これは内海アオバのSSです。
─────────
ミレニアム工場跡地
アカネの投げ込んだグレネードから、一画を覆うほどの煙が噴き出した。
それでも、赤いレーザーはネル達を捉えて機銃が掃射され、二人は左右に回避する。
「ッ、サーマル!?」
"生半な装備で挑むわけがないだろう!貴様たちはここで成敗する!"
「ハッ、これでも食らっとけ!」
ネルはドラム缶を両手で掴むと、カメラアイに照準を合わせる。
だが、機銃でドラム缶ごと掃射され磔にされる。
アカネが何かを放り投げ、ロボットは足で潰し───C4が炸裂する。
一機の足が故障したため、他のロボットも足止めを受けた。
その間に、ネルが通りから建屋に逃げ込む。
他のロボット達は横にあった建屋に向け腕を叩きつけると、崩れた瓦礫を登り逃げ込んだ鼠を狩りに動き出す。
「アカネ、そっちは何体だ?」
"恐らく一機です。残りは全てリーダーに向かっているかと"
「いいじゃねェか、全員釘付けにしてやるよ!」
間もなくしてネルの目前の壁を突き破り、ロボットが現れる。
ロボットがネルを見つけるより先に、壁を蹴り上げてロボットの頭上に乗りあがった。
一瞬視界に映ったハンドルを力強く引き出すと、バッテリーらしき四角形。
ネルは蹴りでへし折り跳び離れる。ロボットの動きは暫しもがいたのち、動作を停止した。
息をつく間もなく、やがて他の二機も他の壁を突き破り現れる。
ネルは近くの作業机に駆け込むと、天井の玉掛フックを狙って連射する。
ロボットがフックを避けて視界を戻したころには、獲物はいなくなっていた。
しかし、埃のついた建屋には足跡が必ず付着する。足跡の先は通りへ。
ロボットが建屋の金属扉をこじ開けると、痕跡は"飛んだように"消えていた。
反射的に頭上を見上げると───
一発の榴弾が、一帯で炸裂した。
赤い熱波が工場跡地を焼き払った。
その中心にいたロボットは勿論、足を崩した機体もコクピットを残して残骸が残っているだけだった。
瓦礫の中から、一機が起き上がる。
サーマルセンサーを起動して周囲を見渡すが、何も見当たらない。
歩き出そうと、足を動かすと、違和感。
飛び上がったネルが、コクピットに掴まる。
「やっと近づいたなァ、赤色!」
暗闇から現れた二丁のサブマシンガンが、カメラアイに叩き込まれる。
ネルはロボットのカメラアイを蹴り飛ばすと、少し離れる。
あまりに暗いだろうからか、後ろから伸びたそのアームには気付けなかった。
「がッ!」
"最初からお前だけがターゲットだ。あのメガネのほうは、鬱陶しいだけだからな。少し弊害があったが、こうすれば逃げられまい"
ネルの胴体ごと、アームで握り締められる。空気を吐き出した肺は、吸気を求めるができない。
次第に、アームの圧力が強くなり、骨が軋む音が聞こえ始める。
アカネの通信も、ノイズばかりで聞こえない。
──まだだ。まだアイツは来てない。
ネルは銃を放して掴まれている手の指関節を何度も、何度も叩きつける。
──視界が、ぼやける。まだ手は動く。
──口から鉄の味がする。まだ腕は動く。
ネルの意識がなくなる直前、体にかけられていた圧力がなくなった。
「ハァッ…ハァッ…おせぇよ、全員ぶっ倒しちまうところだったぜ」
「す、すいません。大きいので引きずってたら時間がかかってしまって」
ネルの顔にヘルメットライトが当てられる。見上げると、レールソーを持ったアオバが申し訳なさそうに立っていた。ロボットを見ると、アームが丸ごと切り落とされていた。
アオバはロボットに向き直り、不愉快という感情を包み隠さずに話しかける。
「はぁ…変な機械を出してきたので残業、確定なんですけど。これどうしてくれるんですか?」
"クッ、こんなものを持ち出してくるなんて卑怯だぞ!しかも爆撃だと!?戦争でもしてるのか!"
「こんな兵器作ってるグループのほうが戦争してると思いますけど…。まぁ、いいですよ」
アオバがレールソーの電源を入れると、けたたましいスターター音が夜空に響き渡る。
その目に宿すは、怒りでも憎悪でもない、虚無。機銃の掃射を受けながらも、歩みは止まらない。
隻腕のロボットがが後ずさるが、レールソーの刃が食い込んだ足関節で唸り声をあげた。
"うおあああああああああああっ!?"
「うるさい」
機銃を絶え間なく浴びても一切動じず、アオバは足関節を半周切断した。
残りの部品の"解体"には、あまり時間を要さなかった。
人と金属の悲鳴が木霊し、やがて何も聞こえなくなった。
「アオバ、体大丈夫か?」
「まぁ、頑丈な方なので…それより、アカネさんは?」
そう話していると、機銃がアオバの体に叩きつけられる。
残りの一機が、機銃の銃口をアオバに向けていた。
アオバはレールソーのエンジンを落とすと、足元に置く。そして、近くの瓦礫に埋もれていた作業机に両手を掛ける。
「…オイ、嘘だろ」
作業机を持ち上げると、アオバはロボットに照準を合わせる。
体を捻ると、アオバはスイングの要領で、一投。
ロボットの頭部にめり込むと、ロボットはそのまま仰向けに倒れた。
「ハ、ハハ…アオバ、マジでC&Cに来いよ。いつでも歓迎してるぜ」
「あぁ~…私は勉強はからっきしなので、辞めておきます…」
─────────
数日後
ミレニアム セミナー
「…冗談でしょ?」
「迫撃砲まで使うとは思いませんでしたが…」
「まぁ、半分はあいつがやったけどな」
セミナーの執務室。絆創膏を顔中につけたネルが、ソファに腰かけていた。
結局工場跡地は半壊、カイテンジャーは全員矯正局で預かりとなっている。
崩壊した廃線路及びハイランダーへの協力金はセミナーからの支払い条件として学校ではなく個人宛てに送られた。ネルとアカネには特別報奨金が与えられたが、二人とも辞退したためその分も併せて送られている。
「見直した、っていうか…アイツとサシではやりたくねぇ」
「あらら…むしろ、要注意人物としてマークしておいた方がいいですね」
「ノア、この後ウタハが話があるって。どうせ迫撃砲を返してくれとかでしょうね」
「困りましたね…会長からは、エンジニア部の予算を減らしてでも止めろ、と言われてますしね」
そう話していると、セミナーに一人の人影が現れた。彼女は珍しく、工具は持ってきていないようだった。
片手を上げると、執務室の入口で止まった。
「やぁ、お邪魔かい?」
「迫撃砲なら絶対無理よ。あれがあることが知れたら、学園問題よ」
「いや、ただお礼を言いたかっただけさ。あの子を一度でも動かせるなんて、夢にも思わなかったからね」
「…それだけですか?」
ノアの問いに、「私の人望が…」とぼやきながら、ウタハは何枚かの書類をノアに渡した。書類には、着弾精度、実威力などのデータが書かれたスペックが記載されていた。
ノアは軽く流し見し、最後の「廃棄をセミナーに依頼」という一文で目が止まった。
「紙で渡してくる、ということは…」
「あぁ、あの子の所在は会長にも知られるわけにはいかない。下手したら退学だ」
「ハハ、ウタハも線引きはあるんだな」
「当然さ。産まれた子は、最後まで面倒を見るのが義務ってものだ」
一体のドローンが、廊下から静かにダクトへ潜り込んだ。
─────────