「私が天渡会を遣わせてあなたの家族、あなた自身を殺害した」
ベルゼノの語る言葉にカルヴァリアは押し黙る。
「どうしてそんな事をしたのか──気になるよね? “天命の書”がそうなると予言していたから……そうすれば私は、私の欲した力を手に入れられると知ったから」
うつむいているカルヴァリアを見てベルゼノは閉口し、冷ややかな表情で彼女を観察する。
「何も、言えないよね。あなたの死も、あなたの喪失も、全部決められていたんだよ。そういう風にさだめられた運命だったんだよ」
「……だったの」
静かにつぶやき始めたカルヴァリアにベルゼノが耳をすませる。
「あなたの欲した力は……私の家族を殺すほどの価値だったの」
怒気に満ちたその問いにベルゼノは顔をしかめる。
瞬間、モータルザッパーがベルゼノの首をかすめていった。
「! さだめちゃん」
「あなたの欲望の為に私の家族が犠牲になったというのなら──」
が、モータルザッパーの動きが止まる。
カルヴァリアの眼前にはベルゼノの刀が突き付けられていた。
「さだめちゃん、どうして私がわざわざ君に真実を話したと思う?」
「私は真実かどうか信用していないけれど……どうして」
ベルゼノの刀が離れていき、それと共に彼女が後方へ跳躍して距離を取る。
「それはね、負けてほしくないからだよ」
「……意味が分からない」
仮面の下でベルゼノを睨むカルヴァリアの頬を、彼女は煽情的になでる。
その仕草に怖気立ったカルヴァリアが手を払う。
「私は、多くの絶望を経てここまで来た。そしてそんな絶望を与えてきた神様を許さない。もしかしてさだめちゃんもそうなんじゃない?」
「たしかに神は嫌いだけど」
「分かるよ、さだめちゃんの怒り、悲しみ。でも、もっとあなたにはそれが必要なんだよ。だから」
ベルゼノが手を打ち鳴らすと、カルヴァリアらを囲むビルの屋上から何者かが落下してくる。
その姿は、あまりにも見覚えのあるものだった。
赤い体躯と緑青の鎧。仮面ライダーヴィヴレであった。
「──花恋さんッ!?」
「彼女はエアレーマの同調で天渡会に与する様になった人形だ」
カルヴァリアが動揺しながらヴィヴレに近付くと、彼女は思い切りカルヴァリアの両手を握り、嬉々として言葉を発する。
「さっきぶり、さだめちゃん!」
「花恋さん……話せるの」
「うん、もちろん。戦ったばかりだから本調子とはいかないけれど、すごく気分は楽なんだ」
「楽って、エアの洗脳を受けて……!」
ヴィヴレが変身を解除して笑みを浮かべる。
「おかげさまで心のモヤモヤが晴れて、自分が何をすべきかスッと入ってくるんだよ! ホント不思議な気持ち、でもすごいって事は分かるよ」
「これが……エアの洗脳……」
ベルゼノは不敵に微笑む。
「洗脳っていうより、やっぱ同調って感じなんだって。導師のお考えが私の中に浸透してきて、目的意識がハッキリして、心が安らぐんだよ! パパもママもこんな気持ちだったのかな!?」
「……花恋さん、もう何も言わないで」
カルヴァリアが再びベルゼノを狙い、斬撃を繰り返す。
(さっきよりキレが上がってる……いや、殺意が高まってるって感じ)
ベルゼノが分析しつつも、カルヴァリアの猛攻をかいくぐる。が、徐々に回避が難しくなっていく。
「さだめちゃん……ここで私を攻撃したところで何にもならない、そう思わない?」
「知らない、花恋さんをここまでしたあなたは許さない!」
ベルゼノが頬がモータルザッパーの刃で切れ、鮮血が滴る。
「さだめちゃん、あなたの敵は私じゃない……神だよ」
「知らない、そんな事!!」
カルヴァリアがネルガルの力をベルゼノに死の幻想を見せようとする。が、彼女は全く意に介さず、カルヴァリアの動きを止めようとする。
「私はあなたの味方なの、仲間なの。だからどうか話をさせてほしい」
「味方が花恋さんを洗脳なんかするかァ!!」
痛いところを突かれたベルゼノがカルヴァリアに突き飛ばされる。
そして、モータルザッパーがベルゼノの体を上半身と下半身に分断する。
「さだめちゃ──」
怒りに身を任せ、人を斬った。その感触によって正気に戻ったカルヴァリアが、恐怖のあまり変身を解除し、少し硬直したあと、ベルゼノに駆け寄る。
「わ、私は……」
震える手がベルゼノの血液に
「ころし、殺した……」
家族がいた人を殺めてしまった自分の手が、また穢れていく。
胴が断ち切れたベルゼノへと視線を移し、自らの罪を直視していると、彼女の体が動き出した。
「さだめちゃん、死んでない私」
服ごと胴が繋がり立ち上がったベルゼノが笑うと、絶望としか形容できない表情のさだめを見て頬を赤らめる。
「その顔。好きだよ、私と同じになっていってるんだって思えて」
「ベルゼノ……ベルゼノ……」
「嫌でも覚えてくれたね私の名前。嬉しいな、好きだよ、さだめちゃん」
呆然とするさだめをよそに、ベルゼノは彼女が持っていた携帯電話を取り出すと、ビデオを回し始める。
「えー、今さだめちゃんは、私を殺したと思って呆気に取られています。ですが私は凄い人なので死んでません。それとさだめちゃんがやったと言われている犯罪はすべて私のやった事でーす」
カメラに向かってピースするとベルゼノはさだめに話していなかった情報を次々と公開していく。
「信濃家に侵入したレーマ、天渡会構成員はすべて私の部下であり、私の指示により活動しました。その際の命令書は天渡会のどこかのアジトに大事に保管されています」
「さだめちゃんが侵入した天渡会支部には私が待機を指示した構成員のみが残っており、私が警察にて不審活動を通報しています。その際の記録はそちらに残っていると思うので声紋鑑定で照合してくださーい」
「さだめちゃんが殺したって嘆いてる家族持ちの構成員は私の仕込みです。家族がいる様に見えるグッズを持たせておけば勝手にみんな騙されました、写真はフリー素材をわざわざ購入したので画像検索してみてくださーい」
「ちなみに本事件に関わった警察、弁護士、検事、裁判官の中には天渡会構成員が含まれています。ぜひ探してみてください、絵本みたいで楽しいですよ、頑張ってねー。以上!」
ビデオ撮影を終了すると、ベルゼノは携帯電話をさだめに返すと、怯えきった彼女を抱きしめる。
「辛いよね、苦しいよね。これも全部神が決めた事なんだ……だから、一緒に、“神を殺そう”」
ベルゼノの意見が全く理解できないままさだめが彼女に視線を向ける。
「大丈夫、きっとさだめちゃんは分かってくれるよ。その為に私は、天渡会なんて気持ちの悪い組織を立ち上げたのだから」
ベルゼノがさだめから離れると、ずっと静観していた花恋の襟を掴んで歩き出す。
「行くよ、アンデッド」
あらかじめベルゼノに呼ばれていたのか、ウィズドローが出現し、ベルゼノと花恋に触れる。
「待って花恋さん!」
激動の状況下で、ただ一人縋りたい存在、花恋が行ってしまう。さだめはそれを察知し走り出す。だがウィズドローが待ってくれるはずもなく、花恋の捨て台詞を残して一同は消えてしまう。
「バイバイ、花恋ちゃん」
その場に一人残されたさだめは、降ってきた雨に隠れる様に泣きじゃくった。
──
雨が降りしきる中、ユニットDの打撃を受けて救援に来た救急隊、警察が状況を整理する。
信濃さだめはほぼ無傷で回収できたが、心的外傷が確認され、安静が必要と判断。
那珂花恋は天渡会により洗脳、そのまま消息を絶つ。なお、コンフルエンサーに搭載された位置情報発信機により場所の特定が開始されている。
三隈正義もレーマとの戦闘後、消息を絶っている。敵に回収されたと見て位置情報を探索中。
火島勇太郎は天渡会の攻撃により致命的な外傷を受け、緊急手術中。
黒木陽炎はシャドーレーマと交戦しつつも生還。信濃さだめと同じく心的外傷を認められ、安静中。
大淀頑真はユニットD本部での死亡が確定。今後ユニットDの指揮がどうなるのかは臨時国会にて協議される。現状では防衛装備庁の管轄下に置かれる事が有力。
そして、藤村金剛は──。
「
「彼はレーマの直接攻撃を受けて死亡している人物だ。レーマとして復活する可能性があるので一応搬送すると臨時マニュアルにある」
救急隊員らが金剛の
金剛は現状完全に息を引き取っていたが、ユニットDの報告から重篤な状態として扱う事が定められており、救急隊員にも1時間の調査時間が設けられている。
と言ってもそうした立ち回りはユニットDの秘匿性を守る為にほとんどの救急隊員に周知されず、配布される臨時マニュアルも救助終了後に廃棄するものと義務付けられている。
現場に出動要請された隊員らが混乱するのも無理はないが、ユニットDを公開しない事で得られるアドバンテージを放棄できなかったのだ。だがそれも今となっては意味をなさないが。
「! 的井さん、バイタルが戻りました!!」
「ユニットDだかに連絡、レーマ化に備えろ!!」
焦る隊員らをよそに、生命活動を再開したはずの金剛は意識を取り戻す事なく、ただ眠ったままであった。
「なんだ……何も起こらない」
「そのユニットは呼びましたけどもう少しかかるそうで」
「周辺の避難は完了しているから、あとは俺達が逃げるだけか」
「……!」
少しの葛藤を経て、救急隊員らが運転手と共に逃げ出す。
「周辺に隊員は!?」
「いません!」
「ならとにかくここから離れて人的被害を減らすしかないだろうが!!」
全力疾走する救急隊員らと人員輸送用のトラックがすれ違う。そのトラックから負傷を応急処置された黒木が降車する。
「連絡があった救急車はこのあたりですね……」
息も絶え絶えの彼はその場に放置されていた救急車にて金剛が眠っている事を確認する。
「……目覚めていない、バイタルサインも出ている。これは……レーマになったものの未だ覚醒していないという事でしょうか」
とにかく、と黒木が呟くと、大きく鼻息を漏らす。
(藤村さんだけでも、生きていた……か)
安らかな顔で眠る金剛の様子を一通り確認した黒木は蓄積した肉体的、精神的疲労で昏倒してしまう。
結果レーマと戦闘できる要因を失ったユニットDは金剛のレーマ化に対処できる人員がおらず、彼を静観せざるを得なくなってしまった。
──
6月6日。天渡会の介入によってユニットDの戦力が大打撃を受け日本……世界におけるレーマへの対抗策が著しく損耗したその日は、“6.6 ユニットD攻撃事件”として処理され、人的、物的な被害によりユニットDは再編を余儀なくされた。以前よりなされていた予想通り防衛装備庁の内部組織として構成される運びとなり、ユニットDに所属していた人員、業務、備品すべてがそちらに移管された。
ユニットDの新指揮官には、防衛装備庁長官、大淀
また、藤村金剛が担っていた開発主任の役職は、防衛装備庁装備開発官、
なお、内閣情報調査室所属であった黒木陽炎はユニットDにて開発されていた装備の受諾と共に正式にユニットD職員となり、対レーマの任を請け負った。
これらユニットDの再編が行われたものの、信濃さだめの処遇については検事総長、大淀米太の進言により以前と変わらぬ措置が約束され、現在は防衛装備庁の空室を自室として開放して生活を可能にしている。
また、彼女にかけられている死刑の宣告について、カルヴァリア内の録音から得られた情報を元に、ベルゼノと名乗る穣司の関係性が問われた事で慎重な対応が強く求められる事となり、求刑までの猶予が実質的に与えられた。
慌ただしい時間が過ぎ、ようやくユニットDに落ち着きが戻ってきた頃、黒木はさだめの自室に伺う事ができた。彼はそこで、ベッドにて横になっている憔悴しきったさだめの姿を目撃した。
「信濃さん、黒木です」
「……」
「話は聞いていると思いますが、大淀指揮官と藤村さんの件、すみませんでした。私の力不足でした」
「傷口に塩を塗りに来たんですか」
さだめの言い放つ棘のある言葉に黒木は身につまされる思いであった。
「もう私は、あなた方を
「だったら今すぐ那珂さんを連れて来てくださいよ!」
ベッドから起き上がったさだめの一言に黒木は言葉を詰まらせる。
辛そうに奥歯を噛みしめる黒木を見つめるさだめの目は赤く腫れており、なおも瞳を潤ませる。
「私は……また、何もかも奪われて……三隈さんも、大淀指揮官も、花恋さんも……もう私には、戦うだけの力なんて……無い」
黒木には彼女にかけられる言葉は何一つ無かった。彼女の死刑を賛助する立場として生きてきた下郎が、彼女に何を伝えられるというのだ。
「お邪魔……でしたね」
黒木が部屋を後にすると、さだめのすすり泣く声が聞こえる。
(信濃さんは……もう仮面ライダーとして戦えないかも知れない)
自分の非力を嘆きながら、その捌け口も見つからないまま黒木はユニットD職員として与えれた待機室へ戻る。
6月6日は終わった。だが、まだ何も解決していない。
天渡会との戦いはこれからだというのに。