何故か戦場にいる。
まだ戦いになるとは決まっていないから戦場とは言わないか。
場所はラウグ王国とウグク連合の国境にある平原で古エルフと巨人が小競り合いを繰り返している場所らしい。
たしか血の原みたいな名前だったような気がする。
そこで私は巨人の代表と称している人物と対峙している。
目の前にいる巨人は人間と同じ姿形をしているがとにかくでかい。
背の丈は目測で三メートルぐらいだろうか、獣頭を頭にかぶった蛮族スタイルで腕を組み私を興味深そうに眺めている。
此方はいつもの軍服に軍刀を帯いた格好で、すぐ後ろにはモーエレンとベルナデッタが控えている。
国の代表として舐められるわけにはいかないので此方も微笑みを浮かべつつも見据えているが正直飽きてきた。
対峙している私達の後ろには巨人と古エルフの兵が布陣しており互いの殺る気がここまで伝わってくる。
両者とも互いを憎み合っているのは分かるが無関係な私を民族紛争に巻き込むの止めて欲しい。
何でこんな事になっているのかというと全ては巨人の神のせいだ。
そもそも私はラウグ王国に招請されて外交しにきたんだ。
古エルフが新参者の私達を品定めするために呼びつけた訳だが、無視することもできないので遠路はるばるやって来た。
そこでは、この世界で何をするつもりなのか問われたり、租借地に植えられているらしい世界樹について追及されたりと散々な目にあった。
最後の方は全てブッチャケてしまいそうになったが、後ろに部下が控えている手前そんなこともできず立前だけで乗り切った。
私一人だけなら何とでもなるが、今や数百人の従業員を抱える社長みたいなもんだからな。古参の原住民と険悪になるのは良くない。
にしても早く終わらせて帰って肉が喰いたい。
古エルフは肉を消化できないからか出てくる食事は精進料理そのものだ。
とても美味ではあったが上品すぎて物足りない。満足感が薄いんだ。連れの二人は褒めちぎっていたが。
そういえば帰りも妖精の小道を使うんだよな。
ゲームではファストトラベル代わりに便利に使用していたから気軽に頼んだが実体験すると評価が変わった。
アレさ、旅の苦労は変わらないんだよ。
現実世界では一瞬で移動しているように見えるけど、妖精の世界に行って同じ距離を旅することに変わりは無かったんだ。
何ら代わり映えのしない森の中を延々と歩くことになるし、何か良く分からないものにずっと見張られているしで、普通に旅するより疲れるんだよ。
案内役のモーエレンに聞いても『気にしなくて良い』と言われたけど、そんなことを言われると余計に気になるよな。
「我を前に考え事とは良い度胸だ。
異界の巫女よ」
考え事をしていたせいで窘められてしまった。
確かに失礼だったとは思うが巫女は違うだろ。
私の服装を見ろよ。
「この世界に来てからというもの問題ばかりでな。
ところで私に何の用だ」
私の問いに巨人が凶暴な笑みを浮かべる。
「我等の神が『強き者がいる』と言ってきたのだ。だからこうして会いに来たのだが……」
「それはご苦労なことだ。で、何か収穫はあったのか?」
「無駄足だったなようだ。こんな貧相な体の女だったとはな」
後ろからモーエレンの怒りの波動を感じる。
脳筋の言葉など無視してもいいが、王が舐められっぱなしというのはマズイよな。
「口で私の歓心を買おうとするとは可愛い奴だ。エルフと長年付き合っているせいで似てきたんじゃないのか?」
「我を侮辱するか!」
いや、そっちから仕掛けてきたんだろうが。
「よりにもよってエルフに似ているだと?
小人が救世の神女と呼ばれ調子に乗っているようだな!」
「貴様の程度にあわせてやったのに何が不満なのだ?
やはり獣の皮を被った蛮人の考えはよくわからんな」
巨人は激高して私に襲いかかろうと身構える。
それを見たモーエレンが私の前に出ようとするが手で制する。
「このところ外交ばかりでウンザリしていたのだ。たまには体を動かすのも悪くないだろう?」
巨人に向き直り手の平を上に向け手招きをする。
「小人の戦い方を教えてやろう」
私の発言と同時に巨人が肉薄してきたが予め張っていた防御結界に激突する。
これは変異種のワームみたいな相手と再び対峙した時のことを考えてオコナーに開発してもらった格闘戦特化の防御結界だ。
「魔法を使うとは卑怯な」
結界におもいきりぶつかり、その運動エネルギーを自身に受けてうずくまっている巨人が恨めしそうにこちらを睨んでいる。
「なぜお前と殴り合わないといけないのだ。私は貧相な体の女なんだぞ?」
地面から無数の石礫が浮かび上がり巨人に降り注ぐ。
これも対ワーム用に開発してもらった魔法だ。
「これはつい最近開発したばかりの魔法なんだが使う機会に恵まれなくてな。
お前は頑丈そうだから少しばかり検証に付き合って貰うぞ」
◇
私は聖女アカネ。
いま私はソケシアン帝国の王城に住んでいる。
ここに来て色々なことを学ぶことができた。
頭が良くなったせいか前世のことも鮮明に思い出すことができ、そのおかげで此処の文化レベルの低さに絶望しているところ。
まず食事のレパートリーが少ない。
調味料なんか塩と香辛料ぐらいしかなかったし。
服も可愛いものが全然ない。
宝飾品だけは豊富だったけどデザインが芋臭いものしかない。
食事に関しては私の知識で改善できたけど服はどうしようもなかった。
糸を手で作っているせいか布の品質が低いし、染料も少ないからどうしても地味で野暮ったい服ばっかりになる。
国力を上げるためにも産業振興に力を注ぎたいんだけど変異種に国をメチャクチャにされたから復興で手一杯。
帝国という名前からわかるようにこの国は初代皇帝が複数の国を統一した国だから何かあるとすぐに民族問題が噴出する。
国として優先しないといけないことではなく、自分の仲間を優遇するから復興がちっとも進まない。
だから世界を救う前に帝国を救うことにした。
執政官にお願いして色々な所に連れて行って貰って問題点を指摘して回った。
車が無いから現場に行くのは大変だったし、電話もないから連絡を取るのだって一苦労だ。
だけど私は諦めずに頑張った。おかげで復興までの道筋が見えてきた。
そんな時だ。
東にあるというタユルト国の商人が自国で生産したという自慢の布を持ってきた。
そのタユルト布の鮮やかさと手触りは私がずっと欲しかった物。
コレがあれば今よりずっとマシな服を作ることができる。
その商人は他にもアルミで出来た髪留めも持ってきた。
お近づきの印にとプレゼントされたけど前世の知識がある私にはちっとも嬉しくない。
だけどアルミの作り方には興味を惹かれる。
鉄製の道具って重いし鉄臭いし錆止めが手について汚れるしで最悪なんだ。
もしアルミがあればあんな嫌な思いをしなくてもよくなる。
是非ともウチで作れるようにしないとね。
帝国が発展して安定すれば、私は世界を救うことに専念できるようになるし。
これは世界を救うために必要なことだよね。
◇
僕はいまダークエルフの国にいる。
侵略者の痕跡を探して旅をしていたらこんな所まで来てしまった。
大陸南部に広がる大密林地帯。
北にはダークエルフ達から魔の山脈と呼ばれている山々が見える。
話によるとドラゴンが支配する地域で誰も近寄らないと言っていた。
この大陸のダークエルフは三つの氏族に大別されるらしい。
平和を愛するイタ氏族、力を信奉する狩猟文化のナネーゼ氏族、人との融和を選びその文化を取り入れたセル氏族。
そしてそれぞれの氏族が中心となりイタ共和国、ナネーゼ帝国、セル王国と呼ばれる国を形成している。
その中のイタ共和国に僕たちはいる。
いまは雨期らしく毎日雨で鬱陶しい。
女性が薄着なのは目の保養になっていいけど蒸し暑くて何もしたくない。
この世界にきて五年ほどたったけど侵略者が何者なのか分からないままだ。
魔剣のカイザックに聞いても分からないみたいだから、地道に足を使って手がかりを探すしか無い。
まあ、旅をすることがこんなに楽しいことだと知れたのは良かったと思う。
異文化に触れるのはいい刺激になるし、土地によって魔物の傾向が変わるのが面白い。
昔は旅なんてクソ面倒なものだと思ってたけど、今では見知らぬ土地のことを考えるだけでテンションが上がる。
そういえば大陸の北には行ったことなかったな。
仲間達が寒いところは嫌だって言うもんだから今まで避けてたけどそろそろ行くべきかも知れない。
地図が無いから北の山脈越えは流石に無理だけど、西にある巨人の国にいけば北に向かう道も見つかるだろう。
うん、そうしよう。
この世界の巨人とやらを見に行こう。
北にはダークじゃないエルフの国とかドワーフの国もあるらしいからそこも寄っていきたいし。
この世界に来てドワーフってまだ見たことないからね。
巨人やドワーフの女の人ってどんな感じなのかな。
◇
租借地に作られた街アマレース。
モーエレンの国の言葉で希望や隣人愛の意味をもつ名前。
サイン王は初めリバーサイドという安直な名をつけようとしたが反対され今の名前になった。
アマレースは周辺の土地より少し高い場所につくられ、魔物を阻む城壁で囲われている。
城壁はドワーフの石工によって築かれたもので、彼ららしい堅牢さと力強さが表されている。
街はヘレスロンドール川と呼ばれる川により北地区と南地区にわかれ、北側は宗教関連の建物や機川研究所など静かな環境を好むものたちが集まっている。
南地区は市場や歓楽街、職人街と各種ギルドの出張所があり騒がしく活気に溢れている。
街の中央は小高い丘になっておりサイン王の邸宅がある。
この建物は街の何処からでも見えるようにと設計されており、未だに主は住んでいないが人々から白亜の館と呼ばれている。
この街の特徴はなんと言っても自動車が行き交うことを想定した広く真っ直ぐに伸びる道路網だ。
効率厨の機川が近代的な知見を取り入れて設計したため機能性重視の整然とした街になった。
白亜の館から放射状に伸びた大通りを軸にグリッドアレイ、つまり碁盤の目のように張り巡らせられた道路。
住人の幸福度を上げる公園や公衆衛生のための各種施設、治安低下を防止のための衛兵詰め所や消火するための消防施設。
街造りゲーでよくみるような町並みが此処にはある。
そしてこの街で一番力を入れて作られたのが地下にあるインフラ設備だ。
今は上下水道やゴミの廃棄場所としてしか利用されていないが、将来は電気や通信設備、ガス管を通すことを想定して設計されているのだ。
現代的な知見と魔法を組み合わせて作られたこれらの施設は厳重に管理されており、誰に感謝されることもなく街を支えている。
「トーコさー。
お願いがあんだけど」
リジョが機川の所にやってきてぶしつけに話しかける。
「住民なら受け入れられないわよ。
あと仕事中は名前で呼んでって言ってるでしょ」
機川は書類の山に埋もれたまま頭も上げず面倒くさそうに応える。
「そこを何とかなんねーの。
この前の事故で旦那を亡くして困っている人がいんだよ。子供も小さいしさ。何とかしてくれよ」
「そんな人いくらでもいるわよ。次の受け入れまでは日雇いなどして待ってもらってよ」
「あそこは互助組織がねーだろ。赤ん坊がいるんだ何とかしてくれよ」
「頼む人間を間違えているわ。
人の管理はバリルンドよ」
リジョは同じ部屋にいるバリルンドをコッソリと見ると、バリルンドはニッコリと笑顔を向ける。
「アイツは駄目だ。融通がきかねえ」
「わかっているじゃないの。私達はこの街で一番偉い人なのよ?
その私達が決まりを守らなかったら秩序が崩壊するわ」
「でも土地は余っているし食い物も余裕あるだろ?
人をどんどん受け入れてもいいんじゃねーの」
「人口が一度に増えると、死ぬときも一度に死ぬの。本当なら年齢で制限をかけたいぐらい」
リジョが嫌そうな顔をして機川を眺める。
「私だってこんなこと考えるのも嫌なんだから。でも数十年後に問題を残すようなことはできないのよ」
「理屈はわかったよ。
だけど人としてどうなのか考えてくれよ。何とかなんねーのかよ」
機川は心底面倒くさそうな顔をして頭を上げてため息をつく。
「貴方の部隊に独り者が沢山いるでしょ?」
「ああ、いるな。それが何か関係あるのか?」
「お見合いパーティでも開いてパートナーを見つけさせなさい。家族ならバリルンドも嫌と言わないはずよ」
リジョは機川の提案を理解し満面の笑顔を浮かべる。
「その代わりリジョがちゃんと面倒を見るのよ。特にヤリモクには気をつけてね」
「わかってるって。やっぱトーコは最高だな」
「あと美容所にいってそのボサボサ頭を何とかしてきて。
私達はみんなに見られているんだからね」
機川は喜びを体中で表しながら出て行こうとするリジョを引き留める。
「詰め所に戻るなら鉄崎に此処へ来るように伝えて」
「なんかあったのか?」
「私達の王が巨人の国でやらかしたせいで男の武人が必要になったのよ」
「この前のアレだろ?
アタイじゃ駄目なのか」
「駄目よ。
巨人達は『女』に『魔法で負けた』せいで引くに引けなくなっているのよ。女の貴方がいっても巨人の面子は戻らないわ」
「はっ。
弱いくせに面子とかしょうもねーな」
「私だってそう思うわ。
でも、このままだと古エルフと巨人の紛争に巻き込まれるの。それだけは何としても防ぎたいとモーエレンは考えているわ。
だから双方納得できる勝ち方ができる人を送る必要があるのよ」