これは内海アオバのSSです。
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某日 ミレニアム区間 工場跡地
「……誰もいないですね」
「まーな。そりゃ狙撃手からの通信が途絶えたんだ、守りに徹するだろうな」
ネルが先頭で歩きながら答える。淀みないその足取りは、もはや庭を歩く鶏のようにも思えた。
アカネはバッグの中の爆薬を数えながら、それに続く。
「それにしても、リーダーの言う通りでしたね。おおよそ、他の4人とドローンが待ち受けてるのでしょうか」
「うぅん…なんとなくなんですけど」
アオバの言葉に、二人が振り向く。2つの視線にアオバは目を白黒させながら、言葉を紡ぐ。彼女らに、果たして伝わるだろうか。
帽子を目深に被り、率直な感覚を伝える。
「杜撰すぎませんか?
これまでも逃亡してきたのであれば、なにかしら策を残している気がして…」
「……おぉ!分かってんじゃねえか!」
ネルが徐に歩調を落として、アオバの肩を引っ叩いた。
(痛いんですけど…)という感情をネルに見せないよう、アオバの口が固く結ばれた。アカネも口に手を当て考え込む。
「明らかに金属の類が少なすぎる。ここのやつを使いまわしたっぽいな」
「ふむ…重量物の移動跡が見られますね。それも何度も」
しんと静まり返った工場跡地は、カラスの鳴き声とともに帳が降り始めた。
コンクリートの建屋から、風で枯れ葉が出ていく。
ネルが静かに片手をあげる。「待て」の意に、アカネとアオバは足を止める。
3人は足を潜め、シャッターが降りた倉庫を見つめる。
「10時方向、2。13時方向、1。もう一人は聞こえない。アカネ、正面にC4」
「了解」
「アオバ、コンカッションをC4爆破後投入。壁にぶつけるぐらいでいけ。アオバはアカネと同時」
「りょ、了解ですけど…」
アカネがC4を取り出すのを確認すると、アオバに顎で向きを指した。
ネルは後ろに下がり、クラウチングスタートの姿勢を取った。
「作戦、開始」
ネルの言葉とともに、アカネの放り投げたC4がシャッターで炸裂した。
轟音。
アオバは煙にコンカッションを振りかぶる。
刹那、アオバの視界に"龍"の背中が見えた。
倉庫内の閃光とともに、銃声。
…嘘ですよね?
「行きましょう、後ろから仕留めていきます」
「へぁ!?は、はい…」
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いくつかの銃声と、吹き飛ぶ砂埃。
蹴り飛ばした鉄製の作業机が、金切り音と共に壁にめり込んだ。
銃弾の応酬を頬で受け流したネルは、肉薄。
「オイオイ…こんなもんかよ、期待よりショボかったな…あ?」
柱に身を潜め、ネルは違和感を確認する。
突入時にCQCで一人。
アオバが
アカネのチョークスリーパーで一人。
んで、今ので一人だ。足りねえ。
ネルの空薬莢の落ちる音と、二人の息遣いだけが工場内に残った。
指名手配犯と初めて相対したアオバは何も感じていない。
C&Cの二人は違和感を覚えていた。
弱すぎる。まるで、他に『切り札』でもあろうかという────
そう思った矢先、倉庫内のスピーカーから数十分前と同じ声が響く。
「ハッハッハッハ!こんなもので終わるか!まだ、正義の炎は燃え尽きていない!」
「ハァ?残り一人で何言ってんだ?さっさと面ァ出せよ」
ネルが毒づくが一向に介さない。気づけば、倒れていたはずの残りの三人もいなくなっている。
砂埃が晴れた倉庫内で、5つのシャッターが閉まっている。そこから、モーターのけたたましい始動音が聞こえてくる。
「…アカネ」
「はい、先んじて爆薬を…」
「ちげえ!
「!?」
"管理者権限の起動を確認。起動シークエンス開始"
"カイテンフォール、スタンバイ"