この世界の魔法は魔術と法術の二種類に大別される。
魔術は人が長い時間をかけて作り出したと言われている魔法だ。
一定の規則にしたがって魔力を消費し、魔法的な現象を行使する。
法術は神や精霊などの超常存在に魔法的現象を行使してもらう魔法だ。
法術使用者の負担は少ないが、超常存在の機嫌を損ねないように気を使う必要がある。
サイン王は廻神と契約することで得た法術で身体を強化し、敵の攻撃を無効化したり弱点を突く魔術によってジワジワと追い詰める戦い方を好む。
これは相手が有用な人物だった場合に配下にすることを考えているためであり、とてもゲーム的な思惑があってのことだ。
反対にオコナーは圧倒的な力で敵を叩きつぶすことを得意とする。
多彩な攻撃魔術を用いて全てを塗りつぶす。敵が何をしようがお構いなしに地形すら変える大規模魔術で踏みつぶす。
もちろん魔術と法術という枠組みに当てはまらないキュネルたち魔族が使う魔法みたいなものもある。
それでも大陸で使われている魔法は『自由に使えるが効果は術者の能力に左右される魔術』と『制約さえ守れば絶大な効果を期待できる法術』の二種類に大別される。
この違いは病気を治療するような魔法で顕著に表れる。
魔術は病理がわからないと対処できないが、法術なら超常存在に『治して』とお願いすれば良い。
そのため神に仕える神官は皆から頼りにされているが、冒険者になるものは少ない。
何故なら彼らは神から課せられた制約があるため行動に制限がかかるし、敵対する神の神域内では奇跡が使えないなどの制限もあるからだ。
このように使用制限は緩い魔術だが使用するにはそれなりの教育が必要となる。
少なくとも文字の読み書きはでき、論理的な思考を持たないと魔術は使えない。
そんな魔術が使えない一般庶民でも魔道具を使えば魔術を使用することができる。
これら魔術式が刻み込まれた道具を使えば、誰でも魔術を使えるように設計されているからだ。
効果を調整できない等汎用性は無いが、現代で言うならマッチや懐中電灯のような誰でも使える道具として普及している。
「魔道具の仕組みは分かったのか?」
冒険者ギルドのギルド長が引退した魔術師に問いかける。
彼らは機川が作成した魔道具を前にああでも無いこうでも無いと意見を交わしている。
「我々の魔術とあまりにも異なりすぎて何で動作しているかすらわからん。
これは下手にいじくり回さないほうが無難な代物だな」
「ドワーフの秘術とかではないのか?」
「違うな。
予想だがコレはこの世界のものではない」
魔術は世界の仕組みはこうであると信じていれば行使することができる。
火を生み出すのには酸素と温度が必要、とかの知識は必要ない。
だが機川やバリルンドが使用する魔術は違う。
彼女らは現代科学の知識に沿った魔術を使うため、それらの知識が無いと彼女らが使う魔術は理解することができない。
彼女らにとって魔術とは計算機に与える命令のようなもので、命令セットの意味が分からない人にはプログラミングが出来ないのと同じだ。
「この魔道具はドワーフの所で作られた物なのは間違いは無いだろう。
だが刻まれている魔術式は見たこと無い規則に沿って構築されている」
「そこまで分かるのなら同じ物が作れるのではないか?」
「そこだよ。
素人目でも真似できそうな魔術式は少しでも取り扱いを間違うと予想外の結果が起きるのだ。
それで毎年何人もの馬鹿が酷い目に遭っている」
「そこまでの代物なのか?」
「極限まで無駄を省いて最適化されているのだろうな。
この歳になってこんなにも心躍ることになるとは、正直思ってもみなかったぞ」
魔術師は少し勘違いしている。
機川は一行でも少ないプログラムを書くことが好きなワンライナーだ。
そのため少しでもプログラムをコンパクトにしたがるクセがあり、そこに偏執的な高速化テクニックが加わるため彼女はメンテナンスできないコードを平気で書く。
これは魔術式にも同様のことがいえ、彼女は他人が理解しがたい魔術式を構築する。
決して無駄を省いて最適化したわけではなく、自己満足の芸術品のような代物なだけだ。
「三ツ星商会の魔道具はそれほどのものなのか。
こんなことならもっと仕入れておくのだったな」
サイン王は現地貨幣を手に入れるため機川の魔道具を売りさばいている。
ドワーフ達に協力してもらい魔道具を量産し荒稼ぎをしている。
彼女が作り出す魔道具は現地の魔道具と比較すると、小さくても性能が良く頑丈なため好評だ。
変態的な作品なのだが使う側からしたら非常に良い物なのだ。
改造したり用途以外の使い方をしなければ優秀な製品なのだ。
「三ツ星商会?
聞いたことがないな」
「どこか遠くの国から来たらしいが詳しく聞く前にどっかにいってしまってな。
いま依頼を出して調査している所だ」
王族や貴族が権力を握っているような社会では部外者は自由に商売することすらできない。
身内で利権をガッチリ囲っており、それを脅かす存在は力でもって排除するからだ。
そこでサイン王は万年貧乏な冒険者に目を付けた。
冒険者ギルドは閉じた社会でなおかつ魔道具の需要が高い集団だからだ。
多少出所が怪しくても高品質で安い魔道具となれば駆け出しは喜んで使ってくれる。
着火や投光の魔道具なら冒険者の数だけ需要があるので試しに使ってみようと購入してくれる。
「初めは金が無いヒヨコどもに丁度良いと思ったものだが、今では中堅共で奪い合っている始末だ。
まったく余計な仕事を増やしてしまったと後悔している所だよ」
「これだけの代物からな。
ワシも研究用にいくつか分けて貰いたいぐらいだ」
「お前まで争奪戦に加わるのは止めてくれよ?
ちゃんと追加で手配しているからそれまで待ってくれ」
「他の支部はどうなってる?」
「同じような状況だよ。
我々は三ツ星商会の魔道具を知ってしまった。
これから騒がしくなるだろうな」