仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#33 新たな指揮官

「それで、彼女ら2人でタイタンレーマの撃破に成功、と……」

 

 報告書の確認を終えた女性──大淀或羽指揮官が呟くと、机を挟んだ先で立っている千歳に視線を移して再び口を開いた。

 

「信濃さだめ君と黒木陽炎君を呼んでくれないかしら。結局挨拶もできないままだったし」

「はい……今応答できるかによりますが」

 

 千歳が内線を繋ぐと、ちょうど黒木が応答した。

 或羽の申し出を伝えると、すぐに来れると返答があり、千歳が顔をほころばせながら内線を切る。

 

「ただいまいらっしゃるとの事です」

「ラッキーだったわね、彼ら忙しいって聞くから」

 

 しばらくすると、連絡通り黒木とさだめが執務室に到着した。

 が、黒木の姿を見て千歳と或羽は吹き出す。

 

「何その恰好は!?」

「猫耳カチューシャです」

 

 そう告げると黒木が頭に付けられたそれをすぐさま外す。

 

「……先に理由を述べさせていただくと、信濃さんを笑わせようと」

「最近笑う事が少なくなったという話を切り出したのは私です、責任は私にあります」

 

 黒木の弁明にさだめが言葉を付け足すと、或羽はあはは、と軽く笑い流す。

 

「構わないわ、戦士の休息といった所ね」

 

 一通り笑って水を飲みこむ或羽の姿は、亡くなった大淀指揮官の姿にとても似ていて、さだめは複雑な心境にさいなまれていた。

 

「お……指揮官は、かつてユニットDの指揮を執っていた──」

「大淀頑真の姉よ、似ていると良く言われるわ」

 

 押し黙るさだめを見て、或羽はあぁ、と口漏らす。

 

「信濃君は頑真と仲良かったみたいね、心中察するに余りあるわ」

 

 表情を曇らせる或羽をまっすぐ見つめ、さだめは気丈に振る舞い言葉を放つ。

 

「私の大切な人が、もっとユニットDの人と話した方がいいと背中を押してくれたんです。だから大淀頑真指揮官と話ができました。結果、それは私にとって大切な経験となり、重要な情報を──私の家族が眠る場所を、教えてもらえたんです」

「……それは良かったわ」

 

 或羽が目を細めて微笑むと、妹の事を懐かしく思う。

 

「私達きょうだいは、それぞれ組織の長としての立場を持っている。それぞれ大切な仕事だわ……でも、一番自分の仕事に誇りと愛情を持っていたのは頑真だったわね」

「あの方には、何度も、きっと私の目に見えない場所においても、ずっと助けられてきました。その誇りと愛情……今なら確かに感じられます」

 

 さだめが頑真の温もりを思い出して笑む。その顔を見て或羽は自分の妹が良い仕事をしていたのだと、改めて実感した。

 一方、同席していた黒木は、頑真が指揮官としてさだめを守ってくれていた事に反して自分はただ険悪な人間であった事を思い出し、恥じて自省する。

 

(大淀指揮官が人の心を、信濃さんの心を慈しんでいたというのに、その間私は……本当に何を)

 

「それで指揮官──」

「あと私の事は或羽さんでいいから」

 

 フランクに接する或羽の言葉は、かつて彼女のきょうだいである米太から言われた事に酷似していてさだめは思わず口角を上げる。その様子を見て或羽はしっかり笑ってくれたよ、と楽しそうに言ってみせると、猫耳をつけてまでさだめを笑わせようとしていた黒木を煽る。

 と、さだめが口を開く。

 

「……或羽指揮官とさせてください」

「そう? まぁいいわ、区別さえできれば好きに呼んで。黒木君も、或羽さんで構わないわ。分かりづらいでしょ」

「恐れながら、下のお名前……或羽指揮官で」

「君も指揮官付けるのね、いいわ。君ら元ユニットDメンバーにとって大淀指揮官は一人でいいのよ」

 

「では私は或羽さんと呼んでもよろしいでしょうか?」

 

 その場に残っていた千歳が自分を指差しながら問うと、或羽が苦笑いする。

 突飛な光景を前に、さだめと黒木が目を丸くする。

 

「千歳君はね、ちょっとこう、ズケズケ来る感じもあるのよ」

(悪い人では無いと思うんだけどな……)

 

 さだめが心の中でフォローしつつ、恥ずかしそうに笑う千歳を前に、或羽はいいわよ、と言う他なかった。

 

「ええっ、ありがとうございます或羽さん……私も前からお近付きになりたいと思ってて……」

「一応は防衛装備庁の長官と開発官である関係性は変わらないからね?」

「はい……」

 

 微笑みながら返事をした千歳は少し周囲を見回した後、安堵の息をついた。

 

「挨拶はこんな感じでいいでしょう、と言っても挨拶が本題だったのだけれど、もう一つ伝えておくわね」

「はい」

 

 さだめと黒木の声が重なる。

 

「先のタイタンレーマをはじめとして、現在世界中で発生しているレーマ被害、それを食い止める為に最も力になっているのがあなた達よ、ユニットD指揮官として、感謝申し上げるわ」

 

 席から立って深く頭を下げる或羽に黒木とさだめが困惑する。

 

「あなた達の功績は世界中に伝わり、黒木君の装着していたエヴラックが各国で量産される運びになったわ、もちろん他国への侵略や他国からの防衛で使用しない条件付きでね。要は対レーマ専用の兵器として運用されるわ」

「それだけレーマの侵攻は勢いを増しているという訳ですか」

 

 黒木が問うと、或羽が強くうなずく。

 

「ユニットDが攻撃され、大きな被害が出た事は本当に心苦しい事態ではあるけど、管轄(かんかつ)が警視庁から防衛省に移り、できる事が増えたわ」

「エヴラックの量産だけではなく?」

「信濃君いいトコ突くね。そうよ、戦闘要員を増員する事は戦力増強としては重要だけど、タイタンレーマの様にエヴラックではいくらいても太刀打ちできない様な敵が現れた時、必要なのは数より──」

「──質」

 

 さだめが返すと、或羽の口角が上がる。

 見るからに或羽からの評価が上がったさだめを見て黒木も少し頬を緩める。

 

「ビンゴよ信濃君、エヴラックという数に勝る質が必要なのよ、天渡会に幹部がいる以上確実にね」

「ではその為に私達が質の部分を担うと」

「黒木君もビンゴ、今最も強力な要員をさらに強くする為の装備が大事になってくるのよ」

「私のエヴラックや信濃さんのカルヴァリアを強化する……という事ですか」

 

 そうそう、と或羽が相槌を打つと、千歳から資料を受け取る。

 

「開発は進行中なのだけれど、仮面ライダーカルヴァリアとエヴラックの強化案よ」

「コンフルエンサーは修復が完了したのでテルティウスではなく仮面ライダーカルヴァリアとしての強化案を用意しました……といっても原案は藤村博士なのですが」

 

 千歳が補足し、さだめの理解が進む。

 

「なるほど……推進力の外付けによる強化、これはPRSで採用しないと有効では無いですね」

「そう、レーマの能力を基準にしないといくら早くても体が耐えられなくて意味が無いから」

 

 さだめが資料をもう少しめくろうとすると、千歳が止める。

 

「こっちは……今の信濃さんには危険なので開発を止めてます」

「危険であっても強化に繋がるのなら」

「さだめさん、それであなたが傷付き、回復に時間を要した場合、誰も立て直せないんですよ、現状」

 

 資料をめくって他の案を知ろうとするさだめを、黒木がたしなめる。

 

「ま、まぁこの案っていうのが、人工筋肉の追加案なんですけど、カルヴァリアの速度を落としてしまう可能性が著しく高く、今敵の元に那珂さん、ヴィヴレと彼女と戦っていたコードネーム・プロングホーンレーマがいる事を考えると、不利になる恐れがあるんです」

「速度には速度で対応せざるを得ない……でも攻撃力があれば防御にも──」

「ヴィヴレとプロングホーンがいっぺんに迫ってきたら防御とか言ってられないですよ」

 

 再び黒木からの指摘を受けて、さだめが納得して資料を閉じる。

 

「えっと、話を戻しますね。エヴラックの強化案なのですが、こちらは量産化を度外視したものになるのですが、先日開発に成功した対レーマ弾の技術を応用したミサイルや荷電粒子砲を搭載した遠距離支援型武装パックです」

「……エヴラックを包む様に装備が囲んでいる」

 

 設計図に描かれた威圧感のある姿を見て黒木が息を吞む。

 

「ジェットエンジンの複数採用で空戦も可能になる様に開発しており、機動力もそれなりにありますが、近距離に敵が接近した場合は離脱する他なくなるので運用にクセはあります。いけますか、黒木さん?」

「私、ですか? エヴラックに接続できるなら私でなくても日本中にいる隊員の方々にお任せした方が強力だと思うのですが」

 

 戸惑う黒木に、或羽が物申す。

 

「君には経験があるわ、それに他の人員との連携行動も目を見張るものがある。加えて君には高い生存性があり、これまでのレーマとの連戦においても、並の隊員とは一線を画す損傷の少なさと帰還率も見られていて、ワンオフ品を任せるには丁度いい人員なのよ」

「丁度いい、ですか……」

 

 黒木が怪訝な顔を見せるが、その様に扱われてもいい人材である事は自覚しているので、すぐに納得した。

 

「丁度いいってのは語弊があったわね、黒木君。あなたにしかできない仕事って事よ」

「私にしか、できない……」

 

 自分が必要とされている事を、唯一性を説かれている事を知って、黒木は複雑な気持ちになる。

 

(今の私は……藤村金剛に、並べるだろうか)

 

 

 警報が鳴る。またもレーマが出現したのだ。

 

「君らは強力な戦闘員として、これからさらに強いレーマが出現するまで待っててね」

「了解しました」

 

 或羽の指令に従い、さだめと黒木が待機する。

 

「先日まで現場に出ずっぱりだった身としては、この時間が歯がゆいです。自分が何もできないと思うと──」

 

 或羽の元に連絡が入る。指揮官室からの入電であった。

 報告を一通り聞いて通信が切れると、或羽がさだめと黒木に視線を移す。

 

「君らの出番よ、レーザーと思われる光を射出するレーマが現れエヴラック部隊でも手に負えないらしいの」

「すぐに向かいます」

 

 黒木が言い放つと、さだめ、千歳と共に執務室から離れて準備を開始する。

 

「こんな事なら待機中に準備をしておくべきだったか……」

「大丈夫です、すぐに済ませるので」

 

 そう言いつつ研究室に着いた千歳は机に置かれていたアタッシュケースをさだめに手渡す。

 さだめがケースを開くと、コンフルエンサーが収納されていた。

 

「……ありがとうございます」

「申し訳ないのですけど黒木さんにお渡しできる装備は今はなく、支給はこれのみです」

 

 黒木とさだめがうなずくと、地下駐車場へと走る。

 

「黒木さん、相手はレーザーを使うとの事なので、できるだけ身軽な装備にしてください……回避が間に合わなければ致命的です」

「分かっています、相手の息切れを待ちつつこちらの攻撃をぶつけてやりたいですね」

「同感です」

 

 ライドエウロスに搭乗した2人が戦場へ転送されていく。

 

 

 オーストリア、ウィーン、1区インネレシュタット。

 国会議事堂前。

 

 歴史的建造物の多く残る荘厳な都市を壊す怪物の前にさだめと黒木が出現する。

 

《Confluencer Ready》

《Junctioner Ready》

 

 コードネーム・レーザーレーマが光線を2人へと放つが、バリアによって防御される。

 光線を物ともせずに、2人が自分達の到着を知らせる様に声高に叫んだ。

 

《DEATH》

《STEAM》

 

「変身!」

 

《Property Compile……DEATH・STEAM》

《Guardian Ride System……Name is Evelake》

 

 それぞれの戦士が変身を完了し、再発射される光線を回避する。

 

「レーザーの照射速度は結構早めですね」

「ちゃんとよけてくださいよ黒木さん」

「手厳しいな……!」

 

 さらなる光線をかわしてエヴラックが膝をつく。

 

(頑張るけれど、エヴラックの性能では回避が限界……相手の間合いには入れないぞ)

 

 エヴラックが左腰に装着していた対レーマ用ハンドガンをレーザーレーマに当てる。

 ダメージは入るが、精々足止めにしかならない程度であった。

 

「息を合わせましょう信濃さん! 次にレーザーが止んだ時、私が気を引くのでその隙に重たい攻撃を!」

「じゃあ陽動お願いします!」

 

 またも光線が放たれ、慌ててカルヴァリア、エヴラックが回避する。

 が、光線がエヴラックの左腕をかすめ、傷を負ってしまう。

 

「がッ!!」

「黒木さん!」

 

 カルヴァリアが駆け寄ると、エヴラックが右手を上げて来ない様に伝える。

 

「構わないで……右手だろうと銃は撃てます」

「まさか利き手が……!」

 

 2人が話している間にも光線は発射される。

 手傷に気を取られ、光線の照射タイミングを見計らえなかった2人が斜線上に入る。

 今度こそ防御できない。

 

「……!!」

 

 レーザーの攻撃が体を焼き切ると覚悟した2人だったが、そうはならなかった。

 

「……ベルトしてる時のバリアほんとスゲーな」

 

 聞き覚えのある声、後ろ姿に2人は息を呑む。

 

「2人とも考えすぎてないすか? そーいうトコあると思うんすけど」

 

 飄々(ひょうひょう)と軽口を叩く、ライドエウロスに乗った人物はコンフルエンサー・アラインを装着してイートリッジを起動させる。

 

《Confluencer allein》

 

「Burn」

 

「いくぜ……廻纏ッ!!」

 

《Alone Punisher……Burn──Examride》

 

 

 バイクから降りた戦士──テルティウスバーンがレーザーレーマを睨みながら手を打ち鳴らす。

 

「火島勇太郎……リターン!!」

 

 

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