に覆われたナイトレーマは立ち上がる。
「チクショウ、まだやるってのかよ」
「じゃないとこちらも商売上がったりなのですよ」
そうごちりながらナイトレーマはその姿を人間のものに──いや、“甲冑を外し始めた”。
「あー熱かった」
甲冑はレーマとしての変貌した肉体ではなく、ただ人間が身に纏っているだけの鎧であった。
今までテルティウスバーンが戦っていた相手は、怪力を持つ異形レーマではなく、レーマとしての力を持たないであろう人間だったのだ。
焼け焦げて
「ナイトレーマってのは嘘、本当の私は──やっぱり秘密」
そう言って笑う少女は甲冑からずっと使っていなかった刀を外すと、鞘から抜刀し、カルヴァリアの方を見る。
「とりあえず、ベルゼノって呼んでください」
テルティウスバーンに向き直し、笑みを崩さぬまま彼へと歩を進める。
一方のテルティウスバーンは人間相手に攻撃をする事へのためらいもあり、先手必勝とはいかず敵の正体を探るしかなかった。
「お前……何者だ」
「答えてもきっと分からないですよ」
ナイトレーマと偽っていたベルゼノがその刀を振り、テルティウスバーンの装甲ごと体を斬り裂く。
噴出する大量の血液をまき散らしながら、彼は倒れ伏す。