表紙(自作)
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過去作
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=371089
のリメイクです。
過去作
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世界は変わった。
1913年の出来事—この世界が変わり始めた時代に起きたバルカン半島で始まった戦争が第一次世界大戦の引き金となった時、別の変容が起こった。戦争の最中に生まれた革命の火種が国全体を包み込み、多くの国の名前が書き換えられた。人々はそれを「赤い洪水」の時代と呼んだ。革命は新たな国家や文化を生み出し、世界が選ぶことができる道が新たに示された。
この事件は第一次世界大戦を終結させる結果となったが、同時に世界は不可逆的に二分された。ドイツを中心にした革命を推進する国、イギリスを筆頭とした革命に参加しない国と区分けされたヨーロッパは共産主義者と資本主義者が睨み合う戦場と化した。
しかし世界は変わった。1920年代の間に、その両方に与せず活動する第三の政治運動「加速主義」が自らの国家をフランスに建国した。1940年代、第二次世界大戦で資本主義者と共産主義者の両方を下して西ヨーロッパに覇を唱えた彼らは「赤い洪水」の時代を終わらせた。
1950年代の世界は大きく様変わりしていた。急速に勢力を拡大した加速主義の諸国、東アジアを中心に勢力を残した共産主義の諸国はそれぞれ「未来の建設者」と自称し、周辺諸国を圧倒的な軍事力で制圧していた。
「赤い洪水」によって生まれた新たな世界の姿はそれ以前と区別して「審判の日」と呼ばれた。
カフカース地方 トビリシ
この街は第一次世界大戦後にはロシア内戦に敗れた共産主義者の残党が確保して「カフカース協会」を建国し、第二次世界大戦前後にそれを破ってロシアの大部分を支配した「大スキタイ国」の領土になった。
「私たちは未来を知らない。未来がどんな形になるのかは私たちの働き次第で、これから訪れるのは私たちの時代です。私たちの過ちも、私たちの希望も、私たちの全てがそこにある。
そして今、世界は再び動き出そうとしている。動き出すのは私たちの運命であり、未来です。
これが私たちの物語です。そしてこれから始まるのは、私たちの名が記された新しい頁なのです。」
1人の少女が街の広場で声を張り上げている。リラという名のその少女は、大スキタイ国が成立してからその支配下のカフカース地方で生まれたスキタイの国民だった。
スキタイの政治家たちの多くは過去に縛られており、改革よりも現状の維持や安定を優先していた。生まれたばかりの国が抱える問題は複雑であり、課題が山積していた。
そんな折、彼女の前に現れたのが戦争だった。東アジアでは覇権を狙う共産主義国家「汎アジア労働者連邦」やスキタイに取って代わられた旧ロシア軍の残党が率いる軍閥国家「活仏領」が、自らの勢力を拡大しようと数年前にスキタイとの戦争を始めた。戦争の中でスキタイを支配する「国家農民党」はリラの政治への熱心さを評価し、彼女を党の青年部に入れた。
党での活動は大きな刺激になったが、党の行動は理想を追い求めることよりも権力を手に入れることに重点を置いているように見えた。リラは党に不信感を抱きながらも、社会改革への希望を捨てることはできずに党で活動を続けていた。
「私たちは今、決断しなければならないと思います。今の状況を続けるか、それとも自分たちで変えていくかです。」
広場に集まった数人から、微かな拍手が上がった。
「ここは私たちの国です。それは紛れもない事実です」リラは声のトーンを落ち着かせた。「しかし今日の維持のために明日を犠牲にしていいのでしょうか?私の提案は二つです」手を挙げて指を示しながら答えた。「第一に洗練されていない制度の改革。第二に国を堅持するための勝利。そして……」
深く息を吸い込んだ。「私たちに必要なのは真の平和です。これ以上兵士を増やしても長く続いた戦争の時代に対する根本的な解決にはなりません。」
静寂が広場を包んだ。冷たい秋風が吹き抜け、リラの長い髪を揺らす。わずかに集まった聴衆の間には疑念と期待が入り混じっていた。
「馬鹿な!」年配の男性が立ち上がり、叫んだ。「戦争を止めるだと? この戦争が終わってから、誰があの旧弊の、我が国始まって以来の宿敵達を止めると? 敵との決着を目の前にして和平など!」
別の方向からも声が上がる。「お前みたいな若い者が何を知っている! 父親や兄を戦場に送ったことのない連中の甘い考えだ!」
リラは目を閉じ、静かに深呼吸した。この反応は予想通りで、彼女の理想を実現するためにはこれを乗り越える必要がある。
一瞬、広場は静まり返った。人々が眉をひそめてリラの方を見つめる中で、彼女は答えた。
「なぜ私たちは常に戦わなければならないのですか?自らの国を守るための抵抗は確かに必要です。しかし、この10年間で何人が命を落としましたか?その犠牲に報いる平和は手に入れられましたか?我々は力を行使するのではなく、力に縛られているのではないでしょうか?」
聴衆の動揺した声が広場に響き、「もう十分だ!」と年老いた党員の男性が壇上に駆け上がり、リラの腕を掴んだ。「国家農民党の名を汚すような発言は許さん!」
「いいえ!」リラは党員の手を振り払おうとしたが、思い直して彼を見つめながら言葉を返した。
「我が党をこの先に繋げるためには平和が必要だと、私はそう信じています!」
党員の腕が強く締まる。聴衆がざわめく中、毅然と目を開く。
「我々は同胞のはずです!たとえあなたが私を黙らせようとしていても!」
党員の拳が肩に当たる寸前──鋭い笛の音が割り込んだ。治安部隊が広場に雪崩れ込む。
リラは安堵の息を漏らしたが、状況は変わらなかった。国家農民党の一元支配が敷かれる大スキタイ国は党への忠誠を重視するため、この後の取り調べで自身がどう扱われるか、想像に難くなかった。
取調室の椅子は硬く冷たく、身体は痛むが心は燃えている。壁には無数の錆びた金属板が貼られ、部屋の空気は湿気を含んだ重苦しさを漂わせる。扉を開けて入ってきたのは制服を着た男たちではなく、灰色のスーツを着た初老の男だった。その背筋は伸び、目つきは鋭く、口元には緊張感が漂っている。
「若い党員よ」低い声で彼は言った。
「私は中央の者だ。君の問題を担当することになった」
「えっ?」一瞬驚きを隠せなかった。中央と言うからには国家農民党が持つ様々な組織を指揮する幹部で、党員の監視や内部統制にも権限を持つはずだ。そんな人間が自分を尋問することに少しの不安を覚えるが、それで怖気づくような者が理想を語るべきではないと思い直す。
「昨日の演説は何の目的だった?」男は問いかけた。
「君はただの青年部のメンバーで、扇動を考えていたのではなく、より大きな計画に利用されたのではないかと私は疑っている。つまり、反体制のテロリストか何かから強要されて…」
「見くびるのは辞めてください、我が同志よ。全て党を思ってのことです。」
答えは簡潔で、何の飾りもなかった。
しかし、それが逆に彼女の強い意志を感じさせた。「国家農民党が現在直面している問題は何か、その解決策は何かということです」
「……具体的には?」初老の男は表情を変えず、冷静に問う。息を整え、口を開いた。
「まず第一に、我々の国家の根幹は農業にある。スキタイの経済が農業に依存していることは周知の事実です。しかし、近年では長引く戦争によって農地から若者が徴兵され、食糧不足に悩まされている。このままでは国民の、社会の安定が脅かされる。私は、農地の開拓と技術発展を進めることでこの問題を解決すべきだと思っています」
男は黙って聞いていた。
「第二に、我々の軍備は十分ではない。戦争の長期化により軍は消耗し、国民の負担は大きくなっている。このままでは士気が低下し、戦線が崩壊する恐れがある。私は、和平交渉に臨むことが重要だと思っています」
「……和平交渉?」男が眉をひそめたのに対して頷いた。
「戦争の長期化は国の将来を暗くするだけで、我々は一刻も早く戦争を終わらせ、復興に集中すべきです。そのために、私は和平交渉に賛成です」
男はしばらく沈黙し、再び口を開いた。
「……他には?」
「最後に、我々の教育制度は未熟。国民が高度な知識と技能を身につけることが、国家の繁栄につながります。私は教育制度の改革を進め、国民の学びを促進すべきだと思います」
男は深いため息をつき、額に手をやった。
「君は理想論者だな。現実の厳しさを理解していない」
「理想を語ることが悪いことなのでしょうか?掲げる理想がなければ、我々はただ生きているだけだった。理想のために戦うからこそ、我々は我々たり得るのです」
「だが理想だけでは何も変えられない」男が言った時、リラは答えられなかった。「我々は現実を見据えねばならない」その言葉に黙って頷くしなかった。
男はリラの顔をじっと見た。その瞳に強い意志が宿っているのを見て彼はしばらく黙った後、静かに言った。
「君の意見は確かに正しい。だが、我々は国家の安定のために戦争を続けて脅威を遠ざければなければならない。君への処分は私に任されているから、私の部下に入れてモスクワの党本部に移ってもらう。未来のためには、確かに理想が必要だ」
「分かりました、先生」
「先生?」
「私に様々なことを教えてくれるのなら、貴方は先生です」
リラが微笑むと、男も笑った。男が扉を開けると廊下にいた警備兵が「この娘をどうしますか?」と尋ねた。
「党本部に移送する。国家農民党の党員、私の同志としてだ」
“先生”はそう告げて歩き出した。リラも後に続いた。彼の後ろ姿は頼もしく、彼と共に歩む未来への期待を感じさせた。
モスクワに移って数ヶ月、“先生”は国家農民党の幹部として党と国のために働く姿勢をリラに示し、未来への一歩を踏み出す助けとなった。
一方、彼もまたリラの若い活力に刺激を受けていた。
「先生、私はもっと勉強したいです。農業、軍事、経済、そして政治」
「君は本当に熱心だな」
「先生が私の先生になってくれたように、私ももっと学び、成長したいんです」
“先生”は少し考えてから言った。
「では、一緒に勉強しよう。まずは農業と軍事について話をしようか」
彼は机の上の書類を整理しながら続けた。
「スキタイの農業政策について議論するとともに、戦争の現状分析と今後の展望について考えるべきだろう」
リラは目を輝かせ、“先生”は微笑んでうなずいた。
「まずはスキタイの農業について話そう。スキタイの農業は主要な輸出産業であり、国家経済の柱である。しかし、君が言っていた通り戦争による混乱で農村地域は疲弊し、食糧生産量が減少している。この問題を解決するために、私たちは農業改革を進める必要がある。具体的には、農地の生産性を向上させることが重要だ」
「分かりました、先生。では軍事についてはどうですか?」
“先生”は少し沈黙してから答えた。
「軍事政策に関しては、現状分析と今後の展望を考慮に入れる必要がある。戦争の長期化は国の将来を暗くするだけで、我々は一刻も早く戦争を終わらせ、復興に集中すべきだ。そのためには戦争全体への勝利が重要だ。君もおおよそ同意見だったろう?」
「私も同感です。戦争の長期化は国民に負担をかけるだけでなく、国家の将来を不安定にします。早急に終結させることは国家の繁栄にとっても重要です」
“先生”は満足げにうなずいた。
「では、次に経済と政治について話そう。スキタイの経済は戦争の影響で停滞しており、このままでは国内の安定が脅かされる。我々は改革を進め、国民の生活水準を向上させる必要がある。具体的には、農業や工業の生産性を高めることだな。そして政治面においては、我々の指導力と透明性を高めることで国民の信頼を獲得することだ。」
リラはしっかりと耳を傾けた。
「しかし、まずは私たちが共通の理解を持つことが大切だ。そのためには、まず君がしっかりと自分の考えをまとめる必要がある」
「わかりました、先生。すぐに取り掛かります」
リラはペンを手に取り、ノートをまとめ始めた。
「素晴らしい。では次に、我々の党の役割についても話し合おう。スキタイの未来を担う党として、我々が果たすべき責任は大きい。国家の安定と繁栄のために、我々は常に冷静な判断力と行動力を持たなければならない。特に現在のような困難な時期では、我々の決断が国家の将来を左右するのだ」
“先生”はリラの筆が止まったのを見て、声のトーンを和らげた。
「君の情熱は素晴らしいが、時には慎重に考える必要もある。理想を追い求めるのは良いが、現実を見失ってはならない。国家の利益を第一に考え、君の能力を最大限に活かすこと。それこそが、我々の党と国に貢献する方法だ」
「ありがとうございます、先生。先生の教えに感謝しています」
“先生”は軽く微笑んだ。
さらに数ヶ月が過ぎた頃、長く続いた戦争はスキタイの敗北と滅亡で終わった。国民の支持を得られなくなった政府は解体され、新たな政権が樹立された。
その朝は冷たい風が吹き、街角には不安と期待が混在していた。リラは“先生”の執務室で待っていた。
「リラ」
ドアが開き、“先生”が入ってきた。彼の顔は疲労の色が濃かったが、その眼差しは依然として鋭く冷静だった。
「スキタイは終わりだ」
彼は椅子に座り、深いため息をついた。
「敵がスキタイを打ち破り、首都モスクワに入った。国家農民党も解散し、我々の党はもはや存在しない」
「何が起きたのですか?」リラの声はこれまでになく震えていた。
「東アジアの共産主義者たちの軍が連携し、スキタイの軍を撃破した。防衛も間に合わず、国家の中枢は機能停止に陥った。我々の党は敗北し、国民の支持も失った。我々はもはやこの国を率いることができなくなった」
「では、私たちはどうなるのですか?」
“先生”はしばらく沈黙した後、静かに答えた。
「私は……これまで国家農民党を支えてきた。党のために尽くし、理想を追いかけてきた。だが、もはや党は存在しない。スキタイは崩壊し、我々は敗者として歴史のページに刻まれることになるだろう」
「先生……」
「私は今、党の幹部としての責務を果たす。残された時間でできる限りのことをして党を清算するつもりだ」
リラは言葉を失い、ただ“先生”を見つめるしかなかった。
「私は党の幹部として、これまでの行動の責任を取らなければならない」
“先生”の声は低く、その重みはリラにはどうしようもないとわかった。
「スキタイが滅びる中で、私は党の過去を清算し、新たな未来への道を切り拓く責任がある。そのためには、自らの命を捧げてようやく足りるかどうか」
リラの顔から血の気が引いた。
「先生……」
「リラよ」
“先生”が優しい口調で続けたのは、これ以上話す機会はない、最後の会話になるとわかっていたからだろう。
「私は君に多くのことを教えたつもりだ。理想を追い求める情熱、現実を見据える冷静さ、そして責任を全うする勇気。我々の妥協的なやり方は失敗した。君には理想に追いついてほしい。スキタイは滅びたが、我々が築いた理想は必ず未来に生き残るだろう」
「先生……私が代わります!」リラは声を震わせて言った。
「お願いです。お願いですから、命を捨てないでください!」
“先生”は目を閉じて微笑んだ。
「リラ、君の情熱と決意があれば、きっと新たな未来を作ることができるだろう。だからこそ、私は安心して未来を君に託すことができる」
“先生”は立ち上がり、リラの肩に手を置いた。
「私は党と共に歩んできた。今、党が消えゆくとき、私もまたその一員として、責任を果たさねばならない。だが、君は未来を見据えている。君の理想は必ず実現する。私はそれを信じている」
リラの目から涙がこぼれ落ちた。“先生”はリラを見つめて静かに続けた。
「ありがとう、リラ。君の存在が、私の最後の励みとなった。さあ、行ってくれ。私はもう先に進めない。君の理想を追いかけるんだ」
“先生”は部屋を出て行った。リラは一人残され、ただ静かに立ち尽くした。
スキタイの敗北と滅亡は、リラの心に深い傷跡を残した。しかし、“先生”の最後の教えはリラに新たな道を示した。彼女の物語はまだ始まったばかりだと。彼女は立ち上がって部屋を出ると、新たな旅路へと足を踏み出した。
スキタイの滅亡から一年が経った。
かつてのスキタイ国の象徴は戦火で瓦礫の山となっていた。破壊された建物や焼け跡は、かつての栄華が消えてしまったことを物語る。しかし、その中で人々は復興に動き出した。リラもまた、その一人だった。
彼女はモスクワ郊外の小さな村に転がり込み、農作業や村の人々との交流を通じて新しい日々を過ごしていた。スキタイの滅亡は彼女にとって大きな衝撃だったが、今はただ静かに未来を見据えていた。
ある日の午後、村の畑で作業をしていると、村の子ども達が近づいてきた。
「リラ、今日はどこまで昔のことを話してくれる?」
リラは汗を拭いながら答える。
「まだ全部じゃないけど、夕方までに終わりたいと思ってる」
「早く聞かせて!」
リラは微笑みながら、近くの石に腰を下ろした。
「昔のことはね、その時にいた人達のことも遡らなくちゃいけない。スキタイは敗れ、滅びてしまった。だけど、その中で生まれた理想や情熱は消えない。私たち人間は過去を知ることで、未来を作り出す大きな力になるんだよ。だから話そう。“審判の日”、“赤い洪水”が終わった後のそれからについて」
世界は変わってしまったが、また、世界は変わりつつある......