ユニットD本部、研究室。
仮面ライダーらと天渡会との戦闘が始まり、金剛は苦しい状況に奥歯を噛み締める。
その様子を眺める黒木、見守る曙が固唾を吞む。
「やはりGRSの使い時なんでしょうか」
曙が問うと、金剛がモニターとは別の端末を操作しながらGRSの調整を進める。
「本格的にそうなってきましたよ……まったく」
忙しなくキーボードを打ち続ける金剛を見て、曙が一歩下がる。
作業を続けていると、戦闘の様子を見ていた黒木がなっ、と声を上げて目を見開いた。
テルティウスバーンが切り払われる様を目撃したのだ。
「あれは……火島勇太郎さん」
「そうすね、あなたが口喧嘩してた血気盛んな大学生です」
「彼も戦って……あんなに傷付いて」
黒木が目を背けようとするが、視線を反らさずに意を決してモニターを見続ける。
彼らの姿から逃げる事で、自分の弱さに向き合いたくなかったのだ。
「私が彼らの戦いから逃げては……私がここにいる意味など」
自分に言い聞かせる様につぶやくと、曙が冷や汗を垂らす黒木に視線を移す。
「黒木さん、逃げないんですね?」
「逃げてどうなるんですか……私は、正直卑屈な人間ですが、卑怯な人間にはなりたくない、だけです」
「それは卑屈ではありませんよ黒木さん」
曙が微笑むと、黒木もぎこちなく口角を上げる。
その雰囲気で緊張感が和らいだ気がした。
しかし、次の瞬間、ほんのわずか癒された空気が凍り付いた。
「黒木さんのその行動を……ここでは愚か、と言うのです」
そう告げる曙の手には拳銃が握られていた。
「!」
彼女の行動に動揺する黒木であったが、発砲までの時間に退避する事は叶わず、硬直したまま銃撃されるのを待つ事しかできなかった。
自分の死を覚悟する黒木。だが、銃声の後も自身が無事であると気付いた。
研究室の天井に格納されていた自動迎撃システムが敵、すなわち曙の動きを認識して自動的に拳銃を撃ち抜いて弾いたのだ。
「……何が起きたの」
「何が起きたはこっちのセリフだよ!! なんで急に銃とか撃ってんだアンタぁ!!」
金剛の怒号に曙は悔しそうに眉を吊り上げるが、怒りを露わにしているのは彼女だけではなかった。
「まさかアンタが組織を裏切ってたなんてな……その素振りもみせねーでこんなコトしでかして、今すぐ拘束を……」
「人用の拘束は意味無いわ、レーマだから」
怒気を表情に乗せる金剛、困惑を隠せない黒木を睨みながら曙が灰色の粒子を身に纏わせる。
その様子に驚きもしない金剛は机の引き出しに隠していた拳銃を取り出しつつ、自動迎撃システムの警戒レベルを最大に設定する。
それを見て一手遅れつつ黒木も懐から拳銃を出す。
金剛と黒木、2人の緊張が高まる中、曙はその姿を異形へと変えていった。
黒い影から白い歯を覗かせる人型の禍々しいレーマ。その恐ろしい見た目に黒木は言葉にならない声を上げる。
「それがアンタのレーマバージョンか、曙さん!」
「そう、これが私の真の姿……シャドーレーマ!!」
シャドーレーマへと銃撃が開始される。金剛と黒木の発砲、システムによる迎撃がシャドーレーマを襲う。が、ただの銃ではレーマに傷を付ける事は不可能。
無傷の怪物が近くにいた黒木に狙いを定め距離を縮める。
「本来ならレーマの力を使わずに殺したかったけど、それが難しいなら仕方がない……どうせあなた達が私の攻撃でレーマに覚醒する未来なんて万に一つも無いのだから」
「曙さん、どうして!」
「どうしても何もない、私は検察の立場を利用してユニットDに潜伏した天渡会の一員、そんな人間ウジャウジャいるわよ」
発砲し続ける黒木だったが、弾が切れて軽い金属音を奏でる銃に焦りを覚える。
途端シャドーレーマの黒く
反撃の手段を持たず緊迫する黒木だったが、彼の前に金剛が飛び出し、シャドーレーマに体当たりした。
「やるなら俺からやれ!!」
「藤村さん!」
シャドーレーマの強力な殴打を顔面に食らった金剛が歯を何本か吐き出しながらデスクのキーボードを操作し、ケーブルを引きちぎりながら置かれていたベルトを放り投げる。
「GRSの調整終了だ黒木さん! それを使え!!」
「は!?」
「ベルトだから腰に巻く!」
促されるまま黒木が投げ渡されたベルト──ジャンクショナーを取りつけ、起動させる。
《Junctioner Ready》
次にどうすればいいのか分からない黒木が金剛に目をやるが、彼はシャドーレーマから逃げるのに必死であった。だが、黒木の行動を読めない金剛ではない。次の行動を指示するために息を荒げながらも金剛はベルトを託した彼へと“変身”の手順を教える……とは言っても。
「ベルトのレバーを反対側に押せ!!」
その一言でプロセスは完了する。
黒木がレバーを押し、GRSを実行するための装甲が形成されていっていた。
《Guardian Ride Sistem……Name is Evelake》
機械的かつ武骨な鎧に身を纏った黒木は、シャドーレーマへ体当たりすると、壁を突き抜けて廊下へ出る。
「これが、GRSの力……」
「そうだ、黒木さん、それが……『仮面ライダーエヴラック』だ!!」
笑みをたたえながら告げる金剛に、黒木──仮面ライダーエヴラックはうなずくとシャドーレーマに組みつく。
「とにかくここから出ていってもらう……!」
シャドーレーマがエヴラックを引き離して金剛に迫るが、自動迎撃システムがその進路を阻む。
「豆鉄砲が!」
が、その時間稼ぎがエヴラックの攻撃を許す隙を作った。
シャドーレーマの背中を蹴り飛ばしたエヴラックがシャドーレーマを押し倒しつつ、腕を組み伏して床に叩きつける。
「決定打がありません、何か武器はないんですか!?」
「すまん無いよ! 今致命打を考案しているところだ!」
それまで足止めしかできないじゃないか、と声には出なかったがエヴラックは落胆する。
得体も知れず、特性も分からない敵相手に初めて仮面ライダーとして戦闘する素人が防戦一方。あまりにも
「ヒーローの初登場ってもっと圧倒的な強さを見せるものじゃないんですか!」
「知るか!」
「行いが悪かったんだよ、俺も黒木さんも」
三者三葉の思いを吐露しつつ、硬直した状況は続く。
が、先に動き出したのはシャドーレーマであった。
「埒が明かない戦いほど退屈な物はないわよ!」
瞬間、シャドーレーマは辺りに写っている影の中に入り、そこから水棲生物がごとく移動していき、金剛の足元にある影から飛び出してきた。
「藤村金剛──死ね!」
危機的な瞬間とは本当にゆっくりに見えるのだと、その時エヴラック──黒木は認識した。
金剛の心臓がシャドーレーマによって貫かれる一瞬。その刹那に彼は過去を空目した。
自分と同い年で多くの科学的快挙を果たしたという藤村金剛の存在を知り、黒木は自分に何ができたか、何ができるかを模索する様になった。法学の道に進んだ黒木には科学と同様の成果をもたらせる訳もなく、功を急いて教授から叱責される日も少なくなかった。
それでも自分ができる事はないかと模索し続けた。
彼のその熱意を支えたのは、面識すらない金剛の活躍であった。
世界なんて大きな言葉を背負えずとも、日本を少しでも良くしたいと、黒木はあがき続けた。その先で見つけたのが、内閣情報調査室で国家を揺るがす案件に対応、対策する事であった。
本来豊富なキャリアを要するその組織に20代という若さで所属できた事は紛れもなく彼の努力と才能が結実した成果であると言えたが、それでもなお、金剛に並べたという自信は持てなかった。
内調の任務でユニットDに身を置く事になってなお、自分の仕事は、裏切り者を油断させる為の
黒木調査官として嫌味を言う毎日は、任務を遂行する為の演技だと思っていたが、きっと自分の中の黒い感情が漏れ出ていたのだろう。
金剛には申し訳ない事をしたと思った。憧れだったのに、突き放すか卑しく絡む事しかできなかった。それが指示だったといえば言い訳になると思うが、それでも彼や、ユニットDの人々への無礼は拭えるものでは無いと悔いた。
だが、もう遅い。
「藤村さんッ!!」
一撃で致命傷を与えられ、即死した金剛を抱えて、エヴラックが叫ぶ。それを見下ろしながらシャドーレーマは気味の悪い口から舌を出し、手にこびりついた金剛の血液を舐め取る。
「あぁぁ~~、血の味。これを感じられるとストレス減ってくわァ~~」
「よくも……よくも藤村さんを!!」
「怒ったって立ち上がったって無駄よ黒木調査官。勝ち目がないもの」
実際勝ち目はゼロに等しい。シャドーレーマに対抗しうる武装もなく、ましてやシャドーレーマの方には影に潜む能力がある。あれを使われればすぐに背後に回り込まれたり拘束しても逃げられてしまう。
(こういう状況でどうしろって言うんだ……この年で泣きたくなるなんてな)
「……これは油断というものだけれど、あなたを殺さなくったって作戦は完了するのよね」
「油断するなよレーマ、今まで隠してたお前を倒す武器や人員が出てくるかも知れないだろう」
「馬鹿な事を言うわね」
呆れながらシャドーレーマが研究室から離れる。
「待て、シャドーレーマ!」
「待たないわよ、ここ破壊しまくるもの」
「は……何を言って──」
シャドーレーマが壁を破壊し始める。
「とりあえずこちらの目的が済んだらユニットDなんて忌々しい組織はいらないもの。丁寧に木っ端微塵にしてやるのが一番よ」
「させるか!」
エヴラックがシャドーを殴りつけようとするが、影に潜まれ空振る。
「これ以上! お前みたいなヤツに! 好き勝手させるなんて!」
しつこく掴みかかるエヴラックに痺れを切らしたシャドーレーマはその場から逃亡を図る。と、破壊した廊下の電灯が激しく発光して影を消し去り、そこにいたシャドーレーマを浮かび上がらせる。
「チィッ!」
再び逃げおおせようとするシャドーレーマだったが、エヴラックに絡みつかれ、身動きが取れなくなってしまった。
加えて、先ほどの発光地点の真下におり、入り込める影が見つけられない。
(影が薄すぎる、これじゃまともに侵入できない)
何度目かの
と、そこに何者かが現れた。
「
「……大淀指揮官!」
その場に現れた彼女、大淀は黒木が用いていたものと同じジャンクショナーを取り出すと、慣れた手つきで軽快に装着、レバーを押して変身する。
《Guardian Ride Sistem……Name is Evelake》
「黒木調査官か、君のジャンクショナーは未調整であったが、私に渡された物は、“完成品”だ」
「な、なぜあなたがそれをっ」
「内通者の存在は分かっていたからな、隠していたのだよ」
大淀の変身したエヴラックはゆっくりと拳を握ると、恐ろしい瞬発力でがんじがらめになっていたシャドーレーマの頭部めがけて剛腕を振るった。
一瞬の間に起きた出来事を理解できないまま脳
そのたった二撃でシャドーレーマはグロッキーを起こしていた。
「何が……何が起きた」
「これが人智の辿り着いた大いなる技術というものだ」
「だから言ったろ、お前を倒す人員が出てくるかも、と」
三度目、大淀エヴラックの回し蹴りがシャドーレーマの足をへし折る。
「エヴラック……盾の名を関するこのシステムだが……」
四度目、突きが肩を貫き内部骨格を破砕する。
「攻撃は最大の防御と言うだろう」
とどめに大淀エヴラックがレバーを押す。
《Push in to Evelake》
その機械音声が意味するのは、必殺の技。
GRSを構成するレーマ因子が最大稼働を発揮し、一時的に限界値ギリギリの性能を解放する。
「シールドパンチ!!」
大淀自ら考えたであろう技名を叫び、シャドーレーマの腹をぶち抜く。
それによりシャドーレーマが形態を維持できず、赤い爆発を散らす。
その反動で曙は研究室まで吹き飛んでいき、それを見て黒木は勝利を確信する。
「……レーマに勝った」
「これがエヴラック、人の力だ」
ようやく落ち着きを取り戻し、黒木が金剛の事を思い出し、滝の様な汗を流し始める。
「それより指揮官、藤村さんが……!」
研究室を見つめる黒木を見て、嫌な予感を察知した大淀が研究室へ足を踏み入れる。
「まだだ……」
そこには拳銃を拾った曙がおり、銃口を向けていた。
大淀が気付いた頃には引き金は引かれていた。
銃声と発光に気付いた黒木は大淀に歩み寄ると、彼女は胸に二発食らっていた。
「く、ろき……」
息絶え絶えの大淀が完成品のジャンクショナーを黒木に渡す。
「みんなを頼むぞ……!」
「大淀指揮か──」
既に息を引き取っていた。
無惨に討たれた金剛。
ダメージによって気絶した曙。
何も告げる事の無い大淀。
黒木というただ若く、未熟な彼には、ただ呆然とする事しかできなかった。