ARMORD CORE VI Revenge on the NEST 作:わるめ
「成程。敵にも味方にも成らない、か。面白い発想じゃないか」
それはカーラの本心から来る言葉であった。そして、それに続く言葉もまた……。
「だが、あんたはここに来るまでウチの戦力を破壊し突破して来た。その時点で、あんたは自分の意志とは関係なく私らの敵になっちまってるのさ。勿論私らとしては敵を見逃す訳にはいかない」
組織のリーダーとして、一人のAC乗りとして、自らの根城を荒らされてお咎め無しで相手を許す事はできない。
「悪いがここであんたを仕留めるよ。戦う覚悟を決めな」
カーラのACフルコースが、後ろに控える数多のMTが、そのカメラアイを光らせる。ガードナーに戦いを決心させるように。
「貴方の考えはわかりました。だったら俺は......。」
対するガードナーの行動は。ACリィンカーネーションの向きを反転させ、立ち塞がるフルコース達に背を向ける。
「逃げます」
ブースターから噴き出す炎が、その蒼い機体の背を押す。
「逃がすか」
撃ち出された数多のミサイルが、取り巻く機械人形達が。ただ1機を逃がすまいと追い込む。
それらを懸命に回避する1機。弾丸をフレアのように散らしミサイルを壊し、取り囲む機体の射線を外れるように絶えず動き続ける。縦横無尽に弾むように。
どんな技術を用いようと、どんな思想を持ち合わせようと。この場に存在するのは追う者と追われる者という至って単純な構図。
だがその数比は1対多。当然追われる者が不利である。
徐々に行き場を無くし、壁際に追い込まれたリィンカーネーションへミサイル群が迫る。業火の花々がぱらりと咲いた。
「やったか」
花が散り、その場にあったのはカーラの期待から外れた現実だった。
カーラの目に入ったのは爆発した機体ではなく、壁に空いた穴。
壁際に居たガードナーは被弾直前でミサイルを回避する事で、自身目掛けて突っ込んでくるミサイルを壁に当て爆発させたのである。
「してやられたか。チャティ!」
チャティ・スティック。カーラを補佐する、言わば右腕のような存在。しかしてその実態は、カーラが作り出した自らを楽しませるための提案型AIである。
「ボス、了解した」
戦闘が始まる頃、チャティはいざという時の保険としてリィンカーネーションの脱出経路を予測、ACサーカスを駆って先回りしていた。
壁の穴から屋外へ飛び出したガードナーは、グリッドから降下できるポイントを探して、ひたすらに突き進んでいた。
巨大なタンク、鉄骨が折り重なったような足場、柱、カーゴ。全て人の手で造られたという事実が信じられない程に広大な施設。生きてここを抜け出さなくてはならない。
立ち塞がる敵機の攻撃を避けながら、ただ前へ前へと全速力で。無論、全ての攻撃を避ける事ができる訳ではないが、多少の損傷は生きて帰る為の必要経費である。
そんなガードナーの足を止めたのは、進路上に立ち塞がる1機のAC、サーカスである。
サーカスが放った小型グレネードがリィンカーネーションに向かって飛んでくる。急停止したリィンカーネーションは地面を蹴り、跳躍する事で被弾を免れた。
宙へと逃げたのも束の間、頭上からこちらを睨んでいるミサイルの雨に気が付く。またアサルトブーストを起動させ、向かってくるミサイル達を避けてみせた。
『もたもたしていたら、挟み撃ちをくらってしまう』
そう予感したガードナーは、チャティとの戦闘を望まなかった。
けん制するように肩部ミサイルをばら撒き、サーカスにそれを避けさせる。
サーカスが退いた事で、その背後にあった通路への入口が露になった。ガードナーは、考えるより先に機体をそこへ潜り込ませる。この直観による行動が、謀らずもサーカスの武装の1つである垂直飛行型のミサイルを封じる事に繋がっていた。狭い空間で天高く飛翔するミサイルは、天井に喰われるのがオチだ。
入り組んだ通路を迷いながら進み続けるガードナー。
暗い通路を抜けてまた屋外の開けた空間に出る。
スキャンに敵機反応はない。暫く進むと、進路の先に上昇型カタパルトを発見した。
ガードナーは、カタパルトで遥か上空へ昇り、遮るものがない空路で脱出するという手段を取る事にした。
カタパルトまで残距離200メートルへ迫ったところで、道を遮るように見覚えのあるシルエットが急降下してくる。
「残念ながら、ここは私らの庭さ。あんたが何処へ向かっているのかさえ分かれば、先回りすること位訳ないのさ」
ACフルコース、シンダー・カーラの御出座しだ。
「待たせたな、ボス」
背後からはACサーカス、チャティ・スティックが追い付いてきた。入り組んだ地形に手間取った事、地の利が無い影響が如実に現れているとガードナーは痛感した。
「悪いが仕留めさせて貰う、チャティ!」
カーラの呼びかけで、チャティは肩部のミサイルを空へ放つ。同時にカーラが放ったハンドミサイルが、ガードナーの視界中に展開され停滞する。
停滞するミサイル群が、上空のミサイル群が。サーカスが撃ったグレネードの轟音と同時に、リィンカーネーションへ向かって来る。前後左右からの攻撃、完全回避は不可能と言って良いだろう。
「ここまでか」
絶望を胸に秘めながら、尚も生をあきらめないガードナー。リィンカーネーションの両手に携えた小さなハンドガンを構える。着弾前のミサイルを、グレネード弾を撃ち落として被弾を防ぐ魂胆だった。だがガードナーも内心分かっていた。こんな事で乗り切れるような局面ではないと。
「だったら、切り札を出すべきでしょう!」
気を失っていたレインが覚醒したのだ。そうして間髪入れずにコンソールパネルを叩いた事で、状況が変わった。
リィンカーネーションが白い光の球体に包まれる。その球体は、ミサイルと砲弾達の爆炎から機体を守ってくれた。
「何だ、この機能は」
「説明は後! 今のうちに!」
爆発の影響で発生した煙の霧から飛び出し、カタパルトへ向かう。そのリィンカーネーションの背中を更なる砲弾が襲うが、白い光の球体がそれも無効にする。
そうして追撃を振り切ったリィンカーネーションはカタパルトで自らを上空へ射出。そのままエネルギーが尽きるまで紅い空を飛行し続けた。グリッドからの脱出は成功したという事である。
グリッドから100キロメートル近く離れた地点で降下を始めたリィンカーネーションは、陸路で帰路についていた。
「何とか脱出できましたね」
「レインが組み上げた機体性能が素晴らしかったんだ、助かったよ」
「私こそ、また助けられてしまいました」
お互いがお互いのおかげで助かったと感じている。そういう意味では、ガードナーとレインの心境はかなり近しい。
「さっきの白い光のバリア、あんな機能があったなんてな」
「エキスパンションといって、コア拡張によって解放されるAC固有のシステムです。1機につき1種の技をセット出来て、さっきのようなパルスアーマーや、広範囲をパルス爆発で攻撃するアサルトアーマー等、幾つか種類があります」
「なるほど」
そして訪れた少しの沈黙の後、2人はこれからの事を話し合う。
「ところでレイン、君のメカニックとしての腕を見込んで頼みたいんだが、これからも俺の復讐に協力してはくれないか」
ガードナーとしては、機体の製作者がついてくれて整備を手伝ってくれたなら、頼もしい事この上ない。
「勿論タダでとは言わない。手伝ってくれている間、君の衣食住と身の安全は保障するつもりだ」
「いいですよ」
あっさりとした承諾だった。
「その代わり、貴方の復讐が終わったら、星を守るという望みを手伝ってはくれませんか」
コーラルを滅ぼす為に、この星を焼かんとする者達がいる。それを知ってしまったレインとしては、放っておく訳にはいかなかった。
対するガードナーとしては、カーラに「敵にも味方にも成らない」と宣言してしまっている以上、手放しで協力するのは躊躇してしまう。
「啖呵切った以上、直接あの人たちを叩く事は気が進まないんだけど。露払い位で勘弁してくれないか」
「んん!」
ガードナーの目をじっと睨みつけるレイン。納得を得る事は出来なかったらしい。
ガードナーは心の中で色々言い訳を考えた。自らの復讐の成功率を上げるには、レインの協力は得たい。だがカーラ達に敵対するのは抵抗があった。一度言った事を曲げたくないという性格の所為だ。だが戦いをしているんだから、状況が変われば判断も変わるだろうし、傭兵には平気で人を騙して殺すような者も少なくない。ことルビコンにおいて、また人生において、関わる人全員と仲良しこよしという訳にもいかないだろう。誰かの手を取る事は、時として誰かの手を跳ね除ける事にも成り得る。それに、この復讐の終わりを意味するのは......。ガードナーはキリがないと思って思考の濁流をせき止めた。
心の言い訳は済んだ。
「......分かったよ、交渉成立だ」