ファロスヒルの蟲は強力な侵略部隊だがスカベンジャーとしても優秀な部隊だ。
有機物ならどんなに腐敗していても気にしないし、毒も世代を重ねることで耐性を得てしまう。
劣悪な環境に文句を言わないし、過労死するまで働かせても不満を言うこともない。
そのため彼らは変異種の死体を片付けるのに大活躍した。
ファロスヒルの子供達は女王のために働くことしか知らないため一心不乱に死体を集め、爆発的に増えていった。
地下深くにある巣は辺り一帯を覆い尽くすまで成長し、今では周辺地域を蟲の国にすることが可能な規模にまで育っている。
そんな訳でファロスヒルの蟲たちはこの地域の生態系頂点となった。
流石にドラゴンや魔法で殲滅してくるようなレア個体には敵わないが、腕力を武器にしているような魔物には負けることはない。
人とみれば見境無く襲ってくる魔物も今では蟲の気配がするだけで逃げていく。
蟲のフェロモンが染みついた巣の出入口周辺は『魔物が決して近寄らない場所』として冒険者に利用されるようになった。
このように一見有用な蟲だが問題が無いわけではない。
一番の問題は身体構造が蟲のため他生物の区別が苦手で、それが可能な知能も無いことだ。
変異種はこの世界の生物とは違う生物だったため簡単に識別はできたが、魔物は犠牲者を出すことで匂いを覚え敵と認識できるようになった。
人の場合は冒険者ギルドとフェリグス国で度重なる『話し合い』が行われ、人類側に蟲を決して刺激しないように約束させた。
この話し合いがスムーズに行われたのは変異種の騒動での功績があったおかげだ。
変異種退治に三ツ星商会の魔道具が非常に有用だったことと、今でも変異種の残党狩りを積極的に行っていることが評価されてのことだ。
このような事情からフェリグス国の名は一気に広まり、それと共に影響力も強まっていった。
すると悪い事を企む勢力もよってくるが、フェリグスの傘下に黒蘭が居ることを知るとそのような勢力は諦めて去って行く。
何故なら非合法な商売をしている勢力にとって黒蘭の始祖アリーチェは気軽に手を出していい相手ではないからだ。
そんな始祖を力で従わせているという噂は、フェリグス王をそれ以上の化け物だと考えられるようになる。
このようにしてサイン王の知らないところで彼の評価は迷走していく。
神降ろしを見てしまったハンマーヒルの住人からは神女と崇められ、サイン王の部下が派遣された地域では強大な力を持つ勢力の統領として感謝と共に警戒されている。
冒険者達や商人達からは三ツ星商会の頭取として注目を集めており、非合法な商売をしている連中からは得体のしれない女首魁として恐れられる。
そして大陸中の神と強い繋がりを持つ信徒からは、神降ろしができるヤベー奴として知られることになったのだ。
「はぁ……」
租借地に派遣されているオコナーは心底疲れていた。
「オコナー殿、どうされた?
寝食はしっかりと取れておるのか?」
「問題ない。
ただ働きづめで夜空を見上げる暇も無い……」
鉄崎の言葉にオコナーは心配ないと答えるが目は死んでいる。
なにせ彼はこのところ休日も無く働きづめなのだ。
この世界では普通のことだが、ゲームの中のフェリグス国では適度に休日があったため心身が休暇を欲してしまう。
このような状況になったのは機川のせいだ。
租借地開発のため、上から下まで連日大忙しになっている。
魔術を使えば街造りゲームのように整地をしてしまえるのだが、『フェリグス式』に慣れてもらうため人力で整地しているため仕事が沢山あるのだ。
人と物資の手配、揉め事の仲裁、魔物の対処などなど、物事を滞りなく回すため裏方は寝る間も惜しんで働くハメになっているのだ。
「それより護衛の話が来ているのだが人員の余裕はあるのか?」
「少し数が足りなくなってきておるが、なに野盗でも襲って補充すれば良い」
「野盗上がりなど使い物になるのか?」
「心配めさるな。
此処は働き口が豊富にあるのでな。どんな人間も何がしかの役に立つ」
フェリグスでは何処も人手が足りないので、どんな人間でも受け入れている。
兵士や百姓などの真っ当な職から吸血鬼の食糧提供担当、蟲のお世話係まで生きているならどんな人間にも就職先を用意できる。
「今は人の出入が激しい。
あまり人聞きの悪いことはしないで欲しいのだが」
「そこはホルム殿がしっかりと心配りしておるのだから大丈夫であろう?
そんな事よりも街の計画書は、どんな案配なのだ?」
「難航している。
機川が『文化を取り戻す』と言い出して聞かないのだ。王は住みながら手直ししていけばいいと言っているのだが……」
「あの婦人は一度走り出すと止まりませぬからな……」
オコナーは完全記憶持ちでゲーム内では専門書を片っ端に読まされている。
そのため彼の頭には未来技術の知識が詰まっているが、彼自身はそれを活用することが出来ない。
何故なら彼は魔法文明で育ち、そこの世界の暮らし方に満足してしまっているからだ。
機川の望む生活レベルを知識として知っていても、常識がソレを不要なものと考えてしまう。
年寄りが若者が持ち込む文化に馴染めず、昔ながらの生活を固持するのと同じだ。
「まあ、共同浴場は恋しいが。無くても死にはせんですからな」
「そうなのだ。
あの女は快適さと便利さを追及しすぎる。おかげで休む暇もない」
そうなのだ。機川は下水道だけではなく、今の世界には影も形もない車や電気のことまで考えて街造りをしている。
これはサイン王から『後で土地が足りなくて泣き言いうなよ?』と言われたせいでもあるので、彼女だけが悪いわけでもない。
しかしそんなことを他の人は知らないため彼女は独裁者として恐れられていた。
本人も休みも無く働いており、彼女を押し留められるサイン王やベルナデッタが此処にはいないため、彼女の独走は止まることはなかった。
そのせいで資材を取り扱っている商人達は歓喜し、書類作業を担当している文官達は惨憺たるありさまになる。
「忙しき事は良きことかと。人は退屈になると腐り始めるといいますからの」
「それはあの女の前では決して言わない方がいい。
アイツは街だけで無く周辺の環境整備までヤル気でいる。ここにバザ大公国で一番大きな都市を作るつもりだぞ?」