状況の変化が激しい。
変異種の小隊が各地で暴れ回っており各国から支援や救援の要請が私の元に届いてきている。
これはモーエレンやキュネルが各地の有力者達と繋がりを作ってきた結果なのだが、短期間によくぞここまで顔を繋いだものだと感心している。
本来なら目標も目的も不明な敵対勢力を相手にするなら全戦力を一カ所に集めて防衛に徹した方が良いのだろう。
だが超常存在が侵略者と呼んでいるものが、今回の変異種を操る勢力だという確証が無いため、将来のことを考えて行動しないといけない。
侵略者が変異種ならば今回の騒動で私はお役御免となるが、違った場合は窮地を見捨てた者として周辺国と良い関係を築けなくなるからだ。
一緒に血を流して戦ったという事実は軽くない。
私達は金儲けを派手にしているせいで多方面から恨みを買っており、ここで挽回しておけば今後の発言力も増すだろうからな。
まずエルフの国にはモーエレンとファロスヒルとホルムの三人を向かわせた。
同族ならば無駄な軋轢を生じることも無いだろうし、エルフ姉妹が苦手とする飛行タイプの敵には特効とも言えるホルムが対処するだろう。
今回の相手ならファロスヒルと彼女が使役している蟲だけで対処できると思うが、彼女だけだとエルフ達にトラウマを植え付けそうだからな。
モーエレンとホルムがうまくフォローしてくれるだろう。
隣国のタユルトなどの人間の国には鉄崎の騎馬隊とオコナーに向かってもらった。
騎馬隊は百名にも満たない小さな部隊だがオコナーの戦略級魔法があれば、どんな相手だろうと殲滅できる。
多少地形が変わることになるだろうが命あっての物種だ、後で謝罪すればすむだろう。
ゲームの時もこの二人を組み込んだユニットは使い勝手が良かったから、よく酷使したもんだ。
私がいるドワーフ国内はリジョと機川とバリルンドの三人に対応してもらう。
歩兵が主体のため移動速度は遅いが、機川とバリルンドが作成した魔道具を装備している兵達は見かけ以上の強さを持つ。
バリルンドが敵を呪い、機川が現代兵器を模した魔道具で戦列を崩し、再生能力をもつリジョが単身敵陣に突っ込み敵をかき乱す。
そうやって場が暖まってきた所に、相手に合わせた特効武器を持った兵達が最後の仕上げをする。
相手からすると自分のやりたいことを何も出来ずにジワジワと削られていく悪夢を見ることになるだろう。
最後にエーリカなのだが遊撃兵として自由に行動してもらっている。
彼女は強力な死兵を従えているが脆い所もあるため初めはリジョ達と一緒に行動させようと思っていた。
しかしクーダルなる現地人がバディとしてつくからと大丈夫とエーリカ自身が強く希望してきたから許可をしたんだ。
今更だがクーダル本人の意見を聞いていなかった気がする。たしか天神の信徒だった気がしたが大丈夫なんだろうか。
「閣下、少し宜しいでしょうか」
視線を感じて頭を上げるとキュネルがいた。
激増した書類作業に集中しすぎて気がつかなかった。
「変異種の新たな巣を見つけたのですが……」
「どうした? もぬけの殻だったか?」
「はい」
「わざわざ報告してきたのだ。何が気になっている?」
「今回見つけた巣は規模が大きかったのです。
ですが何の痕跡を見つけることができず面目ないと……」
わざわざ話してきたんだから余程大きいものだったのだろう。
つまり大規模な変異種の群れが、この世界のどこかにいるということだな。
「卵の数はどのくらいだった?」
「見たところ数千はいくかと。
あと見慣れない巨大な殻も1つありました」
「具体的にどのくらいだ?」
「そうですね。
中規模の宿屋ぐらいでしょうか」
「……そんな生物がこの世界にはいるのか。心当たりはあるか?」
「さて。
あの大きさですとドラゴンぐらいでしょうか」
「ドラゴンか。もしそうなら厄介だな」
キュネルと話していると地面が揺れ初め、だんだんと揺れが大きくなる。
地震大国に住んでいたので地震自体は怖くは無いのだがやけに長い。
これは大地震がくるなと心構えをしていると部屋の外から土砂崩れのような轟音が聞こえてきた。
慌てて執務室を出てみると、崩れ落ちる家屋と叫び声を上げながら逃げ惑う人々、そして家屋をなぎ倒し暴れ回る巨大なワームの姿が目に入ってくる。
「アレぐらいか?」
「そうかもしれません」
持ち上がっている頭頂部までざっと二十メートルはあるのではないだろうか。
ならアイツの全長はどのくらいになるんだ?
「主様」
どうやらベルナデッタも来たようだ。
いま私の手元にある駒はキュネルと彼女の二名だけか。
暫くすればあの怪獣が作った穴から変異種どももやってくるのだろう。
「ベルナデッタ。
いま私は廻神と貸し借りが無い状態だったな?」
「はい。
大母は神徒としての仕事……」
「閣下、逃げるという選択肢も」
「それは無い。
切れる手札があるのに逃げる?
私の保護下にある者達を見捨てて?
そんな選択をしたら私が私で無くなってしまう」
私は私がやれることをする。
「キュネル。
おまえの眷属はこの世界でも呼び出せるのか?」
「問題なく」
目の前では惨劇が繰り広げられている。
「ベルナデッタは住民を庇護せよ。
多少強引な手段をとっても構わん。責任は私が取る。好きに動け」
ベルナデッタは頭を下げ、現場に駆けていく。
「キュネル。
あのデカブツを連れてきた奴がどこかにいるはずだ。探し出して殴りつけてこい」
「閣下はどうなさるおつもりで?」
キュネルが私を見つめている。どうするか分かっているだろうに。
「廻神の力を借りる」
また神徒としての仕事をすることになるのは本当に嫌だ。
だが私だけの力ではアレに対処するのは難しいだろう。
「敵は殺す。
誰に喧嘩を売ったのか思い知らせてやる」
◇
エルフ兵は強力だ。
長命種ゆえに訓練期間が馬鹿みたいに長く、元々身体能力が高いことも相まって高いレベルで何でも出来る万能の兵士だ。
弱点はその兵数。もともと戦いを好まない種族なので兵に志願するものが少ない。
それとコスト。一人の兵士を育てるのに二十年以上かかる。
そのため変異種の群れのような交渉ができない数で押しつぶしてくる軍勢とは相性が悪い。
人間達のように為す術も無く喰われるようなことは無いが、住処を追い出され徐々に追い詰められていっていた。
そんな所にエルフの姉妹がやってきた。
彼女たちが率いる蟲は数が多いことが最大の強みだが、世代交代が早く敵にあわせて進化していくという特徴も持っている。
敵を倒しそれを糧に更に数を増やしていく。しかも相手のことを観察し効率よく殺せるように学習していく。
姉妹はエルフの現場指揮官のもと、その力を存分に振るっている。
いまも伝令が訪れてきてはモーエレンに依頼という形で命令を使えてくる。
内心はサイン王以外に命令されることにウンザリしているが、顔には一切に出さず黙々と従い敵を殲滅していっている。
「姉さん。
あの子の心が凪いだよ」
ファロスヒルからモーエレンにテレパシーが届く。
「分かっているわ。
何か問題があったようね」
「久しぶりだよね。側にいたかったなあ」
「あの陰険魔族が。あの子に何かあったらタダでは済ませないわ」
「あの子は廻神の力を借りるよ。そんな気がする」
「そうね。私もそんな気がするわ。
ところでホルムはそっちにいるの?」
「変異種を操っている人間を探しに行ったよ。
なんか凄いやる気に満ちてたから直ぐに戻ってくるんじゃ無いかな」
そんな会話をしているとファロスヒルが恍惚した声をだす。
「使った。
やっぱり廻神の力を借りた。とても良いね……心が満たされて……」
「馬鹿を言わないで。
これであの子はまた辛い思いをすることになるのよ」
「でも、このあふれ出る感情は、抑えきれない情感は止められないよ。
私達が育てた子が覚悟を決めた。私達の王。我等が王。ああ、一緒に戦いたかったなあ」
◇
鉄崎の騎馬隊が戦場を駆ける。
変異種に追われフィンディグ城に籠城しているタユルト国の人々を救うため。
城壁に押し寄せ、自らの死体を積み上げて壁を乗り越えようとしている変異種達に向かっていく。
「オコナー殿。
体の調子はいかがか」
「問題ない。
この状況が終わるまでは持ちこたえてみせる」
「結構。
ならば景気づけに一発お願いしたいのだが宜しいか」
「程度は?」
「派手なのを」
オコナーが魔術を行使すると変異種の群れに火球が飛んでいき、群れの中に入り見えなると轟音と共に破裂し衝撃波と熱波をまき散らす。
その爆発の激しさは一瞬時が止まったような錯覚をおこさせ、爆煙と土煙が収まった爆心地は剥き出しの地面がのぞいていた。
「お見事」
オコナーに声を掛けると鉄崎は敵に駆けていく。
黒備えの騎馬隊は鉄崎に導かれ、まるでムカデのように連なり、敵を射貫いていく。
鉄崎が率いる騎馬隊は数は少ないがオコナーの魔法により疲れ知らずだ。
人馬共に戦意が高いまま冷静に仕事をこなしていく騎馬隊の働きは、城で防衛戦を繰り広げている兵達の士気も高める。
変異種は死を恐れない厄介な敵だが、本能に逆らえず欲望のまま襲いかかることしかしてこない。
近寄れば敵意をむき出して反撃しようとしてくるが、離れれば諦めて城攻めに戻っていく。
鉄崎はその特性を利用し敵を翻弄していく、城壁を乗り越えそうな変異種を見つけては引きはがしていく。
オコナーも大人しく戦場を見ているだけではない。
鉄崎の騎馬隊に継続的に魔法をかけ続けつつも遠くの敵には落雷を喰らわせ、近寄ってくる敵は焼き殺すという一騎当千の働きをしている。
「ああ、殿がその身に神を降ろし申した」
突然、鉄崎が愉悦に満ちた声を上げる。
「殿の気持ちが、その力が拙者にも伝わり申した」
鉄崎は長巻きを握り直し大声を上げる。
「抜刀!」
その掛け声に騎兵隊は大弓を投げ捨て腰の剣を抜きはなつ。
「いくぞ!」
鉄崎が吶喊すると騎馬隊も鬨の声を上げ続く。
長巻きを一振りする毎に大地がめくれ変異種が鞠のように跳ね飛ばされる。
「殿が獅子奮迅の働きをしておられる。
同じ戦場におらずとも我等も続くぞ。
敵は殺す。皆殺しぞ」
◇
変異種が苦しみ悶えている。
目を見開き、顔を、体を掻きむしり、呻き声を上げ、七転八倒している。
むろん全ての変異種が苦しんでいるわけでは無いが、そちらにはリジョとその配下達が一進一退の攻防を繰り広げている。
リジョは生きの良い強そうな変異種を見つけては次から次へと屠っていく。
敵の手足を切り飛ばしては肉食獣が幼獣にエサを与えるように部下達へ始末を任せ、とどめの一撃を繰り出そうとしている敵には石を投げつけ可愛い子分の境地を救う。
混戦こそがリジョが輝く場所であり、彼女はこのどうしようもない地獄を愛している。
「トーコ、もっと働け!」
「既に雌雄は決しているでしょ」
「まだ戦いは終わってねーんだ。いいから働けよ」
「働きすぎたら『兵が育たない』って怒るじゃない。加減がわからないのよ」
機川は拳銃のような魔道具を用いて敵を射殺しまわっている。
圧縮空気により鉄球を射出するその魔道具は、もちろん機川が作成した逸品だ。
火薬を使わず可動部も少ないため整備が簡単で取り扱いやすい武器なのだが、制作者には失敗作扱いされている。
彼女は『爆発こそ力の象徴』だと言い張り、時化た音を出す空気銃はヤル気が削がれ気分が落ち込む代物だと言う。
「ヤーコも働いてないように見えるけど?」
「ヤーコはいいんだよ。
アイツが本気出すとアタイらにも影響でっだろ」
話題に上がったバリルンドは離れたところで静かに周囲を睥睨している。
近寄る変異種は喉を押さえ倒れ込み、体中の水分が抜けて干涸らびて塵になる。
呪術により敵を呪うことに長けた魔女、彼女の支配地域に許可無く立ち入る者は何も出来ずに朽ちていくのだ。
突如、機川とリジョが驚き、声をあげる。
「オッ、久しぶりに来るか」
「アイツまた無茶をして」
リジョは期待し、機川はウンザリしている。
「キタ、キタ、キタ。
コレだよ、コレ。
コレこそがアタイらのボスだ。アタイも負けてられねーな」
リジョは喜びのあまりテンションがおかしくなっている。
「あの陰険魔族。
何の為にアッシュの側にいさせたと思っているのよ。役立たずにもほどがあるわ」
機川は憎々しげに呟く。
「キュネルは喜んでいるでしょうね。魔族は力を誇示することを好むから」
その呟きを聞いたバリルンドが意見を述べる。
「そんなのどうでもいーじゃねえか。
既に起きたことなんだしよ」
リジョが本気を出す。
肌の色が赤銅色に変化し、流れ落ちていた汗が蒸発し全身が蒸気に包まれる。
存在感が増大した彼女は力を込めて天にも届く声で吠える。
「アタイらは与えられた仕事をするだけさ。
敵は殺す。
わかりやすいじゃねーか。全て平らげてやるよ」