王都を出立した光明教討伐隊は、白銀の鎧に身を包んだ聖騎士たちを中心に整然と進軍していた。先頭には光明教高司祭ラウレンスの弟子である若き司祭――ルシアが立ち、両の手には光を宿す杖を握っている。
その背後に十名の聖騎士。各々の剣は浄化の魔法を帯び、光の加護により悪しきものを断つ力を宿していた。さらに護衛兼補佐の司祭二名も加わり、合計十五名の小規模ながら精鋭の部隊である。
「辺境の村はもうすぐです」
斥候を務めていた騎士が報告する。
「村の民はすでに“黄天”を名乗る術者に従っているとか。もし抗うようなら、多少の流血はやむを得ません」
副隊長格の聖騎士、バルドが低く告げる。
ルシアは一瞬、迷いを覚えた。
彼女はまだ二十に届かぬ若さで、純粋に光の教えを信じて司祭となった身だ。病に苦しむ者を救いたいと願ったその心は、今も変わらぬ。だが「討伐」という名目で剣を抜くことには、未だ慣れぬ葛藤があった。
(それでも……異端を許せば、世界に混乱を招く。それが師――ラウレンス様の教え……)
ルシアは祈りを胸に抱き、覚悟を固めた。
◆
一方その頃、黄巾軍の拠点となった辺境の村では、張梁が戦士たちを前に演説していた。
「光明教の犬どもが迫っている! 奴らは“黄天”を侮り、我らを異端と呼ぶ! だが忘れるな、我らこそ新たな秩序を築く者だ!」
集うのは百にも満たぬ農民兵や冒険者崩れ。しかし彼らの瞳には確かな熱が宿っていた。張角が示した奇跡、病を癒やす術や土地を豊かにする魔法が、彼らの心を掴んで離さないのだ。
「兄者より命を受けた。我らが最初の試練、光明教討伐隊を迎え撃つ! 黄天の旗のもと、立て!」
「「黄天! 黄天!」」
鬨の声が辺境の空気を震わせた。
◆
やがて両軍は村外れの草原で相まみえる。
聖騎士たちは白銀の鎧をきらめかせ、秩序ある陣形を敷く。対する黄巾軍は粗末な槍と鎌を手にしていたが、張梁の指揮のもと一塊の軍勢となっていた。
ルシアは前に出て、声を張り上げる。
「黄天を名乗る術者とその従者たちよ! あなた方の行いは神への冒涜に他なりません! 今ここで武器を捨て、光に赦しを請うのです!」
しかし返ってきたのは嘲笑だった。張梁が一歩進み出る。
「蒼天はすでに死んだ! 新たな黄天こそ人々を救う! 貴様らの光など古き時代の残滓に過ぎん!」
「異端め!」
バルドが剣を抜いた。刹那、光の加護が剣身に走り、眩い輝きが辺りを照らす。
黄巾兵が槍を構え、突撃の構えを取った。
◆
最初に動いたのは聖騎士たちだった。整然と列を組み、光の障壁を展開して前進する。その姿はまるで白き壁。
「怯むな! 奴らは数が少ない!」
張梁が叫び、黄巾兵が一斉に突撃した。
ガシャアァン!
槍が聖騎士の障壁に弾かれる。逆に光輝く剣が振るわれ、数名の黄巾兵が鮮血を散らして倒れた。
「ぐぅっ……!」
だがその時、張梁が印を結んだ。
「天に黄天在り! 我らに力を与えよ!」
地面が揺れ、草原の土から黄色い光が立ち上る。農民兵たちの武器にその光がまとわりつき、刃が鋭さを増した。
「これが兄者の授けた術……!」
兵士たちが歓声を上げ、再び突撃する。
今度は聖騎士の障壁を貫き、一人を鎧ごと斬り裂いた。
「なに……!?」
ルシアの瞳が揺れる。
――だが彼女もまた、決意していた。
「光明よ、我に力を!」
杖を掲げ、光の雨を降らせる。癒しと同時に黄巾兵を焼く浄化の光。数名が悲鳴を上げ、膝をついた。
戦場は混沌と化し、光と黄天の力がぶつかり合う。
◆
戦いの只中、張梁と聖騎士バルドの刃が交錯した。
「若造が……!」
「貴様こそ時代遅れだ!」
剣と槍が激しく火花を散らし、両者は一歩も引かぬ攻防を繰り広げる。
そして戦場の端では、ルシアが歯を食いしばりながら魔法を放ち続けていた。
(私は間違っていない……。光の正義を、必ず証明する!)
一方で張梁もまた心に誓っていた。
(兄者……俺が証明してみせる。黄天こそ、新たな時代を導くと!)
両陣営の信念が、轟音と血飛沫と共に激突を続けていた。