最後のレーマとの戦闘から、一ヶ月。
ユニットDの元にレーマ出現の報が来ないまま時間が経過している事に、さだめと戦闘訓練中の花恋は
「ねーさだめちゃん、一ヶ月もレーマ出てないけどなんかあんのかなぁ? 大学も始まっちゃったのに、さぁっ!」
そう問いかけながら花恋の打ち込む右ストレートが華麗にかわされ、さだめのボディブローが彼女の腹部に激突する。
「ぐヴぉあ!」
「ごめんなさい、加減を間違えたかな……」
「だいじょうぶ、それよりも……ッ」
倒れ込む花恋の手を引っ張って起こすと、さだめが先程の質問に答える。
「一ヶ月もレーマが出ないのは結構ある事……前みたいに一日に3体も出る方がおかしかった」
「そうだったんだ、じゃあレーマが出るまではずっと特訓スか?」
「私は……そうしてたと思う。後は、本を読んでた」
「カルヴァリア?」
さだめが少し嬉しそうにうなずく。花恋と知識を共有できた気がして心が弾んだのだ。
「まー私の“ヴィヴレ”も改良中って言って使えないみたいだし、今レーマが現れても困っちゃうもんねー。だったら特訓とかしてしっかり戦える様になっといた方がいいよね!」
「うん、頑張ろう。私と同じくらい動ける様になったら今度は三隈さんと特訓するんだって」
「
花恋が開口して硬直する。部屋の端で明らかに人間の扱える重さではないバーベルを片手で持ち上げる筋骨隆々の男を見て、彼女はただ思考を停止する他なかった。
「あそこで人間の限界を越えちゃってる人とどう特訓するんですかね?」
「三隈さんに太刀打ちできるイメージ……湧かないよね」
「どうした、二人共休憩か」
ようやくこちらに気付き声をかけてきた正義に2人は首を横に振って訓練を再開する。
(信濃に那珂も気合入っているな……別世界の仮面ライダーに触発されているのだろうな、俺も負けていられないな)
花恋らの様子を見ながら正義はラットプルダウンで背筋を鍛え始める。その重量は400キログラムを超えていた。
「やっぱ三隈さんヤバいってぐヴぉあ!」
「あ……ごめんなさい勢い余って腕ひしぎ十字固めを……」
特訓を一旦終えて、改めて休憩を取るさだめに、花恋が問う。
「さだめちゃん、ここの人達とどんな話するの?」
「話、ですか」
「急だけどネ、さだめちゃんが私以外の人と話してるトコあんまり見た事無いからさ」
花恋からそう言われると、確かにそうだった、とさだめが自分の行動を振り返る。
自分に刑が下ってからの1年間、そして花恋が来てからの1ヶ月間。ほとんど人と口を聞いていない事を思い返し、さだめがうつむく。
「もう少し、他の方と話した方が良いのでしょうか」
「さだめちゃんがコミュ苦手なら無理しなくていいと思うけど……ここの人達はさだめちゃんの味方だからさ、それなりに仲良くなってもいいんじゃない? って」
「話してみます」
「そうだね、流石にいきなりは無理だ──え?」
まさかさだめが即答するとは、と花恋が啞然とする。
「私から言っといてなんだけど判断めちゃ早いね」
「人とのコミュニケーションが苦手だった訳では……無かったので」
「意外……」
花恋と正義の声が重なる。
無礼な言い方ではあったが、2人にとってさだめはコミュニケーションに苦手意識のある人物であるという認識があった。
「昔はもう少し……いや、もっと人と楽しく話せてたんです。ちゃんと高校生らしく、生きていたと思います。でも」
「紆余曲折あって今に至る……ってコト」
花恋が呟くとさだめが静かにうなずく。
「確かにご家族に不幸があったり、色んな目にあったら、今までみたいに過ごすのは難しいよね……でも……私はさだめちゃんと楽しくお話、してみたいな」
少し寂しそうな顔で笑う花恋を見て、さだめはかつての自分の姿を思い出す。
友達と楽しく会話する、都会の女子高生だった信濃さだめ。学校の帰りにはカラオケへ行ったり、カフェで茶を喫したりしていたあの日──それがどうしてこんなにも遠くなってしまったのか。
さだめが胸をおさえて苦しげにする。それを見た花恋が肩を抱いて心配する。
「さだめちゃん!? 大丈夫!?」
「はい……昔の事を思い出したら……苦しく、なってしまっただけです」
「ごめん、辛い事を思い出させちゃったよね。やっぱりゆっくり考えればいいよ、人と話すとかはさ」
花恋の発言にさだめがでも、と、さらに正義がだが、と声を重ねながら呟いた。
「言葉が被ったか、すまない」
「いえ、三隈さんから話してください。多分私の言いたかった事と同じ事なので」
「そうか、悪いな。改めて言っておくが……信濃にはあまり時間は無いぞ」
えっ、と花恋が漏らしてさだめを見ると、彼女もうなずいた。
「私は死刑囚……今生きているのは刑が執行されるまでの猶予でしか無いから」
「で、でもレーマを倒すのにさだめちゃんの力が必要なんだからまだ死刑にはしないですよね!?」
「それもいつまで持つ話か分からない。君や俺が仮面ライダーとして戦うのは確定しているし、今後人間でも仮面ライダーと同等の性能を持った戦士になれる兵装も生まれるだろう。そうすれば、言ってしまえば信濃はお払い箱だ」
花恋が動揺を隠せず、小刻みに震えながら視線を落としていった。
「だから信濃も、この限られた時間をどの様に過ごすのか考えるべきだと思う。那珂の想いに応えられるのも今の内かも知れないからな」
「……分かりました」
正義の言葉を受けてさだめは自分の立場を再認識し、どうすべきかを考える。
「ごめんなさい花恋さん、私が消極的だったばかりに、あなたを心配させてばかり……それは私の本意じゃない」
そう言うとさだめは花恋の手を握る。
が、状況は都合の良い方向へは進まないらしい。
全身を怖気立たせる警報音が施設内に響き渡る。すなわち、レーマの出現を知らせていた。
「行くぞ信濃、那珂」
ユニットD本部内地下駐車場。
金剛の開発したライドシステムと先日入手した技術を応用した人員転送装置が完成したのだ。
「コードネーム・メタルレーマは成田空港国際線第1ターミナルにて暴れていると通報があった! これ以上被害を広げない為に急行してくれ!」
金剛からの指揮を受け、準備を済ませたさだめ、花恋がライドゼファーに乗り込む。運転免許を持たない花恋はさだめのバイク横に取り付けられたサイドカー、『サイドゼファー』に搭乗する。
一方の正義はライドゼファーとは見た目の異なる大型バイクにまたがる。何かギミックが隠されている様に見受けられたが、急造品らしくさだめと花恋は何も聞かされないまま準備を進める。
「さだめちゃん、運転よろしくね」
「こちらこそよろしく、花恋さん」
「準備できたな、行くぞ二人共!」
正義の号令に合わせバイクをゲートへ発進させる。
光の先へ走っていくと、一瞬で光景が変化する──ゲートを越えた先の指定座標、成田空港へと転送がなされたのだ。
成田空港第1ターミナル、北ウイング3階。
本来は車両など当然立ち入れないその場所にバイクが出現した。
「花恋さん敵は?」
「いた! 行こう!!」
花恋がサイドゼファーから飛び出し、その姿をレーマのものに変貌させる。
「那珂! 敵の動きを見てから飛び出せ!!」
正義が叫ぶも、花恋──アンデッドレーマは猪突猛進、眼前の大柄なレーマへと突き進む。
筋肉が隆起し、黒光りさせるその敵性体、メタルレーマはアンデッドレーマを目視した瞬間、腕を突き出す。
すると、拳を握りしめた腕が形を変形させていき、黒い鋼鉄の塊と思しき物体へと変えるとそれを思い切り伸ばしてアンデットレーマの左腕を抉り飛ばす。
「痛だあああああああッ!!」
「もっと冷静に行動しろ那珂ァ!」
「ずみまぜん!!」
正義の叱責を受け反省しつつも、体を再生させたアンデッドレーマが臨戦態勢を取る。
だが、アンデットレーマが時間を作っていたおかげでさだめ、正義が変身の準備を整える事が出来ていた。
《Property Compile……DEATH・STEAM》
さだめ──カルヴァリアに続き、正義もコンフルエンサーを装着、2個のイートリッジを起動させる。
《Confluencer Ready》
《PANGOLIN》
《ANCHOR》
「変身!」
《Property Compile……PANGOLIN・ANCHOR》
カルヴァリアとほとんど変わらぬ変身音と共に、駆ける正義の体に鎧が装着される。
「『仮面ライダー
メタルレーマが迫り来るカルヴァリアの蹴りを軽く受け止めると、そのまま足を掴んで放り投げる。
なんとか着地したカルヴァリアはモータルザッパーを取り出して様子を見る。
「藤村さん、あのレーマ……確か性質は」
「メタル、すなわち“金属”だ。花恋ちゃんを攻撃したのは形態を硬質な金属に変化させての攻撃だろう」
金剛の考察を聞いたカルヴァリアらは頑強な身体を持った敵を睨み付ける。
「ここは俺が対処する。その為の装備を持って来たからな」
そう告げるとAD2がベルト右横のスイッチを押下する。
《Arms Transfer》
と、正義の乗って来た大型バイクがAD2の元へ転送される。すなわちそのバイクはAD2にとっての“武装”である事が伺えた。
「信濃と那珂はメタルレーマの足止めを、コイツで仕留めてみせる!」
バイクに搭載されたボタンを操作しながら言い放つAD2にカルヴァリア、アンデッドレーマがうなずき、メタルレーマへと向かう。
「これ以上被害は出させない!」
「私達が相手だッ!」
《LEON》
以前レオンレーマから採取したイートリッジをモータルザッパーに装填、レバーを引いてその能力を引き出す。
《Set Import……LEON》
《Mortal Slash……LEON》
獣の爪を模った性質を持つレオンイートリッジによる斬撃力特化の攻撃。
これにより鋼の肉体を持つメタルレーマにでも一太刀浴びせられる。
──と予想していたが、その体躯の堅牢さは予想を遥かに上回っていた。
「……な」
モータルザッパーの刃が折れた。
モータルスラッシュの強化斬撃による反動と、メタルレーマの硬さが合わさり、新技術の合金で構成されたはずのその刃が、破損したのだ。
「折れたァ!?」
思わず叫ぶアンデッドレーマに、メタルレーマが視線を向けた。
「──ああ、折れた、壊した。俺の肉体に負けた……そしてお前達も、壊すまでだ」
急に言葉を発したメタルレーマを見て、カルヴァリアは緊張感を覚える。
その出で立ち、強靭さに、今まで戦ってきたレーマとは異なる恐ろしさを感じたのだ。
「あなたは……何者」
カルヴァリアの問いにメタルレーマは静かに告げる。
「天渡会、“幹部”──」
幹部。その一言にカルヴァリアは硬直する。
「メタルレーマ、お前らが呼んでるその通り、鋼を司る天渡の使徒だ」