聖魔杯に乗り込んだら本物の未来視持ちがいて詰んだ件 ~公園でゲットしたパートナーがポンコツ過ぎる~ 作:信頼できる語り手
(死にてぇ……)
山寺シドウ。20歳。
高校卒業後、解放感のままにちょっぴりエッッな美少女が出てくるゲームを大人買いし、気付いたら多額の借金を抱えていた希代の大馬鹿野郎。実家には適当な事を言って、仕送りして貰う家賃とパンだけで2年間過ごしてきた。
だが先日、ゲームの届け先に間違えて実家の住所を書いた事で、全てがばれてしまった。仕送りを断たれたシドウに残ったのは、カビの生えた1袋のパンだけ。
そして迎えた3年目の春の決意である。
(マジで死にてぇ……)
困窮したシドウは慌ててゲームを売りに出したが、中古屋からは二束三文で買い叩かれた。以前なら激怒していただろうが、今の彼は怒る気力もなく肩を落とすだけだ。
一時の享楽に溺れて後先考えずに借金を繰り返した社会のクズよりも、中古屋のオヤジや借金取りの方が100倍まともな人間に思える。自分は社会から必要とされていないのだ。
だが、人間は追い詰められるほど冷静になる部分も確かにある。
(どうやって死にゃ良いんだ……?)
シドウもまた、いざとなってそんな事を考えてしまった。逆に言えば、それを選ぶ余裕はまだある。
(拳銃自殺?)
ミリオタの友人から、口に銃口突っ込んで撃つと楽に死ねると聞いた覚えがある。……いや、拳銃なんて何処にあるんだよ。
却下。
(練炭自殺とか?)
苦しそうだ。苦痛を与えない処刑方法に呼吸困難系がない事から、なんとなくヤバそうなのが分かる。
却下。
(じゃあ……)
却下。却下。却下。
駄目だ。苦しいヤツか、他人に迷惑をかけるヤツしか思い付かなかった。
(はぁ……)
困った。
パンの食べ過ぎでパサパサになった口内を潤す為に、近所の公園に向かう。そんなシドウの目に、1つの広告が飛び込んできた。
参加者募集。大会名:聖魔杯。
1年ほど前にテレビやラジオで放送されて話題になっていた広告だ。
そこには『優勝資格:勝ち続ける事。勝負方法:問わず』なんていう恐ろしい文言が書かれている。
「バーリトゥード推奨ってか?」
シドウの貧弱な想像力では、地下闘技場で戦わされたり、希望の船に乗せられたりするイメージしか浮かばない。
「そもそも、参加資格からして明らかに釣りだよなぁ……」
曰く、『人間と自律した意思を持つ人間以外の者のペアである事』。
意味不明だ。賢いと噂のイルカでも連れていけば良いのだろうか?
「大体、優勝景品も……」
気の沈んだ人間特有の管を巻いていたシドウの口が、ふと止まる。
「……優勝目録:聖魔王の称号。……称号、ね」
称号。つまり、権威だ。シドウとは真逆の立派な人間だけが持っているものだ。
シドウは考える。思えば、最後に人から褒められたのはいつだったか。いつから現実に嫌気が差し、ゲームの世界に逃避するようになったのだったか。
王とやらになれば、かつての輝いていた自分に戻れるのだろうか。
「……なるか、王に」
シドウの最大の欠点にして唯一の長所は、思い立った瞬間に行動する事である。
「まずはパートナー探しだな。母さんと父さんが出自を隠してなきゃ、俺は純人間。『自律した意思を持つ人間以外の者』ってヤツを捕まえる必要があるわけだ」
楽しくなってきたぜ。自分に言い聞かせるように呟き、シドウは噴水に刺さったイルカを無視して公園を後にした。
「キュー、キュー!ちょっと!何故、私を無視するんですか!そこのアフロの方!」
「あんだと?この髪は天然パーマだ。それから、俺の名前はシ・ド・ウ」
イルカは噴水から地面に着地し、ムカつく笑顔でニヤリと笑う。
「では、シドウ様!隔離空間都市にイルカと共に乗り込んで、魔人や精霊を驚かせましょう!」
胸ヒレをバタバタと振るイルカは、呆れるほど綺麗な滑舌で続けた。
「でも、ただのイルカじゃありませんよ!未来を予測できるほどの天才的頭脳を持った、ド級のイルカ!『ドルフィン』です!私に何でも訊いてください!」
「お前を消す方法」
「ちょっと!パソコンの中でフラフラしてるだけの敗北者と、エリートの私を一緒にしないでください!」
「コイツ、うるせぇ……」
──その出会いが、山寺
「……なぁ、イルカ?」
「……ドルフィンです」
「あの目付きのヤベぇ兄ちゃん──川村ヒデオ」
「ウス」
「キャラ変わってんぞ」
聖魔杯の最中。1人と1頭はヒソヒソと作戦会議を開いていた。
「未来視……ってガチ?」
「ハハッ、どうですかね」
「ふざけんなよ、こら。このエセ予言イルカがよぉ……。お前が絶対に勝てるっつうからペアを組んだのに……」
「ええっ、責任転嫁ですか!?シドウ様も王になってウハウハハーレム作りたいって言ってたじゃないですか!隔離空間都市の武装少女達とマキャヴェリズムしたいって言ってたじゃないですか!」
「そこまでは言ってねぇ」
シドウは額に手を当てて、溜め息を吐く。噂が本当ならこの会話も筒抜けなのだろうか。
「しゃあねぇ、やるか。で、やるからには勝つぞ、イルカ」
「キュー、キュー!私はドルフィンですが、確かにそうですね!最後は気合いですよ、気合い!」
「……お前、頭脳派キャラはどうした?」
「私はたった今から、データを捨てます!」
「馬鹿がよぉ」
シドウは冷や汗を流しながらも、なんとかふてぶてしい笑顔を作る。強敵達との戦いの記憶と背負った想いが、彼の心に譲れない何かを残していた。
(せめて、華々しく散ってやらぁ……!)
愛用のナックルダスターを拳に嵌めて、山寺シドウは川村ヒデオとの戦いに臨む。
(いや、でもさぁ。この状況は一言くらい愚痴っても罰は当たらんだろ)
シドウとドルフィンの今の心境を言葉にするとしたら、こうだ。
──聖魔杯に乗り込んだら本物の未来視持ちがいて詰んだ件。