仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#3 麗しき死刑囚

 花恋は、死んだはずだった。

 レーマに首を絞められて、息絶えたと思っていた。その瞬間の息苦しい感覚さえ残っている。

 なのに、意識がしっかりと現実にある。

 奇跡的に助かったのか、そうとだけ考えて花恋は破壊音の轟く方へ視線を向ける。

 

 黒い瞳の戦士。それがレーマを圧倒し、見事に撃退してみせたのだ。

 どこか恐ろしい見た目の戦士だったが、その戦いぶりにはレーマへの強い怒りを感じた。

 その怒りが、自分のレーマへの、天渡会への憎しみを代弁してくれている様で、嬉しかった。

 

 戦士が人の姿に戻った時、花恋はかつて無い程の衝撃を覚えた。

 あの勇ましく雄々しい戦士の正体が、“スーパーアルティメット可愛い女の子”だったなんて。

 

 一目惚れだった。強くて、格好良くて、可愛い。

 女である自分が女の子に恋をするなんておかしい事なのかも知れない。でも、その気持ちに嘘をつきたくないと、花恋は強く拍動する心臓に訴えかけた。

 

「──ちょっと待って」

 

 その場から去ろうとする少女に、思わず声をかけてしまった。

 

「あなたがレーマを倒したの!? スゴイ! カッコいい!! それと、ありがとう──」

 

 何とか混濁する頭を回転させて彼女に感謝の言葉を投げかけるが、自分と少女が大多数の警官に銃口を向けられている事に気付いた。

 

 少女がインカムで誰かと話すと、先程のレーマに見せていた様な鋭い視線で花恋を見つめる。

 吸い込まれそうな灰色の瞳。透き通る白い肌。まるで人形の様なきらめく水色の髪。

 彼女の姿が常に花恋の心を射止め続ける。

 だが、彼女の柔らかい声色から発された言葉は、予想だにしないものだった。

 

「あなたは、レーマです」

 

 

「──はい?」

 

 花恋が聞き返すが、少女から返答を得ない内に警官らによって拘束され、トラックの荷台に乗せられる。

 

「ちょっちょっ待って待ってくださいっ! なに、何が起こってるの!? 私がレーマって何!?」

「詳しくは改めて説明します」

 

 トラックの運転席にいるであろう警官からそう告げられると、荷台の中にガスが充満する。

 それは睡眠作用のある物らしく、焦る花恋を一瞬で眠らせてしまう。

 

 

「まさか新たなレーマが確認されるとは……あらかじめ収容車両を用意しておいて正解だった」

 

 警官隊を指揮する男が口漏らすと、少女の方を見る。

 

「戻ろう、信濃」

「はい」

 

 少女が答えると、アタッシュケースにベルトを収納し、ヘルメットを被ってバイクを発進させる。

 それを追う様にトラックやパトカーが走る。

 

──────────────────

 

 花恋が目覚めると、大きなガラスが壁に貼り付けられた一室に手錠をかけた状態で寝かされていた。

 

「ここ、どこですやい……」

「目覚めたかい?」

 

 薄暗い部屋に男性の声が響く。部屋を見渡すと天井にスピーカーが内蔵されていた。

 他には、木製の椅子とカーテンで仕切られたトイレ、それと時計くらいしか無い殺風景な場所だった。

 スピーカーから聞こえて来る男の声は、ガラスの向こうに座っている人物らしい。

 白衣を着たガラス越しの彼は、花恋の視線に気付き手を振った。

 

「聞こえますか! ここは、どこなんですか?」

「端的に言えば警察の部屋だね、後で説明するが君を拘束してここにいてもらう必要があってね、悪いがそこで大人しく俺の話を聞いていて欲しい」

 

 出来るだけ花恋を安心させる様にと優しい口調で説明する男性だったが、花恋は未だに不安が勝っている。

 先程少女から告げられた言葉が胸に刺さったままなのだ。

 “あなたはレーマです”──その言葉が一体どういう意味なのか、目の前の男性の話を聞けば分かるのだろうか。花恋はそう自分に問いかけながら押し黙ったまま男性に耳を傾ける。

 

「自己紹介がまだだったね、俺は藤村(ふじむら) 金剛(こんごう)。警察と協力してレーマの事を調べている研究者だ。君は──」

「那珂花恋です、この春大学生になるピチピチのニューJDです」

「……面白いなこの子」

 

 真面目な表情で言い切る花恋にかなり興味を示す男性──金剛だったが、咳払いを挟んで言葉を続ける。

 

「那珂さんだね、君の身に起きた事を話すが、ピチピチのニューJDの那珂さんならどうか落ち着いて聞いてくれるね?」

「……任せてください」

 

 金剛が少し笑う。

 

「こちらで観測していた秋葉原周辺の生体反応とレーマの持つ因子の濃度から、君が一度あの場で死亡し、レーマとして蘇生した事を確認した。君はレーマに殺された事によって、レーマに覚醒したんだ」

「私、死んだ……? レーマに殺されると、レーマに、なる……?」

「混乱するのも無理もない……一度死んでいると聞かされれば誰だって訳が分からなくなる。俺もその辺の原理は解明出来てないからホントわけわかめだ」

「で、でも私生きてますよね? お化け……じゃないですよね!?」

「ああ、生体反応を確認していたが、確実に君は生きている。復活した、というのが正しいかも知れないが」

 

 眉を八の字にして困惑する花恋に、金剛も渋い表情を見せる。

 

「君が復活した理由についてだが、結論から言うと運が良かったんだ」

「運?」

「人にはそれぞれレーマになる因子があって、それの高い人間がレーマに殺されると、因子が反応してレーマになるらしい。便宜上この因子を分かりやすく『レーマ因子』と呼んでいるが、君はそのレーマ因子が通常の人間より高い傾向にあった様だ」

「じゃ、じゃあ私は、本当にレーマになった……ってコトですか」

「多分ね、君が意識して力を込めればレーマの姿になると思う」

 

 金剛にそう言われると、花恋は自分の手を見て脳裏に巡る恐怖に葛藤する。

 自分がレーマ──化け物だというのか。それを確かめる方法はあるが、もし本当に自分がレーマだとしたら。

 そう考えるだけで手が震えて血の気が引く。

 

「レーマが一体どんな奴なのかは君も理解しているだろう、そりゃ……怖いだろ」

「……レーマから、人間に戻る方法は無いんですか?」

「ある……だけどその前にもう少しだけこっちの話を聞いてもらっても良いだろうか」

「分かり、ました」

 

 花恋の返答を聞いて、金剛が手元のタブレットを操作する。

 

「君は目撃したと思うのだが、俺達はレーマを倒す為にレーマの力を使おうと考えていて……」

 

 すると金剛がタブレットの画面を花恋に見せる。

 そこに映っていたのはあの少女が変身していた戦士の写真だった。

 

「これ! あの子がなってた……!」

「“仮面ライダー”。レーマ因子を装甲と武装に変換してレーマと戦う兵器にした、レーマ専用の装備だ」

「レーマ専用……じゃああの子も──」

「俺達に協力してくれているレーマだ」

「あの子も、レーマ……」

 

 自分と同じ境遇の子がもう1人いる、それにそれはあの時見たスーパー美少女と来た。

 花恋が鼓動を早める。

 

「君が学生なのを聞いた上でお願いするのは不躾(ぶしつけ)だと思うが、仮面ライダーとして戦っている彼女──さだめちゃんの様に、俺達に協力してくれると非常に助かるよ」

「……そうすれば、あの子……そのさだめちゃんに会えますか?」

「ああ、一緒に行動する事になると思う」

「じゃあ協力します!」

 

 花恋が食い気味に、ガラスに張り付いて返事をすると、金剛が呆気に取られる。

 

「……めっちゃグイグイ来るやん……どうしてそこまで」

「さだめちゃんが可愛いから、なんか接点持てないかなって」

「言っちゃ悪いが、そんな事で、君はレーマとして協力するってのかい?」

「まぁ、さだめちゃんもそうなんですけど、もう一つ……私も、さだめちゃんみたいにレーマを倒せるかなって」

 

 恋する乙女の顔から、覚悟を決めた闘気溢れる表情へ。

 花恋の面持ちの変化が、金剛に彼女の真意を感じさせる。

 

「天渡会に何かされたんだね」

「……」

「あっごめん! 君の事を詮索する気は無かったんだ! でも…そういう感じのカオしてたから……」

「……そうです、私の家族は……天渡会に……支配されてるんです」

 

 怒りを含んだ花恋の目に、金剛が圧倒される。

 

「もし私がレーマで、特別な力を、ヤツらを倒せる力を持っているなら……この手で天渡会を、レーマを、倒してやりたいです……ッ!」

 

 ガラスを叩いて怒気を押し殺す様に言い放つ花恋に金剛はうなずく。

 

「……分かった、君がこちらに協力出来る様に話を進ませておこう。それと、さだめちゃんと話せる機会も設けよう。今すぐは無理だけどね、戦闘に出ちゃってるから」

「戦ってるんですか? さっき戦ったばっかですよね?」

「ああ、彼女には大変だけど、拒否権が無いんだ」

「そんな、レーマだからですか?」

 

 金剛が首を横に振る。

 

「彼女が死刑囚だからさ」

 

 

「コードネーム・バットレーマと対敵、これより撃破に移ります」

 

 神奈川県厚木市森の里、若宮公園。

 

 コウモリ型の異形、バットレーマが現れたその地に到着したさだめが敵を捕捉しコンフルエンサーを腰に取り付ける。

 

《Confluencer Ready》

 

 続いて小型端末・『イートリッジ』を2個起動、ベルトに装填する。

 

《DEATH》

《STEAM》

 

 テクノ調の音声、変身確認用待機音『レディネスビート』を刻みながらさだめは仮面ライダーとしての形態に変化する為の音声認証用コードを口にする。

 

「変身」

 

 その言葉によりロックが解除されたコンフルエンサーのダイヤルを回す。

 これにより装填されたイートリッジに内包されたレーマ因子が光と化して仮面ライダーの装甲を構成する。

 

《Property Compile……DEATH・STEAM》

 

 変身の完了を知らせるその音声と共に白と灰の戦士が爆誕する。

 

「仮面ライダーカルヴァリア……交戦開始します」

 

 

「──さだめちゃんが、死刑囚?」

「これ以上は君がレーマだと確定して、協力関係というか契約をしてからじゃないと話せない約束だけど、どうせクリアするから話しちゃうか」

「いいんですか!?」

「いいよ、さだめちゃんと年の変わらない女の子が彼女に興味を示してくれるのが俺的には嬉しいし」

 

 金剛と花恋が言葉を交わす裏でカルヴァリアがバットレーマとの戦闘を始める。

 そんな彼女と時を同じくして、金剛はさだめの事を内緒で伝える。

 

「さだめちゃんの家族は天渡会のレーマに殺されてね、その時同時に殺害されたさだめちゃんもレーマに覚醒したんだ、君と同じ様にね。で、その力を使って彼女は、天渡会の支部に乗り込んでその場の構成員を皆殺しにしてしまったんだ。復讐だよ」

 

 

 カルヴァリアがモータルザッパーに掴まり飛翔、空中を自在に舞うバットレーマを追う。

 そしてモータルザッパーを振り上げバットレーマの翼に刃をかすめる。

 

 

「で、天渡会とは言え人を手にかけたさだめちゃんは裁判にて速攻死刑、弁護士はいたのだが十数人の命を奪ったとして裁判官に聞き入れてもらえなかったらしい……きな臭い話だけどね」

「フツーあんな女の子をすぐ死刑にするなんておかしいです! ……!!」

 

 花恋がさだめの死刑について何かを思い出す。

 

「去年ニュースで言ってた18歳の死刑になった人って……!?」

「さだめちゃんだよ、当時は減刑を求めて署名活動も行われていたが、それらの活動をしていた人達もどこかに行っちまったケド」

 

 

「逃げるな……殺人者!!」

 

 カルヴァリアの攻撃がバットレーマの寸前でかわされ、逃走を許してしまう。

 現状の機動力ではバットレーマに追い付けない、そう判断したカルヴァリアがベルトからスチームイートリッジを引き抜く。

 同時にカルヴァリアの姿が最低限の外装のみとなり、出力を低下させる。

 2つのイートリッジをベルトに装填していなければ本領を発揮出来ないカルヴァリアは、モータルザッパーからジェットイートリッジを取り出し、ベルトに装填、ダイヤルを回す。

 

《Property Replace……DEATH・JET》

 

 ベルトに装填されているイートリッジを交換する事で、カルヴァリアは性質を変化させ、形態を変えるのだ。

 

 全身にスラスターを搭載した青いカルヴァリアは、動きを鈍らせる重りになっているモータルザッパーを手放し、一気に推進、空を駆ける。

 その機動力は飛行するバットレーマを凌駕し、一気に追い付くと、上空に回って拳を打ち付ける。

 ジェットの推進力で威力を増したカルヴァリアのパンチはバットレーマを墜落させ、公園の木々に激突させる。

 

「がはァッ!!」

 

 木々に叩き付けられた衝撃で動けなくなっているバットレーマへとカルヴァリアが迫る。

 ベルトのダイヤルを回すと、右足を敵へと突き立て、ジェットの推進力を一方向に注ぐ。

 

《Decisive Boost……DEATH・JET》

 

 カルヴァリアの能力を更なる段階へ解放させた事を知らせるその音声に合わせ、黒い粒子が彼女の装甲に巡る。

 モータルザッパーを持ち上げた時と同様に全身の筋力を高めた状態となり、バットレーマへと飛び蹴りを食らわせる。

 

「手こずらせないでよ」

 

 カルヴァリアの蹴りによってバットレーマを構成していた粒子が飛び散り、爆散する。

 赤い粒子が血の如くカルヴァリアを染め上げるが、すぐに空のイートリッジに回収され、消えていく。

 

「イートリッジ回収完了、戦闘を終了します」

 

 

「とにかく、さだめちゃんは家族を失って、味方もいなくて、孤独なんだ。俺達大人の言葉だけじゃ埋められないほどにその心は傷付いてるだろう。君にはレーマとして戦う以外にも、さだめちゃんの支えになってくれる様に……期待してる」

「……なってみせます、さだめちゃんの心の支え!」

 

──────────────────

 

 東京都千代田区霞が関。

 警視庁対異形成怪物開発班「ユニットD」本部。

 

 バットレーマとの戦闘を終え帰還したさだめが金剛に呼び付けられる。

 

「お疲れさだめちゃん、ちょっといいかい?」

「はい」

 

 金剛に連れられ、さだめが通路を歩いていると、馴染みのある部屋に辿り着く。

 以前自分も入れられていた面会室。

 そこには先刻言葉を交えた少女──花恋が退屈そうに座っていた。が、さだめの顔を見た途端、ガラスに張り付きそうな勢いで近付いて来た。

 

「さだめちゃん!?」

「えっあ……なん、私の名前……」

「さっき俺が教えた、君と仲良くなってもらいたくてね」

「仲良く……?」

 

 金剛が笑顔でうなづくと、花恋に視線を合わせる。

 

「那珂さん、まずは挨拶から明るく行こう」

「はっ、はい! ……那珂 花恋ですっ、那珂でも花恋でもナッカレンでも、好きに呼んでくだしゃい!!」

 

 花恋のふざけた自己紹介に、さだめは口を軽く開いたまま、呆然としていた。

 

「あっ、金剛さんこれスベりましたか?」

「そういう問題では無いと思うYO……」

 

 苦笑いする花恋と金剛を見て、困った様な表情でさだめが呟く。

 

「私は……その人と……仲良く出来ません」

 

 そう告げると、さだめは花恋に深く頭を下げてその場を去る。

 彼女からの言葉に、花恋は一気に脱力してへたり込んでしまった。

 

 

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