サイン王は内政大好きマンだが武闘派でもある。
普段は澄ました顔をして『戦うのは嫌いだ』とか言うくせに、いざ戦いになると先陣を切ろうとする。
暴力で解決するのが好きな部下ばかりでいつも宥め役になっているが、命を賭けた戦いは大好物なのだ。
しかも戦うときには魔法や銃器よりも軍刀や素手での近接戦闘を好む。
『やはりヒットストップが無いとな』と訳の分からないことを言い『相手の反応が見えないとつまらん』と頭のおかしいことを言う。
若い頃にPvPゲームや対戦ゲームをやりすぎて脳が壊れているのだ。
そんな彼だが同時に内政屋として人材を無駄に消費することを極端に嫌う。
誰でもできる下働きの少年でさえ使い物になるまで十数年の歳月が必要なのだぞ、と言って大切にする。
更正できないと判断したらすぐに切り捨ててしまう冷酷さも持つが、基本的には人でも物でも捨てられない人間なのだ。
実際にサイン王が目指す文明レベルに到達するためには、いくら人がいても足りないのだから彼が『勿体ない精神』を発揮するのも仕方がないことだろう。
沢山の学者を養うためには多くの生産者が必要となり、それらを守るための軍を維持するためには商売が必要となり、と何時までたっても人余りにならない。
自勢力が持つ技術や知識を惜しげも無く開示するのは文明レベルを底上げするため。
儲けた金を全て開発に注ぎ込むのも文明レベルを向上させるため。
新たな産業を作り出し、既存の産業を衰退させるのも文明レベルを進歩させるため。
ゲーマーのサイン王は周囲から恨まれたり奇異の目で見られても気にせず我が道を邁進していく。
そんな訳でサイン王の勢力は必然的に大きくなっていく。
そして人が増えていくと法が必要となり画一的な官僚機構が必要となる。
融通は利かないかわりに誰でも出来るような手続きを決めておかないと巨大な組織を運営するなどできないからだ。
「あれは……サイン王?」
エルフの新人文官がだらしない姿のサイン王を見て思わず呟いてしまう。
「ええ、驚くでしょう?
此処ではいつもあんな感じなんですよ」
新人の呟きに先輩の文官が応える。
その二人の目の前には寝間着で廊下を歩いているサイン王とそれを何とか引き留めようとしている侍女達がいた。
口うるさく言ってくるモーエレンとベルナデッタがいないとサイン王はすぐにこうなる。
仕事自体はきっちりこなすのだがお目付役がいない途端に身だしなみを整えることをサボるのだ。
公的な場所での立ち振る舞いを厳しく指導されてはいるが、行儀というものは小さい頃から教育しないと身につかないものだ。
見た目は抜群に良いし、自身も容姿に自信を持っているが、中身はおっさんのせいで所作に女らしさが無く色気も無い。
庶民育ちで、そろそろ初老に届く年齢のおっさんには、何処まで行っても王族のまねごとしか出来ないのだ。
「……何というか。
意外と庶民的な御方ですのね」
サイン王がいる建物は寝室と執務室と文官達が仕事をする事務所などが一カ所に集められている。
周囲に猛反対されたが『無駄にでかい建物は効率が悪い』と叫び散らかして、仕方が無く周りが折れたのだ。
もちろん必要な施設を纏めるのは移動時間の無駄を最小にするための効率厨しぐさだ。
「そうですね。
ですが節度は忘れないようにしてください。
まあ、こんなことを間者の方に説明する必要もないでしょうけど」
「え?」
「違うのですか?
モーエレン様はこんな時期に優秀な人間が余っているはずが無い。もしそんな人間がいたならそれは間者だろう、と仰っておりましたから……」
そうなのだ。いま世界は慢性的な人手不足に陥っている。
変異種が誰彼構わず食い散らかしたせいで物も人も足りなくなっている。
そんな中でサイン王はやや強引な手段を用いて雇用しまくり、とうとう読み書きそろばんの出来る人材が枯渇してしまった。
そんな状況で優秀な文官がやってきたら疑われもするだろう。
「そんな顔をしないでください。
此処では問題を起こさず誠実に仕事をしてくださるならどのような人でも平等に扱われます。ある意味、とても働きやすい場所ですよ」
「はぁ……」
「ここのやり方に初めは戸惑うこともあるかもしれませんが慣れれば非常に合理的でして、最終的には納得して頂けると思います。
初めは余計なことを考える暇が無くなるぐらい忙しくなりますから覚悟だけはしておいてくださいね」
サイン王は生まれ育った国で導入されていた官僚制を此処でも採用しようと考えている。
王や貴族が中心となって統治する制度では破綻することを知っているし、他に良い方法を知らないからだ。
将来的には教育制度や社会保険制度なども元いた世界のものを取り入れていきたいと思い準備をしている。
そのような異質なことをしていれば、どうしても周辺国の注目を集めることになる。
その時に色々と聞かれて個別に対応するのは面倒だと考え、サイン王は間者を利用することを思いついた。
向こうは自分達のことを知りたがっているのだからコストをかけずに勝手に喧伝してもらえばいい。
相手が対応策を練る前に次から次へと新しい事をするつもりだから内情が漏れても問題ないと考えたのだ。
何せコンピュータが無い世界だから、一度に持ち出せる情報などたかが知れている。
情報漏洩については国が大きくなってから本格的に対策すれば良い。
何なら間者を利用すれば根回しの手間も少なくなるだろう、ぐらいの考えでいる。
「ようこそアットホームな職場へ。
私達は有能な仲間を歓迎します。一緒にこの国を盛り立てていきましょうね」