仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#4 心の枷

「私は……その人と……仲良く出来ません」

 

 さだめが言い放った宣言が、花恋の心を黒く塗り潰す。

 まだちゃんと話せてないのに、さだめちゃんは自分を拒絶した。

 そう捉えた花恋は全身の力が入らないままに、放心していた。

 

「待ってさだめちゃん、那珂さんと全然話せて無いじゃないの」

「……私には、その資格が無いから」

「資格……?」

 

 その言葉が引っかかった金剛だが、引き留める前にさだめはその場を後にしてしまう。

 

 

 面会室から去ったさだめは、真っ直ぐに自身の収監されている特殊独居房に戻っていた。

 死刑囚が入るとしても、圧倒的に広めで整っており、個人のスペースも確保されている、まさしく“ただの自室”の様な空間であった。

 さだめがベッドに横たわると、花恋を傷付けてしまった事を思い出して布団に顔をうずめる。

 

(私はどうすれば良かったんだろう)

 

 と、同時に、花恋が名乗ってくれた渾名(あだな)も思い出す。

 

(ナッカレン……那珂花恋だからナッカレン? 語感いい……それに、カレンって、カッコよくて綺麗な名前)

 

 花恋とまた会いたいと、そう望む感情が膨らむが、さだめはその気持ちに蓋をする。

 

「私は死刑囚……沢山人を殺した悪人……だから、あんな子とは一緒になんて、仲良くなんて、なっちゃいけない……」

 

 花恋と仲良くしたくない訳じゃない。彼女と話したくない訳じゃない。いや、むしろ、もっと話をしてみたかった。

 最近の流行の事、人々の事、彼女の好きな事、彼女が“ありがとう”と言ってくれた理由。

 

(あの子は、私なんかに、ありがとうって……言ってくれた)

 

 暗い部屋の中で考え続けていると、また涙が出そうだった。

 全部自分が悪いんだと、自分に言い聞かせる。

 

 と、ドアをノックする音が聞こえる。

 さだめがドアを開けると、先程共に戦闘を繰り広げていた警官が立っていた。

 

「……三隈(みくま)さん」

「あの那珂っていう女の子の事聞いたぞ、彼女随分ショックを受けていた……君と仲良く出来ないと聞いてな」

「分かってます、私の言葉があの子を傷付けてしまった事は。でも、私なんかに関わるべきじゃないんです」

「多分彼女は、君が仲良くしたくない、嫌っているんだと誤解しているぞ。その誤りは訂正すべきだと考えるが」

「……」

 

 押し黙るさだめに、三隈と呼ばれたその警官はため息をつく。

 

「死刑囚という立場、気になるよな。でも君はそんな詭弁(きべん)の前に、とても辛い経験をした人間なんだ。誰かと関わる事を恐れなくても良いんだ、負い目を感じる必要なんて無いんだよ」

「──良いんですか、私は……“ あなたを殺したのに”」

「その事は気にしなくて良いって言っただろうに……まぁしょうがないか」

 

 三隈は頭を少しかくと、布団の中にうずくまったままのさだめにとにかく、と声を投げかける。

 

「また那珂と会う時間は作ったからな、今度はちゃんと自分の気持ちを伝えるべきだ」

「どうして死刑囚の私なんかに……」

「またそれだ……司法がどう言おうが君が死刑なんてのは絶対間違っていると、ここにいるみんなが思っているからだ。君がどう考えていようとな」

 

 その言葉にさだめは顔をしかめる。

 

「俺からの報告は以上だ、また那珂との面会時間になったら呼ばれるからな」

「……分かりました、自分の事……話せば良いんですよね」

「きっと那珂花恋──あの子なら聞いてくれるさ」

 

──────────────────

 

(私……やっぱりレーマだから嫌がられたのかな……さだめちゃん、レーマの事嫌ってそうだし)

 

 あれからしばらくしてなお落ち込み続ける花恋だが、そこに面会者がやって来る。

 

「那珂花恋だな、邪魔するぞ」

 

 大柄で高圧的な態度の警官──三隈が入って来て、花恋が萎縮する。だが、彼の横にはさだめもいた。

 

「さだめちゃん!」

「聞いてた通り信濃一筋だな、俺は無視か」

「! ごめんなさいつい……警官さんはさだめちゃんの付き添いですか?」

「三隈 正義(せいぎ)、ここに所属している警部補だ。信濃とは色々あって彼女の監視役も兼任している」

「監視って……さだめちゃんは絶対そんな危険な人じゃ──」

「俺もそう思う」

 

 三隈改め、正義がそう呟くと、花恋は複雑な面持ちで固まる。

 

(藤村さんもそうだったけど、この警官さんもさだめちゃんの事を死刑囚っぽく捉えてない……)

「あぁ、あの藤村って先生も信濃の死刑についてなんか言ってたんだろ」

「は、はい……きな臭い話だって」

「……」

 

 さだめが何かを言いたげに花恋を見る。

 それに気付いた花恋はぎこちない笑顔で手を振る。

 

「……で、私もさだめちゃんが死刑って話、信じられません!」

「そうか、まぁ……信濃ともう一度話して判断してくれ。君がウチに協力したいというのは聞いているが、もっと信濃の事を知ってから考えてくれて構わない」

 

 正義が彼女らに背を向けると、不安げな表情のままのさだめへ一度振り返ってから面会室から出る。

 残されたさだめは扉の方を見つめてからしばらくして、花恋へと視線を向けた。

 

「……」

 

 黙ったままのさだめに気を利かせて花恋が何か喋ろうと口を開く。だが、最初に声が出たのはさだめの方だった。

 

「──ナッカレン」

「あい?」

 

 それは花恋が口にした渾名(あだな)であった。それが耳に残っていたさだめは、思わずその名を出してしまったのだ。

 頭が混乱していたが故のミスであった。

 

「……っ」

「今ナッカレンって」

「聞かなかった事にしてください」

 

 頬を赤くして明後日の方向を向くさだめに、花恋は胸をときめかせる。

 

「本題に入りましょう、那珂さん」

「ナッカレンで良いのに~」

「那珂さんでお願いします」

 

 しぶしぶ了承する花恋にさだめが話を続ける。

 

「さっき、私は……二度もあなたにひどい事を言いました」

「二度?」

「最初は、あなたをレーマだと言った事、二度目は、仲良くなれないと言った事です。その言葉であなたを傷付けてしまった事を……まずは謝罪させてください……ごめんなさい」

「えっ、ごめんなさい!? なんで謝るの!? さだめちゃんは悪い事なんかしてないのに──」

「いえ、私、死刑囚です。だからあなたみたいな人と仲良くする資格が無いって思って……」

「ええ……」

 

 驚愕して不意に変な声を出す花恋に、さだめが眉を八の字に曲げる。

 

「私の死刑は間違ってるって言う人はいますけど……人を殺した事は本当です、私は人殺しなんです。そんな人間が、誰かと仲良くするなんて、虫の良い話だから──」

「そんな事無いよ! さだめちゃん、ご家族を失ったって、それが辛かったって聞いて……」

「それでも人を殺すのは犯罪です……」

 

「……罪を犯した人でも、反省して、誰かと仲良くなって、悪い事をしましたってちゃんと謝って生きたって良いって……思うんですケド!!」

 

 花恋が叫ぶと、さだめは戸惑った様な表情を見せ、目線を落とす。

 

「それにさだめちゃんは、私にとってはレーマから助けてくれたヒーローだから! あのレーマを倒してくれる凄い人だから!」

「凄い? 私が……?」

 

 花恋が何度も強くうなずく。

 

「私もレーマが嫌いだから、アイツらをブッ飛ばしてくれたさだめちゃんには本当に感謝してるんだよ」

「だから……ありがとうって言ったんですか」

「ありがとう? あっあの時か。そうだね、さだめちゃんが……あの仮面ライダーが、私の怒ってた気持ちを晴らしてくれたみたいで……いや身勝手かも知れないけど、嬉しかったんだ」

「……私が戦ってる事が、凄い? 嬉しい?」

「本当だよ、私は本当にそう思ってる」

 

 真剣な眼差しの花恋に、さだめは彼女の言葉を脳内で反芻する。

 自分を見て凄いと言ってくれた、ありがとうと言ってくれた、そんな人がいてくれる事がまるで現実では無い様だった。

 

「私は……那珂さ……あなたと、仲良くしても、良いのでしょうか」

「その方が私は嬉しいな、それとあなたなんて呼ばないでちょ、ちゃんと私には那珂花恋って名前があるんだから」

「……綺麗な、名前」

「?」

「なんでもないです……」

 

 花恋の名前を心から美しいと思う。だけど、自分がそれを伝えても良いのか分からない。その迷いがさだめをさらに混乱させる。

 

「……そう、私、私は死刑囚だから……いつか死刑にされるんだ……それでも、いつか死んでしまう私でも──」

「いいの、人はいつかみんな死ぬ。だからって何もしないなんてつまらないし楽しくないし……私は例え明日死ぬ事になったとしても、今日を精一杯生きるよ。後悔なんてしたくないから」

「後悔……したくない……」

「私あのバッタレーマに殺されたみたいなんだけど、その時思ったんだ。“もっとやりたい事あったな”って……もうあんな風に思いたくないから、だから今生きている内に、全部やるって。だからさだめちゃんが例え死刑囚でも、後悔の無い生き方をしても良いと思うよ」

 

 そう言って笑う花恋に、さだめは呆然とする。

 

「私の後悔しない生き方……」

 

 と、さだめの持つ連絡用端末に緊急連絡が入る。

 どうやら本日3体目のレーマが出現したらしい。

 

「またレーマ……!」

「そんな立て続けに!?」

「普通はこんな事無いんですけど……天渡会はこちらの消耗を狙っているのかも知れません」

 

 そう言ってさだめが面会室から出て行こうとする。そんな彼女を呼び止め、花恋が笑顔を向ける。

 

「またお話しよう、さだめちゃん」

「……はい、必ず」

 

──────────────────

 

 埼玉県川口市並木元町。

 その地に構えるショッピングモール内にコードネーム・レオンレーマが現れた。獰猛かつパワーが強いレオンレーマは、出現と同時にショッピングモールへ来ていた客らを襲い始める。

 通報と同時にさだめらがレーマ撃退へ向け発進する。

 

 さだめの駆る警察仕様高速機動バイク『ライドゼファー』がエンジンを吹かして速度を上げる。車体後部の警察車両用サイレンを鳴らしながら道路を走り、後続の警官隊らを乗せた車両が交通誘導を行う。

 そうして緊急時処理を行いながらショッピングモールへ急行する。

 

「信濃、体力的に厳しいだろうがこれ以上犠牲者を増やさない為に……頼むぞ」

「了解しています」

 

 正義からの連絡に淡々と答えると、さだめがライドゼファーをショッピングモールの入り口に激突させ、ガラスを割りながら突入する。

 さだめがエントランスホールまで進むと、血に染まった状態の、ライオンと人が融合したような毛深い異形が立っていた。

 

「レーマ狩りだな……オレが呼ばれたのはそのせいか」

「コードネーム・レオンレーマと対敵、これより撃破に移ります」

「舐めた口を……」

 

 瞬間、レオンレーマは生身のさだめに接近し、変身させまいと首を絞める。

 連戦で体力を消耗していたさだめは回避出来ず、身をよじらせる。

 

「信濃を放せ!」

 

 レオンレーマの背後から正義が射撃する。それに続いて警官隊も銃撃を開始するが、さだめを盾にされ、手が出せなくなる。

 

「鬱陶しい警察共が、王の言葉に逆らうな」

 

 絞首によって意識が朦朧とするさだめを見て、正義が武器を捨てて走り出す。

 

「レーマの能力行使、許可は事後承諾で頼むぞ!!」

 

 その叫びに続いて、正義の姿が徐々に変貌していく。強靭な鱗甲(りんこう)に覆われた異形に変貌する。

 彼が身に纏う力は、センザンコウ──英名、パンゴリンであった。

 

「!?」

 

 パンゴリンレーマのタックルによってレオンレーマが体勢を崩し、さだめを手放す。すかさずパンゴリンレーマが彼女を受け止め、その場から退避する。

 しかしパンゴリンレーマは硬い鱗甲に覆われている為に動きが鈍く、レオンレーマにすぐさま追い付かれる。

 レオンレーマの鉄拳を何度も食らうが背で防御し続けてなんとかさだめを守るが、それも時間の問題である。

 

「三隈君、レーマの力を使ったのか!?」

 

 パンゴリンレーマのインカム越しに金剛が問うと、ああ、と苦しみを伴った声でパンゴリンレーマが返す。

 

「なんとか信濃を救出したが、意識がほとんど無い……俺達の力じゃ敵に対して決定力が欠ける……」

「分かった……増援を送ろう」

「ッ……増援? とにかく早くしねぇと……こっちがやられる!」

「オーケーなんとかしてみる!」

 

 金剛が声を上げると、一旦通信を切って施設内の内戦に繋ぐ。

 

「那珂さん聞こえるかい?」

 

 面会室で退屈そうにしていた花恋が金剛の声を聞いて立ち上がる。

 

「はっはい!」

「今から君を戦場に送る! 状況が変わってさだめちゃんが危ないんだ!」

「行きます! 行かせてください!! さだめちゃんを今、死なせる訳にはいかないんです!!」

「良く言った、それでこそピチピチのニューJDだ!」

 

 と、面会室の鍵が開き、警察官が花恋を迎える。

 

「そこの警官からインカム……連絡用の耳に付けるヤツを貰ってついて行って、話は移動しながら続ける!」

 

 インカムを受け取った花恋がはい、とうなずく。

 警官と共に金剛の指示に従って施設を歩いていると、地下に作られているであろう駐車場に到着した。

 

「この地下駐車場のB35番、そこに止まってる車両に入って」

「その車で移動するんですね」

「いや……君を“転送”する」

 

 金剛の発言に首を傾げながらも、花恋がその場に停まっているトラックの荷台に乗り込む。

 そこには機械が張り巡らされており、物々しい雰囲気が漂っていた。

 

「なんすかココ……」

「じっとしててね、結構アブナい事をぶっつけ本番でやるから」

「えっ危ない!?」

「ごめん那珂さん……! 理論上は安全を確保しているから……」

 

 心からの謝罪をしながら、金剛は装置を起動させる。

 荷台の機械が発光し、白い粒子が花恋を包む。

 

「何が起こってるんですか……?」

「今から君をレーマのいる現場へ転送する。君が乗っているのはその為の装置だ」

「確かにおっかないですね、転送だなんてどんな原理なんですか」

「原理を話してる時間は無いね……また今度説明しよう」

 

 金剛が伝える頃には、花恋の姿は荷台には無く、彼女はショッピングモールへと“転送”されていた。

 

「……ここは……?」

 

 いつの間にか先程とは異なる場所に立っていた花恋は付近の破壊音に気付いてその方向へ走る。

 そこでは、パンゴリンレーマとレオンレーマが戦闘していた。

 パンゴリンレーマはさだめを守りながらモール内を動き回って時間を稼いでいるが攻める事が出来ず時間を稼ぐ事のみに徹していた。

 

「私が……さだめちゃんを、みんなを……助ける……」

「今さだめちゃんを庇っているのは俺達の味方だ、彼の代わりにライオンっぽい見た目のレオンレーマを陽動してくれ、さだめちゃんの変身する時間を稼ぐんだ!」

 

 恐ろしい見た目のレオンレーマを前に、花恋の足がすくむ。

 だが、金剛の指示通りにしなければパンゴリンレーマと共にさだめが危機に晒される。

 

(……私がやらないと、さだめちゃんも、守ってくれてる味方のレーマさんも、やられちゃう!)

 

 足を震わせ、背筋に悪寒を走らせ、口元を強張らせる。

 レーマが憎い、だけど奴らに殺された記憶は拭えない。だけど。

 

(だけど……)

「だけどッ!!」

 

 花恋の叫びでレオンレーマが彼女に気付く。

 

「まだ生き残りがいたのか……だがそれよりもレーマ狩りを始末するのが先だ──」

「やい待てっ!!」

 

 急に呼び止められてレオンレーマが動きを止める。

 

「ライオンレーマ……私が相手だ!」

 

 心が支配する恐怖に抗いながら、花恋が叫ぶ。

 

 

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