これは内海アオバのSSです。
───────
ミレニアム 工場跡地
5つのモーターの駆動音と共に、それらは現れた。
単色のペンキで乱雑に塗りたくられたブリキ。三つのカメラアイがターゲットを捉え赤いレーザーが当てられる。
機銃が乱雑にくっつけられた片腕に、アオバ達が見上げるほどの躯体。
歪だが、人に向けるにはあまりに過剰な五機のロボット達が、シャッターを突き破って腕を伸ばしてきた。
「ざけんなッ!」
一撃、ハイキックでアームを弾き返す。
──二撃、逆手で銃を叩きつけてアームをひしゃげさせる。
その間にも、他のシャッターから飛んでくる銃弾をジャケットで受け、翻って遮蔽物に隠れた。
"ハーッハッハ!正義のあるところ、力あり!"
「うるせェ、よそから盗んだジャンク品だろうが!」
ネルがアカネに目配せすると、アカネは懐からグレネードを取り出し、ピンを抜く。
グレネードがロボット達の足元に転がったのち、青白い閃光が炸裂した。
その衝撃をまともに受けたロボット二機は地面に膝をつき、煙が吹きだし始める。
それを合図に、アカネがアオバの腕を引き、ネルと共に入口に走り出す。
あまりの判断の速さにアオバは困惑していた。───これは何か、策略があったり?
「えっ、これからどうするんです!?」
「…現時点で私たちとしては敵に対する有効打を持っていません。対物ライフルなど、とにかく物理的な火力が必要です」
「いや、私、終わるまで帰れないんですけど…」
「それまではミレニアムにいりゃーいいんじゃねぇの?とりあえず、あの分厚い体をなんとかしねえとあいつらは引きずり出せない」
「いや、だから──」
「私たち以外にもエージェントがいますので、次は全員で対応する形になりますね。どのみち、今回は想定外だったとセミナーに、」
「私にお給料が入らないんですけど!!!」
アオバがグンと足を地面に踏み込むと、アカネの腕が悲鳴を上げ思わず手を放した。
先を走っていたネルがアカネの声に振り向くと、顔を青くしたアオバが胸に手を当てていた。
渇望に飢えた獣の目が、二人を見据えている。
アカネは思わず武器に手を掛けたが、ネルはただ、次の言葉を待っている。
「そりゃ──どういうことだ?」
「この仕事を終えない限り、私に特別手当が入らないんですけど…。あと、報告書書かされますし」
それを聞いたネルは一応調べた情報を頭で浮かべた。
陸送を全て管轄している激務のハイランダーの中でも、一番の
それがその対応をされるのでは、何をするにもややこしくなる。
「あー…なるほどなぁ」
「リーダー、彼女は錯乱しています。あのロボットが追ってくる前に、一刻も早く離脱を」
アカネの言葉を手で制すると、ネルは首でアオバを促した。
いつの間に、ネルの口角は喜びの色を示していた。
「それぐらい言うなら、なんかあるんだろ?
「はい…アレをなんとかする道具は持ってきています。ただ、列車に置いてきてしまったので──」
アオバが続きを言おうとすると、遠くからモーターの駆動音が聞こえてきた。やがて地面の揺れが三人の元まで響いてくる。
ネルは大きなため息をつくと、徐にスマホを取り出した。数コールの後、相手が出る。
"はい、セミナーの早瀬です。"
「アタシだ。エンジニア部から取り上げた迫撃砲があったろ?あれをアタシのいる座標に撃ち込んでくれ。今から」
"ちょっと、何言ってるんですか!?あれは弾道も無茶苦茶、威力も計算では──"
「相手がゴリアテみたいなのを五機出してきた。たぶんウタハなら使えるだろ。じゃあな」
電話を切ると、ポケットから小型のビーコンを取り出し、近くのコンテナの中に放り込んだ。
一部始終を見ていたアカネは顔を青くし、アオバはネルの意図を理解した。
現在三人は工場跡地の建屋が並ぶ通りの表で止まっていた。
迫撃砲の支援と残りの爆薬で足止めをし時間を稼ぐ、ということだろう。
「…部長、本気ですか?」
「大マジだ。アカネは残りの爆薬を適当に設置しといてくれ」
「あ、ありがとうございます。危険な役割を担わせてしまって──」
ネルは笑うと、黙って握り拳を突き出した。それに合わせて、アオバもぎこちなく握り拳を当てる。
やがて、地面の揺れが激しくなってきた。アオバは後ろに振り向いてショットガンを肩にかける。
入ってきた場所に向かってクラウチングスタートの姿勢を取り───
地面を起点にしたミサイルのように、
「なぁ、アイツ聞いてたよりも無茶苦茶じゃねえか?」
「まあ。スカウトするのも、いいかもしれませんね」
「学校が消し飛んじまうよ」
アオバを見届けた二人は、向かってきたロボット達に振り返った。
ぶつかった建物を粉砕しながら、金属製の怪物は次第に近づいてくる。
首筋の冷や汗は拭い。襟元は正して。
ネルは銃を、アカネは爆薬を持ち直した。
「「───ミッション、開始」」