テルティウスバーン、ベルゼノの戦闘と同時刻。
ヴィヴレは凄まじい速さを持つ敵、プロングホーンレーマと対峙していた。
プロングホーンとは、
それらの特性はレーマになっても受け継がれ、バッタの特性を活かした高速機動を見せるヴィヴレですら追跡が困難なレベルの速度を見せていた。
だが、ヴィヴレは、そのプロングホーンを追い抜いたのだ。
アンデットイートリッジとジェットイートリッジの組み合わせで破滅的な高速機動と超越した回復力の両立を図り、少ないリスクで限界を超えた速度を生み出す事に成功したのだ。
「そっちがどんだけ早くても、私はそれを越えてみせる!」
「いつまでそんな事言ってられるのか、耐久勝負と行こうぜ」
持久力なら確実にヴィヴレの上を行くという確信があったプロングホーンレーマはそう誘って戦況を作り上げるつもりであったが、ヴィヴレはそれに乗らなかった。
「やだね、息が切れてない相手と速さ比べを続けてもこちらが消耗するだけだよ」
「チッ……食えねーの」
時速80キロメートルを超える速度の中でやり取りしていた互いは、その速度と重みの乗った、究極の助走をかけたパンチを相手へ食らわせる。
「がぁッッ!」
「ぐおぉっ!」
それぞれの攻撃が直撃してダメージを受けたヴィヴレとプロングホーンレーマがビルの壁に激突する。
外壁と窓ガラスを破壊しながらビル内部に侵入し、オフィスの中でヴィヴレが立ち上がる。
幸い中には誰もおらず、避難が完了していた事にようやく気付き安堵する。
「こっちは特性ですぐ治るけど、プルングポーンの方はそうもいかないよね」
少し笑みを浮かべながらヴィヴレが破壊された壁を抜けて外へ出て向かいのビルを見る。
そちらも同様に損壊しており、中ではプロングホーンレーマが倒れていた。
(まだレーマの変貌が解けてない……戦闘能力は残っているって事か……注意しないと)
最後のとどめを加えんとヴィヴレがプロングホーンレーマに近付く。と、体の痛みに声を漏らしながらも彼女が立ち上がる。
「このオレが本気を出さないといけねぇレベルのスピードたぁ驚いたぜ、レーマ狩り」
「でももう
「それはどうだかな……ッ!」
プロングホーンが姿を消す。
瞬く間に走り出したのだと気付いたヴィヴレは攻撃してくるであろうプロングホーンレーマの出方を探る。
「もらった!」
「見えた!!」
《Decisive Boost……UNDEAD・JET》
ヴィヴレが速度を上げ、プロングホーンレーマのスピードに追いつく。
攻撃をかわされた彼女であったが、体の制御が効かなくなってきたヴィヴレに蹴りを入れる。
再びビルの壁に叩きつけられるヴィヴレであったが、まだ倒れず、プロングホーンレーマに食らいつく。
「うっ、おおおおおお!!」
体の限界を超えた速度を出して動き続けているヴィヴレにはダメージが蓄積していた。回復すら間に合わず、次々と傷付いていくのである。
プロングホーンレーマからダメージを受けても回復すると高をくくっていたヴィヴレではあったが、その回復による体力の消耗は免れなかった。
アンデッドの回復には、限りがあるのだ。
(速さ比べを続けるつもりなんて……なかったのにッ!)
ヴィヴレがプロングホーンレーマを追い越し、前に立ちはだかる。そして急停止し、その顔面へと殴打を食らわせる。
速さと重さは力に変わり、自らの重さでプロングホーンレーマはその身を滅ぼしたのだ。
赤い粒子の爆発が発生し、破損したビル群の道路と壁面に粒子が飛び散り、霧散する。ヴィヴレが勝利したのだ。
「……さだめちゃん! 三隈さん!」
仲間を助ける為走り出すヴィヴレだったが、足がねじれ、痛々しい破折音をかき鳴らしながら倒れてしまう。
(これ内臓もイってる……こんなんじゃ動けな……)
PRSの機能も限界を超え、変身が解除されてしまい、うずくまる花恋は何もできないままその場で意識を失ってしまった。
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その頃、AD2はマイクロブの体内侵入によって体を蝕まれ、痛みと苦しみに悶えていた。
「がッ……あぁ!!」
血を吐き続けるAD2が対抗策を考え続けるものの、頭が働かない。
全身の痛みが思考を妨害する。
と、体内から男の声が聞こえる。その声の主はマイクロブレーマであった。
「私はお前の体を蝕む者、天渡会幹部マイクロブ。お前の最後の言葉、聞き届けてやる」
「ふっ……ざッ……!」
「私は殺すぞ」
マイクロブレーマの殺意は本物、そう体が教えている。
このまま何もできずにいればAD2──正義は命を落としてしまうだろう。
と、AD2はある事に気付く。
(そうだ……“アレ”があった、そう……だが、いつぞやの事を思い出すな……しかし)
体内がまさぐられ、傷付けられながらも、AD2はマイクロブに語りかける。
「なぁ……レーマ」
「なんだ、お前もレーマだろうに」
「お前は、レーマである事を嫌だって思った事はあるか?」
少し侵食を緩めたマイクロブレーマは少し考えた後に、いいや、と答える。
「この体は異形のモノとなってしまったかもしれない。だが、今は導師のお役に立ち、人々を神世界へ導く為に役立てられている。こんなに嬉しい事は……ない」
「そうか……じゃあ俺と似てるかもな」
「私と、お前が?」
マイクロブレーマが困惑しながら問うと、AD2が少し笑って、肺が裏返る様な痛みに胸を抑える。
「ああ、本当は……俺はレーマになったのが嫌で嫌でたまらなかったんだ……信濃に言う訳にはいかなかったが」
AD2がうつ伏せになって気道に入りかけた血液を吐き出すと、あぐらをかいて呼吸を整える。
「俺はレーマの姿になって、その力を使って……人に拒絶された事がある。それがトラウマになってこんな力いらないって思ったんだが……信濃は、仮面ライダーカルヴァリアは、俺と同じ様に望まずその力を手に入れて、人殺しの罪を被せられながらも、戦ってるんだ。彼女は強い。その強さに俺は助けられたし……この力を役に立てるしかないって思えたんだ。この力に、レーマに向き合えたんだ」
「だから、レーマとなった事を喜んでいる私に似ていると?」
「そうだな、俺はレーマである事をもはや喜んでいる……信濃さだめという強者を知れた事、自分の弱さを知れた事、そしてこうやって誰かを守る為に戦えている事……お前流に言うならこんなに嬉しい事はない、って感じだ」
言葉を返すAD2にマイクロブは彼の体内で少し笑いを漏らすと、それと同時にAD2が体に痛みを覚えて地に手をつく。
「いいだろう、お前の体からは出て行く」
「殺すって話はどうした?」
「お前の命を奪う事だけが教導ではないと天啓を得た……慈悲ではないから勘違いするなよ」
「はは、そこは天渡会幹部って所だな……でも、その話はなかった事にしていい」
「……なんの話だ?」
「お前は今から俺の力で排出してやる」
そう告げると、話を理解していないマイクロブをよそにAD2が変身解除、人間の姿になってしまい痛みに耐えきれず悶えるが、すぐさまパンゴリンレーマに変貌し、痛みを凌いだ。
「天渡会と戦う為ならこのレーマの力、喜んで使う……!」
決意を込めた言葉を投げ放つと、パンゴリンレーマは自らの表皮をかじり始めた。
それを
何度も表皮を食し、強い咳を続けると、口から黒い粒子が噴き出る。
粒子は人の形を成して、マイクロブレーマ本体の姿となった。
「私を……本当に吐き出したのか?」
「ああ、パンゴリン──センザンコウの鱗には薬効があるなんて迷信があってな。俺には迷信じゃなくて実際にその機能があるらしい。まさか自分にも効くなんて、って感じだが」
ようやく身体の回復を実感したパンゴリンレーマは腰に装着されたままのコンフルエンサーの右横、サイドバックルのスイッチを押下してライドボレアスを転送させる。
《Arms Transfer》
「細かい粒子になれるお前を倒す方法はこれしかないな」
「メタルを葬った光の砲台か」
「葬った? 人聞きが悪いな、俺達は人の命を粗末に扱う天渡会のレーマを撃破したあと、人間に戻してから逮捕し、しかるべき刑罰に処している……お前らみたいに簡単に命を奪う訳が、ないだろうがッ!!」
ライドボレアスの初撃がマイクロブレーマを襲う。瞬時に粒子化した彼はなんとか直撃を免れたが、左手と脇腹を焼かれ、痛みに悶える。
「ぐっ……ぐおっ……!」
「さっきの分だ」
「お前……よくも……王から賜ったレーマの体を傷付けたなッ!!」
「俺の事散々グチャグチャに傷付けといて言えた口かよッ!!」
ライドボレアスの照準が空中に漂うマイクロブレーマを狙う。そして、できる限りの連射で少しずつその身を削っていく。
「逃がさねぇ!」
「逃げるつもりもない!」
途端、マイクロブレーマがライドボレアスに接近、その内部に侵入してしまう。
「この砲台、内部から破壊させてもらう!」
「……狙い通りだ!」
パンゴリンレーマがライドボレアス下部の赤いスイッチを押すと、すぐさまその場から離れる。
「お前、一体何をし──」
瞬間、ライドボレアスが爆発した。
パンゴリンレーマが押した起爆スイッチによって、内蔵されていた自爆機能が作動したのだ。
ライドボレアスの修理を行っていた金剛はこの兵装の弱点である近距離戦での立ち回りの悪さに気付いていた。そこから近距離用の兵装を開発し、それをライドボレアスに収納する事ができれば良かったが、まだ設計段階のそれらを実装するには至らず、自爆機能によるいわゆる“死なば諸共”の戦法を考え出したのだ。AD2の堅牢さやヴィヴレの回復力があれば大事にはいたらないまま相手にダメージを与えられるという計算であったが、カルヴァリアとテルティウスバーンは自身にも甚大な被害があるとして使用禁止を言い渡されていた。
(俺は大丈夫だ……このレーマの力のおかげでな)
損壊したライドボレアスを見てパンゴリンレーマが大きく息を吐いて人──正義の姿に戻ると、視線を落として地面を遠く見つめる。
なんとか体内の損傷は回復できたが、彼の心の中には牙痕が残っていた。
「あのレーマ、俺の事は攻撃してきたが、話ができると思えたんだが……いつもそうだ、どうしてだろうな」
「それはお前が教導を知らず、王の下にゆかんとする意思がないからだ」
その声を聞いて頭を上げる。正義の前に立っていたのは体の大部分を損耗したマイクロブレーマであった。
「お前、まだ……!」
そこで正義はライドボレアスの爆発と共に赤い粒子が散っていなかった事を思い出す。通常レーマを撃破する際に発生していたそれが無かった事は、マイクロブがあの爆発を耐えていたという事実を裏付けていた。
と、そこまで考えたところでマイクロブに再び侵入され、全身から出血する。
隙を突いたマイクロブに恨み言の一つでも言いたい正義であったが、発言できるほどの余裕は当然なく、倒れ伏す。
「が……は……」
意識が朦朧としている正義を尻目に彼の体内から這い出てきたマイクロブが、彼の腰に巻きつくコンフルエンサーを無理矢理取り外す。
「……これさえあればいいだろう」
戦利品を得たマイクロブレーマは体の回復の為、人の姿に戻れないままではあったがウィズドローへ連絡する。
「ウィズドロー、こちらは目標を殺害、奴のベルトを手に入れた。他の奴らの作戦が完了し次第こっちの回収も頼む」
そう頼んで通話を切ると、位置情報は共有しているから構わないだろうとマイクロブレーマはその場を離れ体を休められる場所を探しに行く。
残された正義は
(信濃を……ちゃんと守れなかったな。俺は、大人として、警察として、そして彼女に殺された人間として、彼女の権利を、能力を、守っていく立場だったはずだった……なのにな、どうして今天を仰いでるんだ俺は)
小さく息をついてゆっくりとまばたきをし、正義は右手を空にかざす。
その手に冷たい粒がぶつかり、それが何度も空から落ちてきて体を濡らす。
(いつもそうだ、俺は……どんなに鍛えたって、強くなろうとしたって、守りきれずにいる……俺じゃ、守れないんだ)
水の粒が正義の目元をつたう。
(那珂……信濃を任せたぞ)
正義の右手が力を失い地面に無造作に転がる。