仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

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#6 独居房にふたり

「──家が無いから住まわせてほしい!?」

 

 金剛が柄にも無く大きな声で問いつめる。

 その相手である花恋は、はい! と金剛に負けない声の張りで答えてみせた。

 

「住居も用意していないのに東京に来て一人暮らしを始めようとしていたのかキミ!」

「いやぁ、用意はあったんですけど、親が勝手に解約しちゃいまして」

「解約……? 何をしたらそんな事に」

「家族の事なので詳細は省きますが、お陰様で身一つで大学に通う事になりましてねへへへ」

「へへへでは無いだろ……東城大学に通うってのは凄いが」

 

 東城大学は、日本最高峰と(うた)われる名門の国立大学である。金剛も通っていた過去があり、花恋も通うと聞いて卒業生としては放っておけない気持ちが湧いてきていた。

 

「ウチって一応警察組織だし寮とか貸してくんねぇかなぁ……ちょっと上とも相談してみよっか」

「上、ですか」

「そう、ユニットDの指揮官がいてさ、どうせこれから君も挨拶する事になるから一緒に話に行くか」

「今からですか?」

「うん今から」

 

 ユニットDの指揮官と聞いて花恋が緊張する。東京に来てからたった1日で様々な対応に追われ、流石に精神的疲労を感じる。

 

「レッツらゴォォ♪」

(テンション高いな藤村さん)

 

──────────────────

 

 ユニットD、指揮官室。

 

 金剛がノックし、中からどうぞ、と女性の声が聞こえる。

 

「藤村金剛、それと那珂花恋、失礼いたしまーす」

 

 飄々とした口調で金剛が告げると、ああ、とまたも女性の声が返って来る。

 指揮官室で執務を行っていたのは、黒髪を後ろで結わいた長身の美人であった。

 

(うわっキレイな人……)

 

 花恋が見とれていると、その女性──机上の名札を見るに大淀(おおよど) 頑真(がんま)指揮官は、仏頂面を崩さないまま金剛と花恋を見ていた。

 その鋭い視線に花恋は息を吞む。

 

「彼女が例の協力者か」

「はい、那珂花恋ことアンデッドレーマです」

「……那珂です! これからよろしくお願いします!!」

「ユニットD指揮官の大淀だ、君の協力に感謝する」

「ああ、いえいえ、私はただ──」

「信濃くんの力になりたかったんだろう?」

「……お見通しッスか……」

 

 頭をかいて苦笑いする花恋に、大淀は無表情のまま押し黙っていた。

 その雰囲気に圧倒されつつも、金剛が口を開く。

 

「それで、今回のお話ですが彼女の住居の件です」

「先程メールで話していた案件か。それなら考えがある……信濃くんの特殊独居房にスペースがあるだろう」

「え」

 

 花恋が間の抜けた声を上げる。

 

「信濃くんと同居してもらう」

「は?」

 

 指揮官に対して不遜な態度ではあったが、それを考える間もない程の突拍子も無い意見だった。

 

「あの……さだめちゃんと同居って……どういう事ですか?」

「言葉通りだ、あの特殊独居房は1人には広いしな」

 

「大淀指揮官ってああいう事平気で言う人なんですか?」

「あんなふざけた提案する人だとは俺も思わなかったぜ」

 

 花恋と金剛が声をひそめて話し合っていると、大淀が咳払いをする。

 

「信濃くんもまだ若い少女だ、彼女が外の世界を知らぬまま生活をするというのは心苦しいものがある。そこで同年代の那珂くんが一緒にいてくれれば色々と話が出来るだろうと考えたのだが、やはり不満か」

「……まぁ、さだめちゃんと一緒にいるのは嫌じゃないですけど……」

「本人に聞いてみるか」

 

 大淀の放つ考えについていけず、花恋も思わず眉をひそめる。

 

──────────────────

 

 

「ここに那珂さんをですか?」

 

 金剛が内線を使いさだめと連絡を取ってみると、彼女も少々動揺している様子だった。

 

「死刑囚と同居ってあまり良い事だとは思いませんが」

「うーん、まぁ俺も同意見だわな」

 

 さだめからの指摘を受け、金剛が大淀へ視線を向ける。

 

「私が代わろう」

 

 大淀が内線の連絡を交代すると、話を続ける。

 

「死刑囚が他の人間と同居する、しかも囚人ではない人間と……これは異例の事態だが私はこう考えている。君の心的健康を守る為の措置だと」

「無茶苦茶な言い分、ですね」

「ではそうだな……君の社会奉仕としよう。年の近い相手と共同生活をする事で人間らしい生活力と協調性を身に付けてもらう」

「指揮官の指示なら従いますが……那珂さんは良いんですか」

 

 さだめからの問いを受けて大淀が花恋を見る。

 

「那珂くんは良いよな? 信濃くんとの同居」

「オッケーです」

「オッケーだそうだ、なら決まりだな」

 

 大淀がさだめに告げると、彼女は数刻沈黙してから、はい、と呟いた。

 内線が切れると、金剛が大淀に詰め寄る。

 

「良いんですか、こんな勝手に決めちゃって」

「そうしなければ那珂くんも困るだろうし、提案を求めてきたのは君達じゃないか」

「そうですが……」

「なに、信濃くんに関するアレコレは大体が“ 試験的特例”として黙認される。こちらの都合で信濃くんの処遇は決められるのだよ」

「そんな言い方……!」

 

 声を荒げる花恋だったが、金剛が落ち着け、と言わんばかり肩に手を置く。

 大淀は怒りを露わにする花恋を見てすまん、と呟いて言葉を続けた。

 

「誤解しないで欲しいのだが信濃君の人権を軽んじている訳では無い。彼女が死刑囚であろうと普通の少女の様な生活を出来る言い訳に出来るんだよ、試験的特例というヤツは」

「……そっか、さだめちゃんは特別だから死刑囚でも広いお部屋をもらえるし、一緒に人と生活出来るって、そう言いたいんですか?」

「そういう事だ」

 

 大淀の返答に花恋はさらに質問という名の提案を浴びせる。

 

「さだめちゃんが外出しても?」

「特例で何とかしよう」

「外でお茶しても?」

「特例で何とかしよう」

「スタブでいちごホイップフラペチーノのグランデ、チョコソーストッピングを一緒に飲んでも?」

「特例で何とかしよう」

「最高ですね」

 

 にやける花恋に金剛は眉を八の字にして困惑する。

 

「試験的特例があるとしても流石にそこまで出来ますかね……」

「それをさせてやるのが、信濃くんを守る大人としての役目だろ」

「さだめちゃんを……守る?」

 

 花恋が問うと、大淀が強くうなずく。

 

「死刑囚として扱われている彼女の処遇は間違った物だというのがユニットDの総意だ。おかしな判決で彼女の未来を奪われてはならないと、そう考えている」

 

 大淀の意見に花恋がうなずく。

 

「ここの指揮官である大淀さんがそういってくれるなら、さだめちゃんも悪い様にされないって信頼して生活できますね」

「そういえばここで生活するって話だったな……」

 

 金剛が顎に手を当てると、大淀がわずかに微笑む。

 

「那珂くん、手荷物はそれだけか?」

「はい、一応持ってきたんですけど……」

「ならばそのまま信濃くんの特殊房に入れてもらえ、案内はそうだな、私が受け持とう」

「案内くらいなら俺が行きますが」

「仮にも女人の部屋だ、君が入って身支度だどうだというのはな」

 

 確かに、と金剛が呟くが指揮官に雑務を任せるのもどうか、と唸る。

 

「気にするな藤村くん、私もここの責任者として信濃くんとの交流を深めたいんだ」

「……分かりました、そういう事なら指揮官にお任せします」

 

 金剛が頭を下げると、本当に気にするな、と大淀が告げる。

 

「では早速君らの部屋へ向かうか」

「……はい!」

 

──────────────────

 

 特殊独居房、と称されているさだめの自室──そこへ向かう途中で間が持たなかった花恋が大淀に一つ質問をする。

 

「さだめちゃんが人を殺めた事で死刑になったってのは聞いたんですけど、減刑や罪状の再確認は行われなかったんですか?」

「死刑になる場合、必ず弁護人が付くのだが、その人物がいくら掛け合っても検事、裁判所が主張を覆さなかったんだ。それに信濃くんは容疑を否認しなかった。証拠もすべて揃っており、彼女の犯した大量殺人という罪が死刑以外の方法によって裁かれることは無いと決定されてしまったのだ」

「それって裁判官や検事の一存で死刑だと決めつけられた様なものじゃないですか!?」

「そうだ、彼らの下した判決は一方的であり、信濃くんが容疑を否認したり再審請求をすればまた話は違ったかも知れない」

「どうして……さだめちゃんは自分は死刑になる様な罪を犯してないって言わなかったんですか!?」

「本人に聞いても自分が悪いの一点張りだ、だから私は……彼女の罪を軽く出来ない」

「そんな……」

「これは推測でしか無いが、信濃くんは死にたいんじゃないかと思うんだ。家族もおらず、誰かを手にかけた自分を責め立てて、心を閉ざしてしまっているんじゃないかと……」

「だから私、なんですかね」

「そうだな、君にプレッシャーをかけたくは無いが、信濃くんの心を解いてほしい。そうすれば彼女がまだ生きていても良くなるかも知れない」

「……頑張ります」

 

 彼女らが話している内に特殊房に到着する。

 ノックの後さだめのどうぞ、という声が聞こえると大淀がドアを開ける。

 

「信濃くん、同居人を連れて来たぞ」

「えっへっへ……」

「那珂さんの生活可能な場所は用意できています。適当に荷物を置いてくれて構いません。私の物は少ないとは思いますが邪魔なら捨ててください」

「捨てないよ!?」

 

 ベッドの上に座りながら黙々と読書するさだめに、花恋が肩を落とす。

 

「とりあえず、よろしくね! さだめちゃん──今更思ったけどさだめちゃんって馴れ馴れしいかな?」

「呼び方はなんでも結構です」

「じゃあさだめちゃんのままで良いか……」

「一応言っておくと信濃くんの方が年上だぞ。1歳しか変わらんが」

 

 花恋が目と口をいっぱいに広げながら愕然とする。確かに考えてみればそうだった、そう思考する花恋の衝撃は計り知れないものであった。

 

「す……すみません信濃センパイ……私のことはどうぞ那珂と呼び捨てで構いませんから……敬語もいらないんで」

「気にしませんよ、別に年齢くらい」

「信濃くん、彼女とは仲良くやっていけそうか?」

「問題の無い様に対応します」

 

 本を閉じてそう答えるさだめに大淀はそうか、と少し物憂げに返すと、部屋を後にする。

 

「那珂くん、信濃くんはそんな調子だがよろしくな」

「頑張りますったら頑張ります」

 

 大淀が出ていくと、さだめは再び本を開く。

 

「もし荷解きに邪魔なら言ってください、部屋の外には出られませんが最大限どきますので」

「いや大丈夫だよ……それより、さっきから何の本読んでるの?」

 

 花恋がさだめの読んでいる本を見ると、表紙には“カルヴァリア”と書かれていた。加えて、作者名は信濃 (かい)とあり、さだめと同じ苗字の人物であった。

 

「もしかしてこれがカルヴァリアの元ネタ?」

「……父の書いた本です」

「ほぇ~、どんな内容?」

「カルト集団に対する警鐘……です。父は天渡会の動向を危惧していたんです、だから……」

 

 うつむくさだめに花恋はごめん! と慌てて謝罪する。

 

「あんまり言いたくない話だったよね!? 急にごめんね!」

「いえ、父の話をし出したのは私ですから……」

 

 少しの静寂の後、さだめが本を机に置いて口を開いた。

 

「私は父の事を尊敬していました。人の未来を信じ、守ろうと考えて自分に出来る方法で社会に強く語りかけていた姿を、とても誇らしく思っていました」

「さだめちゃん……」

「だから、父が殺されたと知った時、本当に許せなかった。本当に死ぬべきなのは、お父さんじゃなくて、お父さんを殺したヤツらだって思ってしまったんです」

 

 思いつめた表情で語り続けるさだめに、花恋は黙ったまま耳を傾ける。

 

「でも、私が殺した人達にだって家族はいた。私は、私の家族を奪った人達と同じ事をしてしまったんです」

「だから、自分は許されてはならないって思うの?」

「……そうです、私は罪人で、裁かれなくてはならないんです」

「でも死刑になる程さだめちゃんは悪い人じゃないって私は思うんだけど。それにさっきも言ったよね、罪を犯した人でもちゃんと反省して生きていて良いって」

「生きていて良い? この私が?」

「うん、もちろん! 生きてさ、さだめちゃんが満足するまで罪を償って、また外に出れたら一緒に遊びに行こうよ!」

 

 花恋の言葉にさだめは瞳を潤ませる。

 

「なんで私なんかを生きてて良いだなんて言うんですか」

「だってさだめちゃんは私や色んな人々をレーマから守ってくれたヒーロー……仮面ライダーだから!」

「私は……あなたを守れなかったんですけど」

「ううん、私は今ここに生きてるし、さだめちゃん、ライオンレーマと戦った時に守ってくれたから」

 

 満面の笑みのまま花恋がさだめの肩に手を置く。

 

(こうやって間近で見るとさだめちゃん、マジで可愛い(えらしい)な……顔が良すぎる)

「那珂さん」

「花恋で、いいよ……」

 

 精一杯の美しい声色で花恋が囁くと、さだめが目を泳がせる。

 

「か……花恋さん」

「なんだい?」

 

 またしても精一杯の美声で花恋が問う。

 

「私は……花恋、さん、と……仲良くしても良いのでしょうか」

「当たり前だよ、さだめちゃんは生きてて良いんだから」

 

 さだめが鼻をすすると、ありがとうございます、とだけ呟いた。

 

「そうだ、一緒に暮らすご挨拶がてら、プレゼントがあるんだ~」

 

 花恋がショルダーバッグから“死神さんとゾンビちゃん”のスイングを取り出す。

 

「どっち欲しい?」

「なんですかソレ」

 

 呆気に取られるさだめに花恋も困った様な表情で説明する。

 

「なーんか気になっちゃってさ、このゾンビちゃんとか……私に似てて」

「似てる? あ……アンデッドって事ですか」

「まーそれも今はあるケド……なんかね!」

 

 そう言って花恋は本が一冊置かれただけの机にスイングを並べる。

 

「でも、この死神らしいおもちゃは、私に似ています」

 

 さだめが死神さんを手に取ると、呆けた顔でスイングを見つめる。

 

「もらって良いのでしょうか」

「モチのロン、ロンのモチ。死神さんっていうんだけど気に入った?」

「……私にきっとついてる死神も、こんなに可愛かったら嬉しいなって」

「ふふ、そうだね……こんなにキュートな死神さんなら、仲良くなってさだめちゃんの死刑を無かった事にしてくれそう」

 

 花恋が笑うと、さだめも微笑んだ。

 

「……私、死刑囚なのにそんな、無かった事になんて」

「い~の! さだめちゃんは生きてて良いんだから、そう思っちゃうのだって悪い事じゃないよ?」

「でも、私は──」

「──私が、さだめちゃんが“生きてても良い”って思える様にする、さだめちゃんが“生きたい”って思えるくらい人生を楽しくさせちゃうんだ、覚悟してよね?」

 

 活発な笑顔で宣言する花恋に気圧され、さだめは言葉を失う。

 

「これからよろしくね、さだめちゃん!」

 

 

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