鉄崎とリジョは軍事に特化したキャラクターとして設計されている。
両者の違いとしては鉄崎は軍令も軍政もそつなくこなし、反対にリジョは戦闘行動のみが得意な所だ。
ただ実際のゲームの中ではサイン王の中の人がポチポチとクリックするだけで戦争が行われるので、NPCは各種バフのためだけの置物だった。
だが、この世界に来てからは自分一人で何もかもできるわけでは無くなり、依頼する相手の性格や経歴を常に考えなくてはいけなくなった。
今までフレーバーテキストに過ぎなかった設定が、任務の達成率に大きく関わるようになったのだ。
例えばリジョはスペックだけ見れば何でもできるはずだが、性格的に慎重さや計画性に欠けるため運用には人一倍気を使う必要がある。
想定外のことが起きても持ち前の直感と強運で切り抜けるため言動は改善されること無く、周囲の人間はいつも振り回されっぱなしだ。
その考え無しのアホと双璧をなすのが頭の良いアホの機川だ。
唯一無二の能力を持ち何かを作らせたら当世で一番の腕を持つが『浪漫好き』という悪癖を持つ。
過剰なまでの火力で敵を粉砕しようとしたり、想定外の事態への備えとして奥の手をやたらと詰め込もうとする。
そのため彼女の設計する製品はでかくなりがちだ。
その都度サイン王がダメ出しをして機能を削るのだが、放っておくと開発工数も資金も湯水のように使う。
枯れること無く湧き出るアイデアに同業者は尊敬の眼差しを向けるが、その他の人からは冷たい目を向けられるのが機川だ。
バリルンドはそんな二人が馬鹿なことをしないように見張る役割を期待されていたが彼女は彼女でポンコツだった。
融通が利かない彼女は初めはストッパーとしての役割を果たしていたが、時間が経つにつれ二人のアホに感染したのだ。
ただこれはバリルンドだけが悪いわけでは無い。
頑固で融通の利かない彼女は人々に疎まれることが多く、そういうのを気にしないアホ二人としか友人関係が築けなかったため感染してしまったのだ。
これはサイン王が孤独なことに苦痛を感じない性格だったため、普通の人が気の置けない友人を欲する気持ちに気づけずに対応を怠ったためである。
それに想定外だったのはバリルンドだけではない。
感情を手に入れたことで行動の選択が広がった部下達は予想を上回る騒動を引き起こし、サイン王は後始末に忙殺されることになる。
ゲームの中では命令しなければNPCは仕事をしなかったが、今は意志を持って動き回るため同じやり方をしていたら問題が起きないわけがないのだ。
「お金が足りないわね……」
サイン王の執務室に併設された事務所には数多くの事務員と役人が死にそうな顔をして働いている。
各地から上がってきた情報を整理し記録し報告書としてまとめ上げる。
電卓も電話も無い環境なので報告書を一通作るだけでも膨大な手間がかかるのだ。
そうした苦労の末に出来上がった報告書に目を通し、サイン王の指示に従って優先度をつけるのがモーエレンの役目だ。
フェリグスの名前が広まることで会談の申し込みが殺到しており、サイン王が全ての書類に目を通すことが難しくなったからだ。
何せ有力者と会って話をするにしても相手のことを何も知らないでは会話が弾まない。
いまサイン王はこの世界のことを知るために猛烈に勉強している最中なのだ。
「えっ?
結構、稼いでたよね?」
モーエレンの呟きを耳ざとく拾ったファロスヒルがモーエレンに問いかける。
「私達が物資を買い漁ったせいで物価が高騰しているのよ。この世界は思ったより生産能力が低いみたいね」
「舐められているだけなんじゃないの?
私が話をしてこようか?」
「ダメよ。
あの子の仕事を増やすようなことはしないで」
「でも、これから引っ越しとかするんだよね。大丈夫なの?」
「そっちは人手があれば大丈夫よ。食糧の方は、まだまだ増やせるんでしょ?」
「それは大丈夫だけど。キノコとかあまり人気が無いみたいだよ」
「食事の量を嵩ましできればいいわ。まったく人間はバクバクと食べ過ぎなのよ」
モーエレンはファロスヒルと会話をしながらも手を動かし続けている。
「あら、ホルムから支援要請が来ているわ。
……これならエーリカがちょうど良さそうね。
ホルムの所まで一緒に行ってあげてちょうだい」
「えー、誘女様って何を大事にしているか分からないから怖いんだよ。他の人にしてよ」
「少し遠い場所だから妖精の小道を使う必要があるのよ。それとも私の代わりをしてくれる?」
「妹だと思って、姉の横暴さを感じる」
「出かける用意をしてきなさい。ちゃんとアナタ向けの仕事も用意しておくわよ」
笑顔のモーエレンにふて腐れた顔を向けるもファロスヒルは出かける用意をしに部屋を出て行く。
それと入れ替わるようにオコナーが入ってきてモーエレンの前までやってくる。
「何かあったのか?」
「仲の良い姉妹にはよくあることよ。それより私に何の用事?」
「報告書を持ってきた。やはり変異種の勢力は急速に拡大しているようだ」
「嫌な感じね。どうするべきかしら?」
「兵数が足りない現状、守りに徹するしかないだろう。
私達の動きを機敏に察知し上手に逃げ回っているようだからな」
「裏切り者がいると?」
「可能性は低いな。もしいるならホルムが見つけている」
「敵が一枚上手だと?」
「私達は此処に来たばかりなのだ。何事も思い通りにいくわけがない」
モーエレンはオコナーの言葉に少し忌々しげな顔を向ける。
「今後の予定は?」
「何を焦っている?
協力者も増えてきているのだ。このままでも問題ないだろう」
「敵の動きが早い気がするのよ。嫌な予感がするわ」
モーエレンは自身の髪をクルクルと弄りながらオコナーに向けて呟く。
「確かに今回の相手はゲリラ戦に慣れている。まるで私達のようにな」
「対策はないの?」
「犠牲者を少なくする策はあるが既に進めている計画を変えるまでの必要性は感じない。
変異種に殺されているのは私達の国民では無いのだぞ?」
「恩を売ることはできるわ」
「周辺国を調べた限り民衆と家畜の地位に大した違いが無い。
動物を助けて恩を感じるような為政者はいないだろう?」
オコナーの態度にモーエレンは少し考え込む。
「せっかく大人になるまで育ったのに簡単に殺されては勿体ないわ。
彼らを救い私達の仲間にすることができれば陛下も喜ぶでしょう?」
「……計画を変えない範囲で出来ることを考えよう。
ただし、多少の出費は認めて貰うぞ」
「ええ、お金のほうは私が何とかしてみせる。
人の数というのは私達の影響力に直結するわ。
命の恩人となり私達の国民を一人でも増やしましょう」