天渡会本部、穣司室。
ベルゼノの自室とは別に設けられた、穣司として業務する為の部屋。
一般的には祈りに使う道具や資料類を置いておくスペースには、所狭しと工具や古い書物が敷き詰められており、机には、ジャンクショナーを中心にして様々な器具が散らばっている。
が、ベルゼノはそれらに目もくれずジャンクショナーに触れ、器具らと同時に一瞬で霧散させてみせた。
彼女が引き起こしたその現象は、奇跡、あるいは魔法といった様相であった。しかし、実際には違う。
「理解と、分解と、再構築……衰えは無いみたいだね」
瞬間、ジャンクショナーが元通りに生成され、ベルゼノがそれを手に取る。一緒に置かれていた器具らは再生せず、机は綺麗に片付いてしまった。
その様子を
「この装置の完成図は頭に叩き込めた、あとは量産体制に入ってもらうくらいかな」
あくびをかいたベルゼノが、部屋に残されていたさだめのコンフルエンサーを見つめる。
(これがあれば神殺しの力を同時使用して……私の悲願を果たせる)
と、穣司室のドアが叩かれる。
あまり人に呼ばれるのが好きではないベルゼノだったが、自分が現状忙しい身分である事を思うと、ため息をついて応答する。
「どなた?」
「シャドーです」
無言でドアを開けてシャドーを招くと、資料とPCを持った彼女が片付いた机にそれらを置く。
「以前私が手配した器具類は?」
「捨てたよ」
「何故ですか?」
眉をひそめるシャドーを見てベルゼノが笑う。
「それであなたが来たのはアレかな、これの実用試験ってトコ?」
ベルゼノが完成したばかりのジャンクショナーを見せびらかすと、シャドーがゆっくりとうなずく。
「アンデッド」
「はいはい、呼ばれて飛び出てアンデッド。穣司からお声をかけてくださるなんて珍しいですね」
「うん、あなたには死んでもらいたくて」
「はあ」
ベルゼノからの注文がよく理解できず、空返事をする花恋を見て、シャドーが目を細める。
天渡会本部、実験室。
レーマの運用試験や導師による“同調”が行われるその場にベルゼノ、花恋、シャドーが移動した。
「彼女を使うのですか」
「心置きなくサンドバッグできる相手なんてコイツしかいないからね、あぁ、あとシャドーが変身してよ」
「いえ、ここは穣司が」
一歩下がるシャドーを見てベルゼノは不服そうにジャンクショナーを装着する。
《Junctioner・B Ready》
「シャドーは見る専ってコトね、はいはい。じゃあしょうがない……『
「仮面ライダーと戦うっての、あんまり気乗りしないスけどしょーがない!」
花恋がアンデッドレーマに変貌し、腕を前方に構えて戦闘態勢を取る。
「それでは……と。さだめちゃんはこう言っていたね──変身」
《Guardian Ride Sistem……Name is Gregarious》
その変身音と共にベルゼノの体が装甲に覆われ、漆黒のエヴラックとなり、黄色いラインが体に入る。
群生相という言葉に相応しく、群れて攻撃的になったバッタが如き黒い体から威圧感を放つ。
「アンデッド、私に鬱憤溜まってたりする?」
「……ちょっと」
「今回は目をつむるから本気で打ち込んできてよ、ボコボコにしてくれていいよ──」
瞬間、アンデッドレーマの拳がグレガリアスの頬に直撃し、吹き飛ばす。
「こういう事ですか?」
「……シャドー、装甲の耐久値は計測してる?」
「はい、損傷軽微です」
それを聞いたグレガリアスが起き上がり、大きく息を吐く。
「言っとくけど、反撃しないとは言ってないよ」
アンデッドレーマがグレガリアスの背後に回る。後頭部へ再びパンチを食らわせようとするものの、寸前でグレガリアスがかわし、アンデッドのがら空きになった脇腹に入り込み、拳を握って出っ張った、指の付け根にある関節部分で殴りつける。
「げボッ!」
「あー痛い殴り方だよこれは、痛いよね、そりゃ痛い」
まるで他人事の様に言ってみせたグレガリアスがシャドーに視線を移す。
「さっきの動き、自動回避働いたよね、レベルは?」
「自立行動レベル3です」
「オーケー、量産時はそれをデフォにして、実戦で検証しつつレベルは調整していって」
「承知いたしました」
シャドーがタブレット端末で情報を保存していくのを見て、グレガリアスは戦闘を継続する。
「アレで終わりじゃないよね、アンデッド」
「はい、もう治りましたし」
グレガリアスが全力のキックでアンデッドレーマの足をへし折る。
「生意気だよアンデッド、そこで悶えててよ」
「っ〜〜〜!!」
苦悶するアンデッドレーマの声にシャドーとグレガリアスが声を出して笑う。が、すぐに彼女は復活し、立ち上がる。
「あーいてて」
アンデッドレーマがしゃがんでグレガリアスの視界から外れると、足を引っ張って体勢を崩す。隙が生まれたグレガリアスの腹部にアンデッドの肘が入ると、流石に効いたのかグレガリアスがうずくまる。
「穣司、嘘つくのやめてくださーい」
「バレる?」
「手応え無いのは気付きますよ」
アンデッドレーマが横たわったままのグレガリアスに飛び蹴りを与えようと跳躍するが、グレガリアスは転がりながら蹴撃の軌道上から外れて、着地するアンデッドを待ち構える。
予想通り飛び蹴りが空振りに終わり地面に足をつけたアンデッドを、グレガリアスが蹴りつけると、簡単に転ばされて地面に手までつけてしまう。
「ガラ空き!」
グレガリアスがアンデッドの顔面を殴打すると、痛みでさらなる隙を与えてしまい、追撃を許してしまう。
エヴラックと同様に人工筋肉が内包されているグレガリアスの攻撃はレーマに対してもきわめて有効である事が証明された。それが尋常ならざる身体能力を持ったベルゼノが纏っているという部分を除いてもである。
視界を奪われたアンデッドは反撃する事もできないままグレガリアスに全身を破壊されていく。
「うん、元のGRSとかいうアレは防御性と機動力に割り振ってたけど、
「穣司、量産に足る能力の検証は十分です、これだけの性能があれば一般人でもユニットDに対抗しうると証明できました」
「あ、そう?」
アンデッドレーマの血に塗れたグレガリアスは嬉々として立ち上がり、肉塊になり果てたアンデッドの首を折ると、シャドーの元へ駆け寄り変身を解除する。
「結局私がグレガリアスの検証をしちゃったけど、参考になったのかな?」
「前もって計測していた穣司の身体能力を差し引いてもグレガリアスは洗練された装備であると言えます、問題ありません」
それにしても、とシャドーが動かなくなったアンデッドを見る。
「気分を害したかな?」
「いえ、とっても良いモノを見れました……」
恍惚の笑みを浮かべるシャドーにベルゼノが顔をしかめる。
「あなたならそう言うと思ったけど、やっぱ悪趣味だね」
「ホントですよー、もちょっと心配してくれもいいかなーって、ナッカレン思います」
息を吹き返した花恋が平然と話に交わると、シャドーが絶句する。
「アンデッド……あんなに回復が早かったという記録はなかったはず……」
「ははは、成長してるってコトじゃない?」
「放置してよろしいのですか? 脳細胞の復活で同調が失われる可能性もありますよ」
「別に彼女ひとりくらい脅威にならないからいいよ、それよりも天渡会にとって有用であればその方がいいからね。だから彼女自身の強化は嬉しいくらい」
そうですか、と眉間にしわを寄せながらシャドーがつぶやくが、その様子をベルゼノは気にも留めず、全快して合流した花恋の頬を何気なくひっ叩く。
「穣司、その様にアンデッドへきつい当たり方をしていると反目される可能性があるのでは?」
「その可能性を心配するより先に勝っちゃうんだよ」
何が? とシャドーが問うと、ベルゼノがその表情を曇らせる。
「こんなちんちくりんがさだめちゃんと仲良くしてたなんていう気持ち悪さがね、
いつもは見せないベルゼノの雰囲気にシャドーが息を呑むが、あっという間に元の笑顔に戻ったベルゼノが花恋の首を掴んで連れ歩く。
「私は休むとするよ、疲れた」
「疲れた……ですか」
信じられないという顔のシャドーにベルゼノは笑ってしまう。
「そうだね、嘘嘘、疲れた訳ないね。でも休憩は必要だよ、考えなくちゃいけない事だってあるし」
「……かしこまりました、出過ぎた言葉でした」
「いいよ、シャドーも休んでね」
そう言ってそれぞれ持ち場に戻る。
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「さてと、アンデッド……君には見ててもらおうかな」
穣司室に戻ったベルゼノは、机に金属のガラクタを敷き詰め、その山の頂点にさだめから奪ったコンフルエンサーを置く。
「さだめちゃんから預かった物をいじるのは気が引けるけど、私色に染めるってのもオツかな」
「これでさらに人々を神世界に導けるなら最高ですね!」
「うっせえなあ……、ま、あなたに言わせればそういう事になるのかな」
ベルゼノはそう言って笑うと、何者かの右手をガラクタの山に投げ置き、ガラクタで左腕の手首を切り、血を流していく。
流血したままその血をコンフルエンサーに注ぐと、静かに笑う。
「さだめちゃん、あなたの大切なモノが私のモノになるの……ごめんだけど、気持ちがいいの」
机の上に散乱したガラクタとコンフルエンサーが輝くと、粒子となって、新たな物体へと変化して光が収まる。
手首の傷を撫でて治癒させたベルゼノがそれを見てうなずく。
そこには金色のコンフルエンサーと、2つのイートリッジが置かれていた。
「分かる? 何が起きたか」
「いえ全然」
「だろうね、初めて見せるし。これは“錬金術”だよ」
ベルゼノが金のコンフルエンサーに触れると、大きく息をつく。
「錬金術ってあの物質を変換して金にするという太古の学問ですか?」
「そう、それ。あれできるんだよね私」
「──つまり錬金術師ですか」
「は、まぁそうなるよね」
微笑むベルゼノが金のコンフルエンサーを花恋に見せびらかす。
「この金色だって本物の金なんだよ?」
「それにしてはリソース……金と変換する金属がいささか、少ない様な気がしますけど」
「アンデッドあなた結構頭いいよね、ムカつく。物質が足りない事に気付くのは凄いけどさ……でも」
花恋が自分の息が荒くなっている事に気付き、ベルゼノを見る。それを察してか彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「見えない所にリソースがあるんだよ、この世界はさ」
ベルゼノが金のコンフルエンサーを腰に巻き、2つのイートリッジを装填、ダイヤルを回転させる。
「この世にはみんなが知らないヒミツがあるんだ、でも私は知ってる。だからやらなきゃいけないコトがある」
凄まじい覇気を放つその戦士はそう呟くと、何かを口漏らす。
「Mata a Dios.」
「はい?」
「なんでもないよ……これで準備は整った、近い内さだめちゃんにお披露目といこうか」
「ですね、穣司!」
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「──以上が今回の検証の結果です」
「分かった、ありがとうシャドー」
グレガリアスの性能テストで得られたデータを導師に報告したシャドーは、彼の承諾を得て量産を開始する事を決定する。
その為にレーマによる侵攻と共に各地から回収していた廃材や貴金属を用いてのグレガリアス生産体制が確立された。
来たるユニットDとの戦いを前にして、非レーマの構成員らも戦線に出して数で圧倒してみせるという算段であった。
一方でプロフェットによる予言は天渡会にとって芳しくない結果をきざしていた。
“霜月の二日、天渡会は終焉する”と。
それを聞いた導師は少し押し黙ってから、その日まで人類の神世界到達を目指す事を誓った。
世界を揺るがす組織の終焉が報じられると共に、皮肉にも世界の寿命を縮めてしまったのだ。
群生相型仮面ライダーグレガリアスの量産完了を待たずして、世界は天渡会に、レーマに侵され尽くす危機に瀕したのだ。
だが、世界はこのまま終わる訳ではない。
「エヴラック部隊、着装!」
隊長と思しき男性の号令と共に仮面ライダーエヴラックで構成された15人ほどの部隊が目の前にある銃器を取る。
全員が装備を確認終了すると、それらを新型バイクに搭載し、各々搭乗する。
「『ライドノトス』、武装完了。これより転送を開始します」
オペレーターが告げると、エヴラックらがその場から消え、各地指定された場所へと転送されていく。
仮面ライダーは秘匿された特殊武装隊ではなく、防衛相直属の対レーマ用防衛兵士として国家の垣根を越え派遣される様になったのだ。
「仮面ライダーの名も通る様になってきてしまいましたね」
「はい、正直内密に動けた方がしがらみが無かった印象がありますが、今の私達の立場からすれば何も変わりは無い、ですね」
黒木とさだめが話し合っていると、またも強力なレーマ出現の知らせが入る。
「黒木さん、戦いは慣れましたか?」
「まさか、いつだって死に物狂いですよ。本当に最悪だ」
2人が微笑んで専用バイク、『ライドエウロス』にまたがり、駐車場から飛び出すと、走行しながら粒子となって瞬間移動する。
彼女らが気付くとそこは巨大なレーマによって破壊された都市であった。
「あー最悪な光景だ」
「いきましょう黒木さん」
さだめに促されて嫌々黒木がうなずくと、腰に巻かれたベルトを操作する。
「廻纏」
「変身」
巨人のレーマを前に立ったテルティウスカルヴァリアとエヴラックが、敵を見据える。