私、これでも幹部なんですけど!?   作:石鹸52mm

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内海アオバの備忘録
内海アオバの備忘録0


 

 このSSは内海アオバのSSです。

 ※一部修正しました

 

─────────

 

こんにちは。私は内海アオバと言います。これは私の備忘録…私が二年生になる前のお話、なんですけど。

 

私は家庭があまり裕福ではありませんでした。それに、勉強も得意ではありません。そのせいか、地元の同級生や上級生に無視されたり、怒鳴られることが多くて…うう、思い出したくもありません。

 

私が高校生になるとき、どこを選ぼうか悩みました。得意分野がある子はミレニアムやワイルドハントを選びます。正義感がある人はヴァルキューレを、優雅な学校生活を望む人はトリニティを。…みんな、夢があっていいなぁ。

 

私はこれと言って秀でている物がありませんでした。何かに打ち込む努力も、誰かと打ち解ける明るさも持っていません。私は楽しい学校生活なんか求めません。求めることもできない、が正しいですけど。

 

だから、安直な選択をしたのです。地元の同級生と関わらず、新しく誰かと関わることもないけれど、安定した高校生活が送れる場所。それはハイランダー鉄道学園。校舎を持たず、陸送の路線を運航する学校。

 

路線ごとに派閥はありますが、結局幹部になってしまえば関係ありません。上から指示するだけなのですから。そして、大企業ネフティスが後ろ盾についているという安心感。当時の私からすればそれは抗いがたい選択でした。

 

今にして思えば、私はこの時「どうしたら自分なんかが幹部になれるのか」という重要なことを失念していました。それを考えておけばもっといい選択が取れたかも…なんて、今考えても無駄ですけど。

 

ということで、私は今─────

 

「内海さん、私ちょっと今から急用でさ~…ここの作業代わってくれない?」

 

「あの、まだ私今週の週報書き終わってなくて…」

 

「週報って提出の期限明日まででしょ?週報は明日の朝までに提出してくれれば目通しておくからさ、頼むよ~」

 

「…はい、分かりましたけど」

 

「いや、助かるわ~それじゃ!」

 

絶賛、仕事中です。私の上司にあたる人は私に仕事を押し付けて、そそくさと帰る支度をしています。責任感とか、ないんでしょうか。別に私は貴方の小間使いじゃありませんけど?私は視線を上司から少し下にずらして、自分の手を眺めます。手に持っていたレンチに少し力が入ります。少し痛い目を見てもらったら反省するでしょうか。

 

(…いけない、落ち着くんだ私)

 

頭に浮かんできた嫌な考えを振り払います。今はそれですっきりするかもしれませんが、その後が怖いです。矯正局なんて、二度と行きたくありません。それに、この人に何をしたところで仕事はなくなるわけではありません。

 

「あれ?」

 

視線を前に戻すと、上司はもうこの場から立ち去っていました。整備棟から見る空はもうすっかり夜になっていて、ここには私一人しかいませんでした。

 

「はぁ…最悪なんですけど」

 

私は溜息をつくと、帰る時間と、晩御飯のことを考えました。今日は家に帰ったらもう何かを作る気力もありませんし、コンビニで何か買って帰ろう。そこまで考えると私は今までの考えを片隅に追い払い、自分の工具箱を持ち直すと、整備が途中の列車の下に屈むのでした。

 

─────────

 

コンビニで今日の晩御飯を買った後、私はずっしりと重たい身体をなんとか動かして、家に帰っていました。時間はすっかり日を跨いでしまっていて、今日も睡眠時間を削らないといけないようです。

 

「はぁ…なんで、こんな」

 

これが今の私の毎日。仕事をして、ご飯を食べて、寝て、また仕事に行く。その繰り返しです。今にして思えばハイランダーがネフティスの後ろ盾があるからこそ、でしょうか。キヴォトスで技術革命が起こらない限りは陸送はなくなりませんが、逆に言えばずっと仕事があるということです。

 

この調子ではただ年月だけが経って、幹部にもなれず卒業まで同じ生活でしょう。幹部は甘い汁を啜って居座り、下の者はずっと苦しむ。幹部が卒業したら繰り上がりで昇格した人がまた────その繰り返し。

 

これじゃ昔よりももっと悪い状態かもしれません。キヴォトスに未曽有の危機とかがやってきて、学校のほとんどが動かなくなればいいのに。でもハイランダーは輸送がある以上運行はするだろうから来ても意味ないかな、なんて一人で問答していました。

 

ふと、空を見上げると星が瞬いています。なんでも今日は流星群が降る日らしくて、クロノスニュースでは「願い事は必ず三回言いましょう!」なんて言ってました。そんなの叶うはずがないのに。

 

私はその時疲れて頭が回っていなかったのでしょう、ありきたりな願い事をぼそっと口にしていました。

 

 

 

「どうか良いことがありますように、なんて」

 

 

 

一度だけの、小さな願い事を口にすると私は空を見るのに飽きてしまって、地面を踏み出そうとした、その時でした。鋭い何かが左足に当たりました。外なので画鋲とかではないと思いますが、私は暗闇で足元を覗きます。

 

「ん~…?」

 

足に当たっていたのは、黒い何かでした。私はグローブをつけていたので、そのまま拾います。それは一瞬石に見えましたが、電灯の光を返しているので、鏡だと分かりました。鏡は私の手のひらに収まるほど小さくて、鏡らしく八角形の形をしていました。でも、黒い鏡なんて、誰が、何のために使うのでしょうか。私は疲れていたのでしょう、それをポケットに仕舞うと、とぼとぼと、帰り道を歩いて行くのでした。

 

 

─────────

 

「…やはり、連邦生徒会長の失踪は、ハイランダーにも皺寄せが来ていますね」

 

「連邦生徒会長が失踪してからというものの、鉄道事業での事件発生率は目に見えて増えています」

 

「現状発生した現場でのトラブルは乗務員に一任していますが、やはり運行時間の遅れ、乗務員の態度について苦情も多数上がってきています。今一度、ネフティスに力を仰ぐのはどうでしょうか」

 

「その件なんですが…ネフティスからは、"出来るだけ最低限の予算で対処するように"と回答が来ていまして」

 

「そうですか、では乗務員に再度緊急時のプログラムを目に通すよう通達しますか」

 

「それも一つの手でしょう。…しかし、これを見てください」

 

「…これは、先月の体力測定ですか。…ふむ、例年より平均値が上がっていますね」

 

「そうです。中でも一人、軒並み結果が良かった生徒がいましてね。中学校まで遡ると、矯正局送りになったこともあるのだとか」

 

「ほう、この生徒を軸にすると?」

 

「そうです、元々ハイランダーにはトラブルを鎮圧する部活が存在しません。故に、荒事は各路線の学校の判断に委ねてきましたが…一度、試験的にそういった部活を新設するのはどうでしょう?」

 

「なるほど、運用して成果が上がれば、ヴァルキューレとの連携も速やかになるでしょうね。苦情も減らせますし、ひいては我が校の評判回復にも繋がりますね」

 

「…では該当の生徒には理事会名義で辞令を出しましょう。…スオウ?」

 

「はっ」

 

「理事会からの辞令を該当生徒…内海アオバに連絡するように」

 

「かしこまりました」

 

「では、今日の定例会議は以上で終了です」

 

 

─────────

 

某日、ハイランダー鉄道学園 駅舎

 

「…内海アオバはいるか?」

 

その声が整備棟に響いてきたのは、時計の針が真上を指す直前、私が列車の整備をしている時でした。

 

私は帰ってきた列車の整備を「緊急の用事があるから!」と上司に任され(押し付けられた、とも言うんですけど)1人で作業していました。

 

あまり聞き慣れない声と共に、カツカツ、と靴が床を鳴らして、やがてその音は私の後ろにやってきました。

 

私は作業中だったので、

 

(誰だろう、面倒くさいなぁ)

 

と思いながら作業を中断して、工具を片手に持ったまま後ろを振り返りました。

 

「…お前が内海アオバか?」

 

「はい、そうですけど…」

 

ハイランダーの制服の中でも型式ばった制服を着た、右目に眼帯をした人が無表情で私を見下ろしていました。恐らくハイランダーの幹部職の人でしょうか、バインダーを片手に持っています。

 

「私は朝霧スオウ。管理室の管理監督官だ。お前に話がある、ついてこい」

 

「あの、お昼は…」

 

「どうした?」

 

「いや、なんでもないです…」

 

私が小さく抵抗したのはスオウさんには聞こえなかったようで、私はげんなりとした顔でスオウさんについて行きます。お昼ご飯、食べる時間あるのかな。

 

─────────

ハイランダー鉄道学園 会議室

 

「かけてくれ」

 

「はい、失礼します」

 

私があまり入ったことのない、会議室にやってきました。中央に低めのテーブルが置いてあって、2人掛けのソファが挟んでいます。スオウさんがソファに腰掛けると、私も続いて反対のソファにぎこちなく腰掛けました。

 

このソファ、柔らかいです。休憩室のパイプ椅子もこれに変えてほしいんですけど。私が腰掛けたのを見ると、スオウさんはすぐ手に持っていたバインダーをテーブルに置き、話し始めました。

 

「お前を呼び出したのは、理事会からの意向でな。私が代わりに赴いた」

 

「は、はぁ…」

 

「先月に行われた体力測定は覚えているか?」

 

「まぁ、はい」

 

体力測定、確かに先月ありました。この学校は配属が路線毎に分かれていて、体力測定の結果と本人の希望など諸々で配属を決めています。

 

私が入学した時は「人と話さなくて楽そうだから」という理由で、配属は整備士を希望しました。スオウさんはバインダーに挟んでいた紙を一枚取り出すと、私の目に入る位置に置きました。

 

「これがお前の測定値で、一般生徒の平均値も載っている」

 

「……へー」

 

その紙に載っていた内容を見て私はなんとも言えない返事を返しました。全ての測定結果において、私の測定値が平均値を大きく上回っていたのです。平均値を越えている。だからなんなんでしょう。

 

「これを見て思うことは?」

 

「別に、なんとも。測定の時だけ調子が良かっただけだと思いますけど…?」

 

「そうか」

 

スオウさんも特になんとも思わなかったようで、生返事が返ってきました。私、あまり話してませんが既にこの人のこと嫌いです。

 

スオウさんは会議室に置いてあったテレビのリモコンを取るとテレビの電源をつけます。テレビで流れているのは…クロノスニュースです。いつも通り連邦生徒会を糾弾するニュースが流れています。

 

「…「超人」と呼ばれた連邦生徒会長がいなくなったことで、ハイランダーの各路線も治安が悪くなっている。理事会は陸間輸送を担っている学校として、この事態を重く受け止めている」

 

「…はぁ」

 

「理事会は一つの結論を出した。列車でトラブルがあった際、制圧を個々人に委ねるのではなく、それを一括して対処する部活を作ってしまえばいいと」

 

いまいち話が見えてきません。路線は各学区毎に伸びていて、鉄道輸送は速さと安全性を持っているのに、トラブルに対処する部活を作る。効率的とは言えません。

 

「あの…」

 

「ん?」

 

「列車毎に設けてある緊急停止装置じゃ対処できないんですか?」

 

「勿論、緊急装置は設けてある。だがそれを使うには"誰かしらが無事であり、かつボタンを押せる位置にいる"必要がある。銃社会のキヴォトスにおいて鉄道ジャックが起こった場合、使われる可能性は極めて低い」

 

「はぁ…」

 

「話が逸れたな、内海アオバ。理事会から今日付で辞令が出ている。読んでくれ」

 

スオウさんはそう言うとバインダーのもう一枚の紙を取り出して私に渡してきます。私の体力測定、トラブルに対処する部活。なんだか嫌な予感がします。

 

 

 

 

 

 

 以下の者を、列車緊急対応部に異動とする。

 

 ・内海アオバ 列車緊急対応部 部長

 

 

 

 

 

 

 

「…"列車緊急対応部"…?」

 

「あぁ、具体的には各主要駅に小型列車を設け、レールを用いてトラブルが発生した列車に乗り込み、事態を鎮圧するというものだ。弾薬は各主要駅からの供給で賄う」

 

同じようなことが紙にも書いてあります。ただ、私は一つ気掛かりになっていることがあって仕方がありません。だって、

 

「あの、部員私一人しかいないんですけど…?」

 

そう。名簿に載っているのは私しかいません。各列車毎に路線が違うのであれば何人もいて当然だと思いますけど。それを聞くとスオウさんは事もなげに返します。

 

「あぁ、小型列車だからな。定員にも限界がある。要人を乗せる、救出するとなれば当然少数精鋭にもなる」

 

「いや、いくらなんでも1人っていうのはおかしくないですか!?これじゃトラブル対処どころじゃないんですけど!?」

 

「…内海アオバ。理事会の調査によると、中学の時に矯正局に入れられたことがあるらしいな?」

 

「…えっ」

 

スオウさんから出た発言に私は目を瞬かせます。なんで知ってるの?

 

「なんでも、列車内で上級生を病院送りにした挙句一時的に列車のジャック。その後"鎮圧"に来た乗務員とも交戦の上逃亡。最終的にはヴァルキューレに捕まったが…単独でここまでやりおおせる胆力と技能に理事会は感心していたよ」

 

「えぇと…それは言葉のあや、と言いますか、やむを得ない事情があったといいますか…」

 

私は手を擦り合わせて弁明します。そう。別に私はやりたくてやったわけではありません。あの時はたまたま運悪く上級生を倒してしまって、運悪くすぐに列車が止まってしまって、運悪く乗務員さんが及び腰で。だから私は悪くないんです、きっと。

 

スオウさんは私の様子を見てフッ、と薄い笑みを浮かべました。

 

「…まぁ安心しろ。少なくとも現状この部活には1人しかいない。当然、一部長による一定の権限が与えられる」

 

「権限…?」

 

スオウさんが発した権限、という言葉に思わず私は食いついてしまいます。それは私が淡い期待を持つには十分すぎる言葉でした。

 

「そう、権限だ。列車緊急対応部は主に主要駅の係員に緊急対応の準備と、事後処理を対応させる権限を持つ。あとは成果が出てからの話だが…各路線毎の乗務員の配置にも意見が言えるようになるだろうな」

 

「つまり、それって…」

 

「あぁ、つまりハイランダー鉄道学園の幹部候補、ということになる」

 

あぁ、なんということでしょう。私は目を輝かせます。私が、幹部。無理なスケジュールもなければ、自腹で備品を買うこともありません。私の今までの苦労はこのためにあったのかもしれません。いずれは部下を持ち私は手だけを動かして優雅に座っている。そんな情景が浮かびます。

 

「…やります。やらせてください」

 

「そうか。良い返事を聞けた。詳しいことは、追って知らせる。今日は荷物を纏めて、挨拶回りでも済ませるといい」

 

スオウさんの言葉に私は首をかしげます。仕事で付き合いがあった人はいますが、仲がいいというわけではありません。むしろ、会うと小言を言われそうな気もします。

 

「いや、別に挨拶する人とかいないんですけど」

 

「そうか」

 

スオウさんはそう言うと先に席を立って部屋を後にしました。こうして、私は今までと異なる生活、環境に心を躍らせながら、部屋を後にするのでした。

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