内海アオバの放浪記
これは内海アオバのSSです。
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某日 ヴァルキューレ公安局 事務局
「カンナ局長、現場からの報告書が上がってきました」
「…見せてくれ」
「はい、現場にいたハイランダーの生徒からの聞き込みも入っています」
「そうか」
公安局局長、尾刃カンナは部下からの報告書を受け取って一息ついていた。ゲヘナの駅で発生した駅ジャック事件、ヴァルキューレは事件発生後から数時間に渡る制圧を試みていた。しかし改札側に敷かれたヘルメット団の武装は厚く、人質もいる中ヴァルキューレ側でもたたらを踏んでいた状態だった。
しかしその後、事態は急展開を見せ、駅改札側の敵陣営が崩れたことで形勢が逆転し、事件は無事収束を迎えた。カンナも事務局から適宜指示を出していたが、現場で何が起こり事件解決に至ったのかは、カンナでも知り得ない出来事だった。だからこそ報告書を見て事後処理を考えようとしていたのだが…
「…おい」
「はい?」
「「駅ホーム側からハイランダーが武力蜂起、改札側に対する武力支援が行われた」とあるが…これは本当か?」
「えぇ…ハイランダー側の生徒からの聞き込みでは、そう聞いています。なんでも、動力室の人質がゲヘナ駅を取り返すため動いたとか」
カンナはその言葉を聞いてその文面を見直した。そもそも、駅ホーム側の人員はハイランダーの乗務員のみ。駅ホーム側にも強固なバリケードが作られていたという。それを突破できるハイランダーの勢力など、カンナの考え得る限り一つしかない。
それに、拘束されていた人質が動いたという点も気になる。"あの"ヘルメット団が駅を手際よく制圧したというところから、この事件の首謀者は相当策を練っていたと考えられる。抵抗も虚しく拘束された時点で、動力室の人質は戦意を喪失していたはずだ。それが武器を持ち、あまつさえ再度戦意の火を灯すなど、余程の煽動がない限り不可能だろう。と、なるとこの事件を解決した部隊は、それも行ったということだ。
カンナは駅ジャック事件を解決したとされる「列車緊急対応部」の文字に目をなぞらせる。ハイランダーが新設したこの部活、一体どんな生徒が入部しているのだろうか。カンナはそう思い横に記載してあった生徒の名前を見て───目を思わず見開いた。
「…内海?内海、アオバだと?」
「え、はい。そうですね。お知り合いですか?」
「知り合いも何もこいつは…"前もち"だ」
「え!?そうだったんですか!?」
カンナは自身の記憶を振り返る。思い出すのは、カンナが一年生の頃見せてもらった公安局の取り調べ。そこに、中学時代のアオバがいたのだ。およそ単独でしでかしたとは思えない罪状に、報告書に書かれた同一人物かと疑うような受け答えだったので、鮮明に覚えている。
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ヴァルキューレ 取調室
「改めて聞くが…これは本当に、思いつきでやったのか?」
「えぇっと…その…偶然そうなってしまっただけで、私はあんまり覚えてないんですけど…」
「被害生徒は一人がこめかみに一発、一人が額に一発受けて気絶していた。それも零距離からの射撃だ。被害生徒のジャケットにも強く掴まれた形跡があった。偶然にしては、随分出来が良すぎてると思わないか?」
「う、うぅ…」
上級生の警官の取り調べに対し、アオバは何も言い返せないでいた。今回アオバにかかっている容疑は、電車内で二人を銃撃、その後車掌へ列車を無人駅まで運転させるように脅迫、そして駅まで移動した後銃撃戦を行いそのまま逃走の三つ。どれも、ハイランダー生徒からの聞き込みで既に判明しており、後は本人の自供を残すのみだった。
「ふむ、では次の容疑に移ろう。次に列車が停止した駅で、お前は車掌を脅迫して無人駅までの列車移動を強制させた。合っているか?」
「そ、その…え、えっと…」
「おい、なんとか言え」
「そ、そうです!怪我人が出てしまったので、病院までが近い駅まで向かって欲しかったんですけど!」
警官はため息をつくと、音声レコーダーを取り出した。警官がレコーダーの再生ボタンを押すと、何発かの銃声の後、列車内のアオバと車掌のやり取りが再生された。アオバの声はただならぬ気配を出しており、車掌も銃を突きつけられているのか、大人しく従っている。そこまででレコーダーの音声は再生を止めた。
「…これを聞いても、同じことが言えるか?」
「…すいません。つい、脅迫しちゃったんですけど」
「容疑を認めたな。では、次の容疑に移る」
警官はスマホを取り出すと、プロジェクターに接続し、取調室の壁に監視カメラの映像を映し出す。ショットガンを持ったアオバが、ハイランダーの生徒と撃ち合いながら、駅の柵を乗り越えて駅から離れていく。誰の目から見ても、もはや決定的であった。
「これはもう分かるな?無賃乗車、現場からの脱走、ハイランダー生徒への無差別銃撃…認めるな?」
「……違うんです」
「は?」
「私の大事なシュッポが取り上げられそうで、私は、私はそれが嫌だっただけなんですけどぉ…!」
アオバはポロポロと涙を流しながら、取調室の机に腕を組んで泣き出した。警官はアオバを一瞥したが、その後部下を呼んでアオバに手錠をかけて無理矢理連れ出させた。これがアオバが矯正局に入った経緯である。
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「…はぁ。アレが治安部隊をやっているだと?笑えない冗談だな。自分が撃った相手の学校に入るのも、正気の沙汰とは思えん」
「そうですか。あと、つい最近のゲヘナのビル爆破の件ですが、これも報告書を読んでいただきたく」
「?あれは美食研究会の仕業だろう?どう考えても、ゲヘナの風紀委員会の管轄だと思うが」
「それはそうなんですが…一部、不可解な部分がありまして。それに"壊し屋"が関わっているんじゃないかと」
カンナは続けて部下から渡された報告書を読む。ゲヘナのビルで爆破事故。ここまでは知っている。カンナは、部下の言っている"不可解な部分"に気づいた。ビルに備え付けてあった業務用室外機が大通りにあるのを確認。表面は弾痕、裏面は"片手で掴まれた"痕跡あり。ビル爆破で出る被害ではない。それに、爆破された通りの架線が断線。これも意図的に破壊しなければ起こり得ない被害だった。
「"壊し屋"か。現れる時間帯は大抵夜間。キヴォトス各所に現れては、近くの建造物を破壊して戦闘する」
「七囚人栗浜アケミの犯行の説もありますが…それにしては行動範囲が広すぎます。スケバンを連れて大規模の移動をして戦闘など、できるとは考えられません」
「そうだな、それにやることが派手すぎる。こうも動けば、マークされるのは分かり切っている」
「では、引き続きそちらも捜査をする方向で?」
「あぁ、被害が出次第、周辺住民に聞き込み調査だ。各地区の派出所にも通達しておいてくれ」
カンナの指示を聞くと、部下は事務局の同僚とブリーフィングを始めた。カンナは駅ジャック事件での報告と"壊し屋"の報告からアオバを疑ったが…できるはずがない、と結論付けた。いくら治安部隊に属しているとはいえ、生徒が片手で業務用室外機を持てるはずがない。それに、元があの性格だ。治安部隊を率いるなど到底できるはずがない。カンナはそこまでで考えるのを止め、事務作業に引き続き戻った。
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