私、これでも幹部なんですけど!?   作:石鹸52mm

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内海アオバの暴走録2

 

 これは内海アオバの備忘録3の記憶を失っている部分のSSになります。

 

─────────

 

先に動いたのは、ホシノの方だった。ホシノは左手で持っていた盾を展開せず、そのまま横振りにアオバの顔面に打ち付けた。と同時にアオバの胴体にショットガンを撃ち放つ。理解しているのは、「相手が近接戦闘において膂力が優れていること」。意識を刈り取ることができずとも、相手がどれぐらいの力量かを測るには十分である。ホシノはそう考えて行動に移したが、やけに左手の手応えが無いことに気付く。まるで、防がれているような────

 

「はぁ…"これ"、盾かなんかですか?硬いですねぇ…」

 

アオバの声が聞こえると、徐々に押し込んでいたホシノの左手がホシノの方に返ってくる。アオバは、ホシノの盾で左手を広げて受け止めていた。胴体からは撃たれたことにより服から硝煙が出ているが、意にも介していない。ホシノは再びショットガンの引き金に指を掛ける。しかし。

 

「えいっ」

 

 

ズンッ

 

 

「ぐっ!?」

 

ホシノが銃を撃つより先に、アオバの右足がホシノの体にめり込んだ。助走無しの一撃にも関わらず、衝撃でホシノは数m吹き飛ばされる。ホシノは咄嗟に空中でふわりと体を翻し、線路上に足を付けた。アオバを見ると、無線でどこかに連絡をしているようだった。

 

「こちら、列車緊急対応部。線路上で意図しないトラブルに巻き込まれました。列車が復旧するまでこちらで対応します」

 

「ったいなぁ…」

 

ホシノは今の攻防で、二つの結論と一つの可能性を導いていた。一つは、アオバの膂力はマシーンや訓練した兵よりも優れていること。ホシノの一撃を片手で防いだことがその証左だった。恐らく素手で爆発を起こしたという噂も、強ち間違いではない。

 

そして、一つはアオバには確実に銃のダメージが通っていること。一見銃弾も効いていないように見えるが、アオバが右足を出すとき、一瞬足を出すのにタイムラグがあった。であれば、顔には出していないがダメージが蓄積されていくだろうとホシノは結論付けた。

 

最後に、これはホシノがアオバのフォームを改めて見て気付いたことだが。アオバは、()()()()()()()()()()。アオバの腕力であれば銃に手を添えなくても撃てるのかもしれないが、やはり射撃の精度は落ちてしまう。

 

で、あれば導き出されるのは、精度が関係ない超至近距離で戦っていることになるが、アオバは自身を守るセカンダリを携帯していない。ということは、「今まで戦うときは左手に何かを持って戦っていた」可能性がある。恐らくこれは、アオバが列車に関するトラブルだけに特化した部隊だからだろう。屋内であれば、片手で何か重量物でも持ってしまえばそれが武器足り得る。

 

だからこそ、とホシノは考える。近接主体で周囲の物を使う敵、と考えれば今回の戦闘は容易に進められる。近寄られてしまえば分が悪いが、相手は銃弾が通じる。であれば、ヒットアンドアウェイで少しずつ相手の体力を蓄積させていく。

 

そこまで決めると、ホシノは弾を装填した後盾を展開させ、アオバに向かって歩いていく。アオバはホシノが向かってくることに気付くと無線機を仕舞い、ショットガンを構える。

 

「へぇ…向かってくるんですね。今ので大抵の人は倒せるんですけど。頭も硬いと体も硬いんですか?」

 

「生憎私は頑丈だからさぁ…これぐらいじゃ、攻撃に入らないよ」

 

ホシノはそう言うと、地面を蹴ってアオバに肉薄する。アオバはホシノがシールドバッシュをしてくると読み、ホシノに照準を向ける。アオバの銃口が光るのと、ホシノが寸前で片足を捻ってアオバを避けたのは同時だった。ホシノは通り間際にアオバにショットガンを向け、複数回のマズルフラッシュの後アオバの身体が後ずさる。

 

「ちょ、痛っ!?」

 

アオバが銃口を向けたときには、既にホシノは射程距離外にいた。ホシノは再びショットガンに弾を装填しながら、アオバに向けて侮蔑の視線を向ける。

 

「分かりやすいなぁ。同じような場所で同じような奴としか戦ってないでしょ?だから、」

 

ホシノが再びアオバに向かって地面を蹴る。アオバはやや早めにショットガンを撃つが、それより早くホシノは身を屈めて散弾を避けた。ホシノはアオバの首筋に銃口を当てると、()()()三発を叩きこむ。衝撃でのけぞったアオバに向けて、ホシノはさらに三発散弾を撃ち込む。アオバは衝撃で吹き飛んだが、ホシノは続けて盾を放り投げた。回転する盾がアオバの頭を捉えると、跳ね返って地面に落ちる。アオバは盾の衝撃で受け身も取れず、二転、三転と地面を転がっていく。アオバの頬には、青あざが浮かび、額からは血が流れ落ちていた。転がってしまった影響か、口の中を切って血が零れ、首も切り傷がところどころに付いていた。

 

「私からすれば、その辺のやつと変わんないよ」

 

盾を拾ったホシノは吐き捨てるように言うと、使った弾を装填しながら仰向けのアオバに近付いていく。銃弾は効いているし、頭にも負傷を負わせた。それでもホシノがなお警戒したのは、ここまでのダメージを与えたにも関わらずヘイローが消えていないことだった。気絶さえしていなければ、後ろから手痛い反撃を食らう可能性を鑑みて、確実に気絶させておこうと考えた。

 

一方、アオバはふらふらと立ち上がりホシノを見据えるが、銃を持つ手はガクガクと震えていた。初めての強敵、それも圧倒的なまでの"強者"。最早この後の結果は見え透いていた。それでも、とアオバは目を見開く。ここで食い止めなければ、この生徒は確実に学校に甚大な被害をもたらす。

 

そうなったらアオバは事実上の敗北を喫し、学校での立ち位置は悪化するだろう。良くて過疎地への左遷で、最悪これまでの責任と過去の過ちを追及されて退学。そうなってしまえば、アオバは今まで蔑んできた不良と一緒に日雇いの仕事をしなければならない。生徒としての人生は終わり、惨めさと後悔、悲観に打ちひしがれながら、大人に搾取され続ける。

 

今のアオバには責任がある。労働条件に異を唱えつつも、最低限生徒としての尊厳は保っている。それがなければ、アオバは今まで通り人生を諦めて、全てを悲観的に捉える人生だったろう。まだ、この学校でやり直せる機会はある。まだ負けと決まったわけじゃない。最後に立っていた者が生き様を決めれる。

 

だから、アオバはよろめきながら、痛みを顎で食いしばり、震える足を地面に無理矢理固定して、吐き出しそうな胃液を堪えて、今もそこに立っている。自分には、"これ"しかないのだと。何者でもない自分が自分足り得る理由だと。アオバはほとんど、発狂する寸前の精神状態だった。

 

「おぇっ…痛い、うぅ、痛い、イタい…どうして…」

 

「…ん?何?」

 

ホシノからすれば、最初は敗者の戯言だと思った。立ち上がったアオバは身体のバランスも取れておらず、発している言葉も呻き声に近い。瞳孔は開きっぱなしで、浅い呼吸を繰り返し、鼻水と涙と口から出た血で無残な顔をしていた。が、その紅い瞳は、あちこちと動かしながらも、まだ戦う意思を宿している。それを見てホシノは憐みの視線をアオバに向けたまま、アオバに近付いていく。

 

アオバは段々と近付いてくるホシノに恐怖と、不満の感情を抑えきれなかった。あぁ、このまま倒れてしまいたい。このまま立ち去ってくれればいい。誰も、私を責めなければいいのに…。身体の痛み、過労の疲れ、鉄の匂い、朦朧とする意識、自分を刺す憐みの視線。

 

アオバの中で目の前の生徒に対して、様々な感情が蠢いていた。羨望、敗北、諦観、慟哭、惨め、困惑──嫉妬、怒り、苛立ち、激情、不愉快、欺瞞。アオバの頭の中で黒い感情が膨らみ切ったとき、唐突に全く分からない言葉が浮かんできた。走馬灯か、はたまた幻聴か。

 

訳も分からないまま、アオバは唇から、意識的にその言葉をなぞった。

 

「黒き(テスカトル)神殿(テオカリ)を包む、闇の(ポポカ)…」

 

「…は?」

 

アオバが"それ"を口に出した途端、ジャケットから黒い煙がゆらゆらと、次第に量を増やして周囲に揺蕩い始めた。同時に、アオバの瞳も目の色が濁り、虚ろな表情に変わっていく。顔も拭わず、ショットガンをだらんと垂らして、片手は何かを探してゆらゆらと動いている。

 

ホシノは驚愕しながらもショットガンを構えて射撃を行うが、煙に弾かれてアオバには当たらない。やがて、アオバは口から飛び散る血も気にせず、狂気を孕んだ目で、その言葉を叫んでいた。一度だけ深く吸って発したその声は、金切り声に近かった。

 

 

 

煙吐く鏡(テスカトリポカ)ァッ!」

 

 

 

「ッ!」

 

ホシノの周囲を凄まじい速度で黒い煙が包み込み、やがてホシノの視界は自身の銃と盾、そして足元しか捉えられなくなった。ホシノは周囲を一瞥した後、思考を走らせた。アオバがガスマスクをしていない辺り、毒ガスではない。そして、気体である以上風圧には逆らえない。するべきは視界の確保と状況の確認。ホシノはそう考えると、盾を高く掲げ、思い切り地面に叩きつけた。

 

 

ガァン!

 

 

ホシノが叩きつけた衝撃で強い風圧が発生した。ホシノを包んでいた黒い煙は霧散し、周囲の視界も一気に晴れた。ホシノは先程までアオバがいた場所に首を回すが、既にいない。同時に、黒い紐が視界の端に移り、ホシノは咄嗟にその場で伏せた。

 

「っふざ、けんな…!」

 

黒い紐と思ったそれは、恐らく黒い被覆を被った電線だった。ホシノが体に落ちてきた石を払い除けながら立ち上がると、アオバが離れた鉄柱の下で虚ろな目で、十mはあろう電線を両手で振り回していた。電線が地面などを掠めたのか、周囲の鉄網はひしゃげ、吹き飛ばされた飛石が散乱していた。電線は黒い煙を纏いながら、鞭のようにホシノ目掛けて振り下ろされる。

 

「こん、のっ!」

 

ホシノは叩きつけられる電線を、盾でいなしながら前に進む。どこにこんな体力が残っていたのか、アオバは周囲の被害を気にすることなく電線を振るい続ける。茶色の石が飛び散り、線路は凹み、徐々に線路としての機能を失いつつあった。

 

ホシノは打ち付けられる寸前の電線を盾で無理矢理地面に押さえつけると、それに沿ってアオバに走っていく。アオバはそれを見るなり電線を手放し、身を屈めクラウチングスタートの姿勢を取る。ホシノは脳裏で危機を察知し、下げていた盾を体全体を守るように構える。刹那、轟音と共にアオバの左足がホシノの盾を蹴りつける。受け止めた衝撃でホシノの身体が地面に沈む。

 

「いい加減に、しろっ!」

 

盾で防いだホシノの左腕にビリビリと衝撃が伝わるが、ホシノは構わずアオバに散弾を三回撃ち込んだ。アオバは身体を防ぐ暇もなく空中で散弾を浴びて、再び仰向けに地面に転がり、何回か痙攣した後、動きを止めた。顔は何の色も浮かべず、顔からあらゆる液体を垂れ流していた。こひゅ、こひゅと浅い息は繰り返しているが、ヘイローは、既に消えていた。

 

「はぁ、はぁ…なんだったんだよ、今の…」

 

ホシノはアオバの意識が無くなったのを確認すると、弾を装填してその場を後にしようとする。ホシノはアオバとの戦闘でおおよそ十発近く弾薬を消費していた。思わぬ展開で戦闘が長引いてしまったが、後は近接戦闘で制圧していけば問題ないだろうと判断していた。が、何かの気配を感じて後ろを振り返る。

 

「…噓でしょ」

 

そこには、人の形を成した黒い煙が複数体いた。頭部は鷲を象っており、手足は槍のようなものを象った武器を持っている。アオバのジャケットから伸びているそれは目はついていないものの、明らかにホシノに向かってゆっくりと歩いてきていた。動きは緩慢で、動作もぎこちないが、先程と違い実体が"ある"。

 

ホシノは盾と銃を構えると、最初に近付いてきた一体の首を銃で薙いだ。首を捥がれた煙は槍を向けたまま動きを止め、あっさりと消えた。ホシノは残る二体に盾を向けると、勢いをつけて殴りつけた。二体は槍でガードする構えを取ったが吹き飛んで霧散し、その場から消えた。ホシノが一息つく間もなく、アオバのジャケットから黒い煙がが噴き出すと、再び黒い煙が形を成し始めた。青色だった空は、いつの間にか雲が太陽を隠していた。

 

 

─────────

 

"当該区域の皆様、大変お待たせして申し訳ございませんでした。ただいま列車が復旧いたしましたので、これより運行を再開いたします。重ねて、お詫び申し上げます。繰り返します──"

 

ホシノが何百体倒したのかも数え切れない程黒い煙を消した後、線路沿いのスピーカーからの案内がホシノの耳に入った。アオバの方を見やるとジャケットから吹き出ていた黒い煙は完全に消失し、アオバが仰向けで倒れているだけだった。ホシノはもはやこれ以上の戦闘行為は無駄だと判断し、その場を立ち去ろうとするが、後ろから何人かの声が聞こえてくる。

 

「アオバ部長ー!列車が直ったので増援に来ましたー!」

 

「あれ?アオバ部長、倒れてない?ていうか、近くに誰かいるけど…」

 

「ッ!」

 

ホシノは盾を畳むと、地面を蹴って急いでその場を後にした。時間にして数十分、ホシノはひたすら黒い煙に囲まれていた。ホシノに目立った傷はほとんどなかったが、ホシノの頭の中は困惑と苛立ち、悔しさが渦巻いていた。

 

「うわっ…アオバ部長ひどすぎでしょ!生きてる!?」

 

「呼吸はしてるけど…とりあえず医務班呼べ!」

 

後ろから聞こえる怒鳴り声を聞きながら、ホシノはひたすらに走った。アヤネの車に帰る最中、ホシノはアオバの異常な反応が目に焼き付いて離れなかった。

 

アヤネの車に戻りながら、スマホを開くと、アヤネからの着信が何件も来ていた。ホシノがアヤネの車があった場所に戻ると、路上駐車してあった車の近くにいたアヤネが冷や汗を流しながらどこかと連絡していた。ホシノは頭を振り払うと表情を切り替え、いつもの声色でアヤネに話しかける。

 

「ごめ~んアヤネちゃ~ん、待たせちゃったね~」

 

「…え!?えぇ!?すいません、ホシノ先輩が戻ってきました!すいません、切りますね!」

 

遠目では気付かなかったが、アヤネがホシノに駆け寄ってくると、その瞳には涙が溜まっていた。ホシノはそれを見て心の中が痛んだが、武器をその場に置いてアヤネを抱き締める。

 

「ホ、ホシノ先輩…。ずっと、心配してたんですよ…?」

 

「心配かけちゃってごめんね、アヤネちゃん。私はこの通り無事だから、大丈夫だよ」

 

その後、アヤネとホシノはD.U地区のガンショップで弾薬を買い、アビドス高等学校に戻ってきていた。太陽はもうすぐ隠れそうだったが、対策委員会の部室をホシノが開けると、全員が待機していた。

 

「いや~ごめんねぇ~、ちょっと諸事情あって遅れちゃった~」

 

「…ホシノ先輩!」

 

ホシノを目にした途端、シロコが立ち上がりホシノに抱き着いてくる。ノノミ、セリカも心配そうな眼差しでホシノに駆け寄ってくる。

 

「アヤネちゃんから連絡がありました。…ホシノ先輩、大丈夫だったんですか?」

 

「ほんと心配だったんだから!シロコ先輩、学校を空けてまで行こうとしてたのよ!?」

 

「セリカちゃん、ホシノ先輩には道中私からきつく言っておきましたので。これ以上、私達に心配をかけないようホシノ先輩も気を付けてくれると思います」

 

「えぇ~と、その…すみませんでした…」

 

弾薬を分けていると月が昇る時間になっていた為、弾薬を分けるのは次の日にしようと言って、対策委員会はその日解散となった。

 

 

─────────

 

 

その翌日、私が早めに学校に顔を出すと、見知らぬ車両が学校の前に止まっていた。青いコンテナを積んだトラックで、コンテナには白いミレニアムの校章が刻まれている。私が訝し気にトラックを見ていると、トラックの中からロボットの配達員が降りてきた。

 

「すみませ~ん、アビドス高等学校の方ですか?ミレニアムサイエンススクール配送センターです。荷物が届いてまして、受領印を頂きたいのですが…」

 

ミレニアム?なんでうちに配送が来てるんだろう。それも大型。頼んだなんて話、誰からも聞いてない。それに、ミレニアムの物品は質が担保されてる分料金も高い。嫌がらせにしては、やり方が回りくどすぎる。

 

「…うちは荷物をミレニアムに頼んだ覚えはないけど。中身は?」

 

「いや、そうは言っても…ええと、中身はミレニアムの大型弾薬キットです。プレゼント用なので恐らくホログラムもついていますね。配送料金は送り主からいただいてますので、受領印だけで結構です」

 

プレゼント用なんてものがあるのを私は初めて知った。企業用なのであれば、その大きさにも納得がいく。でも、一体誰が?"あいつ"ならこんな足が着くやり方はやらない。送り主は私達をいつでも潰せるというアピール?私は送り主が誰か気になった。どのみち知るとは思うけど、念のため聞いておきたかった。

 

「…送り主は?」

 

「"ハイランダー鉄道学園 中央管制センター"様からですね。中身はミレニアムが検査、梱包まで行っていますので、ご安心を」

 

「…え?」

 

その名前を聞いて私は目を見開いた。ハイランダー?昨日私が戦った相手もハイランダーだった。ということは、これはハイランダーからの最後通達?とりあえず、中身を見ないことには何もわからない。私は受領印をサインすると、とりあえず荷物を学校の入り口まで運んでもらった。

 

その後、対策委員会の皆も登校してきて、特にノノミちゃんはハイランダーの名前を聞いた瞬間浮かない顔をしていた。私達は弾薬を分け切った後、対策委員会の部室の机の上に置いたホログラムをチェックする。見たところ、何もおかしいところはない。ホログラムを起動する装置にもミレニアムの校章が刻まれているので、ハイランダーは映像データだけをミレニアムに送ったのだろう。

 

「とりあえず、起動するね」

 

私の声に、皆が頷く。私がホワイトボードをどかした位置にホログラム起動装置を動かして電源を入れると、緑の髪の生徒が二人現われた。

 

"パヒャヒャッ、これを見てるってことは、昨日頼んだ贈り物が無事アビドス高校に届いてるってことかな?"

 

"さぷらーいず、きんきゅーいんしでんとー"

 

「…誰、この子達」

 

「どうなんでしょうか…ハイランダーの制服を着ていますからハイランダーなのは間違いないですが…」

 

私達の困惑を無視して、無機質にホログラムは再生され続ける。二人は自己紹介を始めた。

 

"えーっと、私はハイランダー鉄道学園CCC(中央管制センター)の橘ノゾミ!他校でいう生徒会ってやつだね!"

 

"同じくー橘ヒカリー。今回はお詫びでこの品を頼んだよー"

 

「…え?ホシノ先輩、ハイランダーになんかされたの!?」

 

「いやーなんていうか…後で話すよ…」

 

思わず立ち上がったセリカちゃんを、私は窘める。続く言葉に、全員が黙る。

 

"とりあえず、昨日はアビドス区間を止めてごめんねー?うちの部がやらかしちゃってさぁ、どうしても止めなきゃならなかったんだよねー"

 

"でもー、アオバと戦ってたみたいだしー、ここは喧嘩両せいばーい"

 

「アオバ、って…ハイランダーの列車緊急対応部と戦ったんですか…?」

 

「うっ…」

 

ノノミちゃんの指摘に、私は何も言い返せない。アオバ、たった一人の治安部隊。シロコちゃんが強さに興味を示す。

 

「そいつ、強いの?」

 

「内海アオバさん…ゲヘナの駅ジャック事件をほぼ一人で鎮圧した生徒さんです。これは推測ですが…今後の動きによっては学校間のパワーバランスに影響を与えるかもしれません」

 

「そんなに!?」

 

私達の話もお構いなしに、ハイランダーの生徒は笑顔で話を続ける。まるで、このオチが分かっていたような。

 

"私達としては別に戦う理由はないけどねー。ま、迷惑かけちゃったのは事実だし?しばらくアオバはアビドス区間に行かないようにするから、それでチャラってことで!"

 

"いじょーで撮影をしゅーりょーするー、送った弾は好きに使ってー。それじゃー"

 

ぷつん、という音と共にホログラムは切れた。私達はと言うと、それぞれが違う目をしてた。シロコちゃんは期待の眼差しで。セリカちゃんは怒りの目で。私を見つめていた。

 

「ちょっと!これ、私達完全に目つけられてるじゃない!」

 

「ん、ホシノ先輩は無傷で帰ってきた。それはホシノ先輩の方が強いってこと。じゃあ負けない」

 

「いやいや、ただでさえヘルメット団と戦ってんのよ!?そんな戦う余裕うちにないわよ!」

 

シロコちゃんとセリカちゃんが仲良く話している中、私はノノミちゃんとアヤネちゃんに目を向ける。二人は、不安そうな表情をしてた。

 

「一応弾は好きに使って、と言われましたが…本当に大丈夫なんでしょうか?」

 

「そうですねー…、話している感じ、裏があるとは思いませんが…」

 

「逆に考えれば、あの子が来ないってことは…電車も気を付けて使った方がいいね。それでいいかな?」

 

私がホログラムを片付けると、セリカちゃんが私に詰め寄ってくる。それはもう、怒り心頭で。

 

「な、なにかな?セリカちゃん」

 

「ホシノ先輩、何したらこんなことになるのよ!今から洗いざらい、話してもらうからね!」

 

「私も興味ある。戦術、武器、性格…ホシノ先輩がなかなか帰ってこなかった理由がそこにある」

 

シロコちゃんも興味を示したので、私は「うへ~」と言いながら席に座り、対策委員会の面々を見つめる。

 

「まぁ、皆も知っておいた方がいいしね。全部話すと長くなっちゃうから、掻い摘んで話すよ」

 

私は「黒い煙」とあの「異常性」は敢えて話さなかった。あれは、皆が知っていていいものじゃない。私だけが知っておけばいいことだ。

 

 

─────────

 

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