聖魔杯に乗り込んだら本物の未来視持ちがいて詰んだ件 ~公園でゲットしたパートナーがポンコツ過ぎる~   作:信頼できる語り手

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拳の向かう先

「ダンジョン……?」

 

「そうです!チケットを稼ぐならココしかありません!」

 

 シドウの隣ではドルフィンが胸ヒレでタブレットを操作している。器用なものだ。シドウは体のタフさだけが取り柄なので、頭脳方面を補えるパートナーは正直助かる。

 

「チケット、ねぇ」

 

 ドルフィンが言うチケットとは、この隔離空間都市の通貨だ。センタービルの地下ダンジョンでモンスターを倒せば、それが手に入るらしい。

 

「モンスター狩りなんて、原始人みてぇだな。ファンタジーな都市なら、もっとスマートなやり方はねぇのか?」

 

 シドウがそう言ったのは、開会式直後に見せ付けられた川村ヒデオの華麗な勝利が記憶に残っているからだ。

 

 ──ジョージ・レッドフィールド。大佐と呼ばれていた優勝候補。裏の世界を何も知らないシドウでも本能で『勝てない』と悟り、逃げ腰になっていた化け物。

 

 その迫力に対してヒデオは1歩も退かず、むしろ相手を呑み込んでみせた。

 

 コイントス。1回で充分。……動体視力に自信のあるシドウでも、彼が何をしたのか分からなかった。

 

 シドウに理解できたのは、元グリーンベレーが初日に敗退するほどの、聖魔杯のレベルの高さ。

 

 隠れてやり過ごそうだとか、適当なハッタリで誤魔化そうだとか、そんな温い手は通じない。

 

 聖魔杯の参加者は、皆が知力と体力を兼ね備えた超一流の勝負師なのだと。

 

「キュー、キュー!そもそも、シドウ様は馬鹿で根性なしで金運もありません!格好付けてスマートな手段を選んでいては、総合力の高い優勝候補達には勝てない!腕っ節で勝負するしかないのです!」

 

「ちっ、的確な分析どうも」

 

 返す言葉もない。馬鹿で根性なしは自覚している。運もあまり良いとは言えないだろう。

 

「豪運に自信がありゃ、ヒデオみてぇにコイントスで参加者を減らせたんだがな」

 

「運だけでゴリ押しする姿は、川村ヒデオと違ってスマートじゃありませんけどね!」

 

「やかましい。おし、ダンジョン行くぞ」

 

「エッホエッホ」

 

「なんだ、その移動音は……?」

 

 

 

 清潔で広々としたセンタービルのロビー。

 

「本日はどのようなご用件でしょうか……?」

 

 前髪で両目を隠した受付嬢──チェネルが、ガタイの良い成人男性とイルカにおどおどと話しかける。

 

「モンスターを殴り殺しに来た」

 

「……あ、ダンジョンのご利用ですね?それでしたら、こちらの用紙にお名前・到達階数・予定利用時間を記入してください」

 

 物騒な言葉に一瞬固まった後、意図を汲んで紙とボールペンを差し出す。

 

「あいよ。……あん?到達階数?」

 

「どれくらいの深さまで降りるかですね」

 

「最下層に決まってんだろ?それ以外にあんのか?」

 

 シドウが首を傾げると、ドルフィンが横から素早くボールペンを奪った。

 

「ストップ、ストップ!私が書きますから!アドレナリン中毒のガキは、向こうで逆立ち腕立て伏せでもしててください!」

 

「誰がアドレナリン中毒のガキだ。……一応訊くが、今の最高到達階数は?」

 

 シドウは逆立ち腕立て伏せをしながら、チェネルに確認する。

 

「レッドフィールド大佐の68階がレコードですね。ちなみに、エレベーターで50階まで行けますよ」

 

「んじゃ、小手調べに50階から……」

 

「キュー、キュー!」

 

 ドルフィンは背ヒレでシドウを叩いた。

 

 

 

「よう、シドウ」

 

「ういっす、リュータ」

 

 野戦服姿の男性に手を振られ、シドウも手を上げて返事をする。

 

 ──リュータ・サリンジャー。大佐の弟子であり、シドウが当面の目標としている男。底の見えない川村ヒデオなどと違い、強さの質が分かりやすくて良い。

 

 隣に立っているパートナーは、百科事典のような分厚い本を抱えた美女だ。エルシアというらしい。

 

(あの本が武器って事か。このペアと戦う時には、真っ先に奪う必要があるな)

 

 無言で考える。冷たい系の美女はシドウの苦手とする相手なので、わざわざ話しかけようとは思わない。

 

(姉ちゃんを思い出すんだよなぁ……)

 

 シドウの借金が姉にばれたら、全治1ヶ月以上の怪我を負わされる事は確実だ。そんな姉と同じ暴君の気配がエルシアにはある。

 

(やっぱ、裏表のない元気っ娘が一番だぜ。錬金術師のアカネちゃんとか、ミッシェルちゃんとか、霧島レナさんとか……)

 

「にしても、お前は随分と軽装だな」

 

「俺はコイツがありゃ戦えんだよ」

 

 愛用のナックルダスターを掲げて、シドウは得意気に宣言した。

 

「俺の拳は師範代の兄ちゃんにも効くんだぜ?姉ちゃんは小指で止めるけど」

 

「お前の姉ちゃん、本当に人間か……?」

 

「……実はこの都市に来てから、若干疑いが芽生えてる。魔人ってヤツかもしれん」

 

 

 

 シドウの初めてのダンジョン探索……と言うよりもスライムに代表される雑魚モンスター狩りは、特に達成感もなく終わった。

 

「良い汗かきましたね!」

 

「モンスターは全部、俺が倒したけどな。後ろからのんびり付いてきやがって。……また時間ができたら挑むか。リュータより下の階までは行きてぇ」

 

「本命の聖魔杯の方を忘れないでくださいよ?」

 

「当たり前だろ」

 

 シドウは両の拳を打ち鳴らす。

 

 北大路美奈子。リュータ・サリンジャー。バーチェス・マルホランド。長谷部翔希。リリー・オブ・バレイ。

 

 そして、圧倒的な強さを示し続けている優勝候補筆頭──川村ヒデオ。

 

 皆が皆、得体の知れない強者。

 

「はっ、上等!」

 

 だから、どうした。

 

「聖魔王の称号を獲るのは、俺だ」

 

 シドウもまた、勝利に飢える1匹の獣である。

 

 

 

 翌日。

 

「俺達と勝負しろ」

 

 シドウが指差したのは、包み込むような優しい笑顔を浮かべる男性。隣には虚ろな目をしたパートナーが控えていた。

 

 喧嘩馬鹿『山寺シドウ』&海の賢者『ドルフィン』が選んだ、次の対戦相手は。

 

「社長」

 

 ──物産店マルホランド社長『バーチェス・マルホランド』&ガンマン『ザジ』。




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異能バトル長編もよろしくお願いします。
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