仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#31 コンビネーション・アタック

 ユニットDスペース、黒木の休憩室。

 

 ようやくレーマの進行が収まりを見せ、一息つく黒木だったが、来客がドアを叩く。

 

「どなたでしょう」

「信濃です」

 

 先ほどとは別人の様に声色が整ったさだめの声に黒木は不思議そうに戸を開く。

 そこには凛とした表情のさだめが立っていた。

 

「……何があったんですか」

「かつてのネルガルの様に、神の世界へ行って、藤村さんと会いました」

「彼は意識不明のハズ……なぜ彼がそこに……」

 

 息を呑む黒木にさだめは険しい面持ちで状況を説明する。

 

「藤村さんは“インテグラ”と呼ばれる神の性質に比肩する凄まじいレーマとしての能力を身に着けました。だけどその大きすぎる力ゆえにまだ現実世界に戻れないでいる──だから神の性質を持つ私、ネルガルレーマに言葉を託したんです」

「……彼はなんと?」

 

 事態をよく理解できないまま問う黒木を見て、さだめは説明を続ける前に少し笑ってしまう。

 その様子に黒木は怪訝そうに眉をひそめるが、彼女の言葉を最後まで聞く。

 

「その、あなたと、黒木さんと仲良くしろと」

「藤村さん……なんて人だ」

 

 頭を抱える黒木だったが、その苦悩は彼に(あなど)られていると思ったゆえの落胆ではなかった。それは、自分のできない事を平然とやってしまえる彼の天才さ以上の人格性への感嘆であった。

 どれだけ自分がさだめにアピールしたところで関係性の改善は見込めなかった。しかし金剛の一言でさだめの考え方は変わってしまうのだから、彼の人徳と説得力は、黒木には持ち得ないものだと言う他なかった。

 

「きっと私がどんな事をやったとしても、あなたは私を受け入れなかったでしょう。しかし、藤村さんの言葉さえあればあなたは、私を少しでも信頼できるのでしょう」

「恐れながら、その通りだと思います」

「……やっぱり私は、あの人に勝てない」

 

 そう言って自嘲する黒木を見て、さだめは、彼に言いたい事はそれだけじゃない事を思い出す。

 

「藤村さんはあなたの事を悪い人じゃないと言っていました。という事は、藤村さんにそれを言わせるだけの人格をあなたも持っているという事じゃないですか?」

「それは、分かりませんけど」

「私は藤村さんに言われたからあなたを信用するんじゃありません、藤村さんがいう悪い人じゃないあなたに期待しているんです。上から目線の言い方になってしまいますが」

 

 少し前まで(しお)れていたとは思えない彼女の言いぶりに黒木はつい鼻で笑ってしまう。

 あまりにもさだめの語気が強く、自分に対する不遜な態度はまったく気にならなかった。

 

「まぁなんだっていいです、信濃さんがそこまで言える程元気になったのなら私は嬉しい」

「喜んでくれるんですか、黒木さん」

「僕はもうあなたの知ってる冷酷非道な調査官じゃない、現場でヒーコラ息を上げてるユニットDの仮面ライダーです」

 

 黒木が冷凍庫に入っていた冷凍たこ焼きを開ける。

 

「もうあなたの罪を笑わない、これからはあなたの幸せを笑ってやりますから」

 

 その言葉を聞けただけで、さだめとしては充分だった。

 彼は、黒木陽炎は、いい人だ。

 期待が確信に変わった。

 

「信濃さん最近何も食べてないでしょう、たこ焼きがあったのでよければ」

 

──────────────────

 

 熱くなったたこ焼きを冷ましながら、さだめは他に藤村から言われた事を話し始める。

 

「あとは藤村さんは、私を全力で鼓舞してくれました、私は強いんだと」

「それは私も同意します、信濃さんは強い」

「いや戦士としての力量ではなく」

 

 黒木が頬張ったたこ焼きでやけどしかけて呼気を早める。

 

「私は、辛い境遇にも負けない精神的な強さを持っていると藤村さんは言ってくれたんです。だから私は現在の困難にも打ち勝てると」

「藤村さんは今の状況が見えてるんですか?」

「確かに……そんな口ぶりでしたが、おそらく神の世界ですから神の視点で私達に起こっている事も俯瞰できるのでしょう」

 

 ふむふむ、と黒木が咀嚼する。

 

「その言葉と共に、エアレーマに洗脳されている人々は精神力によってそれを克服できるとの考えを示し、私が花恋さんを説得してその助けになるべきだと説いてくれたのです」

「そういえば火島さんはエアへの復讐心で洗脳を解いた、のですよね。理屈を超えている気がしますがそれが那珂さんにも適用できると?」

「私は、信じてます。私の気持ちで花恋さんが帰って来ると」

 

 さだめが念じると彼女の手の平にゾンビちゃんのスイングが砂粒が固まる様にして出現する。

 その様子を見ていた黒木が皿にたこ焼きを落とす。

 

「インテグラは神の世界を通じて私に力を分けているのかも知れません。今のはほとんど無意識でしたが、イートリッジ以外も具現化させられるなんて、驚きですね」

「イヤ本当に驚きなのですが」

「……このスイングは、花恋さんからの私への思い……これがある限り、私と花恋さんは繋がっている。だから、必ず私の思いは花恋さんに伝わります」

 

 と、スイングが粒子となって消えてしまう。

 

「やはり長時間維持するのはイートリッジにならないとまだ無理ですか」

「本物はお部屋に?」

「はい、私とした事が置いてきてしまいましたが……あのスイング、現物があれば、私はもう自分のやりたい事を忘れません」

 

 さだめが微笑むと、たこ焼きを食べ終えて黒木へと視線を向ける。

 

「改めて黒木さん、私も一緒に戦います」

「……若い人に頼む話では無いと思っていましたが……今はあなたの力が頼りです。情けないですが、とても心強いです」

 

 黒木が笑うと、たこ焼きを息で冷ましながら頬張り、平らげる。

 

「火島さんが起きたら、彼にもちゃんと謝らなければ。霧島楓さんの事……本当にひどく言ってしまった」

「私もフォローしますよ、内閣からの指示だったんですよね?」

「それはそうなのですが……きっと私自体のフラストレーション、イライラした気持ちがそうさせてしまった部分もありますから、誰かのせいにはできません」

「なんだか、本当に別人みたいになりましたね」

「……一人で考える時間が多かったからですかね」

 

 その時、警報が鳴り響く。レーマが出現した事を知らせる報であった。

 

「今日からは、一人じゃないですね」

「黒木さん、私敵にコンフルエンサーを奪われているんですけどどう戦えば」

「ついて来てください、千歳さんの所で相談しましょう」

「千歳さん……?」

 

 ユニットD、研究室。

 防衛装備庁庁舎内に簡易的ではあるが設置されたその部屋に、ウェーブのかかった薄桃色のロングヘアをそのままに流している物腰柔らかそうな女性、千歳薫はいた。

 

 黒木とさだめが入室すると、彼らに気付いた千歳ははっとした表情で深く頭を下げた。

 

「ご挨拶が遅れすみませんでした! 防衛装備庁装備開発官、千歳薫です!」

「信濃さだめです……」

 

 気圧されたさだめが名乗ると、彼女の様子を見て千歳が少し驚いた様な表情を見せる。

 

「信濃さん、気を落としていたと聞いていましたが、もう大丈夫なのでしょうか?」

「ええ、なので今回の戦闘に参加しようと」

 

 さだめが回復した事を聞いて、千歳が安堵の深い息をつく。

 

「良かった……信濃さんがこうして元気になってくれて……とっても辛い思いをした事は聞いていたので、心配していました」

「その様にお言葉をいただけるだけで嬉しいです、千歳さん、ありがとうございます」

 

 いえいえ、と恐縮しつつ千歳が机の上に置かれていたコンフルエンサー・アラインをさだめに見せる。

 

「これから信濃さんが戦うにあたっての装備として、火島さんが以前まで使用していたERSを使ってください」

「じゃあ、これは火島さんの……」

「今から新しい装備を作るには時間がなくて、もうすぐ代わりのコンフルエンサーが完成すると思うから、今はそれを使って。イートリッジは確か専用の器具で生成を──」

「大丈夫です」

 

 そういうとさだめはデスイートリッジを手から生み出す。ネルガルイートリッジと同様に、自分と適合する性質のイートリッジなら長時間持っていられる様だ。

 

「何したの今……」

「詳しくは追々……それより千歳さん、ライドシステムの復旧は順調ですか?」

 

 黒木が問うと、自信ありげに千歳がうなずき、2人の装備を整えてから防衛装備庁が入っている防衛省の地下駐車場に向かう。

 

「藤村さんが開発したライドシステムはこちらへ移送し、なんとか使える様に調整しました、マニュアルを見ただけですが」

「それでもありがたいです」

 

 これまでバイクとヘリを代わる代わる利用していた黒木にとっては、こうして時間を短縮してくれる事は願ってもない事であった。

 

「信濃さんのライドゼファーも無傷で残っていたので保管しておきました。一応ライドボレアスも使用できますがどちらがいいでしょうか?」

 

 千歳が問うと、さだめがライドゼファーの車体を撫で、うなずく。

 

「ライドゼファーでお願いします、必要があれば武装としてライドボレアスを呼びます」

 

 準備がようやく完了し、黒木とさだめがレーマのいる地へと向かう。

 

──────────────────

 

 東京都練馬区貫井(ぬくい)一丁目。

 小学校の近い地点にコードネーム・トルネードレーマが出現、子どもらを優先した避難が開始されたがそれよりも早くレーマが小学校を狙って侵攻を開始する。

 そこにさだめと黒木が現れる。

 

「やめろ! 小学生を狙うなんて、宗教にだって子を思う気持ちはあるだろうが!!」

「よしましょう黒木さん。あのレーマに自我は残ってません」

 

《Confluencer Ready》

《DEATH》

 

 コンフルエンサー・アラインを装着しイートリッジを起動させるさだめに合わせ、黒木もジャンクショナーを装着する。

 

《Junctioner Ready》

 

「さだめさん、行きましょう」

「ええ」

 

「変身」

 

 2人の落ち着いた声が唱和し、それぞれの動作を行いその姿を鎧の戦士へと変身させる。

 

《Guardian Ride Sistem……Name is Evelake》

《Alone Punisher……DEATH──Examride》

 

 エヴラックと『テルティウスカルヴァリア』がレーマの前に立ちはだかり、小学校への進路を阻む。

 

 トルネードが腕の鎌を振るって小規模の竜巻を発生させると、エヴラックが体で受けるしか無いと受け身の姿勢を取る。が、簡単に吹き飛ばされてしまう。

 

「竜巻のレーマか……面倒だ、どう攻略する……?」

「屋内に誘い込んで風の方向を読みやすくしてから回避しつつ叩きます」

「簡単に言いますがね!?」

 

 テルティウスカルヴァリアが突撃すると、トルネードレーマがまたも竜巻を発生させる。

 が、そこへテルティウスカルヴァリアが拾っていたゴミを放り投げる。

 竜巻はそれらのゴミを巻き込み、可視化される。

 

(舞っている草木や塵の範囲や大きさを見る限り、竜巻の規模自体は大きくない……ちょうどジャンプしてかわせる位……なんら問題はない!)

 

《Arms Transfer》

《Mortalzapper》

 

 モータルザッパーを取り出したテルティウスカルヴァリアが跳躍と共に体重を乗せてトルネードレーマを斬りつける。その威力に大きなダメージを食らったトルネードレーマは撤退を選んだのか住宅街を走り出す。

 

「今です黒木さん、ヤツを屋内へ!」

「屋内ってどう誘導するんですか!?」

「……こうです!」

 

 カルヴァリアがトルネードレーマの後頭部を掴んで近くにあったスーパーマーケットの入り口を粉砕しながら店内にぶち込んでしまった。

 

「何やってんのォーッ!?」

「人家に被害が出るくらいなら店舗の方が都合つくので」

 

 豪快すぎるテルティウスカルヴァリアのやり方に驚嘆するエヴラックであったが、とにかくレーマを撃破する事を優先し、自身も割れた店内ウインドウを踏みしめながら進む。

 戦意を取り戻したトルネードレーマが竜巻を発生させるが、巻き込まれた商品の様子から簡単に位置を認知され、容易く回避したテルティウスカルヴァリアのモータルザッパーとエヴラックの拳が見舞われる。

 

「今のはナイスコンビネーションでした、信濃さん」

「次もこの調子でお願いします」

 

《Tertium Decisive……DEATH》

《Push in to Evelake》

 

 2人がお互いの動きを読みながら呼吸を整え、足を踏み込む。

 

「はあああああ!!」

 

 刃と鉄拳が、弱ったトルネードレーマを爆散させる。

 最後に敵から噴出した竜巻の応酬が辺りの陳列を崩壊させるが、ライダーらの体勢を崩す事は叶わなかった。

 

「イートリッジ回収完了、戦闘を終了します」

 

 指揮室に連絡を入れると、位置情報が送信されてきた。

 

「そちらに送信した位置でバイクと共に待機していてください。帰還用のゲートをお出しします」

 

 首を傾げる黒木だったが、さだめが率先してその地点へ向かう。

 そこには駐車場にあったものと同じゲートが設置されていた。

 

「移動用のゲートをライドシステムでそちらへ転送して、施設に戻れる様にしました」

「これでいちいち時間をかけて戻る手間が省けますね」

 

 ようやく疲れる移動から解放されると黒木が安心する。

 それを見てさだめが微笑む。

 

「帰りましょう、黒木さん」

 

 それを聞いて黒木も微笑み、2人はゲートを抜けて防衛装備庁へと帰還した。

 

──────────────────

 

「さだめちゃん……あぁン、さだめッちゃ──」

「穣司」

 

 ベルゼノの部屋をノックする音に、布団の中にいた彼女は不機嫌そうにドアを開ける。

 

「ちょっと私忙しいんだけど……って、アンデッドじゃん。何様(なにさま)のつもりで私の部屋に来たの」

「穣司ご自身から侍女(じじょ)の様にしろと召し使っているので……えっと、それで用件なんですけど、シャドー様が聞きたい事があると」

「シャドーも直接来なよ……いや、彼女の事だから僕が毛嫌いしてるアンデッドに任せたのか。本当にいい子だね」

 

 ちょっと待っててよ、と吐き捨てると、ベルゼノは少し支度してから部屋を出る。

 

「どうせGRSってヤツの開発についてでしょう、確かにもう少し進めておきたいものだからね」

「参りましょ、穣司」

「あなたが仕切らないでよ」

 

 ベルゼノがアンデッド──花恋の後頭部を殴ると、彼女は少し困ったような笑いを浮かべ、歩いていく。

 

 

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