仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#5 アンデッド

 怪物と戦う? そんなの常軌を逸している。

 そう考える花恋だったが、もう後には退けない事は分かっていた。

 

 さだめがここで死ぬ訳にはいかない、彼女にはまだ生きて出来る事があると思うからだ。

 彼女が生きて、罪と向き合い、新しい幸せを掴める様にと願う花恋には、さだめを助ける為なら何でもしてやるという覚悟があった。

 出会ってすぐの、一目惚れした女の子。そんな子にここまで命を捧げる必要なんて本当は無いだろう。でも。

 家族を奪われた悲しみを背負いながらレーマと戦うさだめを捨て置く事など、花恋には不可能だった。

 

「ただの子供が何しに来た?」

「ただの子供じゃないぞ! ド級の春から大学生、ド春から大学生だ!!」

「……」

 

 レオンレーマが腕を組んで胸を張る花恋に気を取られる。その隙にパンゴリンレーマがその場から離れようと走る。

 

「っ……レーマ狩りを逃したか……それが狙いか?」

 

 花恋がさだめらを逃がす為に行動していると勘付いたレオンレーマは花恋に目もくれずパンゴリンレーマを追う。

 

(やっぱりこっちは無視するか……だったら、こっちを無視出来ない状況にするしかない……怖いけど!)

 

 心の中で決意を固めた花恋は、その場で意識を集中させながら力む。

 粒子が花恋の体に融着し、彼女の姿を変貌させる。

 

(意識して力めば出来るって……こうか!)

 

 粒子は実体となり、花恋の目には棘々(とげとげ)しい見た目となった赤い身体が映っていた。

 

「私……変わった……!」

 

 体内から溢れる力が変貌を実感させ、レーマ態となった花恋はレオンレーマを追い、エントランスの吹き抜けから2階へと飛び移る。

 その人を逸脱した跳躍力に花恋は感嘆しながらもレオンレーマを探す。

 と、途中で見つけたブティックの鏡に今の自分の姿が写る。

 

 全身が赤黒い、まるでゾンビの様な骨格の露出した体躯。関節の各部に突き出た(とげ)は花恋の闘争本能を発露させている様だった。

 

「これが私……キモっ」

 

 誰がどう見てもおどろおどろしい自身の姿に幻滅しながらも、花恋は使命を思い出して心を保つ。

 レオンレーマと対敵してさだめとパンゴリンレーマを救出する為に頭を横に振って走り出す。

 

「聞こえるね那珂さん、今の君は“アンデッドレーマ”だ、レーマ因子の性質分析から“不死”、すなわち死なない力が君に備わっている事が分かった。ちょっとやそっとの攻撃ならすぐに回復するだろうからそれを活用してみてくれ!」

「活用って素人に難しい事言いますね! やりますけど!!」

 

 花恋──アンデッドレーマが叫ぶと、レオンレーマをようやく捕捉し、飛びかかる。

 

「見つけた! ライオン!」

「レーマ!? まさか新手か……ッ」

 

 アンデッドレーマの登場に驚くレオンレーマだが、パンゴリンレーマの打倒を優先する。が、彼を蹴り飛ばそうと足を振り上げた瞬間にアンデッドレーマが目の前に立ちはだかり、そのままキックで吹き飛ばしてしまう。

 

「庇ったのか……だが、呆気無かったな」

 

 レオンレーマが足を地に付け、再びパンゴリンレーマを狙う。が。

 

「今のが全力ッスかライオン兄貴!?」

「貴様……今のを食らって……無傷か」

「しかも痛みも無いのよ……!」

 

 蹴られた部分は確かにダメージになっていた筈だが、アンデッドレーマは瞬時に傷を修復し、戦線復帰していたのだ。

 苛立つレオンレーマがアンデッドレーマを裏拳で殴り飛ばすが、何事も無かったかの様に瓦礫の中から這い出て来る。

 

「面倒な性質だな……」

「元気な性質だし! ……でも面倒だってなんだって、それで充分!! でしょ!」

 

 アンデッドレーマが振り返ると、意識を取り戻したさだめがコンフルエンサーを腰に取り付けていた。

 

《Confluencer Ready》

《DEATH》

《STEAM》

 

「ありがとう、“花恋さん”──変身」

 

《Property Compile……DEATH・STEAM》

 

 レオンレーマの隙を作った事で、ついにカルヴァリアが変身完了する。

 黒い瞳の戦士が、モータルザッパーを持ってレオンレーマへと構える。

 

《Arms Transfer》

《Mortalzapper》

 

「仮面ライダーカルヴァリア……交戦開始します」

 

 走り出したカルヴァリアを見て、アンデッドレーマがその場から離れる。

 そして無防備になったレオンレーマへとモータルザッパーを振るう。

 が、瞬時に回避されてしまう。

 

「高い瞬発力、これじゃモータルザッパーが当たらない……」

 

 冷静に分析し、自分の武装が不利だと判断するが、敵の防御力を考えるとデスジェットに再変身しても打撃力に欠けるとカルヴァリアは考える。

 

《JET》

《Set Import……JET》

 

 モータルザッパーにジェットイートリッジを装填して速度を上げ、周囲の商品や設備を切断しながらもレオンレーマへと迫る。

 

「これがレーマ狩りの力か……!」

 

 カルヴァリアの猛追でレオンレーマの肩部に一撃を与える。

 深くまで斬られ修復に時間を要するのかレオンレーマは傷付いた左肩を庇いながら攻撃の隙を伺う。

 

「大人しくやられなさい……」

 

 手傷を負ったレオンレーマへとモータルザッパーの刃が迫る。

 ジェットイートリッジを装填した事で自在に振り回される大鎌にレオンレーマは先程とは一転、防戦を強いられる。

 

「このまま逃げ続ける訳にもいかんか……ッ」

 

 退避し続けていたレオンレーマが今度は全力で疾走し、モータルザッパーの斬撃を寸前でかわしながらカルヴァリアの背後へ回る。

 大きな得物を持つカルヴァリアはその分対応が遅れ、完全にレオンレーマの反撃を許す。

 

「死ね……レーマ狩り!」

 

 鋭い爪を振りかざし、切りかかるレオンレーマだったが、カルヴァリアを突き飛ばして現れたパンゴリンレーマによって攻撃を防がれていた。

 

「やらせん!」

「邪魔だ!!」

 

 レオンレーマがパンゴリンレーマの足を払い、バランスを崩させると壁を蹴って跳躍、カルヴァリアを突き飛ばす。

 エントランスホール1階に落下したカルヴァリアだったが、間一髪の所でレオンレーマの胸に傷を付けていた。

 

「……小癪(こしゃく)な」

 

 自身も1階部分に着地していたレオンレーマが落下のダメージで怯むカルヴァリアへと突撃、その爪で彼女を切り裂いた。

 ──様に見えたが、目の前で斬られていたのは、アンデッドレーマだった。

 

「間に……合った……!」

「花恋さん!?」

 

 瞬時に傷を治し、アンデッドレーマは邪魔にならない様にと転がって退避する。

 その動きに警戒するレオンレーマだったが、手傷を負い集中力を欠いた状態で一瞬目を逸らしたのが勝敗を分ける事になった。

 カルヴァリアが必殺技を放とうとしていたのだ。

 

《Mortal Slash……JET》

 

 大振りな攻撃を放ってしまったレオンレーマに生まれた一瞬の隙。それを見逃さずカルヴァリアはモータルザッパーに取り付けられたレバーを引いてジェットの性質を最大まで引き出し、強化していた。

 それこそが大型武装にのみ許された凶悪と称すべき一撃、モータルスラッシュである。

 

「はぁぁぁあああッ!!」

 

 モータルザッパーを勢い良く振り上げ、レオンレーマを一刀両断する。

 その重たい一撃によってレオンレーマが赤い粒子を伴って爆発を起こす。それは完全なる勝利を意味していた。

 

「うおお勝った勝った!!」

 

 飛び跳ねながら喜ぶアンデッドレーマを見て、カルヴァリアは息をつく。

 空のイートリッジにレオンレーマから出た粒子を集めると、爆発の中心部から男が倒れ込む。

 レオンレーマとの攻防に介入出来ずにいた警官隊らが合流し、男を確保する。

 

「イートリッジ回収及びレオンレーマの拘束完了しました、戦闘を終了します」

 

 カルヴァリアが変身解除すると、アンデッドレーマが彼女の手を掴む。

 

「さだめちゃん、やっぱりカッコよかった! 凄いよホントに!」

「花恋さ──那珂さん、ありがとうございました……それで、その姿は戻せないんですか?」

 

 さだめに指摘され、アンデッドレーマは怪物(レーマ)の姿のままであった事を思い出す。

 

「ああっこれっ、ガチキショ怪人モード! これどうやったら人に戻るの!?」

「自分の体からその表皮が剥がれる様子をイメージして下さい、そうすれば戻る筈です」

 

 アンデッドレーマが言われた通りイメージすると、体表が粒子となって崩れていき、中から花恋が出て来る。

 

「うおお戻れた! ありがとうさだめちゃん!」

「私は、別に……」

 

 またも感謝され、さだめは少し照れて視線を逸らす。

 そこへ正義が現れる。

 

「今日は苦労したな、信濃。それと来てくれて助かった、那珂」

「三隈さん! お疲れ様ですっ!」

 

 敬礼する花恋に正義が眉をひそめつつ敬礼する。

 

「あの、三隈さん……今回はすみませんでした……私が油断したから──」

「変身時の隙は今後の課題だが、君の体力を考慮しない編隊で対処したのはこちらの責任だ。あまり気負うな、信濃」

 

 正義がさだめにフォローの言葉をかけると、今度は花恋へと向く。

 

「那珂、君の力が状況を切り開いた。まだ正式に協力関係になった訳では無いのに来てくれた事、本当に感謝する」

「いやぁ~それほどでも無いッスよぉ~~」

「だがレーマとして我々の戦いに協力する気なら、あまり調子に乗らない方が良い。君の性質は藤村先生から聞いているが、頑丈な能力だからこそ慢心を生み、相手の強さを侮る事となりかねない。まずは傷付かない戦い方を学んでもらう必要がある」

 

 やや厳しめの口調でアドバイスされた花恋は己の戦い方を思い出しながら自省する。

 

「確かに私、めっちゃ無謀な戦いしてました……えーと、警察では特訓を付けてくれたりしますか?」

「君が本気でレーマ撃破に加わりたいなら、こちらも精一杯応える所存だ」

「じゃあ大学の合間を縫ってになりますが、特訓やります!」

「その意気だ、那珂……それと俺達は警察、というよりかはまた別の組織なんだ」

 

 花恋が首を傾げる。

 

「詳しくは本部への移動に合わせて説明しよう。さっさと戻るぞ」

「はい!」

 

 元気良く返事をしながら正義の案内に従う花恋だったが、さだめの方を見ると、彼女はその場で手を合わせていた。

 

(さだめちゃん……)

 

 花恋はその様子を見ると、同じく目をつむって手を合わせる。

 

(私達が守れなかった人達はまだこんなにいる……これからはもう犠牲者なんて出さない様に……頑張るしか無い)

 

 天渡会によって命を奪われた人々の事を想い、花恋は涙を流す。

 

「那珂、君はまだ慣れて無いだろうから早く戻るぞ、気分を悪くする」

「ありがとうございます三隈さん、でも……気持ちは整理したかったので」

「……そうか、大事だもんな」

 

 そう呟くと、正義も運ばれていく人々の亡骸(なきがら)の方向へ手を合わせる。

 

「さだめちゃん、そうやって亡くなった人の事を考えられるの、凄いよ」

「私は……また死んでしまった人に報いる事が出来なかったから、申し訳ないって思ってるだけで」

「それでも、人の死を無下にしない気持ちがあるのは、美しい事だと思うよ」

「うつ、くしい……」

「あと花恋って呼んでくれてありがとう、じゃあまたね!」

 

 合掌を終えた正義に連れられ、花恋がトラックへと駆けていく。

 バイクで帰還する為に別れたさだめは、花恋の言葉に戸惑いを隠せずにいた。

 

(花恋さんは、どうして私なんかをあんなに褒めてくれるんだろう……そんな事したって別に得なんか無いのに)

 

 花恋からの言葉を受け取って、嬉しいと思う以上に不思議に思う。さだめは自分の在り方を凄いとは思えなかった。復讐の為に人を殺した自分の一挙手一投足は全てひどく価値の無いものだと考えているからだ。

 なのに、そんな考えを打ち砕く様な花恋の言葉に心を奪われている自分がいる。

 それが本当に自分にとって良い事なのか、死刑囚が誰かに称賛されて良いのか、分からずにいた。

 

──────────────────

 

「ユニットD?」

「そう、警視庁対異形成怪物開発班……要は警視庁の内部に新設されたレーマ用の研究と対策を行う組織だ。俺達はそこに所属している」

 

 移送用のトラック内で正義が花恋へとユニットDの概要を話す。

 

 天渡会がレーマを使ってテロを始めた際、公安で監視されていた研究者、金剛がレーマ因子を発見した事でレーマに対抗しうる武装を開発出来ると判断され発足したユニットDは、これまでにレーマの堅牢な身体に対して効果的な武器の設計、レーマ因子を無効化出来る装置の発明を担って来た。その結果として最もレーマに有効な手段として導き出されたのが、レーマ因子を武装に昇華した新型装備、PRS(パニッシュライダーシステム)であった。

 PRSはレーマと同様の力を利用した、悪を以て悪を制す機構だったが、それ故に装着者がレーマである必要があった。そこからレーマである事が確認されていた死刑囚、さだめを実験体とする事で人体を用いた研究が認可され、試験第1号、仮面ライダーカルヴァリアの開発に成功したのだ。

 

「仮面ライダーの能力は対レーマにおいて絶大だ、だからレーマである俺や、恐らく君も仮面ライダーに変身出来る様に開発が進むだろう。ゆくゆくは信濃と同じ様に俺達も仮面ライダーとして戦う事になる」

「なるほどー、じゃあ今のうちに名前でも決めましょうかね」

「名前か……一応コードネームは開発時に与えられるが」

「えっ、どんな感じッスか?」

Against Dysplasia・monster(異形成体に対抗する)、略して『AD』……そこに開発順に番号が振られる。例えば信濃のカルヴァリアは元々AD1と呼ばれていたな」

「センスないなー」

「そうなのか!?」

 

 正義が固まる。どうやら彼は開発時のコードネームを気に入っていたのだろう。“きっとカルヴァリアと名付けられた時も葛藤したに違いない”と花恋は邪推する。

 

「俺も仮面ライダーに選ばれるだろうが、その時はAD2(エーディーツー)と呼称してもらうからな」

「イシカタですね、三隈さん!」

「意思が固いって事か? まぁ藤村先生曰く、気に入った名前を付けて良いってな。信濃も自分で名前を決めたそうだ」

「由来なんなんだろう……」

「本人に聞いてみれば良いと思うぞ」

「ですね!」

 

 先程までレーマと苛烈な戦闘を繰り広げていたとは思えない花恋の笑顔に、正義も苦笑いする。

 

 

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