「おい良、待て。ハンカチ持ったか? ティッシュとか、後は…」
「燈矢兄うるさいのです」
「うるさい?! 俺はお前たちのためを思って…!」
「…言動が面倒くさい父親のそれだぞ。燈矢」
朝から小さなアパートの部屋の中にそんな声が響き渡った。
白髪の少年少女と、茶髪の少女が玄関の前でそうやって騒ぎ立てている。
すると、隣の部屋から「ドン!」という音が飛んできた。
「うるっせえぞガキども! 朝っぱらなんだから静かにしやがれ!!」
どうやら、隣人がお冠の様だ。
隣の部屋との壁が限りなく薄い部屋であるため、しょうがないともいえるだろう。
隣人の声に驚いていた三人だったが、顔を見合わせると誰からともなくクスリと笑った。
それから、研究員とヒミコはリュックを持ち上げ、ドアを開けながら振り返った。
「じゃあ燈矢。行ってくる」
「行ってきますね、燈矢兄」
そんな二人を見た燈矢は、くしゃりと笑いながら、「行ってらっしゃい」と小さく言った。
…そして、ここは雄英学校の校舎内。
A組のドアの目の前に、研究員は立っていた。
「おい、緑の。入らないのか?」
扉に手をかけたまま動かない緑髪の男子に声をかける。
ガッチガチに固まっている。恐らく緊張していて、教室に入るのがすごまれているのだろう。
「ひっ?! す、すいません! 入ります……」
緑色の男子の肩というよりも全身がビクゥっと震え、意を決したような顔でドアをゆっくりと開けた。
…その瞬間。
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねーよてめーどこ中だよ端役が!」
教室に入ると、プレゼント・マイクの説明中に質問をしていた男子と、爆発したような髪を持つ男子が、プレゼント・マイクに負けず劣らずの声量で言い争いをしているのを、研究員と緑色の男子を襲った。
「ボ…俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」
「聡明~!? くそエリートじゃねぇかブッ殺し甲斐がありそだな」
「君ひどいな! 本当にヒーロー志望か!?」
研究員は、耳をふさいでいた手を外し、緑色の男子に言った。
「なんで初日からここまで荒れているんだ…」
「あ、あはははは…」
緑色の男子は、苦笑いを浮かべながら小さな声でそう言った。
その時、研究員と緑色の男子の声が聞こえたのか、真面目そうな男子がこちらの存在に気づいて近寄ってきた。
「俺は私立聡明中学の…」
「聞いてたよ! あ……っと僕緑谷。よろしく飯田くん」
緑谷と飯田がそれぞれ自己紹介をするなかで、研究員はボケっとしながらクラス中を見回していた。
二人が研究員を見つめている。自己紹介を待っているのだろう。
「……んあ。………んん? あ。ああ、私か? 私はけn…ううん! 異頭良という。よろしく」
研究員が挨拶をすると、飯田が納得したようにうなずき、緑谷に話題を振った。
「ああ、こちらこそ。…ところで緑谷くん、君はあの実技試験の構造に気付いていたんだな」
言いながら、飯田が悔しそうに歯ぎしりをする。
研究員としては、話がなんのこちゃわからないので、きょとんとしている。
「俺は気付けなかった…!! 君を見誤っていたよ!! 悔しいが君の方が上手だったようだ!」
研究員がさらにきょとんとした。見るに、この緑谷。おそらく飯田がいうほどに上手ではない気がする。多分、彼も試験の構造なんて理解していなかったと思うぞ? というツッコミを、研究員はなんとかすんでのところで抑え込んだ。
とその時、さらなる生徒が3人の輪の中に入ってきた。
「あ! そのモサモサ頭は! 地味めの!!」
茶髪の少女だ。地味なモサモサ頭とは、おそらく緑谷のことをいているのだろう。
受験会場で何か縁があったらしい。
「受かったんだね! パンチ凄かったもん!」
茶髪の少女は嬉しそうに緑谷に話しかけるが、彼は女子と話すことに慣れてないのか、顔を真っ赤にしてたじろいでいる。
さっき私と話していただろう。と再びツッコミたくなったが、よくよく考えてみれば研究員はもともと男なのだ。何か、シンパシーのようなものでも感じていたのかもしれない。
そして、茶色の少女の名前は、麗日お茶子というらしい。
(何度目になるかはわからないが)と、その時。
「お友達ごっこがしたいなら他所に行け」
麗日と緑谷の、少し後ろの廊下に、薄汚れた寝袋に入った男が転がされていた。
いつ来たんだよ。私が教室に入ったときはいなかっただろ。と研究員は何度目かわからないツッコミを入れる。
「ここは、ヒーロー科だぞ」
言いながら、寝袋の男は咥えていたゼリー飲料の中身を飲み干した。
今、A組の生徒たちの心境は、限りなくいっちしていることであろう。
すなわち、
((なんかいる!!!!!))
である。
「ハイ、みんなが静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」
寝袋の男は、そういいながら寝袋から出てきた。
寝袋と同じように服は薄汚く汚れている上。そして、首には灰色のマフラーのような布を巻き付けている。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
(((担任!!?)))
二度目のシンクロである。
とても学校の教員には見えない男に全員の心の声が見事に一致する。
目を白黒させる生徒たちを完全に放置して、相澤は寝袋の中から雄英の体育着を取り出して、生徒に言った。
「早速だが体操服これを来てグラウンドに出ろ」
・ ・ ・
「個性把握テストォ!?」
グラウンドに集められた、体育着に着替えたA組の生徒たちは、相澤の言ったことに再び驚愕の意を示していた。
「異頭」
「…? はい」
「中学の時ソフトボール投げ何mだっt…いや、すまん。忘れてくれ」
相澤は、研究員が中学に行っていないことを知っている。それはすなわち、今後いじめや格差につながる可能性もあり、研究員的にもその話題が不愉快に感じる可能性があることを相澤は理解しているのだろう。
それゆえ相澤は、研究員から爆豪に視線を移した。
「爆豪、中学の時、ソフトボール投げ何mだった?」
「…67m」
「じゃあ個性使ってやってみろ、円から出なきゃ何してもいい。早よ」
言いながら爆豪にボールを渡す相澤。
「思いっきりな」
「…んじゃまぁ……」
爆豪が大きく腕を振りかぶる。
「死ねぇ!」
「……こいつ、本当にヒーロー志望か…?」
研究員の声が爆豪の爆発音に飲まれて消えた。
暴言とともに爆発に乗せて撃ち放たれたボールはすさまじい速度で宙を突き進んでいく。
しばらくすると相澤の持つ端末から音が鳴った。
そこには『705.3m』と表示されていた。
「まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
どうやらこのテストは、自分の『最大限』を知るためのものらしい。
ここで限界を知ることで、個人個人に合ったカリキュラムでも作る気なのだろうか。
「すげええ!! 705mってマジかよ!?」
「何だこれ! すっげー面白そう!」
「個性思いっきり使えるんだ! 流石ヒーロー科!!」
そんな生徒たちの言葉を聞いた相澤の肩がぴくりと揺れた。
「面白そう…か。君達は3年間、そんな心積りで過ごす気なのかい? ……よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し……除籍処分としよう」
『はぁぁぁっ!?』
相澤の言葉に、生徒たちは大声を上げて驚愕をあらわにし、研究員は半ば、あーあ。と言いたげに額を抑えた。
「生徒の如何は
「ようこそ! これが雄英高校ヒーロー科だ!
そんな相澤の声とともに、個性把握テストは始まった。