これは内海アオバのSSです。
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某日 ミレニアム区間 工業地帯跡地
「…あの、ここミレニアムなんですけど。た、頼む相手間違えてませんか?」
私は油と鉄臭いミレニアムの工業地帯の跡地に来ていました(なんだか懐かしい感じがしますね)。ここはかつてミレニアムに鉄鋼部品を生産、供給していた町工場が集まっていた場所で、かつてはここで人力で部品を生産していたそうです。自動生産ロボットが普及するにつれ、鉄鋼部品が安価に流通するようになってしまった昨今、工場は閉鎖され、付近を走っていた線路も廃線となりました。
"ミレニアムのセミナーからの依頼だ。取り壊してデータセンターを新たに作るためにこの地区をミレニアムで調査したところ、人が活動している痕跡があると報告を受けた。今回は一応保線作業という名目だが…実際はこの工業地帯を調査してもらう"
「それこそ、ミレニアムならC&Cって部活があるじゃないですか。その部活が動くべきだと思うんですけど?」
"当然、土地はミレニアムの管轄だ。セミナーとしてはC&Cを二人派遣するそうだが、生憎全員の予定を確保することは叶わなかった。一方、ハイランダーとしては付近の線路は我々の管轄である以上、線路に被害があった際見て見ぬ振りもできまい"
「…はぁ、これ私も戦力に入れられてるってことですよね…面倒くさいんですけど」
"C&Cはもう入り口付近で待機している。合流次第、あちらの指示に従え"
そういうと、管制室との連絡はぷつりと途絶えました。相変わらず指示が雑というか…列車が絡んでるだけで、私を都合よく使うのやめてほしいんですけど。幸い、今日の呼び出しは比較的少なかったので、用意はそれなりにできましたけど。
私はショットガンを背中に担ぐと、小型列車からレールソーを取り出します。それに、コンカッションとC4を一つだけ。一応他所の土地なのでできるだけ被害は最小限に抑える用意をしてきました。作戦開始時刻はミレニアムから夕方を指定されたので、ヘッドライトも帽子につけてきています。
私が小型列車から降りると、線路から跡地の入り口に向かって歩いていきます。ザリ、ザリと足が石を踏む感覚と、時々落ちてくる葉っぱから緑っぽい匂いがします。線路沿いに生えた木々が夕日を遮って、まだ夕方なのになんだかちょっと怖い雰囲気が漂っています。…この視界の悪い中戦うのはちょっと不便ですね。C&Cってこういう特殊な戦いにも慣れてるんだなあ、とかどんな人だろうなあ、とか考えていると。
「…あら、もしかしてハイランダーの方ですか?」
「ぴゃっ!?」
「初対面で驚かすなよ、アカネ…」
「ふふっ、すみません。歩きがてらブリーフィングを、と思ったものですから」
背後から声が聞こえたので私が思わず飛びのいて後ろを見ると、二人のメイド服を着た生徒さんが立っていました。一人はライトブラウンのロングヘアーの、いかにもメイドさん、という格好。もう一人は…オレンジの髪の、メイド服らしき服にスカジャンを羽織った出立ち。両極端な印象を感じるこの二人が、どうやら今回ミレニアムからの増援のようです。
「改めて…ミレニアムサイエンススクール2年生、C&C所属、コールサインゼロスリーの室笠アカネです」
「ミレニアム3年、同じくC&Cの美甘ネルだ。コールサインはダブルオー」
「え、えっと…ハイランダー鉄道学園2年生、列車緊急対応部部長の内海アオバですけど…」
「アオバさん。噂は予々聞いております。今回、一緒に作戦を共にすることができて何よりです」
「い、いや…私はあくまでハイランダー側での数合わせ、と言いますか。そんな大した戦力にならないんですけど…」
私がバツが悪そうにそう言うと、ネルさんがズカズカと私に近寄ってきます。あまりに唐突だったので後ずさろうとしたのですが、レールソーを持っていることもあって結局逃げられませんでした。ネルさんの視線は鋭く、私を下から上まで見ると、ニヤリと笑みを浮かべました。
「ハッ。安心しろよ。少なくとも今回やることはお前の大好きな"荒事"だ。その物騒な道具はしまっといていいぞ」
「…え?調査のお仕事だと思って用意したんですけど…違うんですか?」
「あぁ…そっちには言ってねえし知らねえか。今回いるらしいターゲットっつーのは、指名手配犯の「カイテンジャー」って5人組だ。そいつらを工場毎ブッ飛ばして捕まえる。上からいくらでもやっていいって許可も下りてるからな、中にあるものは好きに使っていいぞ」
ネルさんに促され、私はレールソーを小型列車に戻しに行きながら、今聞いた物騒な単語に体を震わせます。指名手配犯!?工場毎破壊!?く、雲行きが怪しいんですけどぉ…!?
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某日 ミレニアム セミナー 部室
「カイテンジャー、だぁ?神出鬼没の指名手配犯じゃねえか」
「そうです。その指名手配犯が、ミレニアムの工場跡地に拠点を構えている可能性が非常に高いです。お二人には、その拠点の「破壊」とできれば指名手配犯の「捕獲」をお願いしたいのですが…」
「なるほど、"そういったこと"でしたら私達が適任ですね。…しかし」
セミナーの部室でアカネとネルは二人、セミナーの早瀬ユウカと生塩ノアから依頼の内容を聞いていた。ミレニアムにおける有事といえば彼女達の任務であり、当然日々移り変わるミレニアムの情勢も把握していた。アカネは依頼を聞いた後、いくつかの懸念点が頭の中に浮かんだ。
「あの近辺でしたら、確か今は使われていない線路が走っていましたよね。そちらはどうするんですか?一応ハイランダーにはあらかじめ許可を取っておく方が穏便に進められると思いますが」
「あぁ、それならハイランダーの治安部隊に要請を出しておいたわ。なんでも、すごく強いんだとか」
ノアがネルとアカネに、一枚の紙をそれぞれ渡した。中には、ミレニアムで情報を集めたハイランダーの列車緊急対応部の活動履歴が載っていた。記載された内容を読んで、アカネは困惑で眉を顰め、ネルは驚きで目を見開いていた。アカネがおずおずと、ユウカに話しかける。
「あの…ユウカ?この列車のドアを素手で引き剥がしたというのは…記載が誤っていませんか?固定されている金属板、それも人一人のサイズを道具も無しに外すのは、一般的に不可能ではないかと」
「…私達もそう思って他の何件かの活動も調査したわ。中でも一番異様だったのが、こないだのゲヘナ駅ジャック事件。クロノスの取材情報を洗ってみたんだけど」
ユウカは一息置くと、目の前に向かってシャドーブローをしながら言った。
「…パンチで人を数十m吹き飛ばしたそうよ」
「他の活動においても似た事例が確認されました。踏み込みで列車の上に跳び乗る、違法改造した銃を至近距離で撃たれても翌日には普通に活動している、などですね。ネル先輩は、これを聞いてどう感じましたか?」
ノアがネルに意見を促すと、ネルの口角が上がり、やがて高らかな笑い声が部室に響いた。それは、ネルが強者と認識した生徒と共に作戦が進められるという、高揚感から来るものだった。
「ハハッ…ハハハッ!上等じゃねえか、アタシもどんなやつが仕切ってんのか気になってたんだよなァ。今回組むなら上出来…いや、最高の人選じゃねえか?」
「確かに…今回の任務、かなり荒事になりそうですからね。彼女の馬力が本物なのであれば、上手く作戦を進められそうですね」
「…なるほど、お二方がそういうのであれば。…ユウカちゃん、今回は線路の補修費用も含めてセミナーで持つ、というのはいかがでしょうか?」
「え…えぇ!?ノア、本気で言ってる!?流石に線路が壊れたらハイランダー持ちでしょ!?」
ユウカはノアの発言に驚きを隠せずにはいられなかった。廃線の路線とはいえ破壊されるであろう線路の補修費用と、C&Cへ依頼料として捻出する予算を鑑みたところ、少なくない費用が嵩むと判断したからだ。それを聞いたノアは人差し指を立てて、ユウカに徐々に近づいていく。
「ユウカちゃん、よく考えてみてください?ハイランダーとしては、自分達の自治区、つまり線路を優先的に守るために動くはずです。今回はそれに加えて、私達の厄介事にも関与してもらうわけですから。つまり、こちらがお礼を包んだとして、ハイランダーが線路の補修費用も持ってしまったら、あちらに依頼を受けるメリットがないと思いませんか?」
「それは、そうだけど…」
「あと、これは普段はっきりとお伝えしていないハイランダーへの労いの意味もあります。私達は空輸の手段も持ち合わせてはいますが、やはり陸運の積載量と交通網には敵いませんから」
ノアの指摘を聞いたユウカは顎に手を当てしばらく考え込んだ。確かに列車が人や貨物を学園間で高スパンで輸送できる手段である以上、ハイランダーは中立の学校だがその影響力は凄まじい。そこの治安部隊が作戦に参加する以上、こちらがハイランダーにある程度配慮を取るべきだ。ユウカは眉を下げながら、会計としての判断を下す。
「…分かりました。予算をある程度調整して、線路が壊れてしまった際の補修費用もこちらで持ちます。それでいい、ノア?」
「ありがとうございます、ユウカちゃん。ということでお二人には頑張っていただきますが、お願いできますか?」
「かしこまりました。それでは、私達は作戦をもう少し詰めていきますので、この辺りで失礼します」
「了解した。コールサインダブルオーの名にかけて成功させてやるよ」
C&Cの二人はそれぞれ了承すると、セミナーの二人に会釈をして部室を去っていく。これが、セミナーとC&Cの間で交わされたやり取りだった。
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