俺張角、剣と魔法の世界に転生する   作:さいよわ

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これぞ天意

張角は深い森を抜け、小高い丘の上へと歩を進めていた。澄んだ空気の中、どこか既視感のある気配が胸を満たしていく。

 

 ――待っている。間違いない。

 

 丘の上には、すでに十数名の人影が集っていた。その中心で、頑健な体躯を誇る男が振り返る。

 

「兄上!」

 

 張梁だ。豪放な笑みを浮かべ、駆け寄ると張角の腕を掴む。

 

「やはり兄上も……! この世界へ共に来られたのですね!」

 

 続いて、落ち着いた眼差しを持つ青年が歩み出る。

 

「天が我らを見捨てるはずがない。再び兄者と共に戦えるとは……」

 

 張宝である。人公・地公の両将軍が揃ったことで、張角の胸は熱くなった。

 

「二人とも……。我らの志は、まだ果たされていなかった。ならば、この地で成し遂げようではないか」

 

 その言葉に呼応するように、周囲の人々が次々と膝をついた。

 

「張曼成、再び命を賭して戦う覚悟はできております!」

「波才、太平の世を築くまで剣を捨てぬ!」

「趙弘、どのような敵であろうと打ち破ってみせましょう!」

「韓忠、命を惜しまず進軍いたします!」

「孫夏、仲間を導き、必ずや勝利を!」

「張飛、誰だてめえ」

「管亥、血路を切り開くはこの腕なり!」

「何儀、再び旗を掲げましょう!」

「黄邵、知略を尽くしてお仕えいたします!」

「劉辟、この命、黄天に捧げる所存!」

「何曼、我らの理想を叶えましょう!」

「馬元義、剣はすでに研ぎ澄まされております!」

「張遼この剣、黄天の旗に捧げよう!」

 

 張角は集った面々を見渡した。歴史の中では散り散りに倒れていった者たち――だが今ここに、皆が再び集っている。己の胸に燃え立つ情熱は、往時をはるかに凌いでいた。

 

「よいか。黄天の旗は、再び掲げられる。天は我らを試したが、決して見捨てはせなんだ!」

 

 張角の声が丘に響き渡る。

 その言葉に、張梁は腕を振り上げ、朗々と叫んだ。

 

「蒼天已死! 黄天當立! 歳在甲子、天下大吉!」

 

 その古き号令を皮切りに、皆の胸の奥で眠っていた炎が呼び覚まされる。張宝も静かに両掌を合わせ、祈るように口を開いた。

 

「兄者……今度こそ、黄天の世を完成させましょう。人が人を搾取せず、誰もが生きられる世を」

 

「おうよ!」

 豪快な声がその場を震わせる。張飛であった。彼は大きな手で酒壺を掲げ、まるで宴席にいるかのように吠える。

 

「よくわかんねえが、面白そうだ! 黄だろうが赤だろうが構わねえ! オレは気に入った相手のために槍を振るうだけだ! 兄貴分が欲しいならオレが暴れてやらあ!」

 

 唐突な言葉に幹部たちは一瞬たじろぐ。しかし張角はむしろ笑みを浮かべ、豪傑の素質を感じ取った。

 

「うむ……張飛、汝が力は必ず役に立つ。共に来い」

 

「ハッハッハ! そうこなくちゃな!」

 

 そのとき、最後尾に控えていた張遼が一歩前に進み出た。鋭い眼光、無駄のない立ち居振る舞い。彼は他の誰とも違う緊張感を放っていた。

 

「俺の名は張遼。生涯幾人もの主に仕えてきたが、黄天の旗の下に立つのは初めてだ。義と理があるならば、この剣は惜しみなく振るおう」

 

 張角は頷いた。

 まるで天が与えたもうた布陣のようだ――そう思えるほど、強者たちが揃っている。

 

「よし。我らはまず拠点を築かねばならぬ。この地に根を張り、旗を掲げ、人々を集めるのだ」

 

 張曼成が即座に応じる。

 

「兄上、近隣には小さな集落が点在しております。食糧と人を得るには格好の地です」

 

 波才が血気盛んに拳を打ち鳴らす。

 

「ならば俺が先陣を切る! 略奪ではなく、守るためにだ! 黄巾の義勇軍として名を轟かせよう!」

 

 趙弘が一歩前に出て声を重ねる。

 

「波才殿、我らの旗が恐怖ではなく希望であると示さねばなりません。民に害を与えぬことを誓いましょう」

 

 そのやり取りを見て、張角は満足げに頷いた。

 

「うむ、かつて我らは急ぎ過ぎ、流血と混乱を広げた。今度こそ、正しく進もう」

 

 その瞬間、丘の下から怒声が響いた。

 

「そこにいるのは賊徒か!」

 

 武装した十数名の兵が姿を現した。粗末ではあるが統率の取れた装備――どうやらこの地の有力豪族の私兵らしい。

 彼らは槍を構え、黄巾の旗を睨みつけている。

 

「ここは我らの領地! 怪しき者どもを通すわけにはいかん!」

 

 張飛がニヤリと笑う。

 

「おう、やっと敵が来やがったか。じじい!、やっちまっていいんだな?」

 

 張角は静かに頷いた。

「だが殺すでない。彼らもまた民。恐怖ではなく力を示すのだ」

 

「わかった!」

 

 張飛は大喝し、蛇矛を肩に担いで駆け出した。轟音のごとき咆哮が響く。

 

「どけええぇぇい!!」

 

 兵たちは圧に怯み、一瞬足を止める。そこに管亥が並び立ち、大斧を振りかぶる。

 

「張飛殿、俺も行くぞ!」

 

 二人の猛将が突撃し、敵陣を易々と突破する。土煙と悲鳴が上がった。

 一方で張遼は冷静に後陣を指揮する。

 

「弓兵、前へ! 敵を散らすだけでよい、決して深追いするな!」

 

 的確な采配により、混乱は一方的に広がっていく。やがて敵兵たちは恐怖に駆られ、武器を投げ捨てて逃げ去った。

 

 戦いは一瞬にして決した。

 

 張飛は肩で息をしながら大笑いした。

 

「ハッハッハ! 拍子抜けだな! もっと手応えのある奴はいねえのか!」

 

 張遼はその様子に苦笑しつつも、内心では頼もしさを覚えていた。

 張角は勝利を見届け、丘の上に再び立つと高らかに叫んだ。

 

「見たか! 黄天の旗の下、我らは乱暴狼藉の徒ではない! 正しき力をもって、世を守る者である! 民よ、恐れることはない! 共に新しき世を築こうではないか!」

 

 その声は遠くまで響き渡り、戦の余韻に揺れる空気を貫いた。

 

 こうして、黄巾の志士たちは再び一つにまとまり、この異世界において新たな第一歩を刻んだのであった。

 

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