俺張角、剣と魔法の世界に転生する   作:さいよわ

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迫る光

 ――黄昏時。

 辺境の村はいつになく活気に満ちていた。広場の中央には石を積み上げた即席の祭壇が築かれ、その前で老人も子供も手を合わせて祈りを捧げている。彼らが呼びかける名はただ一つ。

 

「黄天、万歳……」

 

 その声を導くように立つのは、黄布の外套を纏った一人の男――張角であった。

 彼はかつて医師として民を救い、今は“太平の道”を説く指導者。柔らかな声は風のように村人の心を撫で、苦しみの影を和らげてゆく。

 

 傍らには、弟の張梁と張宝。

 張梁は腕を組み、いかにも戦士然とした体躯で周囲を睥睨していた。対して張宝は杖を握り、術式の符を弄びながら口元に笑みを浮かべている。

 

「兄者、光明教の奴ら、とうとう動いたようだぞ」

「うむ……この村に密偵が放たれた時点で、遅かれ早かれこうなることはわかっていた」

 張角は静かに頷き、祭壇に捧げられた花を一輪取り上げる。

「だが恐れることはない。我らが掲げる“黄天”は、ただの言葉ではない。民の願いと共にある。……それを、奴らに知らしめよう」

 

 その時、遠方から馬蹄の音が響き渡った。

 

 村の見張りが慌てて駆け込んでくる。

「張角様! 光明教の旗を掲げた一団が接近中! 鎧を纏った騎士が十余り、白衣の司祭もおります!」

 

 張梁が鼻を鳴らす。

「ふん、聖騎士どもか。たかが十余騎で威勢よく乗り込んでくるとはな。民を脅すには丁度いい数だ」

 張宝は肩を竦め、嘲笑う。

「彼らは神の名を掲げ、異端を焼くことを正義と思っている。……まぁ、燃やされるのは向こうの方だがな」

 

 やがて、村の入り口に銀の鎧を纏った一団が姿を現した。

 白銀に輝く胸甲、背には光を象る旗。彼らは整然と馬を止め、先頭に立つ一人の司祭が声を張り上げた。

 

「聞け! この村に巣食う異端者ども! 蒼天を冒涜し、偽りの奇跡を騙る者どもよ! 我らは光明教の名において、その罪を裁く!」

 

 その言葉に村人たちがざわめき、怯え、子供を抱き寄せる。

 張角は一歩進み出て、堂々と司祭を見据えた。

 

「裁く、だと? 病を癒やし、飢えを救い、人を生かすことが罪だというのか。……光明教よ、民の嘆きを耳にしたことはあるか? 神殿の高みから民の飢えが見えるか?」

 

 司祭は顔を歪め、杖を掲げた。

「黙れ、異端! 蒼天は永遠であり、光は絶対だ! “黄天”など虚妄にすぎぬ!」

 

 その合図と共に、聖騎士たちが剣を抜き、馬上から突撃してくる。

 土煙が上がり、村の広場が戦場へと変わった。

 

 張梁が大声を上げる。

「村の者は下がれ! 俺が前に立つ!」

 鍛え上げた腕で大槍を振るい、突進する騎士を薙ぎ払う。銀鎧が大地に叩きつけられ、衝撃が走った。

 

 一方、張宝は符を宙に舞わせ、呪を唱える。

「風よ、縛れ!」

 突風が巻き起こり、数騎の馬が足を取られて転倒する。騎士たちが慌てて立ち上がるも、その動きは乱れた。

 

 張角は祈るように両手を掲げる。

「太平道の術、ここに示さん!」

 足元の土が揺らぎ、枯れかけた草花が一斉に芽吹く。その光景はまるで大地そのものが彼を支えるかのようであり、村人たちの目に確かな“奇跡”として映った。

 

「す、すごい……黄天様だ!」

「本当に……枯れた土が……!」

 

 民の歓声が響き、士気はいやがうえにも高まる。

 

 聖騎士たちは必死に隊列を整えようとしたが、すでに勢いを失っていた。司祭の一人が神聖魔法を放ち、光の矢が張角に向かって飛ぶ。

 だが――張宝が素早く符を弾き、黒き盾を展開する。

「兄者に手出しはさせん!」

 光と闇がぶつかり合い、炸裂音が広場を揺るがした。

 

 張梁が笑う。

「所詮は小手調べだな! 兄者、ここらで退かせてやろう」

 張角は頷き、声を張る。

「黄天立つ! この村に光明教の裁きは届かぬ! 退け!」

 

 その声に呼応するように、村人たちが石を投げ、棍棒を振るう。数的不利に加え、奇跡めいた術に士気を削がれた聖騎士たちは、司祭の命令でついに撤退を余儀なくされた。

 

 土煙を残し、光明教の旗は遠ざかっていく。

 

 広場に静けさが戻ると、村人たちは歓声を上げ、張角たちに駆け寄った。

「張角様! 本当に救われました!」

「黄天万歳!」

 

 張角は彼らを制し、穏やかに微笑む。

「これは始まりにすぎぬ。だが今日、我らは証明した。黄天の旗の下に集えば、光明の裁きにも怯えることはない」

 

 その言葉に、村人たちは涙を流して頷いた。

 

 ――こうして、黄巾軍と光明教の最初の衝突は幕を閉じた。

 だが、それは決して小さな火ではない。この勝利は、大陸に広がる炎の序章であった。

 

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