拠点の移転先が決まったので引っ越し準備中だ。
私は手伝いをさせて貰えず部屋の中に閉じ込められて書類作業をさせられているが。
何でも私のことをレアキャラにすることで謁見の価値を上げたいんだそうだ。
あと部下達から建国の英雄の副産物で私の居場所が何となくわかるからアチコチ動き回られると困るんだと。
私のいる方角と方位磁石があれば見通しの悪い場所でも迷いにくくなって重宝しているとか言われた。
個人的な楽しみの一つだった現場の声を聞くのが奪われた上に北極星みたいな扱いされるとは、このシステムを考えた超常存在に断固抗議したいと思う。
まあそれはそれとして街道と川が交わる好条件の土地を租借地として借りられたのは運が良かった。
大きな街の中間地点にあるので資材買い付けがしやすいし、何より河運で物資を運べるのが大きい。
問題は現在拠点としている場所から凄く遠いのと治水対策が大掛かりになりそうな点だ。
私達はこの世界に永住するつもりは無いので租借地で問題ない。
大事なのは自分の好き勝手にできる場所だ。治水工事や防衛設備の建設のために地形を変えることも了承してもらえたし。
租借料は安くはなかったが、これで侵略者に対抗するための準備をすることができる。
「アッシュ、やっぱ私も行かなくちゃダメ?
引っ越しすんの面倒なんだけど」
機川が執務室に入ってくるなり文句を言ってきた。
予想はしていたがお前を目の届かない所で野放しにするわけ無いだろ。
「ダメだ。お前には都市計画を立てて貰いたいと考えているからな」
「私はメカ屋よ。都市計画なんて専門外なんだけど」
「だけど出来るだろう?
私は景観も考慮した将来性のある街を作りたいのだ。後で土地が狭くて必要な設備が建てられないとか道が狭いとか言われても困るからな」
機川に『後で絶対に文句言うだろ』という念を込めた視線を送ってやると嫌な顔をしたので思いは汲み取ってもらえたようだ。
「もし他の人間に任せると城下町みたいな街になるが我慢できるのか?
いったん作ったらゲームと違ってやり直すことはできないんだぞ?」
「それはそうだけどさ。今抱えている仕事だけで手一杯というか」
「暫くすればバリルンドが戻ってくる。現地で雇った助手を連れてな」
「ホント!?
何時戻ってくるって?」
「一週間以内には戻ってくるはずだ。
彼女とよく相談して計画を立ててくれ。あとオコナーの魔術で出来る範囲にしてくれよ」
「えっ、大規模な工事をしてもOKってこと?」
「ああ、治水には手を抜けないからな。ドワーフには許可を貰っている」
機川の機嫌が一気に良くなる。やる気が出てくれて私も嬉しいよ。
「初めから全てが揃っている必要は無い、住みながら徐々に積み上げていけば良いのだ。
皆と相談し必要な物を聞き取り、世界に自慢できるようなものを計画してくれ。期待しているぞ?」
◇
モーエレンと年かさのエルフが向かい合って座っている。
自然を模した庭園の片隅にある東屋に二人だけ。独特な香りがするハーブティーを飲みながら楽しそうに談笑している。
「ところで話は変わりますが。本日は閣下にお願いしたいことが」
「ほう。時代の寵児たる貴方たちが老いぼればかりの私達に願い事ですか?
なかなか興味深いですな」
「マクェラス卿のお力を持ってすれば簡単なことです。
私どもに世界樹の苗木をわけて頂けないかと」
「……その言葉の意味をわかっている……のでしょうね」
マクェラスと呼ばれた老エルフは厳しい、僅かに殺気を滲ませる眼差しを向けるもモーエレンは友好的な笑みを崩さない。
「このたび私どもは租借地を手に入れることができました。
そこに世界樹を植えたいと考えているのですが……」
「ドワーフの地に世界樹を植えると?
それがどれほどの問題を引き起こすのか……」
「エルフにとって世界樹は存在意義にも近いもの。聖域にして決して譲れないもの。
世界樹に何かあればエルフは決死の覚悟で事に当たる、と」
「それを知っていてなお敵地に世界樹を植えると?」
「アレは色々な恩恵をもたらしますから」
「随分と俗物的な考え方をしますね。私には理解しかねますが」
「人は利益で動きます。自分たちに利益があれば大事にしますよ?」
「やはり貴方は異国人のようだ。少しばかり失望しましたよ」
呆れたような、そして馬鹿にしたような顔つきで言い放つマクェラスにモーエレンは挑戦的な笑みを向ける。
「別に無理にとは申しません。
私達はヒルサーヤ山に住まうドラゴンから分けて貰っても良いのですから」
モーエレンの言葉にマクェラスは顔色を変える。
ヒルサーヤはお伽噺に伝わる聖地の名。今は失われたエルフ達の故郷の名前だ。
「ただそうなりますと私達の世界樹と貴方たちの世界樹が同格になってしまいます。
このことは多くの方々の心を痛めることになりかねません」
「……この地に諍いをもたらすつもりか」
「そのようなつもりは御座いません。
私達は自分たちの居場所をつくりたい一心なのです」
モーエレンは誤解されたことが悲しいと言わんばかりの表情で訴えかける。
「私達は話し合いを大事にしております。
そして対等に話し合える相手を、友人を求めているのです。
友人は多ければ多いほど良いと思いませんか?」
◇
ベルナデッタと祭祀服を着た集団が円卓に座っている。
使われている布地も飾りも別々の祭祀服を着た集団。この世界の神々に仕えている信徒達だ。
それらの集団は互いを意識しつつもベルナデッタに注目しているが、注目されている本人は目を瞑り静かに佇んでいる。
「そろそろ時間ですので始めましょうか」
円卓に空席があるので来ていないものがいるのだろうがベルナデッタは気にもせずに話し始める。
彼女は信徒達にこの場所に来てくれた礼を述べ簡単な自己紹介をすると本題に移る。
「私達は租借地に合祀殿を作ろうと思っています」
「合祀殿?
何ですかそれは?」
法神の信徒が疑問を投げかける。
「神々を一カ所に纏めて祀る神殿です。
私達の国では普通のことでしたが此方ではやはり無いようですね」
「纏めて祀るだと?
よくもそんな不敬なことを考えるものだ」
「そのように考える方もいるでしょう。ですが不敬かどうかは神に伺えば良いのではないのですか?」
天神の信徒が怒りもあらわに抗議するもベルナデッタは平然と返す。
「合祀殿は私達で責任をもって管理し運用します。別々に神殿を建てるよりも費用面で有利だと思いますが」
「費用の問題では無い。気持ちの問題だと言っている」
「いま変異種により各地で不幸なこと出来事が起きています。
貴方たちの負担を増やすのは私の本意ではありません」
天神の信徒は苦虫をかみ潰したような顔をしてベルナデッタを凝視する。
「別に強制しているわけではありません。合祀殿に神像を祀る許可を頂きたいだけです」
「拒否した場合はどうなる?」
「私達が雇用している者達は色々な考えをもった人がいます。
その方達は自分の信じる神が祀られていなければ残念に思うでしょうね」
ベルナデッタの発言に眉をひそめるもの、ニヤリとするもの、考え込むものと色々な反応を返す。
「それに各々の神殿を別々に建てることができるほど租借地は広くは無いのです。
そのことも考慮して検討して頂きたいのです」
「そこは何とかならんのか?
せめて三大神は別々の土地を用意してもらいたいものだ」
「租借地は小さくともフェリグス国です。そしてフェリグス国の国教は廻神なのですよ?
三大神を優先する理由はありません」
「我らを軽く見ているのだな」
「まさか。
ただ私がお仕えてしている神は、こちらの世界の神々に優劣をつけたりしないというだけです」
天神の信徒は憎々しげにベルナデッタを睨み付けるが歯牙にも掛けず和やかな笑顔のままだ。
「幸いまだ時間はあります。ぜひお仕えしている神と対話してみて下さい。
決して私の提案が悪いものでは無いとわかるはずです」
ベルナデッタは信徒達に語りかける。
「人々に神は必要です。理不尽なことに遭遇したときや悲しい思いをしたときなどは特に。
その時に神を身近に感じることができる場所があれば心もいくらか軽くなるのでは無いでしょうか。
私はそのような場所を人々に提供したいその一心で皆様に提案させて頂いているのです」
◇
鉄崎が流鏑馬を披露している。
大鎧を着用し疾走する馬上から和弓を用いて的を射るたびに、離れた場所にいる男達から歓声が上がる。
鉄崎の弓馬術に魅入っている男達は彼と違い急所を金属で補強した革鎧を着用しやや小ぶりの和弓を手に握っている。
西洋風の鎧に和弓の組み合わせは知っている者から見れば違和感しかないが、ここにいる者達は誰も気にした様子は無い。
全ての的を射貫き馬場から戻ってきた鉄崎は男達の前に馬を進めて声を張り上げる。
「其方らには今見せたことぐらいは出来るようになってもらう」
鉄崎の言葉に男達は厳しい顔をするも物にしてやるという意気込みを見せている。
「馬上から弓を射るなど曲芸のように見えるかもしれん。
だが蟲や死兵に並び立つにはこれぐらいできねばならぬのだ」
男達は鉄崎の言葉を黙って聞いている。
「心身を鍛え、技を磨き、この世界の誰よりも強くならなくてはならぬ。
強くなくては殿に用いて貰えぬのだ。あの方は兵士であっても人死にを避けようとするのでな」
鉄崎は意味ありげな笑いを顔に浮かべて語りかける。
「それに其方らが強くなることは敵にとっては慈悲なのだ。
誰だって蟲に喰われたり、死兵に魂を奪われたりするのは嫌だろう。
アレは正しき死に様ではない、この世界の神々も其方らに感謝することだろう」
男達はその惨状を想像し、しかめ面をしたり頷いたりしている。
「我等が第一軍は強くあらねばならぬ。
我等の軍旗を見るだけで恐れられる存在にならねばならぬ。
それが殿の為にも敵の為にもなるのだからな」
◇
男達は戦列を組み魔物達と対峙している。
目は血走り、意味不明な叫び声を上げ、地面を揺らしながら迫りつつある変種達。
これが初陣の男達は震えながら必死にタワーシールドを構えている。
「くるぞ、オメーら!
腰を落とせ!
仲間を信じろ!」
リジョが戦場に響き渡る大声で叫ぶのと同時に魔物達が盾に激突する。
機川とバリルンドの合作である特別製の盾は加えられた衝撃によりたわみ、震え、隣の盾と共振し、そして轟音と共に衝撃波を放つ。
「足を止めたぞ!
紐を引っ張れ!
できたら投げ入れろ!」
盾の後ろに控えていたものたちが柄から伸びている糸を引っ張り肉叩きのようなものを前面に投げ込む。
魔術式が刻印されたそれは魔物達の近くに落ちると光り輝き、明滅し、爆音と共に爆炎をまき散らす。
その爆発は盾の防御機構を誘発し、敵へ再び衝撃波を浴びせる。
熱と光と音の暴力により変異種達は地面に打ち倒され無残な姿をさらしている。
死を恐れぬ狂人であっても手足が曲がり目と耳が使えぬ状態では戦えない。
できることは怨嗟の声を上げジタバタと転げ回るだけだ。
「これで最後だ!
槍で突き刺せ!
家族の、仲間の敵を取れ!」
リジョのかけ声と共にバリルンド特製の呪槍を持った男達が魔物達に群がっていく。
怒りを漲らせて、恨みを込めて、憎しみとともに敵を刺し殺していく。
血と肉にまみれながら男達は一方的な殺戮の楽しさに正気を徐々に失っていく。
暫くすると魔物の呻き声は聞こえなくなり、戦場には男達の荒い息や笑い声だけしか聞こえなくなる。
血泥で汚れた興奮冷めやらぬ新兵達にリジョが声を上げて宣言する。
「勝利だ!
オメーら、勝ち鬨を上げろ!
アタイらの完全勝利だ!」
リジョの掛け声にあわせサイン王を称える勝ち鬨は周囲に響きわたり地面を震わす。
互いの肩を叩きながら、健闘を称え合いながら、生きていることに感謝しながら勝利の喜びを味わっている。
「これでオメーらも兵士だ。
変異種には勝てる。アタイらは強い。
そのことを、よく覚えておけ」