俺張角、剣と魔法の世界に転生する   作:さいよわ

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光明教の影

 村に「黄天」の旗が立ってから、数日が過ぎた。

 旗といっても、張角が自らの黄巾を裂いて作った粗末な布である。

 だが村人たちはそれを広場の中央に掲げ、朝夕ごとに頭を垂れて祈りを捧げるようになった。

 

 少女を癒やした奇跡、枯れかけた畑を蘇らせた光――その光景を目の当たりにした村人たちの心は、完全に張角に傾いていた。

 彼らは張角を「大賢良師」と呼び、食事を運び、教えを乞う。

 

「先生、畑に虫がついて困っておるのです」

「うむ。自然の理を知ればよい。水を多く与えすぎてはならぬ。土を耕し、風通しを良くせよ」

 

 張角の知識は、彼がかつて導いた民の経験から培われたものだ。

 そこに魔法という新たな力を加えれば、村の問題は次々と解決していく。

 病に倒れていた者たちも癒やされ、村全体に活気が戻りつつあった。

 

 やがて周囲の村々にも「黄天の教え」の噂が広がり、病人や飢えた人々が救いを求めて集まるようになった。

 張角は彼らを拒まず迎え入れ、光を与えた。

 

「蒼天すでに死す。黄天まさに立つべし。

 皆、我を信じよ。信じる心こそ、新しき世を生む力なり」

 

 信徒は日に日に増え、広場は祈りの声で満ちる。

 だが同時に、その変化は「ある勢力」の耳にも届いていた。

 

 

 ――王都・光明教大聖堂。

 

 高い天井を持つ聖堂の中、白衣を纏った神官たちが厳かに祈りを捧げていた。

 その中心に立つのは、光明教の高位神官、ラウレンスである。

 彼の前に、一人の司祭が跪いて報告をしていた。

 

「……辺境の村に、正体不明の術者が現れたと。病を癒やし、枯れた畑を蘇らせ、民を従えております」

 

「ふむ……」ラウレンスは眉を寄せる。

 光明教はこの大陸に広く根を張る国教であり、人々を導く立場にある。

 だがその権威を脅かすような存在は、たとえ一介の術者であろうと許されない。

 

「奇跡を見せる者は珍しくない。だが……“黄天”と名乗ったか?」

「はっ。『蒼天は死に、黄天立つ』と」

 

 ラウレンスの瞳が鋭く光った。

 

「傲慢だ。蒼天とは神々の象徴であり、我ら光明の教えの根幹。

 それを死んだと宣言するなど、神敵以外の何者でもない」

 

 聖堂に緊張が走る。

 ラウレンスは静かに命じた。

 

「討伐隊を編成せよ。司祭三名、聖騎士十名を派遣する。

 必ずやその異端を捕らえ、光の前に引き据えるのだ」

 

 

 一方、村では祭りのような賑わいがあった。

 黄天教の信徒たちは自らの食料を分け合い、畑を耕し、互いを助け合う。

 張角はその中心で、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「皆、よく励んでおる。この道を進めば、必ずや太平の世に至る」

 

 信徒たちは歓声を上げる。

 その中で、最初に救われた少女――名をリナという――が、張角の傍らに寄ってきた。

 

「大賢良師さま、私もお手伝いがしたいのです。病に苦しむ人を、私も救えるようになりたい」

 

 張角は彼女の瞳を見つめ、頷いた。

 

「よい心だ、リナ。黄天の道は、皆が支え合うもの。そなたにも光を扱う素質があるやもしれぬ。共に学ぶとよい」

 

 少女の顔が輝き、周囲の村人たちも希望に沸いた。

 その光景を見ながら、張角は胸の奥に熱を覚えた。

 ――かつて果たせなかった夢が、この世界では現実となり始めている。

 

 だがその背後に、黒い影が迫りつつあることを、彼はまだ知らなかった。

 

 数日の後、村の入口に光明教の聖騎士たちが姿を現す。

 鋼の鎧を纏い、聖印を掲げる彼らの顔には、異端を裁く冷徹な意志が宿っていた。

 

「この村に異端の教祖ありと聞く。――張角と名乗る者を、我らは光明教の名において拘束する!」

 

 緊張が走る。

 信徒たちは恐れながらも張角の背後に集まり、彼を守ろうとする。

 張角はゆっくりと立ち上がり、聖騎士たちを見据えた。

 

「なるほど……これがこの世界の“蒼天”か。

 だが、すでに死した天に従うわけにはいかぬ」

 

 彼の掌に雷が宿り、空気が震えた。

 こうして、黄天と光明教の最初の衝突が幕を開けたのである。

 

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