変異種は元となる生物の一部を培養して作られるクローン兵のようなものだ。
培養は一体ずつ卵のような形状した細胞膜の中で行われ、元の生物と同じ大きさまで育つと自ら殻を破って出てくる。
元となった生物と同じだけの知性を持つが、絶えず空腹でいくら食べても満たされないという性質を持つ。
絶えず餓えているため性格は凶暴になり、生物をみると興奮し食べようと襲いかかってくる。
そして一度戦い始めると食べることしか考えられなくなり恐怖も痛みも忘れてしまう。
創造主である仮面の男に絶対服従しているが、一旦暴走し始めると敵が死に絶えるか冷静さを取り戻す呪文でしか止めることは出来なくなる。
使い方さえ気をつければ強力な兵士であり、死体からいくらでも増やせることができるため敵からしたら悪夢のような存在だ。
何せ仮面の男を捕まえて無力化しないかぎり変異種を根絶やしにすることができないのだから。
「それで廻神からの回答は無いんだね?」
ホルムが少し苛立った調子でベルナデッタに問いかけている。
「はい。
変異種の巣もそれを生み出している者の所在も教示してもらうことはできませんでした」
「今回の相手は廻神と同等かそれ以上の神が後ろ盾にいるということかい?」
「そうとは限りません。神は相手が例え人であっても約束は守りますから」
「どちらにせよ神と交渉できるような相手ってことだろ?
厄介なことに変わりはないよ」
ホルムが考え込む姿をベルナデッタは静かに見つめている。
「まったくとんでもない所に連れてこられたもんだよ。
廻神も誘女も元の世界に戻る方法がわからない。変異種が暴れ回ってるせいで世界はゆるやかに滅びつつある。
主は主で『何とかなるだろ』と暢気に考えているときた」
「集団の首長はあのぐらいでいいのですよ。
頼りない所を見せつつも鷹揚にしていれば下の者は必死で働きます」
「そうは言うがね。
アタシとしてはもっとシャッキリして貰わないと困るんだ。何かあってからでは遅いんだよ?」
「何があっても大丈夫です。
王の後ろには大母(廻神のこと)が控えていますから」
ベルナデッタの発言にホルムは嫌な顔をする。
「神徒のアンタの前でこんな事をいうのはなんだが、アタシは神頼みってやつは嫌いなんだ。
人はどんなに苦しくとも自分の力で生きていくべき、そう考えているからね」
「その姿勢を大母は大変評価していますよ。
神々は私達と異なる存在で、私達には到底理解できない理屈で動いています。
ただ困った時に頼られるのは好ましく思っている、そのことは覚えておいて下さい」
「そうだね。
私も主と同じように困った時には利用させてもらうさ。でもね、頼んでもないのに勝手なことはして欲しくないんだけどね?」
「何ことですか?」
「今、アタシ達の元に各地から有用な人材が逃げ込んできているのは知っているね?」
「故郷から追い出されたり、変異種に家族を殺されたりした者達のことですね。大変、悲しい出来事です」
「これは偶然なのかい?
それともアタシ達が変異種を滅ぼすようにお膳立てされている、そういう事なんじゃないのかい?」
「大母はそのような事はしませんよ。
今でも王から頼まれた事以上のことはしていません」
ホルムは『廻神は、ねぇ……』と呟く。
「まあいいさ。
廻神が関わっていないことが分かっただけでも収穫だ。出来るなら他の神々が余計な事をしないように目を光らしてもらえると嬉しいね」
「予め言っておきますが、大母はこの地を管理している神々にアレコレ言うことはしませんよ。
私達はこの世界にとって部外者なのですから」
「そうは言ってもアタシ達の女神は随分と恐れられているじゃないか。
存在するだけで影響力を与えているのは自覚した方が良いと思うよ」
ベルナデッタはホルムに笑顔で答える。
「そうだ。
一つ確認したいことがあるんだけどいいかい?」
「いくらでも」
「アタシ達は廻神の力で歳を取らなかったけど、この世界でもソレは同じなのかい?」
「同じままです。正確には歳を取らないのではなく戻されているだけですが」
「アタシ達に老衰という時間制限がないことが分かればどっちでもいいさ。
病気にも患わされることはないんだろう?」
「はい。
ですが死なないわけではありませんよ?」
「理解しているよ。人であることを忘れるつもりはないさ」
ベルナデッタは意味ありげな笑みを浮かべる。
「……人では無くなっているのかい?」
「人ですよ。
ですが貴方たちはサイン王の配下という条件で大母の力を授かっているのです。この世界の神から見たらどう見えると思いますか?」
「廻神の関係者に見えるということかい?
だが、神から力を授かっているものなどいくらでもいるだろう?」
「貴方が先ほど話題にしたように大母はこの世界の神々から少々特別扱いをされています。その意味を良く考えたことはありますか?」
「……武闘派集団の関係者とは関わりたくない、ということかい?」
「簡潔にまとめるとそうですね。
正確には私達の人体は人間ですが、この世界の人間で無い故に世界の決まりに縛られないし反対に守られてもいません。
しかし大母という後ろ盾があるから邪険に扱うことも出来ない、そういうことです」