これは内海アオバのSSです。
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某日・ハイランダー 小型列車内
"列車緊急対応部、目標までの距離は"
「えぇと…だいたいあと20mぐらいですけど」
"了解した。乗務員には増員がもうじき到着すると連絡する"
私は今、ぐんぐん加速する小型列車の中にいます。速度計の針が120kmを越えるあたりから私は見るのを辞めました。管理室との連絡が途絶えた後、私はドリンクホルダーに入れていた微糖の缶コーヒーを取り出して喉に流し込みます。朝一で買ってまだ飲み切っていないそれは、私のぼーっとした意識を少しだけ鋭くしてくれます。
「んぐ…温い…」
私は先日から緊急列車対応部に配属されました。具体的には、列車内で乗務員がトラブルに対処できなかった際、武力介入して鎮圧するお仕事です(逆に今までどういう運用をしてきてたんでしょうかね?)。
今までの仕事は雑務もあったので、完全に切り離されていてそこは感謝しています。嫌な上司との人間関係もありませんし…。ですが今の時点で既に発生している問題があります。私は管制室との連絡が切れていることを確認した後、一人車内で叫びました。
「忙しすぎるんですけどぉ!?」
そう。忙しいのです。新設された部活というのもあり、部員は私一人しかいません。ですから、皆さんも気を遣って使わないだろう…という私の予想は大きく外れました。私は日が昇り始めたころ、アラームより先に管理室からの着信音で目を覚ましました。それから午前中はD.U区間のボヤ騒ぎ、ゲヘナ区間の銃撃戦を鎮圧して、今はアビドス区間の列車に向かっています。
なんでも列車内で口論の末、ブラックマーケットの改造銃を振り回し始めた不良達がいるそうで、応援要請が入りました(そもそもブラックマーケットにいるような人が電車に乗らないでほしいんですけど)。
乗務員も一応応戦していますが、ハイランダーに支給されている銃は型落ちの銃が採用されているので防戦一方みたいです。普通、装備の一新をした方が確実だと思うんですけど。制圧部隊を作れば対外的なアピールになる、という薄っぺらい思考が見え透いて嫌ですね。
「っと、もう近いな…」
応援要請が出ている列車に近づくにつれ、小型列車の速度も徐々に落ちていきます。ここで上層部への鬱憤を溜めこんでも仕方ありません。この苛立ちは悪党にぶつけてしまいましょう。
私は銃を手に持つと前部座席にある赤色のボタンを押しました。座席から腰を上げて間もなく、右のドアが左右に開いて強風が私の顔を叩きます。左端から最後部車両の水色のドアが見えてきます。目標まであと5,4,3…
「列車緊急対応部、出動」
私は最後部車両のドアにめがけて銃を撃ちます。ガァン、という小気味のいい音と共にドアが車両内の反対側に吹き飛びます。私は銃のコッキングを行うと、助走をつけて小型列車の縁を跳びました。無残に開け放れた車両に跳んだ勢いで転がり込みます。
私は横這いの姿勢から膝を上げて、車内の様子を確認します。最後部車両には連絡用の乗務員が一人と、追い立てられた乗客の人たちが壊されたドアから転がり込んできた私を見て竦んでいます。やっぱりこの突入方法、世間体的によろしくないと思うんですけど。
「あの、列車緊急対応部ですけど~…暴れている人、どこにいますか?」
「ぞ、増員の人ですか!?でしたら二両先にいます、現在乗務員が前後一両を封鎖してます!」
「分かりましたけど、車両内の設備は使っていいですか?」
「え?はい、運行に支障が出ない程度であれば…」
一応、形式上の許可は下りたので私はずんずんと前部の車両に向かって突き進んでいきます。通りすがりざまに乗客の人達から向けられる、恐怖と懇願が入り混じった視線が痛いです。
やがて、封鎖された車両の扉を開けると、最初に硝煙の匂いが感じられました。銃弾が金属に跳ねる不細工な音楽が、私の神経を逆撫でしてきます。件の車両に繋がる扉は「KEEP OUT」のバリケードテープが引かれていたので、私はそれを腕でどかしながら扉に近づきます。
扉から中の様子を窺うと、ロングシートの車両で不良が二人、手前と奥に対して威嚇射撃を行っています。足元の空薬莢はあっちこっちに転がっていて、恐らく"ショッピング"から帰ってきたばかりなのでしょう。乗務員さんは荷物で作った即席バリケードで防いでいますが、長くは保ちそうにありません。であれば手短に、そして確実な方法を取りましょう。
「よしっ」
私は一息つくと扉に手を掛けます。扉に徐々に力を込めていくと、ミシミシと金属が軋む音と共に、扉が歪んでいきます。ひしゃげた不協和音が車内に響いて、車内にいた全員が私の方を振り向きました。
「おい!次は誰が…!?」
「えっ、なっ!?」
私はハイランダーに配備されていた暴漢対策マニュアルを頭の中で思い返します。車内において銃撃による制圧はこちらの武力が相手方と拮抗しているとき、それ以外は隙をついて相手へ関節技などを用いて制圧します。私は乗務員研修を受けていないので関節技は知りませんが、代わりに修理費などは全て補填されます。なので─────
「えいっ!」
手に持っていた扉をそのまま不良の人達に投げつけます。手首でスナップが加えられた扉はぐるぐると回転をしながらバリケードを越えて不良の一人に当たり、改造銃と一緒に列車の奥まで吹き飛びました。そのまま壁に打ち付けられると、不良のヘイローが消えたことを確認しました。
もう一人は何が起こったか分かっていないようで、迷わず私に照準を合わせてきます。どうしましょう、この距離で手短に投げられるものが無いんですけど。私は一旦ロングシートのカバー部分に避難して難を逃れます。
「くそっ、何が起こってんだ…!」
「今だ、射撃用意!撃て!」
乗務員の方も今の間にリロードを行っていたようで、私の後方から不良に対して応援射撃が入ります。不良は形勢不利を察してか、カバー部分に避難した後、手元で何かのピンを外し、こちらに投げてきました。
「ッスモークッ!」
「ハッ、ハイランダーのオンボロ装備で敵うかよ!」
バリケード付近に転がったスモークから多量の煙が噴き出し、煙で私も含め覆われました。その間に奥側の乗務員と交戦しているようで、幾つもの銃声が車内を飛び交っています。私は腕で口を抑えながら、不良の咄嗟の抵抗に段々苛々してきました。
もうこの後の結果は分かり切っています。多勢に無勢、片側を見る役がいないのだから、数で押し切れば必ず制圧されます。それにも関わらず抵抗を辞めないのは、少しでも爪痕を残したいのか、借り物の強さを顕示したいのか。視界の悪さと煙ったさも相まって、もう歯止めがききません。
「ああもういいです!今からあの人倒してきますけど…しばらく近づかないでくださいね?」
「はっ?いやでも、スモークから出たら格好の的じゃ…」
もう乗務員の人の言うことは聞きません。私は左手の感覚を頼りに、ロングシート沿いにフラッシュバックが起こっている方向へ歩いて行きます。あぁ、本当に───嫌なことばかりです。左手に込められた力が徐々に強くなっていくのが分かります。やがて、スモークから抜けて数m先に不良が見えました。
「ッハ、わざわざ出てくるとは暢気だなァ!?」
銃口が私に向いていますが、気にしません。
「まずはてめえからだッ…は?」
銃弾が私の頬に、胴に、足に当たりますが気にしません。ただ左手は親指から順に、一本ずつ、開いていきます。
「いや、なんで効かねえんだよ!?止まれ!止まれって!」
やがて、後ずさる不良の銃口を掴むと、私はそれを握り潰します。
「は──────」
「痛いんですけど」
潰した銃から手を離すと、奥に逃げようとした不良の首根っこを掴みます。これで、逃げられません。
「えっ、ええっ!?」
「は゛、は゛な゛、せ゛」
私は左腕を振り被ると、
ゴシャッ
横のドアにそのまま叩きつけました。
叩きつけられたドアが歪んで、ともすればドアが外れかねません。
ドアに項垂れかかった不良はやがてヘイローが消えると、ずるずると床に倒れこみます。
私は不良の胴目掛けて、足で思い切り踏みつけます。
ゴキッ
「うっ…!?」
奥の乗務員が声を上げていますが、気にしません。やがてスモークが晴れて、手前にいた乗務員の姿も見えてきました。
私は手前にいた乗務員に目を向けると、声を掛けました。その時私がどんな表情を浮かべていたのかは、分かりません。
「制圧、完了しました。列車を駅まで移動してもらっていいですか?私は今来た列車で帰ります」
「ひっ…は、はい、了解しました」
これにて、鎮圧は完了しました。次の応援要請もなさそうなので、私はこれから待機場所の中央管制室に戻ります。
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「こちら緊急列車対応部です。鎮圧、完了しましたけど」
"…了解した。運行再開の連絡も列車側から来ている。至急、中央管制室に戻るように"
「了解しました」
管理室との連絡が終わった後、私は小型列車のいくつかのボタンを押して、小型列車をUターンして戻るよう始動させます。小型列車は駅毎に小型列車が配備されているので、元の場所まで戻さなくてはいけません。
「…あ」
動き出した車両内で、私はドリンクホルダーにぶら下げられたビニール袋に気付きました。今日、お昼ご飯のサンドイッチをまだ食べていません。戻るまでに、食べ終えないと。最初に噛り付いたサンドイッチのハムと卵が、私のやる気を取り戻してくれました。
「えー、クロノスニュース報道部の川流シノンです!速報です!アビドス区間の列車で銃撃戦の後、爆発事故が起こった模様です!ハイランダー鉄道学園からは運行再開の発表がありました!この後は、アビドス区間にて、実際に車内にいた乗客の方にインタビューを…え?
?爆発じゃない?では銃撃戦の様子を詳しくインタビューしたいと思います!チャンネルはそのままで!」
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