「まず、判決理由を述べます。被告は5月28日の19時27分、東京都北区の宗教法人施設にて30名の施設職員、その場に居合わせた警察官1名を殺害しました。この人数の殺人は悪辣極まるものであります。また、被告は19歳という若さでありながらこれらの凶行に及んだ残虐性、思考の危険性も加味し、社会に対する最大の脅威とみなし、以下の判決を下します」
それは緑の葉が風に揺れる五月晴れの日だった。
桜の花びらが散るのと時を同じくして、ある少女に人生の散華が告げられた。
「被告人を死刑に処する」
証人として喚問されていた刑事が待ってくれ、と叫ぶ。だが、彼の言い分は誰一人聞く事無く、
自分が死ぬと分かってさだめは、楽になれると思った。死は罰ではなく、恵みなのだと、思ってしまっていた。
だから死刑という重い判決を鵜呑みにしてしまったのかもしれない。
自分の長くない未来に笑うでも悲しむでもなく、ただ虚ろな目を前に向けてさだめは拘置所へと案内されていた。そんな彼女の前に一人の警官がやってきた。彼は先程の裁判で声を荒げていた人物であった。
「三隈正義。君が
「冗談、ですか」
「違うな、君と同じだ……レーマに、あの怪物共と同じになったんだ、俺も」
少し話がある、と拘置所へ向かうさだめを引き留め、正義がその場で話を進める。
「それで三隈さんは……私が憎くてここに、来たんですか。残念か喜ばしいかは分かりませんが私は死刑です。もう司法によって正当に殺される事が決まっているんです」
「憎い? それこそ冗談だ、俺は君を守る為にここに来た」
「守る……?」
今私達は冗談の話をしているのだろうか。さだめがそう脳内で問うと、
「こんな状況で冗談は言っていられないだろう、信濃」
「それでも死刑の私を守るなんて世迷言ですよ」
「その世迷言の為に俺達は裁判所と戦うつもりだ。でなければ、レーマに……天渡会に対抗できない」
は? とさだめが声を漏らす。
「信濃さだめ、君を天渡会打倒の戦力としたいんだ」
「私が、戦力……?」
目を細めて話の真偽を問うさだめに対して、正義はこれから始まろうとしている怪物・レーマに対する施策を説明する。
レーマの能力を持っている人物から抽出したレーマ因子を利用した武装戦士を作り上げ、天渡会の繰り出すレーマに対抗する、毒をもって毒を制する計画、それが正義の所属する警視庁対異形成怪物開発班、ユニットDの構想であった。
「レーマを倒せる戦力として君を用いれば、日本にとって重要な戦力として認められ、死刑の求刑は遅らせられる上、その死刑とかいうふざけた重刑も見直されるかもしれない。決して君にとっては悪い話にはならないと思う」
正義の説明にさだめは閉口する。
「君を守るというのは、君がレーマを倒す戦士──仮面ライダーになってもらい、君の価値を示す。そうして君を死刑から守るという事だ」
「……別に私なんて、どうでもいい」
「どうでもいい? 一体どういう意味だ」
今までの言葉を一蹴したさだめに、正義は困惑の色を示す。
「死刑と言われた以上、私の命は私のものなんかじゃない。なら、別にあなたがたがどう指示しようが勝手です」
「まるで自分をモノの様に言うんだな」
「そうです、私はモノ、人の権利などとうに奪われた人殺しの怪物です」
自分を卑下するにしても語気が強すぎる。そう感じた正義は重い空気の中で意を決して口を開く。
「いいか、君は死刑と言われたが、それもまだすべて確定した情報じゃない。天渡会が絡んでいる以上ヤツらの罠にはまっただけの可能性が大きい……だから、自分を悲観しないでほしい、まだ君には、命があるのだから」
「その命とていつ散るか」
「まだだ。俺達が君の命をまだ終わらせやしない」
熱く訴えかける正義に反して、さだめは冷めた目で彼を見る。
「まぁ、なんだっていいです、私が今日死のうが明日死のうが……ですがあなたたちには協力します、戦えというのなら戦います」
「さっきもそうだったが、随分投げやりに言ってくれるじゃないか」
「そうですね、投げやり……ですね。家族を奪われ、殺されて、殺して、これだけの絶望が積み重なれば誰だって何もかもどうでもよくなります」
「……今はそう言っていていいだろう。だが、これから君が戦ってくれると言うのなら、その命が尽きるまでにまた生きたいと思えたのなら、俺に謝れ」
勝負という事ですか、とさだめ嘲笑すると、正義がああ、と笑ってみせる。
「生きたい、ですか。そんな気持ちがまた得られるとは思えませんがね」
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現実世界。カルヴァリアの意識を奪ったナイトメアレーマは導師からの指示を果たす為に彼女のベルトに手をかける。
「導師の命を果たす……カルヴァリアが悪夢に苦しんでいる内にその力を、削ぐ」
が、ベルトは簡単には外れてくれない。
「こういうのってバックルを引っ張れば外れてくれるものじゃないのか?」
首をかしげるナイトメアレーマだったが、ちょうど別の角度からベルトを見たのが幸いしたのか、ベルトに固定解除用のスイッチがある事に気付く。
そのスイッチを押しながらベルトを引くと、たやすく外れてみせた。
カルヴァリアを蹴り飛ばして転がしながらベルトを奪うと、任務を完了したナイトメアレーマは変身が解除されたさだめを見る。
「……やはりここで仕留めておくか」
ベルトをその場に放り出してナイトメアレーマはさだめの首を掴む。そこから徐々に力を加えようとしたが、違和感に気付き思わず力を抜いた。
さだめが目覚めていたのだ。
「悪夢から目覚めた……? 私の見せる悪夢は終わりなく、起きる事は無いと思っていたが」
「進化したレーマにはこういう精神攻撃、あまり効かないみたい、まぁ……でも、少しは効いたわ」
怒りの視線を向けるさだめに、首を掴んだままのナイトメアレーマは手に力を加えて彼女の首を絞める。
「……!」
「起きていようが関係ない、戯言も終わりだ」
が、さだめはまだ終わらない。その姿をネルガルレーマへと変貌させ、ナイトメアレーマの顔面を蹴ってみせる。
「ゴッ!」
ダメージを受けたナイトメアレーマだったが、おぼろげな視界の中でベルトを掴み、回収する。
(……欲をかいて命まで狙ったのが仇となったか……ならば逃走させてもらう)
その場から逃げおおせようと振り向き走り出したナイトメアレーマの眼前にネルガルレーマの手の平が迫る。
ナイトメアレーマの動きを読んで彼の後方に移動していたのだ。
そして瞬時に“ネルガル”としての性質を発現、彼を死の幻想に誘う。
幻想の中でナイトメアレーマは自身が死に瀕する幻を見せられる精神攻撃を食らうが、夢を操るナイトメアレーマにも精神攻撃への耐性があり、瞬時に現実に意識を戻す。
「……ハァ、ハァ、お前も悪夢を見せる力があると……だとしてもそんなもの効きはしない」
ネルガルレーマに自身の頑強さを説明するナイトメアレーマであったが、ベルトは既に彼の手にはなく、レーマから人に戻ったさだめがそれを手にしていた。
「あなたがボサッとしている間にコンフルエンサーは返してもらった、ありがとう」
《Confluencer Ready》
ナイトメアレーマが攻撃をしかけるが、ベルトから発せられるバリアで防がれる。
「それとおまけにもう一つ、私に悪夢を見せてくれてありがとう──おかげで大事なコトを思い出せた」
《Nergal》
《STEAM》
さだめがネルガルイートリッジを出現させると、ベルトから取り外したスチームイートリッジと共に起動、装填する。
「……クソッ」
ナイトメアレーマが勝機を失ったと判断して
が、それを追う様にさだめが走り出す。
「変身!」
《Property Compile……NERGAL・STEAM》
白と灰の装甲に紫の色が添えられた戦士、カルヴァリアは、ナイトメアレーマを追って駆ける。
蒸気の力により得たパワーは瞬く間にナイトメアレーマに追いつくほどのスピードを生み出し、カルヴァリアはナイトメアレーマを思い切り蹴り飛ばす。
「ぐおぅっ!」
「あなたにはネルガルの力は通用しない……けどそんなの構わない」
《Decisive Boost……NERGAL・STEAM》
ベルトのダイヤルを回転させて生じたその音声と共にカルヴァリアの周囲を黒い粒子が舞う。
「ま、待て! 私は天渡会の指示でやらされていただけだ! 私には人質がいて……」
「それが真実だろうと虚偽だろうと、私はここで怪物として戦ったあなたを倒すしかない」
「……ウィズドロー様、転移を! ウィズドロー様!!」
カルヴァリアが足を思い切り上げると、かかとを振り下ろし、ナイトメアレーマの首の付け根に大ダメージを与える。
強烈な破砕音と共に膝から崩れ落ちたナイトメアレーマを見下ろしながら、カルヴァリアが足を下ろす。
「あなたが見せた悪夢……最悪だったけど、思い出せたコトもある。あとでちゃんと正義さんに謝らなくちゃ」
撃破したナイトメアレーマを収容してもらう様にカルヴァリアが金剛へと連絡を取る。が、応答がない。
「……?」
何度通信を接続しても返事がなく何かあったのかと考えを巡らせていると、それに答えるかの様に少女の声が聞こえてきた。
「さだめちゃんの所の博士ならいないよ」
カルヴァリアが視線を変えた先にて歩を進めていた少女は、怪しげに口角を上げる。
「あなた……何者」
「そっか、私の事なんにも知らないんだよね。少し悲しいけどしょうがない」
少女が刀を取り出すと、それを振るって
「私はベルゼノ。ナイトレーマを
「穣司!?」
さだめが動揺する。その称号が天渡会においてナンバーツーを意味する語である事は収監中に学んでいた。
「それはなんの冗談? 穣司がこんな所に出てくる必要はないしそもそも若すぎる」
「若作りだよ、さだめちゃん」
「馴れ馴れしく呼ばないで、とにかくあなたが穣司であろうとなかろうと……藤村さんを傷付けた連中である事は変わりない!」
カルヴァリアが間髪入れずにベルゼノを拘束する。
その刹那、ベルゼノとレーマと相違ない腕力を有している事に気付いたカルヴァリアだったが、その違和感を飲み込む。
「縛れる物がない……このまま警察を呼ぶしか」
「無駄だよ、私強いもん」
力を込めてカルヴァリアの拘束から逃れたベルゼノは、落ちていた刀を念力の様な重力に逆らった作用で拾い上げると、カルヴァリアに向かって振るう。
「ねぇさだめちゃん、そのベルトちょうだいよ!」
「ベルトが狙い? 天渡会で使うっていうの」
「うん、研究がしたくて、ねっ!」
ベルゼノの刀がカルヴァリアの頬を掠める。刃の軌道からベルゼノの殺意を感じる。
「さっきから思っていたけれど……あなた、生身でそれほどの身体能力を有しているのは一体何……?」
《Arms Transfer》
《Mortalzapper》
モータルザッパーを取り出してカルヴァリアが問う。
それに対しベルゼノは不敵に笑うと、刀を地面に刺す。コンクリートで固められた地面に、極めて鋭利とはいえ刀を刺し込んでしまう腕力は、常人とは言えなかった。
「本当に何者」
「……まほうつかい、と言ったら信じてくれる?」
「信じがたいけれど、これまでも多くの超常現象が発生していた。それらの実例があるなら、そうだとしても不思議ではないかもしれない」
あはっ、とベルゼノが笑う。その様子にカルヴァリアは少し苛立ちながらモータルザッパーを構える。
「信じちゃうんだ、まぁそれもそうか、さだめちゃんに起きた事を考えたら魔法だってある様に思えるもんね」
「私の事を、知った様な口を利かないで」
語気が強まるカルヴァリアにベルゼノが手を向けて制止を促す。
「待って待って、別にさだめちゃんの“運命”について悪く言う気はないの。ただ私は……」
ベルゼノがカルヴァリアに近付き、その頬に触れる。
不気味さを感じて手を払うカルヴァリアだったが、ベルゼノは含みのある笑みを崩さない。
「あなたの運命を握ってるのは私なの」
彼女の言っている意味が分からないが、本能が何かを察知したのか、血の気が引いていく。
運命、そうベルゼノが呼ぶものの意味を、さだめは薄々理解していた。
「いや……まさかあなたが、そんな馬鹿な……」
天渡会の人間。そして穣司であるという情報。さだめの家族を殺したのも天渡会。穣司にはレーマを含めた人員を動かす権限がある。訳知り顔。さだめという名とカルヴァリアの事を知っている。自分の容姿を知っている相手、その上で信濃家の惨劇を知りうる人物。まほうつかい。彼女が語る"運命を握っている"という意味深な発言。
「嫌な予感してるでしょ、さだめちゃん」
「……あなたが若作りしていている穣司というのは本当なのですね」
「それは認めるけど、さだめちゃんが本当に聞きたいのはそんな事じゃないでしょ?」
ベルゼノが満面の笑みを浮かべる。その笑顔にカルヴァリアは硬直する。
「仕向けた、と言うのが正しいと思うけど、実質的な話をしよっか──」
押し黙るカルヴァリアにベルゼノが目を細める。
「──信濃一家は私が殺したよ」