東京都港区虎ノ門。
ベルゼノとの戦闘で深手を負った勇太郎が搬送されたその場所にて、緊急手術が行われ、加えての入院措置が取られた。
2週間ほどの昏睡を経て、その日、勇太郎は目を覚ました。
意識を取り戻した瞬間に彼は一言、その場に偶然居合わせた看護師に問うた。
「今、レーマが暴れている所はねぇか!?」
彼の意識回復を知った或羽は苦戦を強いられているウィーンに投入する事を決定、勇太郎もそれを快諾し、あらかじめ造られていたライドエウロスを使い、カルヴァリアらの元へ向かったのだった。
勇太郎の目覚めから出動まで、おおよそ30分の出来事であった。
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レーザーレーマの性質を聞いていたテルティウスバーンは、光線を華麗にかわしながらカルヴァリアに言葉を送る。
「信濃さん! スチームを使って蒸気をできるだけ“濃く”、濃くだ! 前が見えないくらい濃く噴くんだ……そうすりゃレーザーは遮蔽されて無効化できる!」
「! それを使えば隙を作れる……!」
「そこの、黒木さん! 利き手かないんだろ!? 大人しく見てろ!」
指示を受けたエヴラックは奥歯を噛み締めながら食い下がる。
「右手でも撃てます!」
「言ってないでさ!!」
光線がテルティウスバーン、エヴラックの前に迫り、思わずテルティウスバーンがエヴラックを蹴り飛ばして回避させる。
「そのダメージで動きも鈍ってる! いくら自分で戦えて嬉しいからって分は弁えてくれ!」
「……っ」
テルティウスバーン──勇太郎は、エヴラック──黒木の事を好いていなかった。そのわだかまりが残ったままここに来て、不和を起こしている事に気付いた黒木は自分のかつての非道さと鈍さを憎む。
「……すみませんでした、ここは下がります」
「すみませんだァ……?」
頭に血を昇らせるテルティウスバーンだったが、またも光線が放たれる。
問答に気を取られて回避が遅れた2人の前にカルヴァリアが立ち、大量の蒸気を発生させて光線の威力を装甲が傷付かない程度まで落とす。
「言い合っている場合じゃありません、火島さん、ここは私達でやるしかないのでしょう!?」
「あ、あぁ、すまねぇ」
テルティウスバーンがエヴラックを
「行くぜオラァ!!」
テルティウスバーンが腕から炎を吹き出し、レーザーレーマを牽制し、光線を照射する暇を与えない。
「今だ信濃さん!」
炎に阻まれてレーザーレーマが行動できない内にカルヴァリアがモータルザッパーを出現させ、思い切り握る。
《Arms Transfer》
《Mortalzapper》
「はあああああっ!」
カルヴァリアの攻撃を通す為に炎が止まり、その瞬間を見計らってレーザーレーマが光線を放とうとする。
が、蒸気が一気に噴射され、光線を遮断する。
蒸気を払うレーザーレーマだが、その水のカーテンの中で音声が聞こえる。
《TITAN》
《Set Import……TITAN》
《Mortal Slash……TITAN》
蒸気が薄くなってくると、レーザーレーマの目の前で巨大化したモータルザッパーが振るわれていた。
鈍重な一撃がレーザーレーマを
「イートリッジ回収完了、戦闘を終了します」
さだめが指揮室にそう告げて変身解除すると、一部を破壊された建造物と、レーザーにやられて重傷、あるいは犠牲になった人々を見る。
「……間に合わなかった」
「これからの開発が進めばもっと死傷者を減らせるはずです。凶悪なレーマを倒せたのですから気を落とさない様にしましょう」
変身解除した黒木が腕を抑えながら伝えると、さだめが黙ってうなずく。
と、勇太郎が黒木に突っかかる。
「黒木さん、アンタいつからそんなキャラになった? 死刑の事を止めもしなかった癖に信濃さんと仲良しごっこスか?」
「火島さん!」
さだめがたしなめようとするが、黒木が止める。
「私は人から何を言われても仕方のない事をしました。彼からの言葉も全て受け止めます」
黒木の言葉は、かつて自身の罪に潰されそうになっていたさだめを想起させ、彼女は心に引っかかるものができた。
「火島さんと黒木さんが話せる機会を作りましょう、もちろん私も交えて。そうと決まれば早く戻りましょう」
さだめが言い切るとライドエウロスにまたがる。
黒木もそれに続こうとした時、この地域で戦っていたオーストリア連邦軍の軍人が駆け寄ってきた。
「
「
軍人が黒木に握手を求める、少し困惑しながら黒木はそれに応える。
「
「
結んだ手を振る軍人に、黒木はぎこちない笑みを返すと、別れを告げてライドエウロスに乗る。その始終を見ていた勇太郎が複雑な面持ちで帰還する。
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ユニットDに戻り、3人は気まずい空気を漂わせながら談話室の席についた。
「話をするったって信濃さん、黒木さんと何を話せば?」
「まずは黒木さんの事を話します、火島さんはどうか落ち着いて聞いていてください」
「と言うか火島さんは昏睡していてユニットDに起こった事すら把握していないのでは……」
黒木の指摘に勇太郎がうなずく。
「そこは同意だ、なんも知らねぇんでそこも説明をお願いしたい」
「分かりました、辛い事ですが、話をややこしくしない為に私が説明します」
意を決したさだめが、6月6日の惨劇について詳細に伝えた。
花恋と正義の消失。大淀の死去。金剛の昏睡。そしてさだめの衰弱。
それらの状況下においても出現するレーマに対抗する為、黒木が一人で戦っていた事も併せて説明した。
「──大淀さんが、な……」
「正直、深く消えない傷を付けられた気分です。あの人と、もっと話したかった。もっとあの人の事を知りたかった……」
「私が不甲斐ないから、こんな事になったんです。大淀指揮官は私の眼前にいたというのに、守れなかった、かばえなかった」
勇太郎が鬼の形相で立ち上がる。
「そうかアンタが守れなかったのか! あれだけ大口叩いていたのに、大淀さんを死なせて……だから手のひら返してそんな態度取ってるってのか! 申し訳ないからって!」
「それは違います火島さん、黒木さんは内閣からの指示に従っていただけであれらは演技だったんです」
さだめが擁護するが、勇太郎の気は収まらない。楓が亡くなった時、黒木はそれを軽んじる様な発言をしてしまっていた。それを思い出し、勇太郎は怒りを露わにしているのだ。
例え本人がどう思っていようと、口から出てしまった言葉はもう戻せない。黒木の今までの無礼は、反省できても簡単に撤回できる事ではないのだ。
それを理解しているからこそ、黒木はただ勇太郎の激昂を受け入れる事しかできなかった。罪は消えない、過去は無くならないのだ。自分の失敗を乗り越えられる強さと勇気をまだ持てない黒木は、他者からの追求に傷付く事でしか清算ができないと考えていたのだ。
「例え演技だったとしても、誰かの指示で悪者になっていたとしても……その時の私は、間違いなく悪人でした」
「黒木さん……」
「今まで申し訳ありませんでした、火島さん。私の言葉は、消えない、だから……私の事は許さないでほしいです」
勇太郎が怪訝な顔を見せる。
「……でも、私にはやらねばならない事があります。日本を、世界を守る為に、レーマと戦わなければならない。私がいくら傷付こうと、死んだとしても、やり遂げなければならない責任があるんです」
「今まで大口叩いてきた責任スか」
「それもあるかも知れませんが……僕は、大淀指揮官に頼まれたんです。ユニットD襲撃で散々になっていた状況が見えていたであろう彼女は、残された戦力となるべきと僕に、仮面ライダーの力を託してくれたんです」
気弱に叱責を受けるだけだった黒木の表情は強い信念を思わせる凛々しい表情に変わっており、その様子に勇太郎は自分のイメージしていた黒木の姿が目の前の男からかけ離れていく様に感じた。
加えて、先程の軍人との会話……その内容が理解できた勇太郎は黒木が誰かに慕われる人物になっている事を認識していた。最初は不思議だったが、どうも黒木の話を聞いていると、そこに説得力が生まれる様であった。
「アンタ本当にあの黒木さんか……?」
「ええ、私は私しかいません。馬鹿な事を積み重ねてきた、黒木陽炎です」
立ち上がって勇太郎に近付き強くうなずいた黒木に、勇太郎はかつてとは雰囲気が異なるその姿に圧倒された。それと同時にある事に気が付く。
「黒木さんその靴、スーツにはあんま似合わねぇ安全靴じゃないすか?」
「え? ええ、よく気付きましたね……現場であんなの履いてたら転びますよ」
「アンタああいうのにこだわってたんじゃ……てっきりそう思ってたんすけど」
「確かに以前まではやたら身なりにプライドを持っていたと思いますが……そんなものどうでもいいです、今レーマと戦い平和に貢献できるなら」
勇太郎が黒木の顔を覗く。
「本当にあの黒木さんか……?」
「先程も答えた質問ですよそれ」
黒木の変化に勇太郎はただ驚くばかりであった。
「火島さん、黒木さんは変わったんです。これまでの地獄の様な状況がそうさせたのかも知れませんが……火島さんが眠っている間にも、私が心を閉ざしていた間にも、他にレーマに対抗できる者がいない中、黒木さんは一人で戦い続けていた……その時間が黒木さんに考える時間を与え、自身の素行を見直すきっかけになったのだと思います」
「罰ならもう受けてたってか……」
孤軍奮闘する黒木の事を想像し、勇太郎が黒木の変化を納得し始める。
「孤独の中で戦い続けるのは辛い、正直耐え難いです。それを黒木さんは逃げる事なく立ち向かっていた。さっき言っていた様に責任を重んじて……だから、黒木さんは、もう立派な仮面ライダーです」
「信濃さん……」
「信濃さんがそこまで言うって事は相当ファイトしてたみたいっすね、黒木さん」
と、勇太郎が何かに気付き、黒木に質問を投げかける。
「黒木さんは何の為に、戦っていると思いますか?」
「日本、もっと言えば世界が平和に、人々が幸せに暮らせる……それを望む私自身の願いの為に」
「……何が自身の願いの為っすか、それを願うのは純粋な正義だ」
「そう、ですか」
「大淀さんの復讐とかは考えないんすか?」
そう問われて黒木は少し面食らうが、考えたのちに答えを出した。
「考えた事もありませんでした、大淀指揮官は
「……そっすよね」
勇太郎が気を落として返すと、黒木に笑顔を向ける。
「黒木さん、変な事言って……失礼な態度を取ってすみませんでした。俺は復讐に駆られて、それで誰も幸せになれないって分かっていなかったのに……あなたはそういう悪意に飲まれずに戦ってた……それはスゲー事だから」
「気にしないで下さい、火島さん。あなたの憤りは正しい、私はこれまで多くの悪意ある言葉をぶつけてきてしまった……でもそういうのに疲れてしまった、それだけですから」
「黒木さんは悪意から抜け出せたんだな」
「火島さんも復讐と憎悪という悪意を乗り越えられた」
勇太郎が黒木へと手を差し伸べる。
「これで仲直りって事で、これからは仲間として一緒に戦ってください」
黒木が笑うと、勇太郎の手を掴み、強く握手する。
「一件落着ですね」
さだめが微笑むと、以前支給されていた携帯を取り出して写真撮影する。
「ってオイ信濃さん何撮った!?」
「恥ずかしいですよ信濃さん」
シャッター音に気付いた2人が文句を述べるが、さだめは写真を消さないし消させない。
「きっと良く撮れたので折角ですから見てみましょう」
珍しく少女らしい一面を見せるさだめに負け、3人でアルバムを見てみる。
と、撮った覚えのない動画が保存されている事にさだめが気付いた。
「これなんでしょう?」
「さぁ、タップミスとか?」
勇太郎に問われても釈然としないさだめだったが、少し思考を巡らせた瞬間、嫌な予感がよぎった。
「……これ皆さんで見てみましょう」
「信濃さん?」
様子の変わったさだめを気にかける黒木だったが、動画の再生が始まってしまう。
その内容は、ベルゼノがさだめをレーマに、そして人殺しにする為に仕掛けた様々な行動を述べるものであった。
まくし立てる様に家族の死、自分の殺人、レーマ変貌について語られたその動画に、さだめの血の気が引く。
「な、なんだよコレ……それにコイツ、俺を斬った……!」
「記録に残っていた天渡会の穣司、ベルゼノ──信濃さんの家族を殺めた張本人です」
汗を噴き出しながら焦る勇太郎と黒木だったが、彼らの横でさだめは床に膝をついてへたり込んでしまっていた。
「……なんなの……ッ」
さだめのつぶやきが談話室にこだまする。