仮面ライダーカルヴァリア   作:虎ノ門ブチアナ

7 / 21
#7 夢を見た

 花恋は胸を高鳴らせていた。

 

 自分のすぐ後ろで、超絶華憐な美の化身がハープの様に耳を癒えさせる寝息を立てているのだ。

 

(どうしよう……流れ的なアレでさだめちゃんと一緒に生活するって事になったけど、私の心臓は持つのでしょうか……!? 寝ている姿も可愛すぎるよ~!)

 

 顔を紅潮させながらベッドの上で芋虫の様にうねる花恋だったが、悶々とした気持ちをそのままに意識は遠のいていった。

 

(さだめちゃんと……同居――むにゃむにゃ)

 

 

「──花恋」

 

 聞き慣れた声、母の声がする。

 

「花恋」

 

 ずっと花恋を呼んでいる、優しい声。

 差し伸べられた白い手が、花恋の頬を撫でる。

 

「ママ」

 

 呼ばれる花恋の表情は引きつっていた。

 母親に触れられながら、彼女の心は恐怖で満ちていた。

 

「ママ──!」

 

 母の手は、花恋の頬から首をなぞり、そのまま絞めつける。

 力の限り絞首され、花恋が苦しみ悶えながら母の手を引き剥がす。

 乱れた呼吸が整う前に、その場から逃げ出す。

 が、目の前には包丁を持った父が立っていた。

 

「一緒に王へと魂を還そう」

 

 父の温もりのある声が響き渡る。そして、自分の全てを抱擁してくれるであろう微笑み。

 

「私は、死にたくない」

 

 花恋が呟くが、聞く耳を持たない母と父に抱き締められ、包丁で腹を刺される。

 鋭い痛みと心地の悪い熱が花恋の腹部から広がっていく。

 

「死にたくない!」

 

 体の力は抜けていくのに、意識だけはハッキリしている。

 自分の娘を傷付けてなお笑顔の両親。

 母と父は壊されてしまった。

 動かない体を無駄に力ませて逃げようとする花恋に、両親は優しい声でささやく。

 

「逃げられないよ」

「私は……逃げられない……」

 

 力なく倒れ、自分から流れ出た血液に浸りながら花恋はその言葉を噛み締めると、瞳から溢れる温みを感じる。

 

 どうして両親は変わってしまったのか。その自問自答に対して、答えはすぐに導き出された。

 同時に、花恋の目が覚めて現実に引き戻される。

 荒い吐息を立てながらも、まだ眠っているさだめを起こしてないか確認し、彼女の安眠を確かめて安堵する。

 

「……天渡会」

 

 両親を変貌させてしまった連中の名。花恋にとって許せない集団。

 その名を口にしながら、自分の中に煮えたぎる憎悪をなんとか鎮める。

 

 花恋が時刻を見ると、目覚まし時計は午前6時を示していた。さだめから説明を受けていた起床時間ちょうどであり、途端に時計が鳴り出す。

 

「さだめちゃん、朝ですよ~、起きて起きて」

「……うん」

(寝起きのお返事もカワイイなさだめちゃん)

 

 さだめの声を聴いて花恋に笑顔が戻る。

 

「おはようございます、花恋さん。これからの行動ですが、いつもは起床後歯を磨いて着替えて、食事という日程になっています」

「オッケー……なんか、修学旅行みたいだね」

「……花恋さんが楽しんでいるならそれでいいです」

 

 一応独居房なのだけれど、という言葉を胸の奥にしまい込んでさだめがベッドから出る。

 例えどこであろうと花恋がこの環境に馴染んでいるなら水は差さないでおこうとさだめが心の中で決める。

 

「それと着替えている所はあまり見ないでくださいね」

「そ、それは了解しましたワ、気を付けるね」

 

 

 食事は特殊独居房用に特別に用意されており、給食の様な膳が壁に取り付けられた台に置かれる。

 基本的には囚人用の食事とほとんど変わらないものが出される事になっており、部屋には一ヶ月分の献立表が掲示されている。その様子は先述した様に給食に近い。

 

「なんかこういうゴハン、久しぶりだね!」

「そうでしたか……まぁ、確かに。すぐに慣れますよ」

 

 さだめがつぶやくと手を合わせていただきます、と唱える。同様に花恋もいただきます、と目の前の食事への感謝を述べる。

 

 味噌汁、白米、卵焼き……普遍的な食事であったが、その味は確かで、花恋が箸を進める。

 

「独居房で出るお料理なんでどんなもんだと思ってたけどすごく美味しいね、どなたが作ってるんだろね?」

「ここで働いている調理スタッフの方がユニットD職員さんの分まで作っていると聞いてます。頭が上がりません」

 

 腰の低いさだめの態度を見ていると、本当に彼女が死刑囚なのかと幾度となく思わされる。

 何かさだめが死刑にならずに済む方法は無いのか、花恋の頭に何度目かの考えがよぎる。

 

「ご飯食べてるときになんだけど……さだめちゃんは死刑って言われたとき、何も言わなかったの?」

「……はい、私はそうなって当然なんだと思って、言い返さずいました」

「それってさ、さだめちゃんは生きたいって思わなかったの?」

「……はい」

 

 そう言い切り、さだめは卵焼きを静かに噛む。

 

「今でも、生きたいって思わないの?」

「……」

 

 沈黙。咀嚼。そして、沈黙、次いでさだめがようやく言葉を発する。

 

「ちょっと違うと思っては……います」

「なら……」

「まだ自分の考えに整理がつかないんです。人を殺めたのは本当ですから……それに、私が殺した人の中には家族のいる人もいたんです。殺めてから知りましたが……とにかく私は、自分と同じ苦しみを他の人に与えてしまったんです。そんな罪を背負って生きる自信が……無いんです」

 

 さだめが食事を平らげると、箸を置いてごちそうさまでした、と述べる。

 

「いつも夢を見るんです。家族が死んだ時の事、人を殺した時の事を」

「……」

 

 それを聞いた花恋は瞳に涙を溜めながら白米をかき込んで味噌汁で流し、皿を置くと、音が鳴る程の勢いで手を合わせてごちそうさまでした! と大きな声で告げた。

 

「私はさだめちゃんが生きててもいいって思える様にするって決めたんだ! だから……だから……」

 

 花恋が言葉に詰まる。

 決意はあるもののその為の具体的な施策はまだない。

 さだめの事を案じる気持ちだけが先行して何もできていない事に気付き、顔をしかめる……が。

 

「……そうだ! とりあえずさだめちゃんが楽しいって思える事たくさんしよう! さだめちゃんは何が楽しい?」

「強いて言うなら読書が、一番リラックスできます」

「お出かけとかは? なんとか話つけて外に出られるって聞いたよ」

「アウトドアは……良く分かりませんが、今日は本を読みたい気分です」

 

 そうかぁ~、と息を吐きながら花恋が口漏らすと、気を取り直して読書をする事に決めた。

 さだめの案内に従って膳を台に戻すと、花恋がスーツケースから漫画を一冊取り出した。

 

「新幹線の中ヒマだろうから漫画持って来てたんだ~、貸したげるから読んでみてよ」

「漫画、ですか。あまり読みませんが……花恋さんがそう言うなら」

 

 そうして花恋から渡されたのは、東京を舞台にしたバトル物の少年漫画だった。

 全く読まないジャンルの漫画を渡されて困惑しながら読書するさだめに、花恋は思わず笑みを浮かべる。

 

「こういうのホントに読まない? まぁ言うて私もコッソリ買ったヤツだからいつもは読まないけどね。ただ今まで読んだ事がないなら刺激になるんじゃないかな?」

「刺激……ですか、まあ……花恋さんがオススメするなら」

 

 そういってさだめが漫画をめくり始める。

 

「じゃあさ、私はさだめちゃんの本を借りてもいい?」

 

 さだめの本と言ったら、一冊しか無かった。

 “カルヴァリア”。さだめがずっと読んでいた父の著書。

 

「いいですが……そんなに愉快な本ではありませんよ」

「私だって難しい本くらい読めらーい!」

 

 ムキになって両拳を上げる花恋にさだめは少し頬を緩める。

 

「花恋さんって面白いですね」

「ほ……褒め言葉として受け取っておくね」

 

 少し恥じらいを覚えながら、花恋が“カルヴァリア”を開く。

 

 カルヴァリア──人間の頭蓋冠を表すそれは、脳の発達によって発育していく骨格である。それを私はカルト集団のブレーンを成す者の能力の発展に伴ってそれを囲む信者の発展にも繋がっていく事と重ねた。本書ではカルト集団の拡大をカルヴァリアの成長と比喩し、我々にとって危険な因子が刻一刻と力を蓄えつつあると警告する。

 

 ──と結ばれた前書きを読んだところで花恋はさだめへと視線を移す。

 

「さだめちゃん、なんで仮面ライダーにカルヴァリアって名前付けたの? あんまいい意味じゃなくない?」

「確かに……カルヴァリアとは父の著の意見を借りれば天渡会の事を指していますからね。ですが……私はそれを、天渡会(カルヴァリア)を倒すという覚悟の様な意味で名付けました」

 

 花恋の持つ本を見つめながら語るさだめがそれと、と続ける。

 

「父が残した言葉を忘れないでいたいんです」

「お父さんの事、好きなんだね」

 

 さだめが照れ臭そうに口角を上げる。

 

「カルヴァリア、いい名前だと思うよ」

「ありがとうございます……花恋さんの言う通り本当に良い意味ではありませんが」

「そこは胸張って名乗っていこうぜ~」

 

 花恋がさだめの肩をつつくと、さだめは少しはにかんでうつむく。

 

「私が付けた名前、ですもんね」

 

 そうだよ! と花恋が強くうなずく。

 

「それとさだめちゃん、敬語無くても大丈夫だよ? 私も年下だからさ」

「……難しい……でも、そう……そうだな……」

「どしたの?」

 

 考え込むさだめに花恋が彼女の顔を覗き込む。

 さだめは(なにがし)かの葛藤を抱えながらそれを整理する様に花恋に話し始めた。

 

「今日はいつもと違う夢を、見たんです。私が花恋さんと、敬語を使わずに話している夢を」

 

 呆気に取られる花恋を横目に、さだめは淡々と夢の内容を語る。

 

「私と花恋さんが、対等に話しているんです。とても仲睦まじく……それが私にとっての“夢”、寝る間に見るものではなく、目を見開いて目指すそれなのだと気付いた頃には、目が覚めていました」

「だったら敬語なんて──」

「それでも私は、死刑囚です……あなたと対等になれるはずが……ない」

 

 そう言い切るさだめに、花恋は少し腹を立てる。

 さだめとの距離を近付けようとしているのに、彼女からそんな卑屈な言葉が出てしまうのは、とても哀しい。

 

「じゃあ私が誰かを殺せば、さだめちゃんと対等になれるの?」

「っ! そんな事は! ……でも」

「でもじゃない」

 

 花恋が神妙な面持ちでさだめを見つめる。

 さだめは彼女の想いに応えようと目を合わせる。

 その瞳は震えていて、今にも逸らしてしまいそうな弱々しい眼差しだった。だが、さだめは花恋がかけてくれた言葉を思い出し、その意志を強く保った。

 

「後悔しない生き方……“だよね”」

「! さだめちゃん」

「私は……花恋さんと距離を置いて、後悔したくないって……思ったから」

 

 泣きそうなさだめを花恋が抱き締める。

 

「後悔しない生き方、そうだよね、さだめちゃん」

「えぅ……あの、花恋さん」

 

 何? と優しく声をかけてからさだめの顔を見た花恋がまばたきを繰り返す。

 顔面を真っ赤に染めて目を泳がせるさだめが花恋を引き離そうとしていたのだ。

 

「ち、近いです……近いから……」

「あっ! そっ、そーだよねッ! 近かった! そう、近かったね! 物理的な意味ではありませんでしたねナハハ!!」

 

 思わず敬語になってしまう花恋に、さだめが微笑む。

 

(花恋さん……こんなに優しい人が私の為を想ってくれている……だから私も応えられる様にならなくちゃ)

 

 

──────────────────

 

 ユニットD、研究室。

 

「これがPRSの2号機──仮面ライダーAD2ですか」

「仮名はソレで通ってるけど、君の好きな様に呼んでくれて構わないよ」

 

 そう言って笑う金剛の視線の先にいる正義は、いや、と首を横に振った。

 

「AD2、嫌いじゃない響きだ。ソイツの名前はそれでいいです」

「ふむ、武骨なのを取るか……そーいやキミずっとそう呼んでたっけね」

「那珂に言わせてみれば“イシカタ”ってヤツらしいです」

 

 正義から思いもよらない語が出てきて、金剛は目を丸くする。

 

「イシカタ……石みたいに頭が固いってこと?」

「意思が固いって意味らしいです、俺みたいに名前にこだわってるから」

「名前は大事だよ、ずっと呼ばれ続けるものなら特にね。その名前に込められた念は個人によって意味合いを変えたりしながらも、受け継がれていくから」

 

 念ですか、と正義が返す。研究者としては奇天烈なオカルティズムめいた言い回しが少し気になったらしい。

 

「だって仮面ライダーう〇ことかヤじゃん、使う方も呼ぶ方も」

「そうですけど……子供ですか、藤村先生」

「その点君の貫くAD2は悪くないと思うよ。レーマをブッ倒すって意義がこれでもかと込められてるからね」

「ですね」

 

 正義がぶっきらぼうに言うと、開発中の武装を見つめる。

 

「これがあれば俺は……俺達は、信濃に頼らずに戦える」

「そうだね──仮面ライダーAD2、そしてそれに続くAD3。一刻も早く実戦に投入できる様にしないとな」

 

 金剛が自分に言い聞かせる様に語ると、作業を再開する。

 

(俺が死んだ事は……力を得た事は、意味のある事だったんだと……これで信濃に伝えるんだ)

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。