情報交換から翌朝のこと。東京・某所にて。
リコリス代理代表としてフレディが、ブルガリア祖国戦線の代表であり軍事組織ズヴェノの代表のラジミールが手を結んだ。この『統一戦線』と名付けられた情報は、フレディのアジトから遠く離れた富士の麓にあるDA本部に届いた。
案の定というよりやはり上層部はこの情報に対して怒り心頭だった。『DAという組織を漏らしてはいけない』という秘密主義だが、フレディがそれを利用したことによってDA上層部は楠木を除いて、フレディ排除に動き始めた。
だが、それこそがフレディの狙いだった。交渉締結の情報を漏らしたのは紛れもなくフレディ本人。この情報を餌にしてリリベルを釣りあげようと考えたのだ。因みに捕まえたリリベルからは何の情報も得られなかったため、ミカと言った東京支部の面々を経由してDAに返品して貰った。
リリベルが襲撃に動き出すのは早かったが、肝心のフレディのアジトは見つからない状況が続いた。理由としてズヴェノが潜んでいるアジトもフレディがいると見込んでの襲撃だったのだが、フレディをはじめとするリコリスやズヴェノの連中、1人も居ない状態であった。全部ラジミールが欺瞞工作によって情報をかく乱していた。ラジアータは総責任者であるフレディの管轄の元、誤った情報を流し続けていたのもあり、大人2人だけで魅せる曲芸をやってのけた。
一方で、フレディとリコリスの団体様とズヴェノの連中でリリベルに対して奇襲攻撃を企てていた。目標は港南橋付近に点在する廃工場。先の延空木事件に尾ひれがついたサードリコリス殺害事件も港南橋付近で発生した場所でもある。そこを選ぶのは趣味が悪い。まるで捕まえたリコリスもそこで処刑するつもりに見える。またズヴェノの捕虜も何人かはいるらしいが、ラジミール曰く、
「情報を吐かずに死んだ可能性が高い。」
と見込んでの予想だった。とどのつまりズヴェノの連中には期待するなってことだ。
フレディは早急にリコリスの編成に取り掛かった。とは言え、廃工場制圧戦にはフキ率いるαチームが担当し、捕虜奪還は千束とたきなに任せていた。
ラジミール率いるズヴェノの連中らは廃工場周辺での警備に当たることにした。もしリリベルから増援は全てズヴェノの連中に任せることにした。要は時間稼ぎである。フレディが大量の武器をズヴェノに渡し、代わりにズヴェノは情報をフレディ麾下のリコリスに渡した。これで共闘条件が整った。あとは時が来るまでひたすら待機命令だった。
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時は来たれり・・・。
2000時を回った時、フレディからの無線を受けてリコリスたちは一斉に廃工場に突入した。リコリスとリリベルの一大決戦が始まった。αチームの装備の陣容はKRISS Vector SMG Gen2ではなく、Beretta Cx4を採用している。自動小銃ではあるが、実包はライフル弾ではなくピストル弾を使用する。今回は.45ACP弾、20発、セミオートなのでKRISS Vector SMG Gen2からしたら見劣りするが、連射力による制圧戦ではなく、補給線を意識した制圧戦を目的としている。別にBeretta Cx4じゃなくてもGlock21C Gen4で戦ってもいいという命令は下っている。各々、好きな形で戦いに挑んだ。
ただ、補給線で問題があるとしたら千束とたきなだろうか?両者には非殺傷弾を装備している故に、補給線がそこまで優秀ではない。逆に弾薬がつきてしまう可能性もある。千束は大丈夫ではあるがたきなはどうだろう?非殺傷弾だけに絞ったら命中率は限りなく低い。だからといって9x19mmパラベラム弾を持って行っても補給線が細い故の問題が生じる。.45ACP弾はズヴェノによって大量に用意したが、非殺傷弾に関しては心苦しい補給線となった。
今回は短期決戦で終わらせる必要がある。長期戦になればなるほど不利になるのはこちらである。弾さえ奪えればこちらのモノではあるが早々に上手く立ち回れないはず。フレディは成功を祈るほかなかった。
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同時刻。廃工場内部にて。
戦闘はあっけなく終わってしまったリコリスたちは?然とする。リリベルがこんなにも早く戦力の無害化になるとは思ってない。嫌な予感がしたフキは千束に言う。
「千束、用心しろ。ここには何かがある。」
「何かって何?」
「リリベルがここまで士気が低いのは何かがあるってことだ。」
フキはリリベルの士気の低さを着眼点としていた。一合だけで制圧されるほどやわじゃないのはフキも知っている。だが違和感を拭いきれない何とも言えない状況だ。それでも千束は楽観的に見ていた。
「うーん、そうね・・・気になるけどフレディさんからの連絡はないし、別に深い意図はないんじゃないかな?」
「あんまりナメてると痛い目にあうぞ。特に教官からな。」
「解ってはいるよ。じゃたきなと一緒に地下へ潜って来るよ。」
「なんかあったら言えよ。」
「はいはい。」
千束とたきなは捕虜が居そうな地下へ潜った。灯りは薄暗く、先の通路まで見渡すことが出来なかった。そこでフレディから渡されたのがフレアガンだった。要は『フレアで灯りを灯せ。』ってことだろう。ここでは暗視装置は十分に発揮できない。
たきなはフレアをバラマキ始めた。一方の千束は角に気を付けながら注意深く探る。2人が突き当たりの通路に差し掛かった時に地上にいるフキから通信が入った。
「はいはい、どうしたのフキぃ~」
<<今、攻撃を受けている!そっちにも何人か向かっているから気を付けろ。>>
「はぁ!?マジで言ってる?」
「マジのようですね。こっちに来ますよ。」
たきなの言う通り、上階からドサドサと降りてくる重武装化した人が降りてきた。とっさに通路の角に隠れた2人は様子を伺う。一瞬ではあるがリリベルなのは間違いない。が、重武装である以上リリベルにおけるトップクラスのリリベル執行部隊のようだ。延空木事件で出会ったのもこの部隊で間違いないだろう。
フレディからの千束とたきなへの通信は今のところない。正しくは、ズヴェノを廃工場に手配をしている所は聞いた。ラジミールが呼びかけた約50名の元軍人とαチームと共に増援のリリベルを挟撃する構えを取る。そして地下に残った連中をズヴェノに託してあったのだ。
だがどうする?千束とたきなの2人だけでは心もとない。接近戦闘になるのは得策ではないと考えたたきな。しかしながら自分の命が散ってしまう可能性だってある。そこでフレディからの通信が入った。
<<お嬢2人へ、ズヴェノの1部隊が地下に向かう。リリベルを挟撃するためにリリベルを発砲しろ。>>
「わかった。」
「わかりました。」
2人は頷きながら答えた。
リリベルよりも先に仕掛けたのはたきなだった。たきなの発砲でリリベルは警戒したが、発砲した人間が一人しか見当たらず、各員散開して抵抗した。
この入り組んだ地下通路で行われた射撃戦。有利の軍配が上がったのはたきなであった。まず、千束を地下通路の暗闇の中に引っ込める。すると相手からすれば敵対者は1人に見える。だが、暗闇の中から千束が出てくれば相手は混乱する。それがたきなの狙いだった。幸いにして、リリベルの足元にはフレアが散らかっている。千束が得る目視の情報は最低限あるということだ。
リリベルの側面に突如として千束が現れた。この入り組んだ通路の見取り図を事前に記憶していた千束がリリベルの側面を非殺傷弾による側面攻撃によってリリベルの戦線が一気に崩れた。一気に崩壊する戦線に抵抗するリリベルは一握りだった。その一握りはズヴェノの別働隊によって始末された。
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今回の作戦は上手くいった。簡素な戦いではあったが、ズヴェノの連携攻撃によって逆奇襲仕掛けたリリベルの戦力は壊滅。リコリス側の死傷者が0に対して、リリベル側は10前後の死傷者を出した。
だが、当初はこの港南橋の廃工場にリコリスの捕虜が居る予定だったがそれも外れた。深く考える前にリコリスとズヴェノを引っ込めることにしたフレディとラジミール。リリベルのトップや楠木を除く、DAの上層部がブチ切れて襲撃されたら面倒くさい。撤退してからあとのことを考えた。
『統一戦線』の出だしは順調ではあるが、情報不足が否めなかった。ズヴェノの情報は港南橋で終わっている。あとの情報はラジアータから盗み撮るしかない。だからといってズコズコとDA本部に出向くバカはいない。リコリス奪還が終わるまでは千束もフキもDA本部に戻れない。戻っても別に構わないがこの任務を外されたら元も子もない。だからフレディの手の内にいる必要性がある。
そんなことをフレディが思っている内にとある通信が入ったとラジアータから受け取る。フレディは確認を取る。
「因みに誰からだ?」
「くすんだ金髪のお嬢からだ。」
「千束お嬢が?何故己に?」
「さぁな。出てみたらどうだ?」
ラジミールの答えに呆れて通信を行うフレディ。通信は千束からの怒号だった。
<<なんで、殺しちゃったの!?まだ息もあったのに!>>
フレディは通信を一度切ってラジミールを見た。
「恐らく部下が他の子供たちを始末したのが原因だろう。」
ソレを聞いてフレディは頷きながら通信を開いた。
「千束お嬢、あれは不可抗力だ。ズヴェノには始末しろという言伝が先走った結果だ。受け入れろ。」
<<・・・断るって言ったら?>>
「不服なのはわかるが、受け入れるほかあるまい。任務から外れないもしくはズヴェノから撃たれないよりかはマシだ。」
フレディの問いに千束は僅かにため息をもらし、そのため息が通信越しに聞こえた。
<<わかった・・・でも次からはちゃんと伝えて、じゃないと・・・>>
「千束お嬢、大人の『火遊び』が厳禁なのは解る。それを認めたり目をつぶるのは大人の仕事だ。千束お嬢ではない。」
<<それじゃ私が責任逃れみたいなことになるじゃん!>>
「それでいいから全部大人に任せろ。愚痴は後で聞いてやる。アウト。」
フレディはのしかかる重荷を振り払えないまま通信を切った。その隣ではラジミールがニヤニヤしていた。
「お前も大変だな。育児放棄すら出来ないしな。」
「貴様もだ、ラジミール。いい大人がおむつ交換できないのはいい迷惑だ。」
「おっと、怖い怖い。お前と勝負するのは御免だわ。」
「じゃあズヴェノの連中に始末したリリベルを片付けろ。今すぐに。」
「はいよ。」
大人2人の醜い醜い争いが終わって、今度は始末されたリリベルの片付けを命じられたラジミール。フレディとは真っ向勝負は出来ないと呟きながら、部下たちにリリベルの片付けを命じた。
⇒次回【葛藤という演技】