『悪徳教官』   作:クマぴょん

13 / 13
【前章のあらすじ】
自責の念を駆られて落ち込む千束。
だがそれは演技という名の大人の悪い癖だった。
そんな悪い癖が祟ったのがフレディ単身で”殴り込み”に行くことにしたのだった。


~リコリスの想う気持ち~
【本心】


 

 

 夜明けまで3時間前、東京・某所にて。フレディの前にはズヴェノに託された残りの武器が揃えられている。

 まずは近接武器のサーベル。何の変哲もないサーベルだが、騎兵用として作られている。次にコーサ―のランス。2.5m強の長さを誇る片手武器。騎兵戦における一撃離脱に用いるために鋳造された。その次は投擲武器のジャベリン。投石でも良かったが殺傷力と破砕能力を高めるためには投石よりも刃のついた短い槍の束が必要であった。

 そしてフレディにとって最優秀選手とも言えるのが『馬』であった。彼が長年に渡って竜騎兵として、或いは重騎兵、軽槍騎兵として輝いたのは馬の存在があったからだ。馬無しでは戦術的に生きていけない理由がそこにあった。

 次は竜騎兵としてマトモに機能してない可能性もあったため、55口径スペンサー銃を騎兵銃に仕立て上げたスペンサー・カービン銃を新たにラジミールが率いるズヴェノ工廠から生み出された。

 今回は敢えてT-Gewehrことマウザー M1918は外した。何よりも重い。ただでさえ竜騎兵として運用するのには不確定要素のある馬上での射撃は向かない。今回『は』外してもらうことに。

 あとは即席武器かつもっとDA本部を燃やすためにいくつかの火炎瓶を用意した。流石に火炎放射器は被弾の際に危険過ぎるためか比較的、安全性のある火炎瓶を複数用意。交渉が決裂したらDA本部を燃やす気でいる。因みにこの火炎瓶はガソリンのみならず、白リン、ベンゼン、水、生ゴムのストリップを混合物としている。そのため、時間が経つにつれてはゴムはゆっくりと溶解し、内容物がわずかに粘着性になって劇物化する。少しでも溶液を振ってしまうと発火が遅れるという点を除けば、優秀な火炎瓶になる。特に硬い表面に投げつけると、ガラスが砕けて内容物が瞬時に発火。五酸化リンと二酸化硫黄の窒息するような煙と高温の熱が発生させるいわば化学兵器に近いモノを採用している。

 この化学兵器まがい物の火炎瓶に対して千束からは、

「くれぐれも司令に当てないでね。」

と、釘を刺された。無論そんなことはしないだろう。あくまでも交渉が決裂した時に投げつけるものであって、普段から放火魔の如く投げつけはしない。

 最後の最後に紹介するのはAKMこと『7.62mm近代化カラシニコフ自動小銃 AKM』に取り付けられたGP-25 カスチョール。別名『焚き火』。このカスチョールには、VG-40TBサーモバリック弾やGS-40催涙弾など暴徒(リリベル)鎮圧からラジアータ破壊を取り揃えている。

 もはや重騎兵にとどまらず、歩兵戦闘車の類だろう。これを駄馬ではなく戦闘用の馬に括り付けるものだから、馬にも負担が大きい。この武器選び対してフレディは慎重となった。

 

------------------------------

 

 DAを襲撃するには十分事足りる武装なのだが、どれにすべきか悩んでいた。するとフキがフレディを呼ぶ。

「フレディさん、本当に1人で行くんですか?」

「あぁ、お嬢たちには無理をかけさせたくないからな。」

葉巻を吸いながら答えるフレディ。フレディなりの気遣いなんだろう。子供たちを守るために生まれてきたのだ。それぐらいならやってやるという意味だろう。でもフキは・・・。

「いくらなんでも無茶がすぎます。せめて護衛に私たちをーーー」

「これは”戦争”なんだ。護衛にしちゃ舐められる。」

「ならばこちらにも装備を分けてくれませんか?」

フレディは顔を上げてフキを見た。フキはスカートを握りしめている。何か思いがあるのだろうか?

「どうしてそこまでこだわる?」

フレディの葉巻がフレディ自身の口から離れて、灰皿に置いた。

「教官を失いたくないから・・・です。私だけじゃありません。千束もたきな、サクラ・・・ここにいる全てのリコリスが貴方を慕っています。それだけ貴方を頼りにしている。貴方を失ったら私たちはどうなるんですか?もう本部に戻れないだけじゃない。一生DAから逃れるためだけの人生を送ることになる。そんなのは嫌なんです!」

 ・・・らしくない。そうフレディは思った。だがフキの精一杯の懇願に答えなければ、教官として名が廃る。大きくため息をついて言う。

「付いてくるなら、ラジミールに武器調達の言伝を行って来い。話はそれからだ。」

「・・・!!はいっ!わかりましたっ。」

フキはその場から離れた。

 全くフキお嬢らしくないことをして、教官の思惑を混乱させるのは辛いひと時よ。でも教官として答えにゃならんのは解っている。そう刻みながら葉巻を吸い、吐く。そんなフレディの姿を見たのは、フキとすれ違うたきなだった。

「えらく無茶してますね。」

フレディは背中で答える。

「無茶だぁ?そもそも己を教官として据えるのが無茶なんだよ。」

「それでも期待しているんですよ?みんなが貴方を・・・」

 葉巻の紫煙が漂う部屋で武器選びに苦戦しているフレディ。武器選びだけじゃない。教官として答えるための姿として、彼女たちを導く指導者として、思いを踏みとどまっているのだ。

「己に据えるならそれぐらいの覚悟、お嬢たちは持っているのか?」

「もちろんです。」

フレディは振り返ってたきなを見る。

「なら、その答えを”敵”に示せ。己じゃなくてな。」

その答えに答えるため、たきなはフレディの横に着く。

「・・・どの武器を持っていくんですか?」

「かつて千束お嬢が襲撃された時の装備一式にするか、散兵戦術取るために歩兵小銃を取るか、それかDA解体ショーをやるかで悩んでいる。」

「・・・最後は冗談ですよね?」

たきなは確認を取る。

「冗談なわけないだろう。ここまで追いかけられたんだ。せめてリリベルの解体を願っているよ。」

「・・・千束が悲しみますよ?」

「それはそれ。これはこれ。お嬢が思う重みが違うのさ。」

そう言って葉巻を縮める。

 フレディとたきなの共同作業は一向に進まなかった。フキが率いるαチームと千束、たきなを連れていくとなると、竜騎兵装備は室内戦だとちと狭すぎる。かと言って散兵戦術は図体のデカいフレディとリコリスでの差が開いてしまう。まず1歩がデカすぎるのだ。素直に腐った納屋を蹴破るだけの室内戦に留めるならば・・・名銃に頼ることに決めたのだった。

「たきなお嬢、スペンサー銃を取ってくれ。」

たきなは困惑した。どっちのスペンサー銃だろう?と。

「あぁ・・・歩兵銃の方だ。60口径の方。」

と再度、たきなに指示を出す。

 たきなが引っ張り出したのは55口径のスペンサー・カービン銃ではない。60口径のスペンサー銃だ。30インチかつ5㎏以上の重みのある連発式小銃に思わず身体が崩れそうになるが、フレディが軽々とスペンサー銃を取り上げる。

 たきなは思い出したかのように言う。それはスペンサー銃の口径に関してだった。

「フレディさん質問ですが、以前に使ったスペンサー・カービン銃はどの口径を使ったんですか?」

「いつの話だ?千束お嬢を助けた話か?それとも樺太で起きた独立戦争の時か?」

「両方です。」

「千束お嬢の時はカービン銃・・・つまりネックダウンバージョンの50口径を使っていた。」

「では独立戦争当時は?」

「56口径の歩兵銃だ。」

 淡々と答えるフレディに1つの疑問が浮かび上がる。弾薬はどこで手に入れたのか?今や調達が困難なはず。なのにどうして弾薬と小銃を手に入れているのか?たきなは疑問に思ったのだ。

「そんなに口径のある弾薬、どこで仕入れてたんですか?」

紫煙を吹かしながら答える。

「半分は己で、もう半分はズヴェノ以外の密輸入だ。まだ捕まっているがな。」

 フレディの答えにたきなはハッとした。先日、DAと給与額で揉めた際にフレディは楠木司令に対してこう言っていた。

『裏で取引している連中の身柄を離してやって欲しい。己の大事な商売人なんだ。』

と・・・。

 日本で暗躍する武器密輸入業者は全てフレディの手先で、製造も販売も密輸入も全部目の前にいる大男がやっていた。あの時は客の扱いをしていたが、本当はズヴェノのように情報を対価にして武器を売り買いしていた。しかも、現代兵器ではなく足の付きそうな近代兵器を小出しにしていた。敢えてその装備品を揃えさせたのはDAを釣りあげようとさせたかったのだろう。

 更に疑問が生じる。本当にDAが捕まえた武器商人は偶然なのか?フレディが仕組んだ作戦でDAを燃やすのは単に囮情報で本当は武器商人を確保することに意味があるのではないだろうか?と、たきなは思って口にした。

「今回の作戦、武器商人が目当てですね。」

「そうだ。」

やはり・・・。ならこの口実はどうだろうか?DA本部襲撃は偽計であるか?

「DA本部襲撃はウソで、本当は武器商人がいるかつリリベルの支部を襲うつもりなんですね。」

「そうだ。・・・お嬢にしちゃあ冴えているな。」

とサーモバリック弾を持ち上げて答える。

 今回の作戦はDA本部襲撃ではなく武器商人解放だ。またしてもフレディは子供たちを騙した。彼の悪い癖なのだろうが、これで彼の意図が読めた。復讐心を宿した大男に不可能はなかった。だからこんなにも武器を揃えた。彼と彼の武器商人によって。

「ヘンリー銃はどうしますか?」

「今回はドンパチ派手にやるから要らん。ましてや45口径じゃ割に合わない。」

「では、60口径スペンサー銃と・・・サーベル?」

「昔の己みたいだろう?外套を羽織れば昔に戻れる。」

 彼の昔の姿は目に焼き付いている。たきなを守ろうとした彼。そしてその友人かつ相棒の千束すら守ろうとした彼。色々お互いに酷いこと言ってきた身ではあるが、今じゃ『先生』と『生徒』の身。たきなは彼に外套を持って来て羽織らせて、かつての威光を取り戻したのだ。

 

 

 




この話から不定期更新になります。冬コミに向けた創作本とTRPG動画で手がいっぱいなので・・・。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。