廃校にされたので、抵抗しようと思う 作:にーす
ゲヘナ学園の最高権力者である少女は、雷帝と呼ばれ恐怖された。
圧倒的な武力を背景に混沌が伝統的に日常にあるゲヘナを統一し、そのゲヘナを混沌から巨大な「暴力装置」に纏め上げた埒外の傑物である。
彼女は多方面でその才能を遺憾無く発揮し、その才はあまりに過剰で、やがて抑えきれぬ強権へと膨れ上がった。
諸人恐怖とも呼べる彼女には、一つの理想があった。
銃社会であるキヴォトスを、銃が必要ない真の学園都市にする。正しい姿で学生を勉学に励ませる環境を作る。それが雷帝が掲げる理想であり、その実現に向けて彼女は学校を丸ごと支配下に治め突き進んだ。
そんな彼女が取ろうとした手法は、残念ながら暴力であった。
彼女は自身の開発した兵器を背景に各学校を脅して従わせるつもりであり、場合によっては味方にするために謝礼金を支払う事も辞さない姿勢を示した。
こうした提案に真っ先に食い付いたのがアビドスの生徒会であり、絶望的な負債を抱えていた彼等は謝礼金目的で雷帝に追従した。それは隷属とさえ言えるかもしれない。
しかし彼女の発明や開発には、膨大な資源が必要だった。現在はほとんどを校外からの輸入で賄っているが、その出費も将来的にゲヘナの財政を圧迫し得る規模になっている。
その懸念が政権内で囁かれていた頃だった、雷帝が独り言を呟いたのは。
「自分達で賄えるようになればな」
雷帝の真意は単純だった。彼女は自分と研究チームで極秘に新たなエネルギーの開発に勤しんでおり、その出費も重なってしまった事で資源問題についてつい愚痴ってしまった。
しかし新エネルギーの完成は間近であり、財源的な問題も間も無く解決される手前だった。
だが万が一失敗すれば、ゲヘナは将来的に財政が破綻し、理想も瓦解する…。それを考えると、雷帝の不安は止まらなかった。
そんな上司の様子を見た側近の中に、この新エネルギー研究を知るものは一人しかいなかった。
だから側近達は暴走した。敬愛する、誇り高き夢を掲げる主君のため。雷帝の理想を守るため、命令の境界を超えて行動を開始した。独自に武装部隊を編成し、その矛先を探す。
己が正義と、大義名分を疑わない彼女達の思考は正に混沌と呼ぶにふさわしい。いくら締め付けて、纒める事に成功しても、その兵隊の根っこはゲヘナ生である。
こうしてゲヘナは、主君の理想を守るために、理想を食い破る善意の暴走を始めることになる。
※
私、海景カザミは今年で16歳になる。しかし公的な学歴は、幼稚園を除いて何一つない。
私が小等部に入学する前にアルビジョアは廃校となり、同校の附属学校である小等部や中等部も同時に無くなった。だから私が学舎として通ったアルビジョアは、世間的には実は存在していなかったりする。
しかしアルビジョアの生徒は連邦生徒会の決断に従わず、戦時中に自治区の一部を要塞化する事でトリニティに対して継戦意思を表明した。
以降は自治区の不法占拠を行う集団として扱われながら、学生達が自力で学校としての機能を維持していた。トリニティは連邦生徒会に自治区の領有権を認められた事で、大手を振るって戦力の投入を行なった。
しかしアルビジョアの反抗は激しく、ゲリラ戦や焦土作戦、果てには少数精鋭の部隊によるトリニティ自治区内の重要施設への破壊工作などが行われた。
そうした先輩方の抵抗もあってか、戦況はこちらが優位に立っていた。しかし食料問題が深刻化したアルビジョアでは、餓死者や難民として他所の自治区に逃げ込もうとする生徒や大人も少なくはなかった。
ただそのほとんどは、亡命前に食糧難で力尽きる場合が多かったが。
土地のほとんどが戦火で焼け果てた自治区内では、まともな耕作をする事さえ難しい。
わずかに残る農地では、アルビジョアの各戦線で戦う数千人の生徒を養う事は不可能だった。内陸部に広がっていた耕作地のほとんどはトリニティとの戦争で荒れ果て、トリニティの攻撃を凌ぎながら自治区の境界の目の前に広がる土地を復興させる事は不可能だと言えた。
土地の復興にはトリニティが大人しくしている必要があったが、切羽詰まった生徒会は私達に無茶な命令を下した。その内容は、ティーパーティーのホストの拉致。
トリニティのトップを確保する事で、停戦にこぎつけようと考えたらしかった。
この時点でトリニティと開戦して30年近くが経過し、現役世代の全てが生まれた時から戦争状態しか知らない世代で形成されていた。
そして私と34人の精鋭は1ヶ月をかけてトリニティに潜伏し、トリニティに入学させていた元アルビジョア生の手を借りてホストの拉致に成功。おまけに別派閥の長まで一人連れ去る事に成功し、捕虜の返還と相互不可侵を条件に停戦が実現した。
これには新たに就任した連邦生徒会長の意向もあったと言われ、停戦は思ったよりもスムーズに実現。
今は停戦から半年が過ぎた頃であり、残念ながら治安の回復は大きくは進んでいない。
数十年で深く根を張った犯罪組織の根絶は難しく、未だにブラックマーケットへの人売りは止まっていない。摘発例は劇的に増えたものの、根絶は出来ていなかった。
しかし大企業に対して採掘した鉱物を売る事で多額の資金を稼ぎ、それを元手に食料の輸入を行っている。幸いな事に自治区で採れる鉱物はキヴォトス内でも希少なため、戦争で流通量が減っていた市場では飛ぶように売れた。これも採掘施設周辺を死守した先輩方のおかげである。
そんなこんなで気付けば私は高校生。もうすぐ姉と同い年になってしまう。
「カーザーミー!」
屋上で一人黄昏ていると、邪魔者が背後から抱きついて来た。
「…マヒル、私の腰に突進する必要あった?」
「私がやりたかったから、仕方ないよね!」
「普通に嫌なんだけど」
あーはっは!とわざとらしい高笑いを浮かべるのは、私の同級生である白百合マヒル。
同じ新生徒会役員の1人で、今は配給用の食料の手配なんかをやっている。
「だって〜!私の仕事が終わるまで待っててって言ったのに、勝手に出ていくなんて許せないもーん!!」
「もーんって…」
「どう?普通の女子高生っぽいかな?」
「その普通の女子高生を知らない私に判断できる訳ないでしょ」
「えー。いいじゃん、適当に答えたらさ〜。私が喜ぶから、可愛く仕上がってるよ〜とか言ってよ」
望んだ回答を得られなかった彼女は、頬を膨らませながら抗議する。
「でも憧れちゃうよね〜。前に行ったトリニティのさ、お店に並んで談笑してる女の子…。いいなぁ〜!!私もカフェで可愛い女の子とお話ししたい!」
「お話ししてどうするの」
「え、ん〜…。えっち?」
「おじさんじゃん」
「は?ピチピチの15歳の女子高生なんですけど?巷で言うFJKなんですけど!!」
「…FJK?何それ、どこかの企業名でも訳したの?」
「ハァ?FJKは高校1年生の女子高生の略称よ!こんな事も知らないなんて、一般社会についての勉強が足りてないわよカザミ!!」
「最近楽しそうに支給された端末見てると思ったら、そんなこと調べてたんだ」
「だって、もう停戦したじゃない!やっと普通の生活を望めるのよ?」
「それも、いつまでもつか分からないよ。結局アルビジョアの廃校だって覆ってないし。」
私が淡々と答えると、マヒルは泣きそうな顔になってしまった。
「…そうだけどさ、これで最後だって信じたいじゃん。」
「…そうだね。信じたいね」
結局、それ以上会話が弾む事はなかった。
あんなに楽しそうだったマヒルは考え込み、私の肩に頭を乗せて目を閉じた。
停戦が実現しても、アルビジョアの生徒が平和を謳歌しているとは言いづらい。
そもそも開戦に至った経緯がトリニティとの対立で。廃校が決定したのも、連邦生徒会がトリニティからの工作に応えた結果に起こった出来事。
連邦生徒会は腐敗が進んで堕落し切っており、新たに就任した少女が提案した「アルビジョアの再興」も幹部の猛反対で却下されたらしい。新米会長も権力的な地盤が弱いためか、結局廃校措置が解かれる事はなかった。
そしてこの地の地下資源を狙って大企業が蠢いており、特にカイザーグループは空白地帯であるアルビジョアの完全な支配を目論んでいる。そうした目的で動くカイザー麾下の犯罪組織も確認されており、この平和は一時的なものに過ぎない。
これが私を含むアルビジョアの総意である。悲しくなるよ。
このように次の争いの準備期間だと考えられてる今、アルビジョアの上層部は他校への工作を検討した。アルビジョアの惨状は大きく取り上げられて来なかった。
廃校以前も「両校間の小競り合い」として報道されていた。廃校後は一切私たちの名前が出る事はなく、世間でのアルビジョアは忘れ去られてしまったのだ。
このような沈黙で最も得をするのは侵略者であり、自分達が非難されないのをいい事になんでもする。カイザーなどもその例に漏れず、自社製の兵器を隠す事なく犯罪組織に送っている。
こうした現状で損をするのは我々だけ。だから外部からこの沈黙を破ってくれる存在を、アルビジョアは獲得しようと動いている。候補として上がっているのはアビドスなど。
理由はシンプルだ。借金で再起がほぼ不可能な同校を支援し、依存させる事で事で繋がりを維持する。またアビドスには潜在的に対立する存在としてカイザーがいるため、その妨害にも使えることから有力候補になった。
明日あたりで実行するかの決定が下される。これが実現した場合、私は近日中にアビドスへ飛ぶ事になる。表向きは一般企業の代表として土地の購入を交渉するだろう。
ホストの拉致作戦を成功させた実績などが評価され、いざとなれば部隊と共に敵中の強行突破も可能だと言って選ばれた。
アビドスを騙すようで申し訳ない気持ちもある。
だが破滅に向かう者同士、互いをうまく利用して生き残れれば。そこちらの都合100%な理屈を考えながら、いつの間にか私の膝で眠ってしまったマヒルの頭を撫でた。
願わくば、このまま全てが丸く終わりますように。
だがそれが最も叶わない願いだと、私はよく知っている。