私は建国の英雄だ。
やり込みゲーマーにありがちな綿密な計画と徹底的なフラグ管理により自分達の国を造った。
経済的な問題により子供が捨てられることの無い、豊かで侵略者に決して屈しない強国。それを掲げて頑張った。
その結果、人々は私のことを慕ってくれ、部下達は私のことを非常に大事にしてくれる。
そう、過保護なぐらいに大事にされている。王は城で命令してればいい、今まで苦労したんだから休んでいてくれればいいと。
でもさ、せっかく戦闘できる能力を揃えてステータスも上限まで上げたんだ。
建国前は一緒に討伐任務とかしてたし、命を落としたことだって何度もある。
それなのに王になったとたん書類作業と頭脳労働ばっかり。
まるでゲームの中でも仕事しているようで遊んだ気になれない。
今回も今後の方針を伝えて野盗の所に乗り込もうとしたら止められた。
エルフのモーエレンがあまりに悲しそうな顔をして『私達に任せて欲しい』と懇願してきたので任せるしかなかった。
自分のポテンシャルを知る良い機会だったのにな。
確認のためどうするのか聞いてみると皆で制圧してきますと答えてくる。それはもう楽しそうに。
モーエレンには以心伝心と呼ばれる能力を持たせており、彼女の妹とは距離関係なく意思疎通ができる。
その力を使い、水や食料を集めている部下達に連絡をしたら凄くやる気になっているらしい。
「あの廃村は当面の拠点として使用するつもりだ。
それと今後のことを考えると人手はあって困ることは無い。
理解しているな?」
「理解しております。
私達は皆、王の恩寵と慈悲を忘れたことはありません」
問いと答えが噛み合ってない気がするが、まあいい。
彼女なら大丈夫だと思うし、そうでなければ指示の仕方を変えるだけだ。
「ところでモーエレン。
あの程度の集団ならお前一人でも十分じゃ無いのか?」
「私一人で片付けてしまうと妬まれますので」
「お前の妹はそうだろうな」
「妹だけでは御座いません。
この頃は皆書類作業ばかりで鬱屈していましたので。
それに御前で活躍できるのは久しぶりですし」
そういえば私の国では後進の育成を推進してたから私の部下も書類作業ばっかりだったな。
でも、それなら私の気持ちも分かるはずだよね?
◇
男達は大広間で酒盛りをしている。
炎で照らされた薄暗い部屋の中で肉を食らい酒をあおり意味の分からない声を上げている。
「お頭、オレぁいま感動してます。
アンタについてきて本当に良かった」
「そうだろう、そうだろう。
俺は『持っている男』だからな」
「今日もドワーフが五匹も転がり込んできやがった。
お頭ぁ。これからも頼んます」
「おぉう、任せておけ」
気分良く騒いでいる薄汚れた男達は同じように薄汚れた女達に酒をつがせ酒宴を楽しんでいる。
ドワーフを奴隷商に売り払った帰りに村で新しい女を浚ってこようと酷い話で盛り上がっている。
そんな男達の欲で満ちた空間に軍服を着た二人の女が入ってきた。
同じ顔をした美しいエルフ。モーエレンと妹のファロスヒル。
二人は感情の籠もらない目で部屋の中の人間達を、その言動を、観察する。
男達は突然の侵入者に驚き、次に二人の美貌に魅了され、そして下卑た表情を浮かべる。
「おいおい、今日はなんなんだ。
ドワーフの次はエルフか。
オレたちゃあついているな」
頭領らしき大柄な男が大声で叫ぶと子分達が賛同の声を上げて騒ぎ始める。
まるでオモチャを見つけた子供のようなはしゃぎようだ。
「ねーちゃん遊ぶ相手を探しているのか?」
「体がほせーと、あっこもほせーんか」
「こっちにけて酌をしてけれ」
「エルフはどんな臭いすんだ?」
男達の反応にモーエレンがため息をつく。
「酒に酔っているとはいえ相手の力量も判別できないなんて。
あの子は『一から始められる』とか喜んでいたけど」
「姉さん、いらないなら貰ってもいい感じ?」
「ダメよ。
こんなのでも大事な人手なんだから」
「私の蟲のほうが絶対に役に立つよ」
「それはそう。
でもあの子が『人手が必要だ』って言っているのよ。
エサについてはちゃんと考えているから今は我慢して」
エルフ姉妹の緊張感の無い態度に流石に舐められていると感じたのであろう。男達は大声を上げながら立ち上がりエルフ達を囲う。
酔っぱらい達はこれから起こるであろう楽しいことを想像したのか興奮しはじめるが、二人は呆れた顔をしたまま一歩も引かないし動じない。
「おい、ねーちゃんたち」
頭領が武器を肩に担ぎ嫌らしい笑みを浮かべエルフの一人に声を掛ける。しかし相手は目を細めるだけで微塵も怖がる雰囲気が無い。
その態度に苛立ちを募らせたのであろう。
怒声と共に武器を振り上げ一歩踏み出した瞬間、ファロスヒルが間合いを詰め平手で相手の頭を横からはたきつける。
その一撃だけで頭領は糸が切れた人形のように崩れ落ちる。周囲の男達はあまりの出来事に理解が追いつかないのか彼女の挙動を見ているだけ。
皆の視線を集めるファロスヒルは倒れた男に近寄り追撃とばかりにブーツで肘を踏み抜くと嫌な音が部屋に響き渡る。
その音を聞いて満足したのか、それとも踏み抜いた手応えで満足したのかは分からないが、ファロスヒルは舌を唇で湿らして微笑みを浮かべる。
その微笑みを見てやっと状況を理解したのか、顔を怒りに染めた男達が動き出そうとしたその時。
死人が部屋に入ってくる。
錆びて朽ちた武具を身につけ、骨と皮だけになっても戦場を求める者ども。死を纏いし生者の敵。死兵。
その死兵達が壁をすり抜け部屋に侵入してくる。音も立てずに静かに、ただ夜の気配を漂わせつつ男達を囲む。
その姿を見てしまった人間は男も女も区別泣く悲鳴を上げ啜り泣きながら地面にうずくまる。
「神よ、神よ、神よ」
「許して、許して、許して」
「悪かった、悪かった、悪かった」
部屋の中が命乞いの声で溢れる中、モーエレンのよく通る美しい声が皆に語りかける。
「貴方たちには選択をして貰います。
私達の王に仕えるか、逆らって死ぬかを。
もし仕えることを選ぶなら今よりマシな生活を約束しましょう」
◇
モーエレンが他の部下達と合流するためにいなくなり私は無表情のオコナーと二人。
取り急ぎやることが無いのでミニマップの使い勝手を試行錯誤していたらオコナーから何をしているのか尋ねられる。
何故そんなことを聞いてくるのかと尋ね返すと、私の体から魔力が滲み出て周囲に広がっているのが見えるんだそうだ。
ミニマップのことを話すと『興味深いです』と言われ『魔力に敏感なものには気づかれる可能性がある』と告げられる。
つまりアクティブソナーみたいな感じなんだろうか? ゲームのように一方的に情報を得られる訳では無いのは残念だが予め知れたのは良かったと思う。
その後はオコナーと現地語で雑談をしていたんだが話が星空のこととなると空を見上げて『違う世界に来たのを実感してる』と熱弁された。
こいつは感情と思考を制御できる特性を持たせているせいで終始無表情なんだが、宇宙のことになると途端に饒舌になる。
昔、オコナーが酷い失敗をしたときに気晴らしになるかと思って神話と星座の関係性について話をしたら徹夜で話し相手をさせられたことがある。
そんな懐かしいことを思い出しつつ、他愛の無い雑談で空腹と喉の渇きを紛らわしているとモーエレンが影の中からヌルリと現れる。
成果を聞き労をねぎらい廃村まで案内してもらう。本当はミニマップを使いたいのだが部下を疑っているように思われるのも嫌なのでやめておく。
廃村につき掃き清められた部屋に案内されると部下と見知らぬ女子供達に出迎えられる。
女子供達は平伏しているが、どうも怯えているように見えるが、もしかして死兵を使ったのか?
アレは生物に対して特攻を持っているし維持コストも安いしで使い勝手はいいんだけど、占領後の内政デバフが大きいから使い所が難しいんだ。
使用を控えるように言わなかったのは私の落ち度だし、もう過ぎたことだからグズグズ言うつもりはないけどさ。
部屋の奥に簡素だが背もたれの付いた椅子があるのでそれに座るとモーエレンとオコナーが私の左右に控える。
部下達は私を下々のものに謁見させるというか見せびらかすようなことが好きなんだよな。
貴族とか名誉とかに縁遠い世界で育ったせいか私には理解できないが求められたらやるしかない。
「頭を上げよ」
恐る恐るといった感じで頭を上げ私と目を合わすと信じられない物を見たような顔をされる。
ああ、そういう反応は久しぶりだ。この頃は城に籠もりっぱなしだったから忘れていた。
実は私のキャラクター造形は特別製なんだ。
他のキャラクターは有志が公開している3Dモデルをベースに少し弄った物を使用しているんだけど、私のだけは業者に依頼したワンオフ品。
自作しようと試行錯誤したけど途中で何が良いか混乱してきて、結局は知り合いの業者にお願いしたものなんだ。
人を寄せ付けぬ時が凍るような美貌、男物の軍服を着せたいのでスレンダーな体型、と要望して出来たのがこのキャラクターだ。
絶壁だけど絶世の美女。時間も金もかかったが要望通りの仕上がり。特に一品物という響きがイイ。
「私の名前はアシュリー・サイン。お前達が知らない遠くの国から来たものだ」
なるべく親しみを込めて話しかけるが落ち着いて話を聞いて貰えそうに無い。
刺激的な出来事が立て続けに起こったからしょうがないか。
「今日は色々な経験をして疲れただろう。今はゆっくり休むがいい。
ベルナデッタ、後は頼む」
ベルナデッタはアッシュゴールドの長い髪を後ろ三つ編みで纏め、白い民族色の強い祭祀服を着用した女性神官だ。
非常にメリハリのきいた体をもっており見た目は高校生ぐらいなんだが、私の部下の中で一二を争う長命者だ。
正確な年齢は知らないがエルフ姉妹をお嬢ちゃん呼ばわりしていたのを聞いたことがあるからかなりの年齢なんだろう。
ちなみに彼女の姿見は私が設定したものではない。AI管轄下になり見た目が変化した唯一のNPCで、出会ったときに混乱したことを今でも覚えている。
彼女は私の部下の中で一番人当たりが良いし、長命者ゆえの人生経験の豊富さから人の扱いも上手だ。
国では未亡人や孤児の世話をしていた実績もあるし、今回もうまくやってくれるだろう。
ベルナデッタ達が出て行くのを見届けた後、部下達を見回して声を掛ける。
「怪我したものはいるか?」
「いいえ」
「ドワーフはどうしている」
「手当てをし休ませております。連れてきますか?」
「今は休ませておいてやれ。落ち着いたら私から会いに行く」
確かに情報は欲しいけど、身も心もボロボロな人は休ませてあげようよ。
「野盗どもはどうしている」
「再教育中です」
「どのくらい残っている?」
「怪我はさせましたが一人も殺してはいません」
「素晴らしい。
流石、私の信頼するものたちだ」
部下達は満足げな顔している。久々に体を動かせて良かったな。私も無双ゲーしたかったよ。
「今日はもう遅い。
皆も下がって良い。
ご苦労だったな」
これで一段落したな。異世界に来て初日に拠点と食料と人手を確保できたのは僥倖だった。
食料備蓄や廃村の状態、ドワーフ達については優先的に考えないといけないな。
この土地の支配者とどう関わっていくのかも検討しなければならない。
あと魔法や神についても調べないと。文明の発達度合いも詳しく調べる必要があるな。
そうそう地図も必要だな。世界地図は無さそうだけどせめて今いる大陸の地図ぐらいは欲しいよな。
やらないといけないことが山盛りだ。
こういう時は寝るに限る。全てを忘れて明日の自分に期待しよう。