な、なんだこの部屋…?
玄関内に入っただけなのに、これは物凄い……。
いちいち語るのも面倒なので、ここで恐ろしい点を1点ずつ挙げていこうと思う。
恐ろしい点1。まず、異臭が酷い。
ツンと鼻をつく様な匂いだ…。過去に嗅いだアノマリーの匂いよりも酷い…。
そして、恐ろしい点2。生ゴミやら段ボールやら、様々なゴミが適当に置かれて山になっている。
恐ろしい点3。食べ終わった後の冷凍食品のトレーや、ビール缶、その他のゴミで床に足の踏み場がないところ。
恐ろしい点4。部屋に隅にカビが生えている。
恐ろしい点はまだまだあるが、キリがなくなりそうだからここで止めておこう。
それにしても、なんだ?この部屋は。あり得ないだろう。衛生的にも倫理的にも。
私は、床に散乱しているゴミ達を避ける為、奇怪なシャッフルダンスでも踊っているかの様な足取りでなんとか進み、リビングと思われる部屋に入った。
……また新しく恐ろしい点を発見したが、触れずに行こう。ご想像にお任せしますというやつだ。
リビングには、巨大な肉塊が居た。
いや、私を変な目で見ないでほしい。本当に肉塊なのだ。
腹は、私の体が2つは入るんじゃないかと言うほどに肥え、足は原子爆弾かと錯覚してしまうほどパンパンに膨れ上がっている。腕は、2L入りの水筒を横と縦にそれぞれ三つずつ並べたのかと見間違うほど太く、当然の如く脂肪がその大半を支配していた。
そして、一番酷いのは顔だった。
どこぞのアンパンのヒーローの様に膨れ上がった鼻。でっぷりと肥え、でろんと垂れている頬。それに対してそんな顔に不釣り合い過ぎてもはや嫌悪感すら感じてしまうほどに小さい目。そんな醜悪の塊の様な顔は、油でギトギトに彩られていた。
頭の上には、べっちょりと濡れている黒髪が、一塊になって、ポン、と乗せられていた。正直気味が悪い。
妖怪か、それともアノマリーか? そう思ったが、見る限り人間…の様だ。
その後から知ることになるのだが、この肉塊が私の実の父親らしい。
肉塊の顔を見るに、恐らく男…うむ。男だな。
肉塊男は、巨大なテーブルの上に所狭しと置かれた冷凍食品らしい料理を、何故だか一心不乱に喰っていた。電子レンジを見ると、現在進行形で稼働していて、更なる冷凍食品を加熱していた。
鳥肌が立つ。身の毛もよだつとはまさにこの事だろう。
恐ろしい点。なんて言っている場合ではない。もはや、B級のホラー映画でもみている感じだ。
その肉塊は、目玉とも見て取れぬ小さすぎる目らしき物で私をギョロリと睨むと、こちらに駆け出してきた。
あの体のほとんどは、脂肪で構成されているのだろう。触らなくても分かるほどブヨブヨとした身体中をボヨンボヨンと波立たせながら、肉塊男はこちらに走ってきた。
「ようやく帰ったのかッ、このアバズレッ! 3日も家を空けるとはどういう了見だ貴様ッ!!」
私の元に辿り着くなり、肉塊男は私の両肩を掴みながら、私の顔の目の前まで顔を近づけ、唾を大量に吐き出しながら言った。
…酷い匂いだ。この家の匂いを全て凝縮して煮詰めたかの様な悪臭が、この男からは漂っている。
「…すまないが、私には貴様が誰だか分からんのだが? そんな輩にアバズレなど言われたくはないな」
私がそう返すと、肉塊は私の肩から手を離した。
何故だか、その体はプルプルと小刻みに震えている。
軽く疑問に思い、質問をする。
「? どうした? 病気か?」
心配はしていないが、そう返す。
襲ってきた音は、確かにドンだった。
気がつけば、私は肉塊に押し倒され、馬乗りにされていた。
なぜ? どうして見ず知らずの男に馬乗りにされているのか、訳も分からない。私は今女児の体であるということに戸惑っているというのに、どうしてこうも理解の追い付かないことばかり起こるのだろう?
そんな事を思っている間にも、肉塊の体重で、肋骨がミシミシと音を立てているのが、聞こえずとも分かった。
「な…ァッ、ぐ…!」
痛い。ただただ痛い。アノマリーに噛みつかれているかの様だ。
肋骨が押されているからか、肺が圧迫され、呼吸がままならない。
そんな中、肉塊は叫んだ。
「きっ、ききききき貴様だとッ?! お前! お前お前お前お前お前!!! 俺に何て事を言う?!」
癇癪でも起こしているのだろうか? 肉塊は髪をかきむしりながら体を8方向にブンブンと揺すりながら、そう言った。
肉塊が動くたびに、肋骨が変な方向に向きを変え、ヒビが入るのが簡単に想像できた。
「かァ……はッ! ぐ…! 貴様……何故私に…?! 早急に退け…!」
血反吐を吐きながら、必死に言うが、反論されたことが嫌だったらしい肉塊は、再びギャンギャンと騒ぎ出した。
「まただ! この売女めッ! 私に口答えするなァ!!!」
言いながら肉塊は、私の顔面を殴った。
右手で右の頬を殴り、今度は左で左頬を殴る。
殴って殴って殴って……。
殴りに殴って、気が済んだのだろうか。肉塊は、私の上から体を退けた。
「おっ俺にっ、二度とくっ口答えをすんじゃないぞッ!」
もはや金切り声にしか聞こえない声で肉塊はそう言うと、トドメと言わんばかりに私の腹を蹴りつけた。
「がッ…!」
息が、できない。いたい。
蹴られた瞬間、呼吸は一瞬で止まり、私は呼吸が出来なくなった。
必死に息をしようと、最後の力を振り絞って必死に手足をバタつかせる。
何かが、頬を伝ってきた。
……泡だ。しかも、血を含んでいる。
私の意思とは逆に、眼球がひっくり返ったかの様に目が上を向いた。
どうにか息をしようともがいた。
もがいてもがいてもぎてもがいて……。
そのまま私は結局空気を吸う事はできずに意識を失った。泡を吹きながら。
tips...
研究員
突然の出来事が連続し、マジで疑問にしか思っていない。元々あまり高くなかった父親に対する好感度が地に落ちた。
肉塊
研究員の体の”元”の持ち主の父親。過去に何かあり、それ以降娘を目の敵にしている。