私、これでも幹部なんですけど!?   作:石鹸52mm

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内海アオバの備忘録4

 

 これは内海アオバのSSです。

 

─────────

 

某日 ハイランダー CCC 管制室

 

「…あの、なんで私ここに呼ばれてるんですか?列車緊急対応部は基本別室で待機なんですけど」

 

「パヒャヒャッ、上司の命令は絶対だからね!いいからとりあえず掛けてよ!」

 

「ぎぶあんどていくー、ヒカリ達は今からせーじ的やり取りをするー」

 

私が復帰したその日、CCCの幹部の二人から呼ばれて本部のCCCの管制室まで来ていました。権限が譲渡されていきなり呼び出すのは意図が分かりません。幹部の二人はソファで足をぶらつかせています。CCCは恐らくこの二人以外にもいるのでしょうが、今は私とこの二人だけ。何か、話があるのでしょうか。しばらくすると幹部の一人、橘ヒカリが管制室の鍵をかけ、幹部の一人、橘ノゾミがスマホを取り出して画面を私に見せます。

 

「これ、何か分かる?」

 

「ハイランダーが各学園と乗務員に送ってる電子通達の内部データですよね?…理事会名義?」

 

「そ。これ昨日、理事会がCCCを通さず勝手に通達を出したんだよねー。私達が手打ちにしたものを、また蒸し返してる」

 

橘ノゾミはそう言うと通達の中身を読み上げます。要約すると、先日アビドス区間で自治区生徒とのトラブルが発生したことにより、アビドス高校の在籍生徒全員を、ハイランダー全区間で見つけ次第乗車を断る。つまり、アビドス生徒はハイランダーの路線が一切使えないことになります。…これ、やりすぎでは?

 

「えぇっと…ハイランダー理事会は、アビドスを完全に排除するんですか?」

 

「そーいうこと!これ、理事会からしたら損害を出したわけだから使えなくて当然という理屈なんだろーけど…見方によっては、"ハイランダーは損害を出した学校には電車を使えない制裁を加える"、って捉えられる。これを仮に、連邦生徒会が見たらどう見えるだろうね?」

 

「うーんと…自校の役割を利用した、各学校への威圧行為…ですか?」

 

「だよねー。これは、ピザ屋が、ピザを売る相手を選んでるー。だから今から、ヒカリ達はちょーしょを取るー」

 

そう言うと橘ヒカリは机に置いてあったボールペンを取り、白紙の紙に「調書」と書きました(書式とかないんでしょうか…)。

 

「私達は現場にいたアオバからいろいろ聞いて、各学校に対して最終的に適切な対応を取るってわけ。アオバは質問に答えていくだけ。簡単でしょ?」

 

「言いたいことは分かりましたけど…そんなの、意味あるんですか?理事会が出した決定なんて、覆せないのでは?」

 

「それをー、今から考えるのだー」

 

そう言うと橘ノゾミはソファから立って、どこかに電話をし始めました。橘ヒカリは私に何個かの質問をしてきます。

 

「まずー、アオバが会った相手ー、名乗ってたー?」

 

「いえ、名乗ってませんけど…たぶん、制服からしてアビドスの生徒さんだと思います」

 

「んー、じゃあふめー」

 

「えぇ…」

 

橘ヒカリは、「相手 不明」と調書に書きます。確かに名乗ってない以上は分かりませんが、そんなこと判断材料になるのでしょうか。

 

「次ー、アオバ以外に何か物は壊してたー?」

 

「んー、記憶が曖昧ですけど…特に、何も。列車に何かするみたいなことを言ってたので、私が対応しましたけど」

 

「じゃー何もしてないねー。特に被害なしー」

 

橘ヒカリは「損害 なし」と書きます。…これ、もしかして誘導尋問ですか?私の意見ほとんど聞かれてませんけど。なんとなく、幹部二人のやりたいことが見えました。今回の通達をなあなあにする気満々です。問題は、理事会の決議を覆せるのか否か、ですけど。

 

「最後ー、アオバからのいんしょー」

 

「…印象、ですか?」

 

「そー。怒ってたとかー、泣いてたとかー」

 

最後の質問に、私は黙ってしまいます。途中から記憶が曖昧ですけど、最終的に戦ったということは、絶対口論にはなっています。でも、あの時の私がそもそも疲れ気味だったので、印象を覚えてないんですよね。でも、覚えているのは、怒っているというよりは───

 

「…困ってましたね。覚えてる限りは、ですけど」

 

「りかいー。じゃあ、問題ないねー」

 

「あ、そっちも終わった?じゃあ、今から稟議をしまーす!」

 

不意に横から声が掛かってきたと思うと、橘ノゾミが片手にタブレットを、片手にスマホを持ってやってきます。電話の相手は、知らない男の人の声でした。それも大人の。

 

「ノゾミー、問題は"何も"なかったよー」

 

「りょーかい!じゃー先生、その書類にアビドス高校の生徒の名前と日付を書いて提出してよ!今すぐ!」

 

"うん。分かった"

 

しばらくすると、机に置かれたタブレットに電子の申請書が表示されます。…"連邦捜査部特別旅客許可申請書"?つまり、電話先の相手って…。私の驚きの眼差しと、電話している橘ノゾミの目が合います。私は思わず口を開いていました。

 

「シャーレに電話してるんですか!?」

 

「ん?そうだけど?」

 

"はじめまして"

 

「あ。…初めまして。列車緊急対応部の内海アオバです。よろしくしないで、いいですけど…」

 

シャーレの"先生"という人と挨拶をしているうちに、幹部の二人は書類に目を通します。やがて、橘ノゾミがニヤリと口を開きます。

 

「…ん~?先生、これは差し戻しだね~?」

 

"えっ"

 

「期間と生徒を見てヒカリ達がしょーにんするー。逆に言うと、ヒカリ達がいないとしょーにんできないー」

 

"そ、そんな…"

 

電話越しでも項垂れる様子が想像できる声が聞こえます。「そーいえば」と、橘ヒカリが橘ノゾミに話しかけます。…二人とも今から悪戯をするような、そういう悪い顔をしてるんですけど。

 

「何~、ヒカリ?」

 

「ヒカリ達、べりーびじー。つまり、書類のしゅーりょー日がぶらんくでもー、"つい"気付かなくてしょーにんするかもー」

 

「…パヒャッ、確かに♪私達書類仕事は苦手だからね!不正防止のためにダブルチェックしてるわけだし、あの"シャーレ"からの申請は一回受理しちゃったら、いくら理事会でも取り消しはできないよね~!じゃ、また送ってよ!切るね!」

 

"……!"

 

二人の話を聞いて、先生は何か察したようです。間もなく電話は切れました。え?…嘘ですよね!?まさか「このために」管制室を締めたんですか!?これ、れっきとした書類偽造なんですけど!?ふと、二人が私の方を見ていることに気付きました。…え、もしかして。私の顔から、冷や汗が止まりません。

 

「アオバが居る"意味"、わかるよね?」

 

「はい…!?」

 

「じょーしのふせーを暴くとー、もれなくアオバもクビー。どうするー?」

 

「む、無茶苦茶なんですけどぉ…!」

 

間もなくして、新しい書類がタブレットに映し出されました。開始日、今日。終了日、空欄。二人はまじまじと書類を確認すると、お互いに顔を合わせました。

 

「どう、ヒカリ?」

 

「ぐっじょぶ。もんだいなーし」

 

「私も!じゃ、承認、と!」

 

「あ……っ」

 

間もなくして、私のスマホにハイランダーの電子通達の通知が来ました。内容は、CCCの橘ヒカリ、橘ノゾミ連名による許可通達。許可書類は、シャーレが申請した"連邦捜査部特別旅客許可申請書"。対象生徒は、アビドス高校在籍中の全生徒。期限、無期限。

 

「ヒカリ達のせーじ的手続かんりょー」

 

「ほ、本当にやったんですか…!?理事会への承認をスキップして…!?」

 

「んー、これは私達CCCと連邦捜査部シャーレによる正式な手続きだからね!一学校の理事会の出した通達と連邦生徒会の権限、どっちが優先されると思う?」

 

「こ、こんなの、権力の濫用なんですけどっ!だいたい、なんでこんなことしたんですか!?」

 

ウキウキと備え付けの冷蔵庫に群がる幹部の二人に、私が聞きます。これをやるということは、先に手を出したアビドス高校を、ハイランダーは乗客として歓迎しているということになります。

 

他のアビドスの生徒さんは分かりませんが、あのピンク髪の生徒さんがそれを知ったらまずいと思うんですけど。橘ノゾミは溜息をつくと机の上にコップを三杯置いて、それぞれにオレンジジュースを注いでいきます。

 

「はぁ…だって考えてみてよ。私達がそんなこといちいち気にするの、めんどいじゃん?」

 

「…は?」

 

「ヒカリ達はー、乗客と荷物を時間内に安全に運ぶだけー。他はしらなーい」

 

二人の言葉に、私は衝撃を受けます。よくよく考えたらこの二人、「運転の技能だけ」で幹部になったと聞きます。ここまでくると、もはや正気の沙汰と思えないんですけど?私は気が遠くなるのを感じて、頭を抱えます。こんなノリと気分で重要なことを決めるの、良くないと思うんですけど。ジュースを飲みながら、幹部の二人は話を続けます。

 

「ヒカリ達は"次の"議題もあるー、細かいことは気にしなーい」

 

「…え?まだあるんですか…」

 

「まーね。ていうかこっちの方が重大かもね?列車緊急対応部の今後に関わる話だからね!」

 

「へぇ…え?」

 

私が何のことか分からないうちに二人はタブレットを開くと、ある画面を開いて私に見せてきます。何かの募集要項のようです。"列車緊急対応部員、求む"…?そこにはピースするハイランダーのマスコット、シュッポのイラストと共に、列車緊急対応部の謳い文句が書いてありました。

 

"アットホームな部活です!"、"人間関係で悩むあなたへ!この部活は貴方を歓迎します!"、"いきなり好待遇!?頑張りに応じて成果が出る!"、"労働環境改善中!ホワイトな部活にジョブチェンジ!"…謳い文句、怪しすぎませんか?

 

「これからも一人で回すとかどう考えても無理だからさぁ~、学校内で案内出してみたんだけど」

 

「意外とだいせいきょー。だからアオバー、一緒に方法を考えよー」

 

「いや…私人事のことはさっぱりなんですけど…」

 

そうです。私は鎮圧することしか基本していません。部活の戦闘訓練ならともかく、そんな知的労働者ではないのでアイディアがないのです。なので、一旦二人の案を聞いてみます。

 

「えぇっと…選考方法を、考えるんですよね…。お二人は何か案はありますか…?」

 

「いや?私は全然だよ?アオバと模擬戦とかだったら話にならないし」

 

「ヒカリは考えたよー。シュッポのスタンプラリーを集めるのが早かった人ー」

 

「うぅ…」

 

もはやこの二人は考える気あるんでしょうか?私と模擬戦なんてハイランダー内で敵う人はいないだろうし、シュッポのスタンプラリーなんて覚えてる人いませんし…シュッポ…シュッポ?シュッポは様々な形でハイランダー各駅でグッズ展開されています。シュッポの人気はあまり高くないので、当然関連グッズも軒並み倉庫。それを考えると"アレ"が使えます。

 

模擬戦という形ではありますが、直接戦うものでもありません。私は二人に、今しがた考えた案を熱弁しました。これなら短時間の選別、能力の判定、ついでに在庫の処分ができます。二人は私の案を聞くとうんうんと頷き、私にサムズアップしてきました。

 

「アオバの案、いい感じー。センスある―」

 

「パヒャッ、あとは訓練場と日付、在庫を抑えればいけそうだね♪とりあえずそれで一回やってみよう!」

 

選考の方法は決まったので、後はやるだけなんですけど!

 

 

─────────

 

数日後 アビドス対策委員会 部室

 

「…えっ?」

 

アヤネちゃんが驚きの声を発したのは、先生という大人をシロコちゃんが連れてきて、カタカタヘルメット団を撃退した後のことだった。これからの問題を先生に伝えようとしてアヤネちゃんがタブレットを開いて───その内容に、私達も驚いた。

 

「…アビドス高校の、ハイランダー全区間の使用許可が出ています!」

 

「アヤネ、それって何日か前に使っちゃダメって連絡来てなかったっけ?」

 

「そうだよ、あれ理事会?って一番ハイランダーで偉いとこでしょ?」

 

「シャーレ側がハイランダーに特別な書類を出して、受理されてます。認可者…橘ノゾミ、橘ヒカリ。対象…アビドス全校生徒。期限…無期限」

 

耳を疑うような話だった。つまり、トップの理事会が出した決定を、生徒会であるCCCがシャーレを使って覆したということだ。それは何日か前に、「お詫びの品」を送ってきた───ハイランダーの生徒会幹部。それとシャーレが手を組んでる?何のために?先生に皆の視線が集まる。つまり、この大人も…?

 

"あぁ、その書類、ノゾミにお願いされて出したんだ。「お互い恨みが残らないように」って。音声ログ聞く?"

 

先生はなんてことないように、スマホから音声ログを再生した。

 

 

 

 

 

"もしも~し、これシャーレの番号で合ってる?"

 

"合ってるよ"

 

"良かった!私、ハイランダー鉄道学園CCCの橘ノゾミ!他校でいう生徒会ってやつだね!"

 

"よろしくね、ノゾミ。用事はなんだった?"

 

"うーんとね、うちは電車を扱う学校なんだ。でもある学校と一悶着あって、うちの上層部が勝手に電車を使うのを禁止したから、それをそっちでなんとかしてほしいんだ。できる?"

 

"それはいいけど…ノゾミはなんで、そうしようと思ったの?"

 

"パヒャヒャッ、そんなの決まってんじゃん!「特定の人だけ電車が使える」なんて、そんなの電車じゃないし!あと、これは一回手打ちにした話だからね、お互い恨みなんか残らない方がいいでしょ!"

 

"なるほど。ノゾミがそう思うなら手伝うよ。どうすればいい?"

 

"パヒャッ、ありがとう先生!じゃあまずは───"

 

その内容に、その場にいたアビドス対策委員会は閉口した。恐らく、橘ノゾミという生徒は本気で私達を騙しに来てる。これは"貸し一つ"の意味だろう。そういう嫌な意図を感じて、私は内心舌打ちをした。一度ならず、二度までも。そうまでしてアビドスをつけ狙うのも、"あいつ"の陰謀?そこまで考えたところで、ノノミちゃんが私に話しかけていることに気付いた。

 

「ホシノ先輩、どうしたんですか?これで、電車も元通り使えますよ?」

 

「ん?あぁ~嬉しいねぇ~。いやぁ~おじさん、ハイランダーの人には足を向けて寝れないや~」

 

「ん、ホシノ先輩はいつも足出して寝てる」

 

「シロコ先輩、たぶんホシノ先輩が言ってることは違うと思いますよ…」

 

こうして、私達はそれぞれの椅子に座る。私だけは、冷めた気持ちで、この大人とハイランダーをしばらく様子見することにした。もうしばらくしたら、化けの皮も剝がれるだろう。

 

 

─────────

 

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