月下の変生   作:むきむき

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焼却

 

「『グラビティ』」

 

 エレベーターが物凄い勢いで落下する。

 

「扉が開いたままだと変な感っじっ!」

 

 エレベーターから手を離し、機装兵のいない階層に飛び移る。エレベーターの中には少女の遺体があるが、もうどうしようもない。

 

「ぐちゃってなるけどごめんねっ!」

 

 落ちていくエレベーターと少女に別れを告げ、廊下を駆けるとそのまま窓を突き破る。窓の外、眼下には無数の機装兵が蔓延っていた。

 

「いつどっから湧いて出たんだよ……」

 

 愚痴を溢しながら少女に渡した物と同じ黒い布を宙に広げ、指先で触れる。

 

「『グラビティ』」

 

 黒布は先程のエレベーターとは比較にならない程のスピードで地に落ちていく。

 

 眼下の機装兵の幾らかは拘束出来ただろうか。ゾンビであれば殺せるのだが。

 

 勢いそのままに別のビルの窓を突き破り、駆ける。

 

 幾つかのビルを超え、ゲートを超え、ついに現世に戻った。

 

「ふぅ……」

 

 息を深く吸う。夜の空気は澄んでいて、独特の空気感がある。

 

 予想に反して予想よりずっと楽に生還できた。それは攻撃も妨害も何もなかったことを意味する。

 

 思えば少女が撃たれた時はもちろん、扉が開いた時も、機装兵は私ではなく、少女を見ていた気がする。

 

 あまり考える意味もないから、考えないが。

 

「んーっ、今日はどっと疲れたなぁ」

 

 このダンジョンにはもう潜らない。またいい狩場を見つけないと……それも今は考えるのは疲れる。

 

「アイスでも食べよーっと」

 

 今日は軽く甘いものでも食べて寝るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮遊感が私を襲う。かと思えば叩きつけられるような衝撃を受けた。その後は執拗なくらいに全身を異物感が支配する。

 

 痛みが私を包み込んでいる。

 

 あの女を信頼し過ぎてはいけないと思ったばかりだというのに、あの女に従った矢先にこれだ。

 

 苛立たしい。

 

 あの女も、ここに案内したタロウも、私を殺し続けている怪物も、なすがままの私自身も、全て。

 

 全てが苛立たしい。

 

《お詫び申し上げます》

 

 あぁ、いたのか。己の失態に身を隠したのかと思っていた。

 

《非常に楽しく会話しておられましたので、見守るに留めました》

 

 あれが楽しく会話していたように見えたのか? 

 

 いや、そんなことはどうでもいい。ここは安全と言ったのはお前だ。なのに私は生まれて初めて体に銃弾で穴を開けられる羽目にあっている。

 

 ここが安全とは口が裂けても言えないだろう。それともお前は私が銃に撃たれても死なない化け物とでも思っているのか? 

 

《はい》

 

 惚けるな。愚痴を吐かせろ。お前は弁明ではなく、無様にみっともなく私に謝罪を繰り返せ。

 

《この文明の武器ごときで貴方様が死にいたることはありません》

 

 目も見えず、手足の感覚すらない、この私を見ても同じことが言えるか? 

 

《並の生物は脳を貫かれている状態で愚痴は言えません》

 

 ……私は脳を貫かれているのか。

 

《はい。穴だらけです》

 

 通りで痛くてたまらないわけだ。

 

《古の火を──》

 

 あぁ、それも分かった。

 

 さっきから胸の奥で燻っている何かが、それだ。

 

 体が熱くてどうしようもなかった。苛立ちを、憎しみを具現化したようなどろりとした火が、私の中で暴れている。

 

 私の中の自制心では抑えられないほどに──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば私は燃えていた。

 

 傷も燃えていた。

 

 傷が燃えて無くなった頃、私が見たのは世界が燃えている景色だった。

 

 怪物も、ビルも、車も、地面も、空も、全てが燃えていた。

 

 

 酷く既視感があった。

 

 

 それはついさっき見た光景だった。竜の体内の世界を燃やした光景だった。

 

 

 そこから先は知った通りだ。

 

 私は現世に戻った。

 

 違うのは、周囲にいる人間があの女のように武装していたことと、

 

 私が逃げられなかったことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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