聖魔杯に乗り込んだら本物の未来視持ちがいて詰んだ件 ~公園でゲットしたパートナーがポンコツ過ぎる~   作:信頼できる語り手

5 / 5
言葉は魔法よりも

 シドウには労働の経験がある。

 

 バイトではない。借金のカタに頭のおかしな連中へ売り飛ばされて、強制労働に従事させられていたのだ。

 

 結局、給金を渡される前に命の危険を感じて逃げ出したので、借金の額は減らなかったのが悲しい。

 

 それどころか逃走の際、旧知に追跡の妨害と安全な引っ越し先の紹介を依頼した事で、更に借金が膨らむ始末。

 

(まさに、骨折り損ってヤツだったが……何でも経験してみるもんだな。まさか、平和な日本であの人の教えが役に立つ日が来るとは)

 

 戦闘中は視界を広く保つ事。思考よりも感覚に身を任せる事。

 

(だよな、師匠!)

 

 足元に『何か』の前兆。

 

 シドウは土埃が舞う勢いで地面を蹴り、双子の姉妹──ノルカとソルカに向かって走った。

 

「「アイシス!ニードル!フロンタ!」」

 

 息の合った詠唱。シドウにその意味は理解できなかったが、咄嗟のサイドステップで氷塊を躱す。

 

 何本かの氷が左腕をかすめて、鋭い切り傷ができた。しかし、足を止めたらそれこそ終わりだ。

 

 明らかな格上。この2人がシドウを侮っている今しか、勝機はない。

 

(観測点の魔眼!喰らいやがれ!)

 

「斥っ!!」

 

 シドウの魔眼による事象再現。

 

「「きゃっ……!」」

 

 姉妹の体が弾かれたように吹き飛ばされ……消えた。

 

「なっ!何処に行きやがった!?」

 

「ここよ。ウェイバー!ダウン!」

 

「多少は使えるみたいね。ボルタ!クラウ!ダウン!」

 

 突如、真上から叩き付けられる波動と激しい電流の雲。シドウの肉体が軋み、意識が明滅した。それでも、意思だけで踏み止まる。

 

「そこ……か……!炎獄、舞えっ!!」

 

 シドウはフラつきながらも、頭上に視線を向け、静謐な青白い炎を解き放った。

 

「「なっ……!」」

 

 姉妹から焦ったような声が上がる。

 

(ははっ!やっぱ、コイツは効くのかよ!愛してるぜ、本家の菊婆ちゃん!)

 

 してやったりと笑うシドウだが、その一撃は姉妹に確かな警戒を抱かせてしまった。

 

 そして、歴戦の強者であれば、彼の強さが眼に依存している事くらいは予想できる。どれほど強力な魔眼を持っていても、シドウ自身は頑丈なだけの人間に過ぎない事も。

 

 すなわち。 

 

「「眼さえ塞いでしまえば!」」

 

「ヤベっ」

 

 ソルカがシドウの背後に転移し、彼の体を魔人の腕力で押さえ込む。ノルカはシドウの隣に現れ、魔眼を閉ざそうと……。

 

「なぁんてな!」

 

 近距離。この瞬間を待っていた。

 

「えっ……?」

 

 ソルカの体がぐるんと反転し、地面に叩き付けられる。これまでとは比べ物にならない流麗な動作。

 

 神殺し四家を源流とする分家──山寺に生まれた彼が、無意識に繰り出せるほどに反復してきた業。

 

 自由になったシドウは拳を構える。借金のカタに売り飛ばされた先で出会った師匠──フローレンスの激励が脳裏に過った。

 

『死ぬのなら戦って死になさい、シドウ!!この私がヴァルハラに導いてあげるわ!!』

 

 素早く息を吸う。驚愕の表情を浮かべるノルカへと拳を振るった。

 

「きぃいいいいいいいいいいいい、えぁああああああああああああっ!」

 

 悲鳴にも似た威勢と共に繰り出される、超高速の乱打。かつての師から見せられた槍捌きをなぞるように。

 

「ぁ……」

 

「ノルカ……っ!?」

 

 崩れ落ちるノルカを見届ける事なく、シドウは起き上がったソルカを視界に収める。

 

「死ぬんじゃねぇぞ?三型具象……」

 

 決着を付けようとしたシドウの動きが、目の前に転移させられたソレを見て静止した。

 

「お前……!?」

 

「キュー、キュー!何事ですか!?」

 

 観測点の魔眼の欠点は、視界内の全てを巻き込んでしまう事。魔人の姉妹は良い。だが、ドルフィンは。下手したら死……。

 

「エクス!フロンタ!」

 

 シドウは躊躇したまま、強烈な爆圧と爆風に呑み込まれた。

 

 

 

「キュアー!キュアー!オーラ!……大丈夫?ノルカ?」

 

「ええ、問題ないわ……。ソルカ」

 

 回復魔法を受けたノルカの傷が完治する。

 

「パートナーを気遣って負けるなんて、愚かな男ね。ねえ、ノルカ」

 

 ソルカは悲痛な鳴き声を漏らすドルフィンを踏み付けて、努めて冷淡に言った。

 

「そうね、ソルカ」

 

 ノルカは倒れ伏したシドウを見下ろし、魔法を……。

 

「──やめなさい」

 

 一声。ノルカの魔力が霧散する。不発、不発、不発。

 

「ど、どうして……?」

 

「私は戦闘は不得手なのですが……貴女達が常識の内側にいる存在で助かりました。(こちら)側には『言葉』の通じない化け物も、それなりにいますからね」

 

 よく通るその声は、ソルカの足元から。

 

「ところで、自分が誰を足蹴にしているのか理解していますか?ねえ、小娘(ソルカ)?」

 

「ひっ!?ひいっ……!?」

 

 ソルカは『得体の知れないモノ』に恐怖し、慌てて飛び退いた。

 

「ノルカ。ソルカ。私に名を知られた時点で、貴女達に逃げ場はありませんよ」

 

 ソレはあらゆる存在と交信する力を持っている。

 

「──さあ、平和的に言葉を交わしましょう」

 

 

 

「おい……どうなってんだ、こりゃ?」

 

 シドウはアパートの自室で首を傾げる。

 

「ノルカ」

 

「……」

 

 人形のように立ち尽くす姉妹の片方を指差してみるが、返事はなかった。ちなみに、魔眼を通して見れば2人の区別は難しくない。

 

「ソルカ」

 

「……」

 

 もう一方の澄まし顔に指を近付けると、鬱陶しそうにはね除けられる。微動だにしなかったが、生きてはいるらしい。

 

「イルカ」

 

「ドルフィンです」

 

 爆速で訂正された。

 

「なんやかんやで、双子の姉妹が仲間になりました」

 

「俺が質問してんのは過程であって、結果じゃねぇんだが……まあ、別に良いけどよ。なあ、お前ら」

 

 シドウの魔眼に睨まれた姉妹が、緊張した表情になる。

 

「宿はあるんだよな?情けねぇ話だが、今の俺はチケットの持ち合わせがねぇんだ。明日ダンジョンに潜って稼いでくるから、それまでの食事と住居は自分で用立ててくれねぇか?」

 

 シドウはポケットに押し込んでいた財布を取り出し、寒々しい中身を姉妹に開示して頭を下げた。

 

「えっ、それだけ……?」

 

「尋問とかは……?」

 

「いや、しねぇよ」

 

 彼は古いタイプの家で育てられ、高校時代はヤンキー仲間とつるんでいた人間なので、身内は絶対に守るべしという価値観が根付いている。

 

 ドルフィンに仲間と言われた次の瞬間には、ノルカとソルカに対する敵意を綺麗に捨てていた。切り替えの早い男である。

 

「なんなら、この部屋に泊めてしまったらどうです?巨体のシドウ様用にベットの広い部屋を借りたので、2人程度なら追加で寝れますよ?」

 

 ドルフィンの迂闊な発言に対して猛反発したのは、意外にもシドウだった。

 

「馬鹿野郎!日本男児を舐めんじゃねぇ!将来を誓い合う前の女と同衾なんて、そんなダセぇ真似できるかよ!まずは手を繋ぐところからだ!」

 

「なんで恋愛観は硬派なんですか!?」

 

 姉妹が顔を見合わせる。

 

「手を繋ぐところからですって、ソルカ」

 

「アフロの男はあんまり好みじゃないわ、ノルカ」

 

「天パだ!!!」

 

 それは、さておき。

 

「……つまり、お前ら姉妹はエルシアの本が欲しいわけか」

 

 その後、姉妹と軽く話したシドウは、鷹揚に笑ってみせた。

 

「そんなら、俺に良い考えがある」

 

 

 

 翌日。商業区のカフェテラスの一角にて、シドウはエルシアを発見した。

 

「おーい、エルシア」

 

 フレンドリーに手を振りながら、長身に見合わぬ軽やかなステップで距離を詰める。

 

「物は相談なんだが……お前の持ってる『666』って古本、俺に売ってくれねぇか?」

 

「429ページ」

 

 シドウは吹き飛んだ。

 

「「「馬鹿……!」」」

 

 ロイヤルミルクティーを飲んでいたエルシアが、優雅に顔を上げた。視線の先は、魔人姉妹。

 

「こうなったら、やるしかないわね!ソルカ!」

 

「ええ、そうね!ノルカ!」

 

 

 

 一方。エルシアの起こした突風で飛ばされたシドウは。

 

「何度か『記録』する機会があって助かったぜ!──斥っ!!」

 

 どうにか無事に着地していた。

 

「にゃ……にゃーんと……空からアフロの巨漢が降ってきた~……?」

 

「天パだ……って、『今日の聖魔杯』の司会のヴィゼータさん!?」

 

 落下地点の近くにいた伊達眼鏡の少女を見て、シドウは思わず叫ぶ。

 

「おーっ、このワタシを覚えてるとは感心感心~。いかにも!」

 

 ヴィゼータが、ばっとポーズを決める。

 

「ある時は『今日の聖魔杯』の司会!ある時は聖魔都市の皆のアイドル!しかして、その実態は!?へーんしーん!!」

 

 くるん、と一回転。

 

「おわっ」

 

 シドウが驚く。ほんの一瞬にして、ヴィゼータは羽根付き帽子にマント、細身の長剣を下げた黒ずくめの姿になっていた。

 

「美少女剣士ヴィゼータ、久し振りにけーんざーん!!」




感想お気に入り評価付与、ありがとうございます。

異能バトル長編もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:5文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。